アタシの必殺技
得意分野とそれ以外。
何のカテゴリーにおいても、それを見せるのはあまりよろしくない。
山田牛一は元塾経営者として、かなりレベルの高い問題を出してきた。
しかし受験勉強がメインの塾だったのだろう。
僕もこの世界に来て長い事から、受験なんて十年以上も前の話なんだけど。
それでも興味のある事柄に関しては、今でも覚えている。
例え理系であっても、日本史は好きだったからね。
だから文系の受験に関する日本史レベルなら、まだ何とかなったという感じだ。
でも言ってしまうと、山田が僕の挑発に乗ってこなければ、この作戦は破綻していた可能性もあった。
太田達がやったという問題は、算数や数学と漢字や慣用句に関する問題だったらしい。
山田は僕が魔王だから必勝を期して、難問を用意してきたと思う。
最初に小手調べで江戸城に関する問題を出してきたけど、僕が江戸城に関する問題をお返しした事で、奴はその挑発に乗ったのだ。
もしここで僕の挑発に乗らず、政治経済や古典といった問題が出されたとしたら。
僕は確実に解ける自信が無かった。
そして彼の問題からは、やはり受験勉強に関する問題が多かった。
だから問題の方向性を、急に全く違う方へぶん投げてみた。
その結果が、これである。
ハッキリ言って、ゲームを趣味としている人なら、あの隠しコマンドを知らない人はほぼ居ないと思う。
それくらいの問題だった。
それを知らないという時点で、山田達はゲームとは無縁の環境だったのだろう。
もしかしたら他の二人が答えるかもと思ったけど、それをクリア出来たのは大きい。
得意分野をひけらかして、自分の優位性を取ろうとするのもアリだと思う。
だけどこれは勝負だ。
野球だって、相手の得意コースが分かっていて投げる奴なんか、余程自信がある奴か何も考えていない馬鹿くらいだと思う。
得意なモノを見極めつつ、何が苦手か探っていく。
それが勝負に勝つ秘訣じゃないかな。
啐啄同時。
分かりやすく言えば、絶好のチャンスって意味よ。
山田は魔王であるアタシを逃すまいと、勝負を仕掛けてきた。
しかもペナルティーをMAXにしたようで、相当なダメージがあるようだ。
アタシの考えでは、死もしくは廃人になるのかなと思っている。
飛行機から落ちてもピンピンしていた山田家康が、立っていられないくらいの消耗を見せたんだから。
三回も同じ事をすれば、それくらいのペナルティーなんだろうなって思ったワケ。
そして山田の大きな過ちが、もう一つある。
奴は自分の能力だから、絶対の自信があったんだと思う。
そうじゃなければ、ペナルティーMAXなんかやらないしね。
でもそれは夏虫疑氷。
井の中の蛙、大海を知らずってヤツよ。
スタディーワールドの大きな利点は、奴が不得意な暴力が使えない事。
だけどそれは暴力に訴えかけなければ、こちらも同じように攻撃が出来るという意味でもあった。
頭が良い山田は、敗北した事が無かったんじゃないかしら。
でもそれが、大きな間違いだったの。
アタシは山田の問題を答える事が出来るけど、向こうはそれが出来なかった。
この時点で、アタシの方が優位だと分かってしまった。
さて奴は、どういう顔をしているのかしらね。
「山田、大丈夫なんだろうな!?」
「俺、お前の肩代わりでペナルティー食らってるんだぞ!」
フフフ。
狙い通りかな。
まさか山田が肩代わりするとは思わなかったけど、そのおかげで更に内輪揉めが激しくなりそう。
「マオ子、コレを狙ってたの?」
「そうよ」
「仲違いさせる事で、更に悪循環を生ませるなんて。流石はマオ子!」
「ありがと」
そうそう。
ウチはハク子も沖子もいい子だからね。
揉めるなんて事は、ほぼほぼ無いのよ。
「さあて、そっちの問題の番よ」
「や、山田」
「え、えーと、江戸城を無血開城したのは、誰と誰?」
「ちょー!それ、俺でも知ってるよ!」
「え?」
山田牛一は、どうやらプレッシャーに弱いみたい。
山田に責められるように問題を迫られると、高校生レベルの問題になっていた。
「勝海舟と西郷隆盛」
「せ、正解だ・・・」
「マオ子!流石よね!」
アタシを労う沖子とハク子に対して、山田達の方は最悪ね。
自分で焦らせておいて、正解されたら怒るんだもの。
そりゃ山田も逆ギレするわよ。
「だったら次の問題、お前達で考えろよ!」
「良いよ!やってやんよ!」
「やあねえ、喧嘩ばっかりして」
「アタシ達姉妹を見習ってほしいわね」
「うるさい!バケモノ共が!」
ば、バケモノ呼ばわりするなんて!
許せないわ。
絶対に山田じゃあ分からない問題にしてあげる。
「問題、デデン!世界初と言われている家庭用ゲーム機、マグナボックス社のオデッセイ。ではこのゲーム機を作った人は、元々何を作っていたでしょう?」
「は?」
「そんなの知るか!」
キレまくる山田達。
しかし山田牛一は、必死になって考えているんだろう。
蹲って、ブツブツと呟いている。
「山田、分かったのか?」
「分からん。が、答えはコレかなと思っている」
「正解は?」
「軍需産業」
う、うーん。
正解と言えば正解だけど、広過ぎるような・・・。
もう少し絞らせないと駄目だよな。
「分野は?」
「分野!?えーと、銃器類!」
「残念不正解!」
「マジかよ!」
いかんいかん。
危うく正解されるところだった。
間違えてもらったのは、運が良かった。
もしくは急かしたのが、大きかったかもしれない。
「答えは?」
「軍事用の電子機器メーカーでした」
「あー!考えれば出てきたヤツ!」
山田達は悔しがっているが、そんな余裕は彼を見て無くなるだろう。
「ぐはっ!」
「山田!」
ダメージを肩代わりしていた山田が、とうとう前のめりに倒れた。
最早自力で立てないようで、肩を借りながら立っているのがやっとのようだ。
・・・負けたらアレより酷いのか。
本気で怖くなってきた。
スタディーワールド、恐るべし。
「か、身体に力が入らない。お、俺どうなってしまうんだ?」
「勝てば回復する!」
「勝てるのか?」
「勝つしかないだろうが!」
山田達の悲痛の叫びがアタシ達に聞こえてくるけど、それはそれ。
むしろアタシ達をああいう目に遭わせようとしたのを考えると、全く擁護も同情も出来ない。
「さて、次がラストかしらね」
「・・・少し話し合わせてほしい」
「時間稼ぎでないなら、別に構わないわよ」
構わないと言ったものの、本当はあまりよろしくない。
人数不利な状態で、ボブハガーと戦っている騎士王国の面々の事を考えると、そこまで待ちたくないのが本音。
でも露骨に嫌がると、こっちも余裕が無いって足元見られてるみたいだし。
だからアタシは、敢えて余裕を見せたの。
「・・・どうかしら?」
「・・・大丈夫。多分こういうのは、興味無いと思うから」
アタシに出す問題を決めたようね。
向こうも傾向と対策を練ってきたみたい。
アタシの苦手分野を突こうとしてるようだけど、今更よね。
「今回は俺が出す」
「珍しいわね」
誰だったかな?
山田五車星も残り三人なんだけど。
牛一と家康、最後が・・・慶次だ!
分かったから、スッキリしてしまったわ。
「問題。日本でも人気のある動物パンダ」
パンダ!?
え?
「そんな人気者のパンダですが。日本に初めてやって来たのは、何年の何月に何処へ、何というパンダがやって来たでしょうか?」
「ま、マオ子。分かるかしら?」
あかん!
完全に想定外の問題だわ!
そもそも人気って言ってるけど、パンダなんてそんなに興味無いわよ。
アタシは動物園が嫌いだったし、ほとんど行った記憶が無いのに。
「山田、上手くいったぞ」
「流石は山田だぜ!」
マジかよ。
考えたの、山田家康!?
「う、動けない分、頭を働かせないとな。アイツ、多分こういう問題嫌いかなと思ったんだよ」
「どうして?」
「アイツ、ゲームの話ばかりしてくるだろ。子供の頃からゲームばっかりで、外に出て遊ぶのが苦手だったんじゃない?だから動物園とかも、苦手な気がしたんだ」
意外にもアタシの事、読まれてるわね。
確かに分からないけど、だったら最後の手段よ。
「山田、アタシ達も話し合わせて」
「やった!魔王でも分からない問題だったぞ!」
「良いだろう。時間をやる」
「ハク子、沖子」
アタシはハク子と沖子を呼んで、頭を擦り合わせた。
それくらい近寄って、話し合いに入ったわ。
「マオ子、アタシそんなの知らないわよ」
「ごめんなさい。アタシも知らないわ」
「良いのよ二人とも。とりあえずアタシのバッグから、アレを取り出したいから、ちょっと壁になってて」
「何をするの?」
「アタシの必殺技よ。絶対に負けない、必殺技」
二人はキョトンとしている。
でも何をしたいのか分かったようで、山田達から何も見えないように、身体でアタシを隠してくれていた。
「ナイスよ。さてと、パンダか。ふむふむ・・・」
「話し合いは終わったか?」
強気な態度で出る山田。
自分の問題がアタシを苦しめていると知って、かなり優越感に浸っている様子だわ。
でもお馬鹿さん。
アタシは負けない。
「答えは?」
「1972年10月。上野動物園に、カンカンとランランが来たんじゃないかな」
「ふぁ!?」
山田の声が裏返った。
当たり前だが、正解だろう。
「合ってるの?間違ってるの?」
「せ、正解!」
「マオ子ー!」
「わっしょい!わっしょい!」
胴上げとか、されるの初めてかも。
「さて、これで連続正解継続中よ」
「お、おかしいだろ!」
「おかしくないわよ。三人寄れば文殊の知恵って言うでしょ。アナタ達と違ってアタシ達は、寄ったら知恵が出たってだけよ」
「納得出来るか!イカサマだろうが!」
フゥ、往生際の悪い山田ね。
勿論、その通りなんだけど。
でもまだバレてないのに、手の内なんか見せないわよ。
「それよりも、アナタ達は良いのかしら?」
「な、何が!?」
真面目な話、今の一問を不正解としても、ほぼ勝ち確に近い。
あまりやりたくはないが、ハク子か沖子に肩代わりしてもらって、アタシが万全な状態をキープすれば、次の問題は出せるの。
もし肩代わりせずにダメージを負えば、思考力の低下に繋がるかもしれない。
だから肩代わりは必要なのよね。
でもアタシは二人とも大事だから、そんな事をするなら必殺技を使う。
そしてアタシの必殺技が、正解を導き出したの。
だからもう、アタシ達に敗北は無い。
「アナタ達、次の問題で不正解なら、敗北なのよ。そしてアナタ達の苦手な問題を、アタシは出せる。分かる?もう勝てる要素が無いの。いわゆる、詰みってヤツなのよ」




