表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1164/1299

失敗した男

 探しものが見つからないとイライラする、どうも僕だよ。


 太田もゴリアテも、坂本の遺言である武市が潜入しているという言葉を信じ、奴を探していた。

 しかしどれだけ探しても、一向に見つかる気配は無い。

 夜襲が始まって坂本も倒したのだが、武市を探すのに時間だけが過ぎていく。

 ハッキリ言って僕なら、この時点で諦めている。

 だって面倒だから。


 こう言っては失礼だが、やはり帝に自衛する力は無い。

 その辺の商人Aと比べたりするなら、剣を多少なりとも教わっている帝でも勝てるだろう。

 しかし相手は魔族。

 しかもアンデッドである。

 どれだけの力があるか分からないが、近衛騎士でも勝てるか分からないという相手に、帝が勝てるはずが無い。

 だから彼等は、躍起になって探しているんだろう。

 でも護衛が僕なら、話は変わってくる。

 そんないつまで経っても見つからない相手なんか放置して、さっさと寝てもらうだろうね。

 だって僕は、人形の姿になれば、食事も睡眠も必要無いから。

 要は24時間耐久でも、ずっと帝を見守れるという事だ。

 帝にはさっさと寝室に入ってもらって、僕はその部屋の中で待機すれば良い。

 だけど太田やゴリアテを帝の寝室に入れるわけにはいかないだろうし、近衛でも寝室に入るのはどうかと思う。

 深夜に色々と探し回るなんて、大変だな。


 改めて思うと、普通はこうなんだろう。

 僕やヨアヒムなら関係無いだろうけど、キルシェでも同じ事が起きるだろう。

 むしろ女性だから、もっと念入りにやりそうだし。

 そう考えると僕達は、深く考えないで良いというのは、本当に気が楽だと思った。










 ゴリアテは口を開けたまま固まった。

 まさかその可能性があるとは、全く気付かなかったからだ。



「しかし、それにはもっと前から潜入している必要がある」


「坂本殿は、武市が潜入しているとしか言っておりませんでした。いつから潜入していたかなんて、彼も分からなかったんじゃないでしょうか?」


「うーむ。その通りかもしれん」


「もしかして近衛になりすましているのなら、今が一番危険なのでは?」


 太田の考えにゴリアテも同意すると、彼等は一旦部屋を出る事にした。

 しかし連れてこられた部屋は、隠し部屋である。

 一周回って連れてこられた為、どのようにして帝の寝室前まで行けば良いのか分からなかった。



「部屋に戻りましょう」


「どうするつもりだ?」


「申し訳ないですが、壁を破壊します」


「お前!」


 太田がとんでもない事を言い出した。

 ゴリアテはそんな太田に、声を荒げる。

 だが声を荒げたのは、怒っているわけじゃなかった。



「流石は太田殿だ。私もそれが手っ取り早いと思っていたんだ」


「ですよね。では早速、静かに壊しましょう」


「なるべく音を立てないようにな」


 太田とゴリアテは、壁を破壊する事に合意した。

 やはり二人は見た目通りなのだ。

 わざわざ遠回りするなら、壁をぶち破って直進する。

 お互いに一人だったなら、そういう考えになる前にブレーキが掛かったかもしれない。

 しかし二人揃ってしまうと、脳筋に戻るのは仕方が無いという事なのだろう。



「フン!」


 太田が手斧を壁に押し付けると、深く刺さった。

 ゴリアテも二メートル程離れた場所に、太田から借りた手斧で壁に押し付ける。



「このまま斧を下ろせば。せいっ!」


 ゴリゴリという音と共に、一気に斧が壁を下りていく。

 そして今度は上下で同じ事をすると、壁はザックリと二メートル四方の正方形の形で外された。



「どうです?帝の寝室と繋がりましたか?」


 壁を外して前が見えない太田は、ゴリアテに帝の様子を尋ねる。

 しかしゴリアテからの反応は無い。

 太田は壁を横に置くと、帝の部屋を覗き込んだ。



「なっ!?」


 帝は口を塞がれて、男に乗られていた。

 ゴリアテが声を出さなかった理由と同じ事を、太田も頭の中に浮かび上がる。


 お互いに固まった状況になり、二人は小さな声で話し始めた。



「夜這いですかね?」


「分からん。しかし帝には、嫁も子も居ないよな?」


「もしかして、同性が好みなのでしょうか?」


「私達は二人の情事の、邪魔をしてしまったのかもしれない」


 悩む太田とゴリアテに対し、男は二人が突然動くのではないかと気にして、帝に手を出さないでいた。

 すると固まっていた四人の中で、唯一一人だけ動いた男が居た。

 帝である。



「ブハッ!助けてくれ!」


 帝は塞がれた口を大きく開けて男の手に噛みつくと、そのまま太田達に助けを求めた。



「っ!?」


 帝が叫ぶと、手に持っていた斧を男に向かって投げつけるゴリアテ。

 男は斧を避け、帝の上から退いた。



「た、助かった!」


「アレは彼氏ですか?」


「はあ!?」


 太田のあまりに突然な質問に、帝は声が裏返る。

 こんな時に冗談を言うなと怒る帝だが、太田とゴリアテは真顔である。

 それを見た帝は、そんな目で見られていたのかと本気で引いた。



「な、何を根拠にそう思ったのかな?」


「相手の顔ですかね。あのような顔は、ヒト族の中ではカッコイイ部類に入ると聞きますが」


「顔?」


 帝は就寝中に突然襲われたので、相手の顔を見る余裕が無かった。

 しかし改めて見てみると、確かに往年のアイドルのような顔だった。

 ただアイドルグループに居るような顔ではなく、昭和のアイドルのような、少し濃い顔に見える。

 カッコイイはカッコイイが、抱かれたいかと言われたら・・・。

 そこまで考えた帝は、おもいきり頭を振った。



「バカタレ!俺は同性愛者ではないから」


「では、敵と認識してよろしいですか?」


「当たり前だろ。他にどう認識するんだよ」


「え?なさっている最中かと」


「何処をどう見れば・・・」


 帝は途中で言葉が止まった。

 上に乗られた状態で暴れていたのだ。

 思い返してみると、見えなくもない。



「とにかく!奴が武市だ!」


「ゴリアテ殿!」


「おっと!捕まってたまるか」


 ゴリアテが武市の腕を掴もうとすると、奴は更に後ろへ下がる。



「お前が武市半平太か?」


「その通り。私が武市だ」


「しかしアンタ、ヒト族に見える。別大陸から連れてこられたのは、壬生狼とダイナソーだけだと記憶しているのだが?」


 武市をちゃんと上から下まで見ると、明らかに生きている人と変わらない姿をしていた。

 顔は土色ではなく、ちゃんと生気のある血の通ったような色をしているし、手足も同じだ。

 そして一番大きな違いは、魔族ではなくヒト族の身体だという点だろう。

 これでは近衛がどれだけ探しても、見つかるはずが無い。



「ハッハッハ!アンデッドとは、実に便利である。元の身体でなくとも良いというではないか!だから私は、敢えて潜入に向いたヒト族を選んだというわけだ。そして羽柴殿に頼んで、生きているかのような身体を作ってもらった」


「そんな事まで可能だとは」


「アンデッドとはそこまでの事が出来るのか。これはマズイな。もう一度全員の身分を、見直さなければいけなくなる」


 帝は武市の言葉を聞いて、顔が真っ青になった。

 武市の話を鵜呑みにすれば、顔も身体も自由に作り変えられるという事になる。

 となると、知っている人物になりすましている可能性もあるという事だ。

 どれだけ既知の仲だと言っても、これではお互いに疑うしかなくなる。

 全員が疑心暗鬼に陥れば、誰も信用出来なくなってしまうのだ。



「ちなみにいつから潜入を?」


「一週間くらい前だったかな」


「そんな前から!?どうして行動を起こさなかったんですか?」


「ここで帝を殺しても、逃げる隙が無い。だから混乱に乗じる必要があった。坂本が呆気なく倒されるとは、予想してなかったがな。しかも最期に裏切るとは」


 武市にとっても坂本の言葉は、予想外だったのだろう。

 坂本が崩れる時、近衛達も近くに居た。

 顔には出さなかったみたいだけど、相当焦ったと思われる。



「だが、もう逃げ場は無いぞ」


 寝室前には太田とゴリアテが壁を破壊したせいで、近衛達が集まっている。

 壊した壁側には太田が。

 そして唯一ある窓の方には、ゴリアテが回り込んでいた。



「フフフ。キミ達は勘違いをしているようだな」


「何?」


「私を誰だと思っている。私は武市、武市だぞ!ダイナソーの一角として名を馳せ、近藤達とも渡り合った男だ。そんな私が、ヒト族の騎士などにやられるはずが無いだろう!」


 武市はそう叫ぶと、寝室の出入口に溜まる近衛達に向かっていった。

 両腕を下に勢いよく下ろした武市は、手のひらを軽く開くと、その手を広げて前へと振った。



「ん?ぐあぁぁぁ!!」


 何を思ったのか、空振りをする武市。

 近衛は数人で武市を囲むと、おもいきり太刀で斬り伏せた。



「な、何故?」


 瀕死の武市が、血まみれでこちらに問い掛けてくる。

 しかし帝も太田達も、理由など分かるはずが無い。



「帝、トドメを刺しても良いですか?」


「問題無い」


「ま、待っ!」


 命乞いをしようとしていた武市だったが、近衛の剣の前に呆気なく敗れた。

 完全に命が尽きたのか、ちょっとすると坂本のように身体が崩れていく。



「弱かったですね」


「なんかなぁ・・・」


 どうもしっくりこない三人。

 いや、よく見ると近衛達も同様の顔をしている。

 すると近衛の一人が、自分の考えを話し始めた。



「弱かった理由なんですけど、ヒト族の身体になったからじゃないでしょうか?おそらくあの空振りは、爪を伸ばして攻撃するつもりだったんだと思います」


「なるほど。言われてみればそうかもしれない」


「バレないようにヒト族の身体を手に入れたが、その反面で強さを失ったか」


「一週間も我慢して潜入していたのに、なんとも情けない話ですね」


 この場に居る全員が、武市の残念さにため息を吐くと、近衛はもう一度周囲の警戒を始める。



「もう面倒だから、俺は二人と一緒に居るよ。もうちょっとしたら、明るくなるし」


 夜明けが近いと言う帝は、太田達と朝まで寝室で待つ事にした。



 そして朝がやって来ると、三人は外に出た。



「どの門も破られなかったみたいですね」


「やはり体力消化が狙いだったか」


 朝日が昇ると、トキドやタツザマ達が続々と戻ってくる。

 三人は皆を出迎え、短時間でも休むように言った。



「しかし数でも負けているのに、こんな面倒な手を使ってくるとは」


「それだけ向こうも本気という事だろう」


「羽柴秀長、なかなか慎重な男のようですね」


 短い時間ながらも、朝食を食べながら話をする一行。

 そんな中、サネドゥが面白い事を言い出した。








「向こうはこっちの消耗を狙っている。だったらいっそのこと、体力のあるうちにこっちから攻めないか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ