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見つからない男

 言われてみれば彼等も、可哀想な連中なんだよな。

 坂本龍馬は太田とゴリアテの前に、再び黄泉へと旅立っていった。


 以前と違い、かなり力の差があった気がする。

 それもそのはず。

 太田とゴリアテにはオリハルコン製の装備があるし、アンデッドになった坂本龍馬も以前と同じ力があるかと言われたら、それは否だと答えるだろう。

 力が増した太田達と力が落ちた坂本。

 楽勝に見えたのは、気のせいじゃないだろう。


 しかし蘇った坂本の夢が、商売人になる事だったとはね。

 彼等が元々住んでいた大陸は、かなり特殊な場所だったとは聞いている。

 壬生狼とダイナソーが戦っていて、ほとんどの連中が戦いに明け暮れていたらしい。

 そんな場所で商売をしようって考えも、厳しいか。

 そう考えると別大陸に来れたのは、彼にとっては本当はとても良い話だったのかもしれない。

 ただそれが、戦いをする為じゃなければの話だが。

 そう思うと、彼等にだって各々の人生があったはずなんだよ。

 戦いが好きな奴も居るだろうけど、そうじゃない奴だって居るんだ。

 壬生狼の連中はほとんどが戦闘狂な気がするけど、もしかしたら坂本みたいに戦わざるを得ないから、本音を隠して生きてきた可能性だってある。

 食べるのが好きだから料理屋をやろうとか、剣が好きだから鍛冶屋とか。

 戦い以外にだって、彼等が求めていたものがあったかもしれない。


 だけど僕は、これに関してはあまり追及は出来ないと思ってる。

 連れてきたのはヨアヒムだが、そのヨアヒムを裏で操っていたのは秀吉である。

 どちらが悪いかなんて、彼等からしたら関係無い話だろう。

 こういう言い方は卑怯かもしれないけど、巻き込まれた彼等は、ただただ運が悪かった。









 太田と帝は、ただ坂本の残骸を見ていた。

 運命に翻弄された男。

 もし戦う為に連れてこられたのでなければ、彼とは良い仲になれたと思う。

 そんな悲しいような切ないような気持ちが、二人の胸に残された。



「二人とも、油断はするなよ。坂本という男の話が本当なら、武市という男が何処かに居るはずだ」


 ゴリアテの言葉にハッとする二人。

 思い出したように、辺りを見回し始める。



「そ、そうでしたね。しかし隠れているのなら、何故出てこないのでしょうか?」


「ゴリアテ殿、御所の外には居ないのか?」


「外にはオーガとミノタウロスの混成隊が配備されていますが、誰か来た様子は無いですね」


 キョートの四門は堅く閉ざされている。

 トキド達が活躍する中、その包囲網を潜って抜けてくるのは、至難の業だろう。



「となると、既に潜んでいるという可能性がありそうですね」


「既に!?」


「敵はつい先日から動いてきていますが、もしそれよりも前に潜入してきていたら、分かりませんよ」


「そうか!私達が来る前から、御所に潜んでいるかもしれないのか!」


「そ、そんな事があり得るのか!?」


 もし太田の考えが正しければ、武市という男は二日以上前から御所に来ていた事になる。

 その頃はオケツを始め、トキド達有力な騎士も多数キョートに集まっていた。

 その目を掻い潜って、御所に潜む?

 帝は首を横に強く振った。



「俺の考えだと、無理だと思うんだけど。だってそんな長時間、隠れていられるか?」


「うーむ。そう言われると、私も疑問に思いますね」


「しかし相手はアンデッド。食事も睡眠も必要としないのでは?」


「なるほど。太田殿の言う通りだな」


 ゴリアテは帝の意見に頷くと、今度は太田の意見にも賛同する。

 どっちつかずのゴリアテに、二人は困ったような目をする。



「どうでしょう。近衛騎士を使って、御所を隅々まで探してみては?」


「オーガとミノタウロスも、協力すれば良いんじゃないか?」


「ゴリアテ殿。ここは帝の座す処。ワタクシ達で言えば、安土の上階に当たりますよ。他人が家探しのような事をするのは、どうかと思うのですが」


「すまない。そこまで気が回らなかった。確かに太田殿の言う通りだな」


「そのような配慮をしてもらえるとは。こちらこそ、感謝します」


 近衛騎士の一人が代表して、太田とゴリアテに頭を下げてきた。

 帝は近衛に指示を出すと、一斉に御所の中に入っていく。



「見つかりますかね」


「俺は坂本が、嘘を吐いているようには見えなかったけど」


「それは同感です。最期の言葉が嘘というのは、あり得ないと思うんですよ」


「では、武市という男は必ず居ると?」


「そうなるな」


 三人は坂本の言葉を信じていた。

 だから近衛騎士が必ず武市を見つけると思っていたのだが、帝が指示を出してから十分弱が経過していた。



「誰も見つけたと言ってこないですね」


「おかしいな」


「俺達、坂本に騙されたのか?」


「それは無いと思うんですけど・・・。どうでしょう。一度近衛騎士を集めて、何処を調べたのか聞いてみては?」


「そうだな。皆、集合!」


 帝が大きな声で館の方に向かって呼び掛ける。

 すると中から、続々と近衛騎士が戻ってきた。



「うん?一人足りないな」


「何処を担当していた奴だ?」


 近衛達はお互いの顔を見合わせる。

 すると一人の騎士が、居ない騎士が誰かを言い当てた。

 しかし彼は、居ない騎士が何処を担当していたかまでは、把握していないと言う。



「さて、どうしたものか」


「簡単じゃないか?今居る騎士に、何処を探していたか聞けば良い。騎士達に聞いて空白だった場所が、怪しいって事だろう?」


「おぉ!ゴリアテ殿、頭良いですな!」


「ほら、私も防衛隊だからな。それくらいは考えているさ」


 太田に褒められたゴリアテは、照れくさそうに言った。

 帝はゴリアテの案を採用すると、とある場所が空白地帯となった。

 しかしそれを聞いた三人は、怪訝な顔をする。



「帝の寝室?」









 騎士達が探していないのは、寝室のみ。

 彼等は首を捻った。



「寝室に居るって事は、俺をいつでも暗殺するチャンスがあったんじゃないのかな?」


「そうなりますよね。じゃあどうして、わざわざ生かしておいたんでしょう?」


「うーん、分からん!」


 混乱する三人だったが、帝は面倒だと言って近衛全員に寝室を探させた。



「流石に全員で探せば、余裕で見つかるだろう」


「それなら私達も、寝室まで行った方が良いのではないですか?」


「武市という男の強さが我々が知る連中と同じなら、近衛騎士だけでは厳しいかもしれません。寝室の中には入らないようにして、入口まで行くのはどうでしょう?」


「それもそうだな。よろしく頼むよ」


 ゴリアテの懸念を汲んだ帝は、二人を連れて寝室の前まで行った。

 寝室の中では近衛が色々と探しているのか、物を動かしたり天井を開けているような音が外に聞こえてくる。

 しばらくすると音が止んだ。



「どうだ?」


「駄目ですね。誰も隠れている様子はありませんし、怪しい物も見つかりませんでした」


「隠しカメラすら無いか」


 これ以上の捜索は難しい。

 近衛が申し訳無さそうな顔でそう言ってくるのを聞くと、帝は今一度考えを改めた。



「坂本の言葉に、翻弄され過ぎたのかもしれない」


「しかしワタクシは、あの言葉が偽りだとは思えないのですが」


「だが何も出てこない事には、証明は出来ない。太田殿、少し方向性を変えて、考えてみようじゃないか」


「うーん、ゴリアテ殿がそう言うなら・・・」


 あまり納得のいかない太田。

 だが二人に押されて、折れる事にした。



「もう夜も遅いですし、帝はこのまま休まれた方がよろしいのでは?」


「ゴリアテ殿の言う通りですね。四門を抜ける程のアンデッドは、居ないみたいですし」


「そうかな?じゃあお言葉に甘えて、俺は休ませてもらう事にするよ」


 ゴリアテが気を利かせて、帝を休ませる事にした。

 寝室は近衛が交代で守るという事になったので、二人は近衛に案内されて別の部屋へと移動する。



「この部屋を使って下さい」


「ここは?」


 今までとは少し雰囲気の違う部屋に案内された二人。

 周りを見回しても窓も無く、少し窮屈に感じる部屋だった。



「隠し部屋になります」


「えっ!?」


「あまり大きな声を出さないように!」


 近衛に注意されると、ゴリアテは慌てて口を両手で塞いだ。

 静かになると近衛が、理由を話し始める。



「この部屋は、帝の寝室の隣になります」


「寝室の隣?扉なんか無かったけど」


「裏から回って、入ってきています」


「しかしそんな秘匿性のある部屋に、ワタクシ達が来て良かったのですか?」


「私の独断ですね。もし本当に潜んでいたとしたら、帝はまだ狙われる立場ですから。最悪の場合を考慮すると、お二人ならこの壁をぶち破って、すぐに駆けつけられると私は考えております」


 近衛が理由を説明すると、二人は顔を見合わせてお互いに頷く。



「素晴らしい考えだと思います」


「もし何かあれば、必ず帝をお助けするとお約束します」


「ありがとうございます。それではよろしくお願いします」


 近衛は部屋を出ると、二人は声を小さくして話し始める。



「しかし彼は、何故私達をこの部屋に連れてきたんだ?帝の寝室の前には、近衛だって居るだろうに」


「そう言われると、変ですね。彼は近衛の力を信用していないのでしょうか」


「武市という男が、それほど脅威だと感じているのかもしれんな。あるいは、別の理由がある。もし別の理由があるとするなら・・・何だと思う?」


 ゴリアテは太田に尋ねると、二人は腕を組んでその理由を考えた。

 しばらくすると太田は、とある一つの結論に達する。



「もしかするとですけどさっきの近衛の方は、別の理由を考えているのではないでしょうか?例えば、絶対に見つからない場所に隠れているとか」


「でも隠れている場所から出てきたら、見つかるんじゃないか?」


「だったら、もう隠れていないとか」


「太田殿、何を言っているか分かってるのか?」


 少しヤケになって答えた太田に対し、ゴリアテは少しイラッとしながら返す。

 すると太田は、何かを考え始めたのか、固まってしまった。



「おーい」


「・・・もしかしてなんですけどね」


「何だ?」


「隠れているけど、隠れていないんじゃないでしょうか?」


「そういう言葉遊びは好きじゃないんだが」


 ゴリアテの苛立ちが増すが、太田はマイペースに話し続ける。



「別に隠れるのに、狭い場所や見つからない場所じゃなくても良いと思うんですよ」


「じゃあ、何処に隠れるって言うんだ!?」







「あくまでもワタクシの考えですけど。人の中に隠れるというのは、可能性としてありませんか?それこそ、御所で働く人とか。あの近衛の方が心配していたのは、この御所の中の誰かが、武市なんじゃないかと疑っているんじゃないですかね」

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