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蘭丸将軍

 面白い組み合わせかもしれない。


 お市は何故か、蘭丸を一軍を率いる大将に推薦した。

 確かに蘭丸が率いる事に、僕も異論は無い。

 太田やゴリアテ、慶次といった面々も反対意見は無かった。

 そう、それは蘭丸の事を認めているからに他ならない。

 お市もそんな蘭丸を、越前国滞在中に実力を見出したのだろう。

 強いて言えば、多分この人選に納得していないのは、本人である蘭丸だと思う。

 だからお市に指名された時に、感謝の言葉よりも何故という疑問の方が先に来ていた。

 もしこれが又左やイッシーだったら、分かりましたの一言で終わっていたはずだ。

 ハッキリ言って、実力はあると思う。

 でも本人自身が、一番自分を過小評価しているんじゃなかろうか?

 問題は、何故そんなにも自分に自信が持てないのかという点だ。

 まあ言ってしまえば、僕を筆頭とした大人連中がいけないのかもしれない。

 彼等は実力があった。

 又左を筆頭に太田や佐藤さん、イッシーも含めて、多彩な才能を持った連中が多かった。

 皆が違う才能を持っていて、それぞれが活躍していた。

 蘭丸はそれを見てきたからこそ、自分はアレには勝てないと萎縮しちゃったんじゃないかな?


 それにもう一つ付け加えると、同い年であるハクトも多彩な実力を持っている。

 それが大きく分かるのが料理なのだが、それ以外にも音魔法といった変わった魔法も使えたりする。

 そして魔王である僕も加えると、三人の中で一番平凡だと感じたのかもしれない。

 でも蘭丸の実力で平凡なんて思ってたら、他の人は平凡どころじゃないんだよね。


 彼は上を見過ぎているような気がする。

 天高い雲ばかり見ているから、自分がどれだけ高い所に居るから分かっていない。

 そして槍に弓、魔法に指揮まで出来るという事が、どれだけ凄い事なのかもね。

 もう少し周りや上ばかりでなく自分の足元を見れば、どんな場所に居るのか分かると思うんだけどね。








 オケツの言葉を聞いたお市は、少し考え込んだ。

 すると部屋から顔を出し、太田とゴリアテを呼び止めた。



「どうしたのですか?」


「貴様はこの場で待機じゃ」


「ワタクシ達は参戦しなくてもよろしいと?」


「私達が一番、守備力が高いと思うのですが」


「分かっておる!だからじゃ」


 守備力が高い二人だから、御所から出さない。

 どういう意味か分からない二人は、顔を見合わせた。



「騎士王は将が居らずに、妾達を消耗させるのが目的だと言うた。しかし妾の考えは違う」


「ど、どういう事です?」


「この混乱に乗じて、狙ってくると思う」


「なっ!?・・・いや、あるな。そうなると狙われるとしたら」


「帝じゃろうな」


「なるほど。だからワタクシ達を残すというわけですね?」


「そうじゃ」


 お市の予測は、最悪を想定したものだ。

 しかしその可能性もあった。

 もし全員をキョートの守備に向かわせて、お市の予想が当たってしまったら。

 自分が誰かと対峙していたら帝を守る者は無く、アッサリと帝は討ち取られていたかもしれない。

 顔を青ざめさせたオケツは、頭を強く横に振って、考えをフラットに戻した。



「す、すいません。私が焦ってしまったばかりに」


「良い。ゴリアテは守備隊を率いて、御所の包囲を守るのじゃ。太田はミノタウロスの指揮をゴリアテに渡し、貴様は帝と共に行動しろ」


「かしこまりました!」


 オケツの言葉を軽く流すと、お市はゴリアテと太田に指示を出す。

 気まずいオケツだったが、気を取り直すとお市にもう一度頼んだ。



「お市様、キョートの守りをお願いしてもよろしいですか?」


「分かった。妾と炎使いは、別の所を守るとしよう」








 北から襲ってきたアンデッド達だが、夜になり遠くが見えなくなってから、東西と南からも来ているのが分かった。

 北にはシッチとの戦いで消化不良だったトキドが、張り切って炎をぶち撒け、東西を他の連中が守る事になった。

 そして一番敵陣から遠いと予想される南側を、大将蘭丸の初陣として、お市と共に任せられたのだった。



 そんな中、東を守る慶次とウケフジは、夜戦に苦戦していた。



「見づらいでごさるな」


「今夜は新月ですからね。向こうも準備していたと考えると、この時期を狙っていたのかもしれません」


「用意周到でござるな。それにしても、アンデッドも身体が違う気がするような?」


「私もそう思います」


 慶次とウケフジの感想通り、現在キョートを襲っているアンデッドは、昼間に見たアンデッドとは姿が少し違っていた。

 というよりも、身体の色が違うだけである。

 昼間は土色をしたアンデッドが、今は真っ黒になっていた。

 黒く塗装をされたのか、それとも身体の素材自体が違うのか。

 そこまでは分からないが、二人は目を凝らしながら敵を見ている。



 そして西を守るタツザマとサネドゥも、東側と同様に視認しづらいアンデッドに困惑していた。

 しかしウケフジ達とは違う点があった。



「あまり前に出るなよ」


「数人で固まって、背中を預けろ。気付いたら隣にアンデッドとか、笑えないぞ」


 タツザマとサネドゥの指示は、暗闇の中でもよく通った。

 幸いアンデッドは叫んだりしないので、二人の声を聞き漏らす事も無く、徐々に落ち着きを取り戻していたのだ。



「離れ過ぎると、アンデッドに囲まれるかもしれない」


「今一度後ろを振り返り、門との距離を確認しろ。これ以上遠くなると、明かりが届かなくなると覚えるんだ」


 ウケフジとサネドゥの合同軍は、二人の声を聞きながらアンデッドを倒していった。



 そして一番派手なのは、やはり北に居るトキドだった。

 暗闇の中ではワイバーンを飛ばせない。

 夜目が良くないワイバーンを新月の日に飛ばすと、お互いの距離感が分からずにぶつかる可能性があったからだ。

 その為彼が取った方法は、門の前に横一直線にワイバーンを配置した。



「よし!ヤヤ、合図を出せ」


「放射!」


 ヤヤが炎を前に放つと、それに合わせてワイバーンが一斉に炎を吐く。

 真っ赤な炎が辺りを照らすと、黒い物体が奥まで蠢いているのが分かった。



「うげっ!何処まで居やがるんだ?」


「騎士王の言う通り、こちらを休ませない作戦のようですね」


「だが、アンデッドが炎に弱いのは把握済み。北からどれだけ来ようとも、俺達が居る限り抜けさせはしないがな!」


 再びワイバーンが炎を吐くと、周囲に居たアンデッドは何も出来ずに燃えていった。










「・・・フウ」


「そんなに固くなるでない。この妖怪達は、お前の言う通りに聞くようにしてある」


「お、お市様」


 蘭丸は緊張していた。

 中隊クラスなら率いた事がある。

 しかし今回は、規模が違う。

 更に言えば、自分の知っている安土の人間ではない。

 いきなり妖怪達のトップを任され、どのように率いれば良いのか?

 蘭丸はまだ、どう彼等を扱えば良いのか分からなかった。



「どう指示を出すつもりじゃ?」


「えっと、妖怪達はお市様の吹雪の中でも、動けるんですよね?」


「そうじゃな。本気で無ければ動ける」


「それならお市様は明るくなったら、吹雪を前方へ。妖怪の人達は、動けなくなったアンデッドの始末をお願いします」


「しますではない。お主が今は大将なのじゃ」


「あ・・・。じゃあ、始末しろ」


 どうも言い慣れない蘭丸に、お市はため息を吐いた。

 遠慮があるのは分かるが、大将の自信の無さは下へと伝播する。

 それが分かってるからこそ、お市は蘭丸の背中を強く叩く。



「もっといつものように、シャキッとせんか!」


「イッ!くぅ!分かりましたよ!今から明るくするんで、お市様は勝手に吹雪をぶちかまして下さい」


「分かった」


 蘭丸は空に弓を構えると、何も無い所へ矢を放った。

 すると蘭丸は、大きな声で叫んだ。



「蘭丸シャイニングゥゥゥ!!」


 叫んだ瞬間、矢の先から強い光が生まれる。

 お市は予想より強い光に目が眩んだが、前方に手を掲げると、丸見えになったアンデッドに向かって吹雪を放つ。



「おぉ、凍っていく。動けなくなったアンデッドを、粉々に砕け!」


 蘭丸の声に合わせて、妖怪達が前進を始めた。

 目の前の無抵抗なアンデッドを、粉々にしていく妖怪達。



「良いではないか」


「いや、まだですね。私もここからは、同じように凍らせていきます」


「何?」


 矢筒の中から一本の矢を取り出すと、それを更に奥へと放つ蘭丸。



「蘭丸フリイィジングゥゥ!!」


「なんと!弓矢だとこんな事も出来るのか!?」


「小さ過ぎて使い物にならないクリスタルを、鏃に使うだけなんですけどね」


 そんな大した事ではないと言い放つ蘭丸だが、お市は驚きが隠せなかった。



「という事は鏃に込めた魔法次第で、効果は変わるという事かの?」


「そうですよ。だから」


 今度は違う矢を持ち構えると、遠くで凍らせたアンデッドに向かって放つ。



「これは俺のオリジナルです。蘭丸トルネエェェド!!」


 激しい旋風が矢の周りに起こると、それが広がっていく。

 旋風は凍ったアンデッドを切り裂いていき、遠くで消滅した。



「オリジナル?」


「この強弓、元々風魔法が使えるんですよ。でも鏃にも風魔法が封じられていると、風魔法と風魔法が良い具合に重なって、あんな感じで旋風が起きるんです」


「お主、なかなかやるのう」


「え?あ、ありがとうございます」


 お市は面と向かって、あまり褒めたりしない。

 それを言われた蘭丸は、顔を赤くした。

 照れ隠しに顔を背けると、今度は逆に叱られる対象となってしまう。



「指揮を執る者が、周囲を見ずにどうする!」


「す、すいません!」


「じゃが、油断せずにやれば、妾は必要無いかもしれんのう」


「え?」


 お市は蘭丸の実力を認めると、一歩後ろから見るだけに留まった。

 時折りアンデッドが前進してくるのに合わせて、蘭丸から吹雪の要求がある以外は、蘭丸に全てを任せたのだ。



「この様子なら、妾の心配は無用だったかもしれんのう」


「お市様、それは早急だったかもしれません」


「どういう意味じゃ?」


 蘭丸は再び光魔法の封じられた矢を放つと、一際大きいアンデッドを発見する。



「私の氷魔法で奥のアンデッドは凍っているのですが、その大きなアンデッドだけは、前進が止まりません」


「何者じゃ?」


「私は見た事が無い人物ですね」


「どれ。むっ!アレは!」


「知っているのですか!?」


「知らんのう」


 双眼鏡で覗き込むお市はとぼけるフリをすると、蘭丸はコケた。

 しかし止まらずに前進を続けるアンデッドが、蘭丸の光魔法の範囲に入ってくると、ようやく顔が確認出来るようになった。

 それを見たお市は、なるほどと一言呟く。



「やはり、知っていたのですね?」








「うむ。アレは以前越前国を襲った男じゃな。名は西郷と言ったかのう?」

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