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一夜城作戦2

 秀吉が捕らえられていると言われている砦を攻略する。

 その為には砦の目の前に城を作る事を提案した。

 川の中洲にあると言われる砦だが、その川を利用して資材を上流から流していく。

 夜間に流せば見つからずに、資材だけは砦前に到着するわけだ。

 そして創造魔法で城を作る。


 だが、それだけではお互いに籠城するだけで終わってしまう。

 そこで次の一手として、此方には被害を受けずに砦側にだけ損傷を与えるという作戦に出る。

 資材を流し終えた部隊の一部は、上流にて川を塞き止めて待機。

 塞き止めて増水した川を氾濫させて、砦にダメージを与えるという作戦だ。

 その為、城は川の水を受け流すような造りにして、壊れた箇所からすぐに補修をするという作業をする。

 そして洪水が起きた事で混乱している相手方に、電光石火で首脳部を叩く。

 人数で大きく劣る我々が出来る、最大の作戦だった。


 動員出来る全ての人数を揃え、とうとう作戦実行の日がやって来た。

 下流は主に力仕事のみで、主に撹乱に近い。

 見つかっても向こうを逃さないか、もしくは此方が逃げるだけ。

 下流でウロチョロして敵が警戒してくれれば、上流の方には目が向かないだろう。

 そんな中でハクトは、ラビから新たな技術を教わった。

 乱破としても優秀なのは、周知の事実。

 だが普段は目立たないはずのラビには、オーラがある。

 魔王よりも目立っているのでは?

 そう思うハクトだった。





 ハクトが探知に精を出している一方、下流では蘭丸も気合を入れていた。


「俺が前田さん達を抑えて、お前の片腕か。頑張らないとな」


 片腕にしたつもりはないが、いつかは側仕えとして居てもらえたらとは思っていた。

 だって森蘭丸だからね。

 天下人の側に居てほしいとは、僕でも思っている。

 ただし、それだけの実力は持ってほしいけど。


「気合が入っているのは良いけど、実際は下流組はそんなにする事が無いよ」


「何?」


「蘭丸がする事と言えば、もし相手に見つかってないなら逃げるだけ。見られたら始末するくらいだから」


 むしろ隠れて行動しているわけだから、そう簡単に見つかるとは思えない。

 それに案内人は地元住民だしね。


 協力をお願いした地元住民達は、僕が魔王だと言っても最初は信用しなかった。

 流石にドワーフやネズミ族、それにエルフである蘭丸や前田家の犬の獣人等。

 多種族が力説したおかげで、本当なんだと理解してもらった。

 ちなみに創造魔法は、何らかの別の魔法じゃないかと勘違いされて信用されるに値しなかったらしい。

 本人が言うより、誰か他の人の言葉の方が信用出来るのは分かる。

 でも創造魔法見せても信用してもらえないって、ちょっと複雑な気分になった。


「下流組は、本当に何もしないのか?」


「そうだなぁ。現地の確認でもしようか?」


「確認って、砦まで見に行くって事?」


「そう。どの角度で城を建てると、洪水の被害が無いか。砦の見張りがどの辺りに立っているか。多少は調べておいて、損は無いんじゃないかな」


「それも一理あるな。じゃあ数人で見に行くか」


 僕は数人を引き連れて、砦の近くまで様子を見に行った。



「これは丸見えだなぁ」


 砦の近くまで行こうとしたが、断念する事になった。

 テンジが言った通り、砦に近付く者はすぐにバレると思った。

 砦は川に囲まれていて、その川の外側は草原になっている。

 草原より外側にようやく森が広がっているのだが、森から砦までは軽く一キロ以上はあるだろう。

 森から草原に誰かが現れれば、すぐに分かる。


「砦の四方に見張りが付いてるのが見える。それでも夜間なら、夜目に利く者じゃないと分からないかもな」


「それが怖いけど、ネズミ族って夜見えるの?」


「我々は異端ですが、ネズミ族は基本的に視力が低いです。ただし聴力には自信がありますね」


 うーん、それって結構マズイのでは?


「じゃあ川から資材を引き上げたら、丸聞こえの可能性は?」


「そこまでは大丈夫かと。川の流れの音もありますし、聴き分けるような強者が居ない限りは問題無いですよ」


 それもそうか。

 川の流れを騒音とは呼ばないけど、音の聴き分けをするような奴なんか居ないよね。

 なんて思っていたが、作戦終了後になってラビとハクトが出来ると知って、僕は自分の考えが甘かった事を知った。


「まあ見張りにバレたとしても、上流から一緒に兵達に資材と一緒に下ってもらうから。もし戦闘になっても問題無いと思う」


「俺達も戦うしな」


 槍を持った蘭丸が、勇ましく言っていた。

 まあ、バレる心配が無いなら問題無いし。

 こんな所に偵察に来ているのを見られる方が面倒だ。

 さっさと下がろう。





「上流は資材の確保を終えました。いつでも行けます」


 一日三回の定時連絡をしていたら、ドランから待っていた返事が来た。


「川を塞き止める用意も出来ております。資材を流し終えたら、半日後に大岩で塞き止める予定です」


 洪水を起こす準備をしていたテンジも、準備が整ったようだ。

 上流組はこれで問題無いだろう。

 いよいよ下流組の仕事の出番という事だ。


「次の新月で作戦を決行する!」


「おぉ!」


 ところで次の新月っていつだ?

 この世界の基準があまり分かっていないから、この日にやる!ってハッキリ言えないんだけど。


「次の新月という事は、約十日後ですか」


「そうだ。十日後にしよう」


「何!?それより前倒し出来る?」


 テンジが誰かと話している。

 声は聞こえるが、誰だか分からない。


「魔王様に具申させていただきたく」


「良い案があるのなら、積極的に取り入れたいから。言ってくれると助かるよ」


「ありがとうございます」


 その声を聞く限り、若そうな気もする。

 でも異端の集まりって事だから、彼も見た目はちょっと違うのだろう。


「自分の考えを述べさせていただくと、明日もしくは二日後がよろしいかと」


「そんな早い!?」


「理由は、明日の未明から雨が降ると思われます。雨が降れば如何に聴覚に優れたネズミ族でも、その聴き分けは難しいと思われます。資材搬入の際、見つかる確率がグッと下がるでしょう」


「雨!?こんなに晴れてるのによく分かるね」


「それにまだ好材料があります。雨によって川が増水すれば、塞き止めた水が貯まるのも早いと思われます。予定よりも早く洪水を起こす事も可能になるでしょう」


 この人、結構考えてるな。

 なかなか頭の良い人物のようだ。

 ただし、ちょっとだけ疑問がある。


「今の話を聞くと、雨の中で作業をする事になるわけだな?」


「そうなります」


「夜目に弱い連中が、増水した川で作業なんか出来るのか?もし事故を起こしかねないようなら、僕はその作戦を認めるわけにはいかないぞ」


「それについては御安心を。上流の中でも砦から特に見づらい場所で作業しております。火明かりを灯しても、雨天の砦から確認出来るものではありません」


「それでも川の増水はどうなんだ?」


「それについては、私が言わせていただきたく思います」


 会話の途中でドランが割り込んできた。


「此処に居る者達は覚悟を持ってやっております。ちょっとやそっとの事では、文句は言いますまい。それで怪我をしても、自己責任というものです」


「そうは言うけどさ・・・」


「察してください。此処に居るネズミ族の方々は、貴方に認められたくてやっているのですよ。安土へ行く前に、手柄を立てさせてやってくださいませんか?」


 そういえば僕は、此処に居る異端の連中をスカウトしたんだった。

 彼等は見た目が違うというだけで、かなり有能だ。

 さっきの若い人もそうだけど、ハッキリ言って僕よりも頭が良さそうな人も存在している。

 既に認めているんだけど、実績という物が欲しいのかもしれないな。


「上流の諜報魔法使用者が、そろそろ限界となります」


「分かった!明日か明後日、雨天決行しよう」


「ありがとうございます!それでは、今回の定時連絡を終えます」


 雨の中の作業か。

 事故が起きなければ良いけど。





 翌日の昼頃、本当に雨が降った。

 天気予報が無いこの世界で、よくもまあこんな的確に天気が当てられるもんだ。

 夕方以降になっても止まなければ、月が見える事は無いだろう。

 そしたら決行をすると、此方から連絡を入れる手筈になっていた。


「お前に意見を言った人の通りになったな」


「そうだね。誰なんだろう?」


 正直、かなり気になってきた。

 あの時は上流の者の魔力に余裕が無かったから聞けなかったけど、後で名前を聞いてみたい。


「それで、お前の判断はどうなんだ?」


「そうだね。今夜が良いと思う。下手に明日の夜まで降り続けば、逆に増水し過ぎて危険かもしれないし」


 怪我を厭わないと言っても、それには限度があると思う。

 それに危険度の度合いだってある。

 少しでもリスクが減らせるなら減らすのが、上に立つ者の判断だと僕は思う。

 そして僕は、電文のように上流へと通達をした。


「今夜決行。準備するべし」





 上流では今、忙しなく人々が動いていた。

 資材となる木は筏にして、その上に金属板等を少量載せる。

 筏には五人一組で乗り込み、そのまま下流へと流れていった。


「壮観ですね」


 ラビさんが僕に話し掛けてきた。

 探知を主にしてきた僕達は、既にお役御免となっていた。

 ここまで来ると、見つかっても止められないからだ。

 周辺に敵部隊が来ていないかくらいは警戒しているが、雨の夜間に危険な上流まで来るとは思えない。

 故に僕達は、作業を見ているだけとなっていた。


「ラビさんは上流に残るんですか?」


「その予定です」


 資材を流し終えても、まだ上流では仕事が残っている。

 川を塞き止めている大岩を破壊するという役目だ。

 この仕事をするのに、一人は岩を破壊出来る人。

 更にもう一人は、諜報魔法でマオくんと連絡が取れる人。

 そして、その二人に危険が迫らないようにするのが、探知に優れた人。

 上流に残る重要な人はこの三人。

 その探知役に選ばれたのが、ラビさんだった。


「先程聞いたのですが、この雨中の作戦を発案した人が上流に居るらしいですね」


「え!?マオくんの案じゃないんですか?」


「どうやら、自ら具申しに行ったようです。その方の予定だと、塞き止めた水が貯まるのも相当早まるのだとか」


「それは作戦が更に早くなるという事ですか?」


「そのようです」


 マオくんに意見する人が居るなんて。

 長可さん以外で見た事無い。

 どんな人だか会ってみたいな。


「しかし早いですね。もう半分以下になりましたよ」


 気付くと資材は残り半分を切っていた。

 指揮をしているドランさんが、声を張り上げて急かしている気もする。

 それにしても思った以上に早い。


「彼の指示ですね」


 ラビさんが言っていた人は、僕達と見た目はそんなに変わらない人だった。

 この中だと若い部類に入るだろう。

 それなのに指示をテキパキと出していて、凄いと思った。


「あんな人、隠れ家に居ましたか?」


「いや、おそらくは別の場所に居た同胞でしょう。僕も初めて見ました」


 ラビさんでも知らない人が居たんだ。

 この人は味方の事なら、大体知っていると思ったんだけど。

 それにしても、ネズミ族の異端の人の集まりって聞いていたけど、あの人の見た目ってあんまり変わらない気がする。

 何処に違いがあるんだろう?


「ハクトくん?そろそろ下流に向かう番では?」


「え?」


 いけない。

 考え事をしていて、ラビさんの声が聞こえてなかった。

 もうそんなに流されていったのか。


「じゃあハクトくん。作戦が終わったら、また会いましょう」


「ラビさんも気をつけてください」


 僕はラビさんと別れ、筏へと向かった。



「次の奴!急いで乗り込め!」


 いよいよ僕が乗る番だ。

 真ん中に載せた鉄塊を挟んで、左右に二人ずつ。

 それと先頭は、下流で待っている人達に合図を出して、岸へと寄せてもらう係が乗り込む。


「アレ?」


 さっきの指示を出していた人も、一緒に下流へと向かうようだ。


「どうかされましたか?」


「いきなりすいません!さっき指示を出していた人だよなって思って」


 初対面の人に、アレ?って言っちゃうのは失礼だった。

 気を悪くしてなければいいけど。


「見てたんですか?お恥ずかしい。こんな若造が指示を出すなんて、周りの人からしたら、おこがましいと思われているでしょうね」


「そうですか?貴方の指示のおかげで、かなり早くなったように見えましたが」


「そう言っていただけると嬉しいですね」


 良かった。

 怒ってる様子は無い。

 物腰柔らかい感じの人だし、仲良くなれそうだなぁ。


「それにしても珍しいですね。私のような若造を認めるなんて」


「そうですか?僕は近くに、マオくんが居るからかな?」


「マオくん?」


「あ、魔王様の事です」


 そういえば、マオくんの名前って知られてないのかな。

 いつもの癖でマオくんって呼んでしまった。


「魔王様のお供の方ですか!?」


「お供というか、友達というか」


「それは凄い!」


 凄いと言われても、一緒に寺子屋通って仲良かっただけで、あんまり僕自身は凄くないんだよね。

 ちょっと申し訳ない気持ちになる。





「申し遅れました。私はアルジャーノン。周りの人からは、竹中半兵衛と呼ばれております」

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