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サネドゥの引き継ぎ

 心残りが兄弟喧嘩。

 僕達だったらまず、一方的な展開になるだろう。


 それはあくまでも、元の姿の場合だよ?

 プロ野球のドラフトに選ばれるような身体能力を持つ兄と、ぐうたらで基本的には家でオンラインゲームをやるのが趣味の僕。

 喧嘩をしたらどっちが勝つ?

 こんなの子供でも分かるよね。

 でもサネドゥ家は違う。

 二人とも似たような体格だし、似たような力でもある。

 違いがあるとしたら、性格と個人の技量くらいか?

 そうは言っても、お互いに切磋琢磨してきた仲だろう。

 どちらかの技量が多少上だったとしても、手の内が分かっていればそれも埋められるはず。

 そう考えると、どちらが勝ったとしても不思議ではない。


 ただ、こっちの世界は兄弟喧嘩の規模が違うよね。

 僕と兄も一度やらかしているが、又左と慶次がやり合った時も結構派手だった。

 まあそれでも、抑えてくれた方なんだろうけど。

 サネドゥ家の兄弟喧嘩は、その一線を越えている気がする。

 だってヤバスィゲは、トブユッキーの関節をへし折る勢いで極めたりしてるんだよ?

 普通、兄弟喧嘩で骨折らないでしょ。

 それにトブユッキーだって、鎧を身に付けたままでヤバスィゲの顔面をタコ殴りにしている。

 しかもマウントポジションからって、下手すると後頭部を地面にぶつけて、本当に危険なのに。

 ちょっと二人の場合は、兄弟喧嘩の枠を超えている気がするね。


 でも、これだけは言える。

 兄弟喧嘩は、その兄弟にしか分からない時もある。

 僕達阿久野家も然り、前田家だってそうだ。

 だったらサネドゥも同じはず。

 だから僕達は、トブユッキーとヤバスィゲを信じて待つのがベストなんだろう。

 トブユッキーにも何か譲れないものがあるから、ヤバスィゲに襲いかかったんだ。

 ちなみに阿久野家は、最後に食べようと残しておいたおかずを奪われたりすると、ラグナロクものの戦争が起きます。











 首の骨が折れた。

 というより曲がった。

 トブユッキーは自分の首を掴んで、元に戻そうとした。

 しかしヤバスィゲは、その隙を見逃さない。



「その時を待っていた!」


「ぐむっ!?」


 トブユッキーが頭に持ってきた両腕を掴み、勢いよく交差させるヤバスィゲ。

 その腕を力一杯引っ張ると、関節を無視して腕を縛った。



「う、腕が・・・」


「関節が外れているからな。力も入らないだろう?そして足は」


 足は普通にロープで縛ると、トブユッキーは身動きが取れなくなった。



「アンデッドの姿になると、危機管理能力が薄まるようだな。痛みでもあれば、関節が外れていた事に気付いただろうに」


「ハハッ!参ったな。完敗だ」


 トブユッキーの雰囲気が変わった。

 というよりも、元に戻った。

 腕が捻られ両足は縛られているという不思議な格好だが、今はもう攻撃的な雰囲気は無くなっていた。



「兄上」


「そんな顔をするな。私の言った事は間違っていない」


「では本当に拙者と戦う事が、心残りだったと?」


「そうだ。お前と戦い、そして今のお前の強さを知るのが、私の心残りだった」


「ど、どういう事ですか?」


 トブユッキーの真意を聞いたヤバスィゲは、声を荒げた。


 自分の強さを知る為に、意識を取り戻した。

 彼が言っている事が正しければ、そういう事になる。



「サネドゥ家は小さい。騎士王国の中でも、知る人物は少ないだろう」


「そんな事はありませんよ!今のサネドゥは、東の騎士でも中堅以上です!」


「そうなのか?なら、このような事をする必要は無かったな」


「もしかして、羽柴秀長を騙す為の芝居だった?」


「全部ではないがな」


 秀長をヤバスィゲから守る為という理由で、この場から撤退させる。

 それはまさしく、トブユッキーの策略だった。



「羽柴様を守れという命令は、今でも私の中に残されている。だからお前があの人を攻撃してくれたのは、幸いだった」


「拙者を利用した?」


「結果論だがな。もしお前が現れなければ、タケシという人物を餌にして居場所を探るつもりだったのだが」


「まさか爆弾連鎖を起こしたのも、兄上の策!?」


「羽柴様から死なないとは聞いていたが、あの人でも冗談を言うのだな程度にしか思っていなかったぞ。まさか本当に、あの爆破の嵐の中で生き残るとは」


 生き残ったと言うべきなのか。

 炭化した身体は目も蒸発しており、口の中だけ少し回復している状態。

 普通であれば、死体を更に痛めつけているというレベルの攻撃だった。

 事実タケシは、一切身動きが取れなくなっている。



「まあお前が現れてくれたおかげで、あの人は逃がせたわけだがな」


「しばらくは動けないと思いますがね。アレでも帝国の大将にして、最高戦力だったんですが。タケシの戦線離脱は、騎士王国にとってかなり痛いですよ」


「そこまでは私も知らないから。オホン!というわけで、私の心残りはほとんど解決してしまった」


 タケシが居ないと、騎士王国の存続に影響が出る。

 自分がしでかした事がかなり大きいと分かり、トブユッキーは話を逸らした。



「解決?」


「私の心残りは、サネドゥ家が、お前がちゃんとやっていけるかを知る事だった。しかしお前は、あの弱小サネドゥが今では中堅クラスまで大きくなったと言った」


「そうです。そして今では、騎士王直属の騎士として働いています」


「な、なにぃ!?」


 まさかの大出世に、トブユッキーは身体をくねくねさせながら驚く。

 それを見たヤバスィゲは、腕を解いて足のロープも外す。



「ほ、本当に?」


「嘘を言ってどうしますか」


「凄いじゃないか!」


「それもこれも、兄上が助けてくれたからです。そして土壇場で、ハッシマーからオケツ殿に鞍替えしたのが大きかった。とは言っても、オケツ殿は騎士王として立場が弱いんですけどね」


 味方が少ないオケツだからこそ、ヤバスィゲを重用してくれたとも言える。

 だが本人も、それは分かっていた。

 今のオケツの働きぶりでは、地位が安泰ではない。

 しかし任された仕事をこなせば、オケツが騎士王である限り、上がる事はあっても下がる事は無いと確信していた。



「やりがいはありますよ。確かにトキド殿やウケフジ殿のような、華やかな方ではないです。でも、任されている仕事は大きいと実感しています」


 現に数の少ない右軍に、ヤバスィゲは回されていた。

 それは厳しい環境下でも、彼なら生き残れるというオケツの信頼の証でもあった。



「そうか。それなら良かった。だったら私は、もう思い残す事は無い」


「え?」


 岩に腰掛けていたトブユッキーの足が、ボロボロと崩れていく。



「おっと!足が無いとバランスが取れないな。あの炭化した人、よくもまああんな姿で立てたものだ」


「あ、アレは異常です!変態だから仕方ないのです!」


「ハハハ!帝国の大将を変態か。よく言う」


 ヤバスィゲの失言に、トブユッキーは笑った。



「き、消えるんですか!?」


「もしも私がこのまま戻れば、私はケルメン騎士王国の敵として利用される。それはお前の敵として、今度こそ何も知らないまま現れるという事だ」


「そ、それは・・・」


 復活したばかりのトブユッキーは、虚な目で自分を見てきた。

 あの時の感覚はとても形容し難く、ヤバスィゲにとってもまた経験したいとは思えなかった。



「私は元々死んだ人間だ。また元に戻るだけだと思えば良い」


「ち、違うでしょう!それを言ったら、拙者は兄を二度失ったという事です!」


「そうかもしれないな。でも、お前なら乗り越えられる」


 左腕から先も崩れ落ちていくトブユッキー。

 残された時間は短いと、二人も悟っていた。



「サネドゥ・ヤバスィゲ!」


「はい!」


 突然大きな声で名前を呼ぶトブユッキー。

 それに応えるように、ヤバスィゲも声を大にした。



「お前がサネドゥ家の当主だ。お前ならサネドゥを大きく出来る」


「はい」


「最期に、先代から今代の当主に命令だ。この国を助けろ。そして騎士王を助け、サネドゥの家を更に大きくしろ」


「はい!」


 涙声で応えるヤバスィゲに、トブユッキーはそれを見てバランスを崩した。

 慌てて前に出ると、ヤバスィゲはトブユッキーの身体を支えた。



「本来ならケモノは、一人につき一体のみである。だが金狼は、銀狼と共にお前に仕えると約束したらしい」


「はい。何故そうなったのか疑問でした」


「私も死んだからな。彼等の声が聞こえるようになった。死んで良かったと思えるのは、これくらいだけどな」


 最期だというのにくだらない冗談を言って自ら笑うと、トブユッキーはまた雰囲気を変えた。

 そして残った右手で、ヤバスィゲの背中を力強く叩いた。



「頑張れよ」


「兄上も、お達者で」


 叩いた右腕が崩れたのを感じると、ヤバスィゲは最期にトブユッキーの顔を見た。

 笑顔で崩れていく彼を見て、ヤバスィゲは涙が止まらなかった。



 しばらく声も漏らさず涙を流すと、ヤバスィゲは周囲に味方もアンデッドも居なくなった事を確認する。

 そしていつも通りの顔に戻ると、独りでポツリと呟いた。



「撤退する」









 戦いがひと段落すると、辺りが暗くなる前に両軍後退を始めた。

 そんな中、援軍に駆けつけたはずの慶次が、何か黒い物を担いで御所にやって来たではないか。



「オケツ殿、すまないでござる」


「慶次殿!越前国から来てくれて、本当にありがとうございます!太田殿やゴリアテ殿も確認していますよ」


「して、お前と共に行動していた奴は何処じゃ?」


 先に御所へ入っていたお市が、タケシの所在を尋ねる。

 すると慶次は、槍に刺さった黒い物体を見た。



「すまない。下手こいた」


「へ?」


「この黒いのが、タケシ殿でござる」


「い、生きてるの!?気持ち悪いなぁ」


 オケツが無神経に本音を言う。



「どストレートに言われると、また凹むんだけど」


「この阿呆が。凹む前に、はよう治せ」


 タケシの超回復は、お市も知っている。

 しかし槍に刺さったままの姿を見て、お市は少しお怒り気味だった。



「そ、そうだよ。こっちは猫の手も借りたいくらい、人手が足りないんだ。タケシ殿にも働いてもらわないとね」


「それは分かってるんだけど。俺もここまで派手にやられたのは初めてで、まさか回復が追いつかないとは思わなかった」


「どうして回復しないのでござるか?」


「分からない。でもこのままじゃないと、死ぬ可能性もある」


 身体を崩して一から作れば良い。

 そう考えていたオケツ達だったが、本人の口からそれは危険だと言われて攻撃を控えた。



「このバカタレ。身体が熱を持っていて、炭の中で燃えているから回復しないのじゃろうな」


「そういえば熱くて、まだタケシ殿の身体を持てないでござるよ」








「俗に言う熾火というヤツじゃ。だから奴の身体は、完全に火が消えたと見せかけて、中は高温なのじゃ。熾火が消えれば、回復を始めるはずじゃ」

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