サネドゥvsサネドゥ
最強とも噂される男も、無敵ではないわけか。
ムッちゃんは身体を炭化するまで爆破され続けた事で、正真正銘身動きが取れなくなってしまった。
というより、本当なら一目見ただけで死んでると思われる姿なのだが。
それでも生きてるのが帝国が誇る無敵のタケシクオリティなんだろう。
しかしそれにしても、こんな方法でムッちゃんを無力化させられるとは。
僕の中でムッちゃんは、この世界に来て唯一倒せないと思った相手だ。
言い方は悪いが、殺すという手段であればやりようはあると思う。
でも秀長がやったように、殺さずに倒すというのは無理だと思っていた。
何をしても回復するし、体力お化けで兄でも勝てないレベルなのだ。
もし完全に無力化させるなら、永久凍土に閉じ込めるのが一番だと思う。
だけどそれをしたら、心臓まで止まって死を迎える可能性もあった。
普通の氷なら砕きそうだし、手加減も出来ない。
まあ手加減する必要なんか、他の人には無いんだろうけど。
僕はムッちゃんを殺したいとか思っていないから、厄介だと感じているのかもね。
ただねえ、あんな方法思いつく?
殺すつもりでやったら、たまたま封印出来そうな状態になりましたって感じじゃないの?
だいたい爆弾を何十発も使うって、殺す気満々だと思うんだけど。
目も蒸発して何も見えず、炭と化して身体を動かすと崩れる状態。
それでも口の中は超回復しているのか、何故か喋れるって不思議。
まあ何でもアリなのが、ムッちゃんなんだろうけど。
ムッちゃんを無力化させられたのは辛いが、一つだけ分かった事がある。
身体を操られて骨や関節をバキバキにさせられた頃より、なんか痛みに強くなってる。
もしかして、Mに目覚めたのかな?
もしそうだとしたら、身体を燃やされてもエクスタシーを感じる、究極のドMだという事だ。
友達がドMか。
僕はちょっと距離を置きそうかなぁ・・・。
「こんなの・・・」
「あ・・・。すまないでござる」
物扱いされるのは分かる。
だがこんなのという言い方は、如何なものか。
滅多に凹まないタケシの声のトーンが、明らかに低かった。
「というわけで、サネドゥ殿。拙者が代わりに戦うから、コレを運んでくれると助かるでござる」
「コレ・・・」
「あ・・・。もう面倒だな!」
タケシは再び凹むと、慶次はもう取り繕うのをやめた。
そしてヤバスィゲの前に出ようとすると、彼の右手がそれを阻んだ。
「サネドゥ殿?」
「だが断る」
「何?」
「悪いがこの一戦は、こっちにも引けない理由があるんでね」
「・・・そうでござるな」
慶次は二人を見て、アッサリと引き下がる。
ヤバスィゲはまさかこうも簡単に引き下がるとは思わなかったのか、慶次を見た。
「良いのか?」
「サネドゥ殿。いや、ヤバスィゲ殿と呼んだ方が良いでござるな。相手は兄なのであろう?」
「その通りだが」
「拙者も兄が居るでござる。今は袂を分かったが、いつか再び会う機会もある。しかし貴殿には、その機会が何度もあるとは思えない。だから今が、この時が兄を越える最大のチャンスだと拙者は思うでござる」
慶次はヤバスィゲの目を見て、自分の心の内を話した。
それに応えるかのように、ヤバスィゲも右手を下げる。
「ありがとう」
「タケシ殿は任せるでござる。ほら、こうすれば運べるでござる」
持っていた槍で、炭の中心付近を突き刺す慶次。
半分くらい貫いたところで彼は槍を担ぐと、後ろから声が聞こえた。
「慶次さんや、痛みはないんじゃよ。でもね、腹に違和感があるのは気のせいかなぁ?」
「気のせいでござる。ヤバスィゲ殿、武運を祈る!」
タケシを担いだ慶次は、そのまま南へと走り出す。
ヤバスィゲは右腕を力こぶを作るように上げると、慶次もそれを見てフッと笑った。
「兄を越えろ!」
「サネドゥ!奴を逃すな!」
「羽柴様、それは難しいです」
「口ごたえをするな!イダァ!」
金色の鎧を殴る秀長だが、予想以上の硬さに痛みで顔を歪めた。
そこに銀色の塊が、秀長に向かって飛んでくる。
「あわよくば、蹴り倒してやろうと思ったんだが」
「よ、よく止めた!」
不意を突かれたとはいえ、ヤバスィゲの鎧がトブユッキーの金色の鎧と同じような硬さだと想像した秀長は、もし今のキックが命中していたらと思うと、顔を青くさせてトブユッキーを褒めた。
「羽柴様、ここは一旦引いた方がよろしいかと。私でも、守りきれるか分かりませんよ」
「そ、そうか。そうだよね。まだ戦いは始まったばかりだし、攻めるチャンスなんかいくらでもある。よ、よし。ここは任せるよ!」
「承知しました」
秀長は黒い影の中に沈んでいく。
周囲に誰も居なくなったのを確認すると、トブユッキーはようやく表情を柔らかくした。
「フゥ、面倒なこった」
堅苦しい話し方を一瞬でやめ、直立不動だった体勢も、今ではやる気無さそうに立っているだけ。
そんなトブユッキーの姿を見て、ヤバスィゲは少し怪訝な顔をする。
「兄上?」
「お前も座れよ」
近くにあった腰高の岩に座るトブユッキー。
ヤバスィゲは対面にあった、同じような岩に座った。
「どうして蘇ったんですか?」
ヤバスィゲは神妙な面持ちで尋ねる。
「どうしてって言われてもな。強制的に蘇らせられたんだから、理由なんか無い」
「では聞き方を変えます。どうして意識があるんですか?あの時会った兄上は、虚な目でサネドゥ丸を操っていたのに」
「それか・・・。うん、まあ簡単に言ってしまうと、心残りを思い出したと言うべきかな」
「心残り、ですか?それは何ですか?」
「それはだな・・・」
話を深く聞くヤバスィゲだったが、トブユッキーは言うのを躊躇うように声が小さくなった。
ヤバスィゲは再び怪訝な顔をして立ち上がると、トブユッキーの声を聞こうと近寄っていく。
すると金色の拳が、ヤバスィゲの顔を狙って飛んでくる。
「な、何をする!」
「やはり避けられるか」
「騙したのか!?」
「騙してなどいないさ。これが私の、最大の心残りだからな」
トブユッキーが拳と拳をぶつけると、金色の拳から火花が散って見える。
「どういう意味だ?」
「それはお前を倒す事だ!」
剛拳とも呼べる金色の拳が、銀色の鎧にぶつかった。
激しい金属音と共に、衝撃でヤバスィゲは後ろに下がる。
「ほ、本気じゃないか!」
「当たり前だ。私はお前を倒して、サネドゥ家を復権させる」
左ジャブから右ストレート。
お手本のようなコンビネーションに、ヤバスィゲは軽々と受けてみせた。
今度はこちらの番だと言わんばかりに、前に出るヤバスィゲ。
同じように、距離を測ったかのような左ジャブ三連発から、強めの右ストレートを叩き込む。
トブユッキーも後ろに数歩下がると、ヤバスィゲは追撃に入った。
「この流れを逃がさん!」
反撃の的を絞らせないように、身体を横に振って近付いていくと、その勢いでフックを叩き込んだ。
だが、逆にパンチをしたヤバスィゲが顔を歪めている。
「甘いな。そんな単調な動きでは、簡単に読まれるぞ」
「え、エルボーブロック!だが、まだこの拳は砕けていない!」
「だから、それが単純だと言っている!」
再び二発目のフックを狙うヤバスィゲ。
それに対してトブユッキーは、自ら距離を詰めて肩から身体をぶつけた。
ショルダータックルというほどではないが、フックを狙うスペースを潰され、ヤバスィゲは一気に後ろへ吹き飛ぶ。
すると今度は、ストレートへと狙いを変えたヤバスィゲ。
そんな銀色の拳に対し、トブユッキーは突然動きを変えた。
「ぐはっ!」
右拳がトブユッキーに届くかと思われた瞬間、腹に痛みを感じるヤバスィゲ。
よく見ると自分の腹に、金色の太い足が突き刺さっていた。
「パンチばかりに目が集中するから、こうなるんだ」
「だ、だったら!」
お返しだと言わんばかりに、ヤバスィゲもキックへと切り替えた。
そんな銀色の足をトブユッキーは受け止めると、残った足を払った。
「うぐっ!」
「挑発に乗るな!」
倒れたヤバスィゲの上に、馬乗りになるトブユッキー。
金色の拳が左右から勢いよく、ヤバスィゲの頭へと降り注ぐ。
「どうしたぁ!このままではお前の鎧は砕けるぞ!」
「だ、だったら!宿れ、金狼!」
「・・・何を言っている?金狼は私のケモノだぞ」
「なっ!?協力してくれるのではなかったのか!?」
かつてヤバスィゲは、兄のケモノである金狼も宿す事に成功していた。
だが目の前に居る兄の纏う金色の鎧は、一向に応える気配は無い。
「ケモノ頼みで考えているとは。やはり私の考えは間違っていなかったようだな」
「うるさい!この野郎!」
勢いよくブリッジをすると、トブユッキーの身体が宙に浮いた。
一気にトブユッキーの左腕を引き込むと、ヤバスィゲの身体とトブユッキーの身体が十字の形を描いた。
「この左腕、もらうぞ!」
「だから、無駄だと言っている!」
「なっ!?」
左腕の関節が逆になりながらも、トブユッキーはお構いなしに立ち上がった。
そして右腕でヤバスィゲの身体を支えると、自分の身体ごと地面に落下した。
「ぐはっ!」
トブユッキーの金の鎧と全体重を使ったボディプレスに、ヤバスィゲは吐血する。
「ど、どうして?」
「お前、私が何なのか忘れたのか?私はアンデッドだぞ。痛みも感じなければ、関節が逆に曲がろうが、靭帯が切れようが関係無い。まあ動かなくなる事もあるみたいだが」
「くっ!やはりもう、化け物という事かよ」
「・・・そうだな。そんな化け物に負けるお前は、どうなんだという話だけど」
「黙れ!」
カニバサミで両足を挟んだヤバスィゲは、トブユッキーを後頭部から叩き落とそうとした。
しかし痛みを感じない彼に、この攻撃は意味を為さない。
それを分かっていて仕掛けたのは、ヤバスィゲに狙いがあったからだ。
「だから痛みは無いと言っている!」
「分かってる。だが、痛みは無くてもダメージはある!」
トブユッキーは異変を感じた。
地面に叩き落とされていないのに、頭に何かが当たったのだ。
そして視界が大きく曲がり、首が折れたのを実感する。
「な、何だ?」
「次はこっちの番だ!」
首が曲がったトブユッキーに馬乗りになると、ヤバスィゲは拳を振り下ろした。
まぶたが腫れてきているのか、それとも眼窩骨折でもしたのか。
視界が悪くなったと同時に、トブユッキーの首が横に弾け飛んだ。
その瞬間、自分がどうしてこうなったのか、ようやく理解する。
「なるほど。さっきの岩を使ったのか」
「その通り。兄上は自分の身体を過信している間に、拙者は近くに何があるのかを逐一確認していた。以前なら兄上も、周囲にある物を使えと言っていたと思うのだが。アンデッドになって驕ったな、兄上。」




