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嫉妬する側される側

 耳の痛い話だったかもしれない。


 シッチはトキドに対して、思っていた不満をぶち撒けた。

 僕も言われてみて気付いたけど、トキドってウケフジかタツザマくらいしか話す相手が居ない気がする。

 オケツの周りには、他にも騎士が居たにも関わらずだ。

 仮にシッチの言う通り、自分より下に見ていたから交流を持たなかったと考えると、それは印象としてもよろしくない。

 でも僕が思うに、トキドが他の騎士と関わりを持たないのって、親父さんの影響も大きい気がするんだよね。


 シッチも言っていたけど、トキドとウケフジの父親というのは、騎士王国の中でもかなり有力な騎士だったらしい。

 それこそこの二人が存命時は、ボブハガーでさえも騎士王になれなかったというのが事実にある。

 それくらい凄い騎士だったみたいなのだが、そんな凄い親と比べられるのだ。

 しかもトキドもウケフジも、実力をつけるのに時間が掛かったみたいだし。

 そんな二人を、息子達はそこまでじゃないなんて陰口を叩いていたんだろう。

 それが突然、大化けして実力が伴う活躍を見せるようになった。

 それこそハッシマーが目をつけるくらいだ。

 今まで陰口を叩いていた連中は、ご機嫌取りに手のひら返しでゴマをすっただろうね。

 だけどそういうのは、本人の耳に入るというもの。

 ウケフジなら顔に出さずに、表面だけの関係を続けられただろうけど、トキドにそれは無理だったんじゃないかな。

 だから口や手を出す前に、トキドは自ら他の騎士との接触を控えた。

 そう考えると、納得が出来るんだよね。


 まあ今まで悪口言ってた連中と仲良くなれって言われても、難しいものがある。

 同じ境遇のウケフジと仲良くなるのは、むしろ当然だと言える。

 シッチはシッチの言い分があるだろうけど、エリートにはエリートの悩みがあったんだろう。

 僕もトキド達に近い立場にある。

 シッチみたいに思われないように、僕も気をつけようと思うのだった。









 嫉妬。

 自分より優れた人を妬む事。

 シッチはトキドに嫉妬していると言うが、トキドはそれに異を唱えた。



「敢えて言わせてもらうが、蘭丸よ。そりゃあちょっと違うぜ」


「え?俺、何か間違ってました?」


「そもそもシッチが俺に嫉妬の対象とするのが、おかしな話なんだ」


「何だと?」


 トキドの言葉に、シッチ自身も驚いている。

 何故ならシッチは、自分でトキドに嫉妬しているというのが分かっているからだ。

 だから何がおかしいのか、本人も分かっていないのである。



「まず最初に言えるのは、俺が嫉妬をするなら分かるが、コイツが俺に嫉妬するというのは、お門違いだという事だ」


「何故だ?」


「そもそもお前は、アドという強大な男の家臣だった。騎士王の直参だぞ。俺とオケツ殿の関係よりも密接であり、とても重要な役職だって与えられていたはずなのだ。だからキョートに近い領地も持っていたし、俺よりも待遇が良かった」


「そ、そうなの?」


 蘭丸は騎士王国の内情など知らない。

 その為シッチの言葉を鵜呑みにしていた。


 だがトキドは違う。

 だからこそ、シッチの言葉に違和感があった。



「ハッキリ言えばコイツの今の現状は、コイツの身から出た錆だと俺は思っている。アドを殺されたのだって、ハッシマーの異変に気付かなかったからだし、そのハッシマーに跪いたのも自分で選んだわけだ」


「なるほど。ちゃんと仕事をしていれば、アドは生きていたと言いたいわけですね」


「その通り!そうすれば、俺とウケフジはただの一介の騎士にしかならなかったと思う」


「騎士王になろうという野望は、持たなかったんですか?」


「ウケフジは知らんが、あの頃の俺は思わなかったと思う。アドという男が大きかったのもあるが、外の世界を知らなかったのも大きいな」


 当時の騎士王国は、鎖国全盛である。

 ボブハガー以外の人間で外の世界と関わりを持っていたのは、ヌオチョモだけだった。



「言ってしまえば、この男は自分の努力を怠った事を、他人になすりつけて文句を言っているだけだ。何故俺が嫉妬の対象になるのか、サッパリ分からんな」


「なるほど。厳しい意見ですけど、そう言われると理解出来ますね」


「うるさいわ!」


 シッチは言われて初めて気付いた。

 そしてそれが間違っていないと分かり、顔を赤らめた。

 恥ずかしさのあまり、怒りに任せてトキドと蘭丸に炎を放った。

 しかしフライトライクを巧みに操る蘭丸は、それをいとも簡単に避けてみせる。



「チィ!流石は本家本元のフライトライク。操縦者の腕が全く違う」


 蘭丸はシッチに言われ、視線をシッチのフライトライク隊へと移す。

 確かにライダーの技術という点で言えば、自分の方があると思った。

 ただし個人の技術ではなくチームとしての技術になると、イッシー隊には劣るとしても、又左や太田、ゴリアテの部隊よりは連携は取れているという印象だ。


 蘭丸はトキド隊が、イッシー隊に負けずとも劣らないと聞いていた。

 だからこそどうして勝てないのか、それを見てようやく理解した。



「トキド殿、まずはワイバーン隊を助けましょう」


「どうやって?」


「簡単ですよ!」


 蘭丸はアクセルを回すと、ウィリーしたような態勢でシッチの部隊へ突撃していく。

 横から急に現れたフライトライクに、シッチ隊は怯んだ。



「トキド殿、攻撃を!」


「オウ!」


 トキドが炎を放つと、シッチ隊はそれを避ける為にフォーメーションを崩した。

 するとその穴を見つけたワイバーン隊は、ようやく包囲網から脱出する。



「馬鹿な!こんな簡単に!?」


 驚くトキドだったが、蘭丸は何故そうなるのか理解していた。



「あの包囲網は、内側からどれだけ力を掛けても、抜けるのは難しかった。しかし外からは違う」


「なるほど。外からイレギュラーな攻撃を食らうと、呆気無く崩壊するという事だったのか」


「ふざけるなよ。言うほど簡単ではないわ!」


 シッチは激怒した。

 種族もバラバラな寄せ集めの秀吉の配下に、唯一やらせたのがこのワイバーン隊包囲網だった。

 連携が取れていると言っても、ハッキリ言ってしまうとコレ以外は出来ないのである。



「シッチ様、もう一度やりましょう!」


 シッチのトキドへの攻勢を見たフライトライク隊は、トキド隊を再び押さえると言った。

 しかも優勢だったのを見て、いきなり様付けで呼んでくるという手のひら返しである。

 だが当のシッチは、もっと冷静だった。



「一旦退くぞ」


「何故ですか!?」


「我々が押しているんですよ!?」


「あの男の存在がイレギュラーだ。トキドだけなら勝てたかもしれないが、あの男が居るとそれも分からない」


 ワイバーン隊包囲網を破られた彼等は、身をもってそれを知っている。

 その為シッチの意見に賛同する連中も、多かった。



「待て!逃すか!おい、蘭丸!」


 フライトライクのアクセルを回さない蘭丸。

 トキドは後部座席から文句を言ったが、蘭丸もシッチ同様に冷静だった。



「周りを見て下さい。ワイバーン隊は傷だらけです」


「俺一人でも!って言いたいところだが、それで痛い目に遭ったんだったな・・・」


 熊本城攻略の際、単騎で突っ込んだ挙句に、加藤清正に手痛い敗北を喫したトキド。

 あの時も太田と蘭丸に助けられたと思い出した。



「あの男、誘いにも乗ってこないか」


 トキドの実力なら、後退する敵を見れば追ってくると予想していたシッチ。

 上手くいけば彼を包囲出来ると考えていたが、やはり蘭丸の存在は大きかった。



「森蘭丸と言ったな。覚えておくぞ」


 シッチ達は山を越えると、霧の奥へと消えていった。









「マジで助かった。本当に感謝する」


「間に合って良かったですよ」


 蘭丸の率いる部隊は、地上へ落ちていったヤヤやトキド隊の回収をしていた。

 空から落ちた騎士は、そう簡単には助からない。

 だが地上に叩きつけられる前に助けられた騎士も、多く居た。



「痛手ですね」


「戦争だからな。仕方ないさ」


 助けられた人が居る反面、かなりのワイバーンも騎士も地上で息絶えていた。



 ワイバーン隊は、育てるのが大変な部隊である。

 トキド隊は特に練度が高い。

 特殊な育成プログラムをクリアしないと、トキド隊への入隊は認められないくらいだった。



「コレを見る限り、最早空は俺達だけのモノじゃない。もう少しプログラムを改編するとしよう」


「俺達はここに残りますから」


「何だって?」


「引き返したと見せかけて、再び襲ってくる可能性も否めません。俺達が空を守りますから、トキド殿は一旦治療に下がって下さい」


 ワイバーン隊の傷も、軽くはない。

 自身も足を負傷している。

 ここは蘭丸の言葉に甘える事にした。



「本当に感謝する。ちなみに太田殿達以外の魔族も来ているのか?」


「来てますよ。太田殿とゴリアテ殿は見たんですね?他はお市様率いる妖怪達と、慶次様が居ます。それと、魔族ではないですが、もう一人とんでもない助っ人も来てますね」


「とんでもない助っ人?・・・タケシか!」


「そうです。慶次殿と行動しているはずですが。そういえば、全然働いている様子が・・・ありましたね」


 何処に居るのか分からないと言おうとした瞬間だった。

 一番手薄であるはずの右軍の方角から、何やらおかしな爆発音が聞こえたのだ。









「へいへいへーい!」


 タケシは手を叩いて挑発していた。

 が、効果は全く無い。



「慶次さんよぉ、なんか戦ってるという感覚が無いんだけど」


「それは拙者も同じ意見でござるよ」


 アンデッドの大軍が押し寄せてくるものの、数が多いだけの烏合の衆としか言えなかった。



「これに苦戦するの?」


「数の差が大きかったでござるよ。しかもどれだけ攻撃しても、立ち上がってくる不気味さもある」


「それは確かになぁ・・・」


 タケシは到着当初、素手で攻撃をしていた。

 腹への正拳突きを決めたところ、アンデッドの脆い腹を軽々と突き破った。

 しかし、それでもなお噛みつこうとしてきたアンデッドを間近で見たタケシは、トラウマになるくらいの恐怖体験だった。



「いや〜、武器を持つなんて思わなかった」


「タケシ殿でも、苦手な事はあるのでござるな」


「苦手というわけじゃないけど、あの腹を突き破る感覚とか、気持ち悪いんだよ」


「それはなんとなく分かるでござる」


 慶次も槍を伸ばして突き刺した感覚が、いつもと違っていた。

 更に伸ばした槍に突き刺さったまま動くアンデッドを見て、慶次はタケシと同じ感想を持ったのだった。



「タケシ殿、後ろに来てるでござる」


「俺の棍棒が唸るぜ。ほあたぁ!・・・え?」


 タケシが棍棒で殴ったアンデッドが、爆発した。

 タケシは爆発の直撃を食らった。








「じ、自爆!?タケシ殿!無事でござるか!?タケシ殿、タケシ殿!?」

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