トキドの弱点
太田とゴリアテの共闘か。
あんまり考えた事無かったな。
タツザマのピンチを間一髪で救ったゴリアテだったが、やはり向こうも歴戦の戦士。
土方は二人が現れた事で、すぐに撤退を選択した。
しかし意外な組み合わせな気がする。
太田もゴリアテも越前国に居たから、こういう事になるのもあり得たとは思うんだけど。
でも僕は、意図して二人を一緒に戦わせなかった。
こう言ったら二人に怒られるかもしれないけど、二人はキャラが被ってるんだよね。
キャラと言うより、特徴かな。
タフで守備が得意な巨体。
強いて言えば性格だけは違うけど、それでも二人とも真面目という点は同じである。
そんな二人を同時に起用するのは、あまり意味が無い気がしたんだよね。
例えば数値で表すなら、相手の攻撃力が8だとする。
でも太田とゴリアテは二人とも10なのだ。
10でも防げる場所に、敢えてもう一つの10を配置するのはどうかと思う。
確かに二人が揃えば、足して20ではなく、相乗効果で30や40。
もっと凄くて、50や100になる可能性もある。
もう一度話を戻すと、攻撃力が8の相手に対して、50や100が必要なのか?
僕はそれが、勿体無い気がするのだ。
もし相手がムッちゃんだったら、僕も二人で行け!って強く言えたと思う。
トランプで言えば太田もゴリアテもキングだけど、ムッちゃんはエースだと言える。
そしてもっと言えば、未だにどんな魔法か解明されていない秀吉は、ジョーカーだと言えるだろう。
エースもジョーカーもキングの上だと思うけど、ポーカーで言えばどちらも一枚しかなければ、キングのワンペアには勝てない。
もしキングのワンペアに勝つとするなら、エースとジョーカーのワンペアを用意するしかないだろう。
流石にジョーカー二枚とエースの二枚なんてのは、秀吉だって用意出来ないだろうしね。
何にせよ二人は、守備においてとっておきの手札だと言える。
今の騎士王国からすれば、この二人は最強のコンビかもしれない。
シッチの言葉が炎を巻き上げる。
トキドが放った炎の主導権を、全てシッチに奪われてしまった。
まさかの出来事に唖然とするトキド。
「それだよ」
「え?」
言葉を失ったトキドに対し、シッチが声を掛けた。
予想してなかったトキドは、ちょっと間の抜けた返事をしてしまう。
「どうせお前は、シッチ如きに苦戦はしないと高を括っていたんだろう?」
「そ、そんな事は!」
図星を突かれてしどろもどろすると、シッチは自分を卑下し始める。
「分かってる。お館様を殺されたにも関わらず、俺はそのハッシマーに泣きついたんだからな。そんな軟弱な騎士には負けないと、誰だって思っただろうよ」
「ケモノを宿せる騎士を、軟弱などとは思わないぞ」
「だが、私には余裕で勝てると思っていた」
「いや・・・」
「それがお前の返答だよ」
シッチはトキドに言い切ると、両手を広げた。
そして勢いよく手を叩くと、背中の翼から激しい炎が巻き起こった。
「見たかお前達!私はアド・ボブハガー様が家臣、シッチ・ヌリメソ。トキドが何だ!ワイバーン隊にも負けていないじゃないか!」
「う、うおぉぉ!!」
トライクに乗る連中が、ヒト族魔族関係無く、シッチの声に反応した。
興奮冷めやらぬ勢いを利用して、シッチは太刀を掲げる。
「やれ!同志達よ!私達がトキド隊を打ち破るのだ!」
フライトライクはワイバーンの隙間を縫って、飛び始める。
広く展開したいワイバーンを囲み、窮屈な形で押しやった。
「こ、この!」
「ヘイヘイ!効かねえなぁ!」
フライトライクに乗る召喚者の一人が、暴走族さながらの言い方でトキド隊へ攻撃した。
「そうだ。トキド隊を自分達の中で、大きくし過ぎるな。私達だって出来るのだ」
淡々と言うシッチだが、優勢になっても油断も隙も見せない。
今もトキドとヤヤから、目を離さなかった。
「ヤヤ!」
「この状況はかなりマズイですな」
「何とかならんのか!?」
「方法はありますが、下手な騎士は自爆します」
「ウチに下手は居らん!」
ヤヤの弱気に対して、即否定するトキド。
それを聞いたシッチが、嫌そうな顔をする。
「エリートはこうだから困る」
「あ?」
「出来ない者の気持ちが、分からないんだよなぁ」
「何の話をしている?」
卑屈そうに言ってくるシッチに、苛立ちを隠せないトキド。
するとシッチが、トキドに爆弾発言を落とした。
「お前の弱点、教えてやろうか?」
トキドは自分を振り返った。
弱点などアリはしない。
だが敗北もある。
では何が弱点なのか?
「ヤヤ、俺に弱点があると思うか?」
「えっ!?」
まさか聞かれると思わなかったヤヤ。
どうにか誤魔化す方法はないかと模索すると、その態度からトキドはあるのだと察した。
「あるのか、俺に」
「だから、そういう態度だよ!」
「は?」
シッチは怒りを込めながら、トキドに文句を言う。
「お前の弱点は、その傲慢な態度だ。自分は騎士王国最強だと自負しているんだろう?別にそれは構わないと思う。それだけの実力もあるし、それだけの努力もしてきたんだろう」
「当たり前だ!俺もウケフジも、父を超える為にどれだけ頑張ったか!」
「そうだな。お前達の父は偉大だった」
シッチも先代のトキドとウケフジが、とても強い騎士というのは知っていた。
というよりも、かなり悔しい記憶が多かったようだ。
「だがお前は、強くなってから変わったんじゃないか?」
「変わってなどいない。今でも努力は続けているつもりだ」
「違うそういう意味ではない。さっきも言ったが、お前は傲慢になった」
「はぁ!?」
思わぬ指摘に、怒りが込み上げてくるトキド。
しかしシッチは、そんなトキドをものともせず、自分の言葉を続ける。
「オケツに気に入られ、それなりの地位に就いたお前は、他の騎士と関わる事が減ったんじゃないか?」
「そんな事は・・・」
考えてみると、ウケフジやタツザマといった騎士以外、あまり話さなくなった気がする。
言葉尻が弱くなったトキドに対し、シッチは言った。
「お前はな、特定の騎士以外、下に見るようになったんだよ。だから私やタコガマのような騎士に見向きもせず、何をしていたかなんて知りもしなかった」
「知る必要があったのか?」
「それが傲慢だと言っているんだ。オケツは騎士王として相応しくない。そう思ってる奴が何人も居た。そんな不満を持つ連中が何を考えていたのか。何をしようとしていたのか、自分の目と耳で調べたのか?」
「どうしてそんな事をする必要がある?オケツ殿は騎士王。帝にそう任命されている」
「そうやって蔑ろにするから、私達アド家の家臣以外にもお館様の味方に回るのだ。それにお前は、私を下に見ている。どうせ負け犬だと蔑んでいる」
図星だった。
シッチ程度と言っていたちょっと前の自分だが、今はワイバーン隊が劣勢にある。
とてもじゃないが、言い返せなかった。
「沈黙は認めた事と同じだがな。だからお前は、私が新たな力を手に入れても、まだ下だと甘く考えているんだよ!」
シッチの太刀が赤く光ると、トキドと同じように炎を吹き出した。
それをトキドに向かって放つと、ワイバーンの翼に燃え移った。
「国江!」
「それ、落ちろ!」
シッチが一気に距離を詰めると、トキドの前にヤヤが立ち塞がった。
しかしシッチの炎はヤヤの炎よりも強く、ヤヤはシッチの炎に飲み込まれて落ちていく。
「ヤヤまで!貴様ぁ!」
「怒鳴りたいのは私の方だ!お前達は、お館様の覇道の邪魔だ!」
トキドは国江の背中を蹴ると、空中へと飛んだ。
国江はトキドが降りたのを知ると、自ら地上へ降りていく。
「傲慢だとかどうでもいい。お前は敵だ!風林火山!」
「人を小馬鹿にする奴が、上に立とうとするんじゃねぇ!翔け朱雀!」
トキドは自らが発する炎で空を飛ぶと、シッチと空中で剣を斬り結んだ。
上段中段と剣を交えると、トキドはシッチの思わぬ剣の腕に驚く。
「それだよ。私だって騎士王アド・ボブハガーの家臣だ。弱いわけがないのに、お前はそれすら知ろうとしなかった!」
「くっ!」
剣の腕では分が悪いと感じたトキドは、シッチの太刀を弾いて距離を取る。
「うぉら!」
気合を込めた声で太刀から極大の炎を出すと、それをシッチに向かって放った。
「だから炎は効かないと言っている!啼け朱雀!」
トキドの炎が、シッチの身体を飲み込んだ。
しかしシッチの太刀から甲高い音が聞こえると、炎は太刀に集まっていき、気付けばトキドの炎からシッチの炎へと変わっていた。
「ば、馬鹿な!」
「自分の努力は信じられても、私が努力したと言っても信じられないか。それもまた、傲慢よな」
「ぐはっ!」
驚きのあまり動きが止まったトキドに、シッチの太刀が初めてトキドの身体を捉えた。
右の太ももを深く斬られたトキドは、出血を炎で焼いて止める。
「ぐうぅぅ!」
「戦いにおける炎の扱いに関しては、やはり私よりも詳しいな。だが、扱いにおける精密さは私の方が上だ」
「だが、勢いは俺の方がある!」
「無駄だ」
大きな炎で倒せないなら、小さな炎を速射して放つ。
トキドは何発もシッチに向かって放ったが、全てがシッチの身体が纏う炎と同化した。
「クソッタレ!」
「喚いて敵が倒せるなら、オケツに対して耳元で叫んでるよ」
「くっ!そっ!たっ!れぃ!」
「むう!」
シッチが猛攻を繰り出すものの、間一髪のところで全て防ぐトキド。
しかしかすり傷は徐々に増えていき、とうとうトキドはシッチによって肩から袈裟斬りされてしまう。
「ぐおっ!」
「やはり紅虎の強さは段違いか。しかし今なら!」
炎の勢いが弱まったトキドは、徐々に高度が下がっていく。
シッチの真横に斬り裂いた太刀は、高度の下がったトキドの首に刃が届く。
「何っ!?」
すると真下から吹き荒れた暴風が巻き起こり、バランスを崩した二人は、クルクルと回りながら下に落ちていく。
「ぬあぁぁぁ!!あ?」
「間に合った。危ないところでしたね」
フライトライクの運転手が、錐揉みで回りながら落ちるトキドをキャッチした。
シッチも自力で体勢を立て直すと、トライクの運転手に対して怒声を浴びせる。
「誰だ!邪魔をしたのは!ネズミの配下は、魔法もロクに使えないのか!?」
「誰が秀吉の配下だ!」
「む?貴様、何者だ?」
この付近でフライトライクに乗っている者は、自分が率いてきた連中。
そう思い込んでいたシッチは、改めて乗っている人物を見た。
「俺の名は蘭丸。魔王の配下でもあり、友人でもある。言ってしまえば、オケツ殿とトキド殿の関係みたいなものだ。アンタの話少し聞いたけど、僻みとか妬みにしか聞こえなかったぞ」