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強い意志

 生きてる奴が一番強い。

 帝の奴、なかなか良い事を言う。


 帝はオケツに連れられて、タツザマとボブハガーが戦う地へと出てきた。

 地底を使って現れた事から、御所も安全とは言えなくなったからだ。

 しかし後から聞いても笑えるね。

 帝は自分の気持ちをぶち撒けた内容が、本当に面白い。

 確かに彼の言う通り、帝が騎士王を任命する必要なんか、大して無い気がするんだよね。

 そもそも一番強い奴が、ほとんど選ばれるわけだから。

 唯一例外なのは、とにかく卑怯な奴だろう。

 その最たる例が、ハッシマーになるんだと思う。

 彼を帝が騎士王に任命しなかった理由は、なんとなく分かる。

 単純に任命した直後、命の危険が伴っていたからだろう。

 ハッシマーはボブハガーの不意を突いて、自らがその地位を奪った男である。

 そんな男を騎士王にすれば、任命した瞬間に剥奪されないよう、帝を斬り伏せる可能性があった。

 今の帝を殺してしまえば、後継者は居ない。

 結婚もせずに独り者だったからね。

 だから帝を殺してしまえば、ハッシマーは終生騎士王で居られるという事になる。

 だから帝は、ハッシマーと決して会おうとはしなかったらしい。

 先の事まで考えていたかは不明だけど、自分の命の為だったのは確実だと思う。


 話を戻すと、別に騎士王を強い奴がやるなら、帝が任命する必要は無い。

 ハッキリ言って建前だろう。

 ボブハガーに言われた事は図星だったと、帝を感じていた。

 だけど帝の心の中までは、ボブハガーでも分からなかったらしい。

 お前等が騎士王だよという建前の為に、自分達は働いているんだ。

 それなのに、見下すような態度を取ったボブハガー。

 そんなボブハガーに対して言った言葉は、かなり痛烈だったと思う。

 騎士王国内では、最強と言われる騎士王。

 でも鎖国をしていて、先代の魔王であるロベルトさんにも挑んだ事が無かったみたいだね。


 俺つえーって言いたいだけ。

 帝の言葉は今思い出しても笑える。

 だってオケツなんかを見ると、外ではそこそこ活躍するけど、騎士王国内では本当に評価が低いからね。

 今までの騎士王が内弁慶な人だとしたら、オケツはその逆になりそうな気がする。

 ボブハガーもその点では、オケツには勝てないかなぁ。









 タツザマはマルエスタに言われて、気が付いた。

 地底でも争っている音が聞こえるのだ。



「まさか、モールマンとも共闘している?」


「ですね。ジャイアントの大半は、カレリンやビカナースといった連中のように、自らモールマンと接触をしようという考えは持ちません。だからボクは、異端だとは思います。まあ異端だからこそ、王国の連中とは違い、来られたんですけどね」



 ジャイアントやモールマンは、大半がキルシェの世話になっている。

 豊かな土地が多く、野菜や果物に加えて穀物も採れる王国は、彼等を養うだけの余裕があった。

 更に彼女達は、漁船まで所有している。

 かつては少ない数しか持っていなかった漁船も、今では二桁の船があった。

 そのおかげで、海鮮類も一般市民に出回るようになっていた。

 そしてそれは、ジャイアントやモールマンも恩恵を受けている事だった。



「す、すまん。そしてありがとう!地底は任せた!」


 タツザマは礼を言うと、ボブハガーへと迫った。

 まずは乗っている騎獣から。

 メメゾに狙いを定めたタツザマだったが、メメゾマスターもやらせはしないと動く。

 命令されたメメゾは活発的に動き始めたが、ボブハガーがその背から落ちる気配は無い。



「アド殿、貴方を倒せば拙者達の勝ちだ!」


「ワシを倒しても、勝ちではないぞ。まだ羽柴秀長が後方に備えているからな」


「まさか、また生き返らせられるというのか!?」


「さあな。知っていても教える気は無いが、教えてやらん。どうせワシは内弁慶。だったら騎士には強気に行くわ」


 帝の言葉をダシにして、答えようとはしないボブハガー。

 タツザマはだったらと、メメゾはと攻撃を開始する。



「やはりな。メメゾも生きているモノより動きが鈍い。これなら!」


 メメゾの長い身体を真一文字に傷を負わせると、メメゾは動きが鈍くなった。



「今だ!」


「チィ!」


 タツザマがジャンプすると、ボブハガーへ素早い剣を繰り出す。

 それを受けたボブハガーだったが、問題が発生した。

 小さな身体で作られたメメゾマスターが、タツザマの剣にやられてしまったのだ。

 命令をする者が消えた事で、アンデッドだったメメゾはそのまま動かなくなってしまう。



「食らえ!」


「貴様、誰に言っている!」


 ボブハガーに一撃を入れようと、タツザマが振り下ろした。

 しかしボブハガーは怒りを発すると、タツザマはその圧に後ろへ吹き飛ばされた。



「くっ!」


「少々出過ぎたか。楽しみは後に残しておくとしよう」


「逃げるか!」


「貴様如きに逃げるワシではない!」


「ガハッ!」


 ボブハガーが剣を振り下ろすと、衝撃波が発生した。

 衝撃波の直撃を受けたタツザマは、腹を押さえて吐血する。



「貴様は速いが、それだけだ。ワシの敵ではない」


「ま、待て!」


「貴様にワシは不似合いだ。もっと相応しい相手を置いていってやろう」


「ふ、相応しい相手?」


 タツザマは膝に手を置いて立ち上がると、地底から一人の人物が飛び出してきた。



「だ、誰だ!?」


「フッ!そいつは爬虫類と違って、そこそこ手強いぞ」


 ボブハガーは手を軽く振りながら、地底と飛び込んだ。

 すると激しい轟音がした後、地底が急に静かになる。



「マルエスタ!無事か!?」


「な、何ですか、今のは!」


 マルエスタの驚いたような声が聞こえる。

 怪我はしているかもしれないが、そこまで気にするほどではない。

 タツザマは意識を地上に戻した。



「今度は獣人か。その姿、前田殿と同種族か?」


 すると男の耳が、ピクリと動く。



「おい貴様、それは犬の獣人じゃあないだろうな?」


「喋った!」


「俺の質問に答えろ!」


 男が猛烈な勢いでタツザマに迫る。

 右手の剣を振り下ろしてくると、タツザマはそれを受け止めた。

 しかしその軽い剣に違和感を感じると、すぐに腹が熱い事に気が付いた。



「つ、爪で攻撃だと・・・」


「実践的だろ?おっと!まだ動けるのかい。騎士王国だったか?確か、高杉達が行った国だな」


「た、高杉?」


「違ったか?あぁ、岡田と中村が行ったんだったな」


 二人の名前を聞いたタツザマは、目を見開いた。



「貴様!岡田以蔵を知っているのか!?」


「知ってるも何も、元々はライバルだ。まあ帝国に連れて行かれた時には、無理矢理仲間にさせられたがな」


 タツザマは理解した。

 顔も見知らぬ人物だが、目の前の男はかつて襲ってきた岡田以蔵達の仲間だと。



「くっ!お前、名前を何と言う!?」


「腹の傷の出血量が、厳しそうだな。名前?元々はあまり興味は無いが、今は気に入っている。俺の名は土方。新撰組副長、土方歳三だ」









 タツザマは少し顔を顰めた。

 土方の剣を受け止めた直後、奴は右手を既に手放していた。

 そして右手を腹へ向けると、爪を伸ばしてタツザマの脇を切り裂いたのだ。

 致命傷はギリギリで避けたが、血が止まらない。

 痛みも酷く、マトモに動ける気がしない。

 もしこの男が生前の以蔵と同クラスの強さだとすると、厳しい戦いになり、最悪の場合を覚悟した。



「土方歳三・・・」


「アンタには恨みは無い。だが、俺達を無碍に扱った帝国は潰す。その為にはまず、アドの旦那の話に乗る事にした」


「だ、旦那ぁ!?」


 タツザマは声が裏返った。


 かつての騎士王に対して、旦那と呼ぶ男。

 伝え聞いたボブハガーは、厳しい人だった。

 たとえ味方であろうと、狼藉を働けば斬る人物。

 噂半分にしても、かつての自分の上司であるヌオチョモよりは、はるかに厳しいと思っていた。

 そんな人物が、旦那と呼ばれるのを許すとは。



「まさか、アドに認められたのか?」


「認められたかどうかは知らん。だが、俺達はあの人に乗る事にした」


「乗る?」


「時間を稼ぎたいのか?その出血では、無駄だと思うが」


 タツザマは最早、今までと同じスピードで動く事は出来ない。

 だからカウンターで攻撃を返そうと考えていた。

 それに、ただでさえ人数で負けているのだ。

 味方が助けに来るとは思っていなかった。



「まあ良い。あの人は俺達が思うよりも、もっと大きな事を考えているみたいだ」


「アドが大きな事なんか、考えてるわけない。どうせ騎士王国を制圧するとか、その程度だろう?」


「お前、あの人を低く見ているな。そんな小さな事じゃない。どうせ死ぬ身だ。特別に教えてやろう」


 タツザマの足下は、血の海が出来ていた。

 何人かの騎士がタツザマの異変に気付いたが、地上のアンデッドも山を抜けてきた為、手が足りなかった。



「聞いてやるから言ってみろ」


「冥土の土産だ。旦那の目的はな、王国を乗っ取る事だ」


「お、王国!?何故隣国が関係してくる!ぐっ!」


「あまり大きな声出して、興奮するなよ。出血量が増えるぞ」


 タツザマの腹から血が垂れると、土方は話聞いて欲しさに心配をした。



「話が終わるまで、死ぬなよ。旦那がこの国のトップだったのは知っている。だがあの人の目的は、今はこんな国には無い」


「何?では何故、騎士王に戻せと言ってきた?」


「それは知らんが、多分王国を奪いやすくする為じゃないか?」


「なっ!?そんな理由で!」


 再び興奮するタツザマ。

 王国を奪う為に、騎士王国を利用しようとしている。

 どんな裏があるのか知らないが、彼にはそれが許せなかった。



「お前はそんな理由と言うが、俺は言えない。何故なら旦那の目的は、海に出る事だからだ」


「海・・・。そうか。王国が所有する船なら、外海に出られるんだったな。しかし、何故海に興味なんか持ったんだ?」


「旦那の興味は海じゃない。俺達の住んでいた大陸だ」


「何?」


「あの人は俺達を乗せて、あの大陸に行こうとしている。それも希望者全員を乗せてだ」


 海ではなく、別大陸。

 タツザマはあまりに荒唐無稽な話に、血が足りないのもあって頭が回らない。

 少し意識がぼんやりしてきたが、土方は話をやめなかった。



「あの人はな、生前とほぼ変わらないくらい強くなっているぞ」


「つ、強くなっている?」


「そうだ。アンデッドは基本、生前より弱いらしい。だがそれは、意志の力で変わると言われている」


「意志の力・・・」








「意志の強さから、俺達のように意識があるアンデッドが生まれる。そしてその意志の強さ次第で、アンデッドは元の強さを取り戻せる。あの人は別大陸に行くという、新たな意志を持った。だから生前と変わらない、いや生前よりもっと強くなって戻ってきたんだ」

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