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ロック救出

 死刑と追放。

 普通に考えれば、追放の方が軽く見える。


 長秀は若狭国を取り戻すと、石田に協力をしていた連中への処罰を決めた。

 それは死罪ではなく、若狭国からの追放という事になった。

 どうしてそんな甘っちょろい刑なんだと思ったけど、よくよく考えてみるとかなり厳しい刑だと言える。

 普通であれば流罪という刑に当たり、それは主に政治家やお偉いさんに多かった刑だった。

 有名どころだと、源頼朝とかナポレオンがそれに当たる。

 そしてこの二人の凄いところは、追放されておきながら、そこから更に這い上がってきた事だろう。

 ちなみに海外だと、こういう名のある人以外は強制労働させる為の島流しという印象がある。

 死ぬまで働くのかなと思うと、死刑より相当厳しいよね。


 そして今回の妖精族の一件。

 仲間を喜んで売るという行為は、本当に最悪だと思う。

 ロックも似たような事をしていたわけだが、その点で言えば彼は嬉々として売っていたわけじゃないというのが分かっている。

 自分の身を守る為、必要最低限だけの情報を秀吉に渡していた。

 だから僕は彼を許した。

 それに対して彼等は、仲間を実験台にして殺すという、鬼畜な所業をしていたわけで。

 まあ僕でも許さなかっただろう。

 ただし、そこで追放刑という選択肢は僕には無かった。

 しかも若狭国を出るには、右顧左眄の森という妖精族なら誰もが知っている場所を通る。

 彼等は当初、追放刑でほくそ笑んだようだが、まさか右顧左眄の森の前で追放されるとは思わなかったのだろう。

 長秀がこんなやり方を選んだのは、それだけ彼等に対する怒りがあったのかもしれない。


 追放の方が辛い死に方をする。

 若狭国の領主しか考えつかない、最も重い刑罰だったと僕は思った。










「よ、よく分からないけど、マオっちが言うなら!あっ!」


「ロック。ロック!」


 返事が無くなった。

 電話を落としたのか?



「阿久野くん、本当に大丈夫?」


「別に戦うつもりは無いから。すぐに逃げるよ」


 それに考えられるのは、追っているのは猫田さんだろう。

 影から出てきたという言葉から、影魔法が使える人物はそれくらいしか思いつかないし。



「それじゃ、行ってくる」








 僕が空間移動を使用すると、長浜の街の中へ瞬時に移動した。

 しかし本当は問題もあった。

 それは長浜という貿易都市の入り口の真ん前に、突然姿を現さなければならないという点だ。

 そんな場所に突然魔王が現れたら、誰でもビックリするだろう。

 だから空間移動を終えたら、すぐに何処かに姿を隠すつもりだった。

 でも、それは杞憂だったらしい。



「人少ないな・・・」


 門の前には誰も居ない。

 多分外には誰か居るのだろう。

 でも何故か門は閉まっているし、内側も門付近の店や家の戸は、全て閉まっていた。

 もう少し街の中央に行くと人の通りも見られたけど、僕が突然現れた事に対して、驚いて騒ぎ立てる様子も見られない。

 何というか、街全体の覇気が無い感じだった。



【とりあえず、隠れた方が良くないか?】


 それもそうか。

 猫田さんに見つかるのも、ちょっと面倒だし。

 門から近い店の陰に隠れておこう。




 しばらくすると、女性の悲鳴が聞こえた。

 僕は悲鳴がした方を覗き込むと、どうやらロックと猫田さんの鬼ごっこを、大通りでやっているっぽい。

 助けに行くか迷ったが、人の往来がある場所で戦いたくないという気持ちもあるし、何より街の人が僕の味方であるとは限らない。

 もし背後から不意打ちされたら、そこで僕達の命運は尽きてしまう。

 厳しいけど、ロックには自力でここに来てもらいたい。



【ロックの奴、怪我してるぞ。腕から血を流してる】


 やっぱり猫田さんにやられたか。

 電話を持つのも辛いという事だろう。



【ちょっと待て。追っているのは猫田さんじゃないぞ!】


 え?



【猫田さんなら獣人族だし、頭の耳ですぐに分かる。だけど奴には頭に耳が無い】


 エルフ?

 妖精族?

 影魔法に適性がある人なんか、そんなに居ないと思うんだけど。



「ハァハァ。マジで痛い!」


「お前の役目は終わった。二重スパイをしている気配は感じていたが、用済みの男が余計な事をする必要は無いよ」


「あら〜。俺っち、信用されてなかったんだなぁ」


 軽口を叩くロックの声が、僕の耳にも聞こえてきた。

 顔を出して覗き込むと、言葉とは裏腹に顔には余裕が無い。



「うわっちゃあ!門閉まってるじゃないか!」


「当たり前でしょ。おじさんの逃亡を阻止する為に、門と付近の家や店は、全て閉めきらせてもらった」


「・・・じゃあ逃げ場無しじゃない」


「だから諦めて、実験台にならない?」


 実験台?

 まさかコイツ!


 僕は後ろから追ってくる男の顔を見ると、若狭国で見た顔と同じだった。

 逃亡したと思ったら、早速仕事してるのかよ。

 秀吉の為に働き過ぎなんじゃないの?



「くっ!」


 ロックは石田の足下から伸びる影の棘を、短剣を使って上手く捌いていた。

 素手でしか戦えない男だと思ってたけど、隠してたのか。



「どうするの?もう目の前は閉じた門だけど」


「俺っちは・・・信じて逃げるんだよぉ〜!」


「逃げる事をそんな偉そうに言う人、少ないと思うよ」


 確かに!

 でもロックが言うと、逃げ切りそうで馬鹿に出来ないんだけどね。



 ロックはもうすぐ門の前に到着する。

 右か左か迷っているっぽいな。



「ロック、右だ!」


「マオっち!」


 ロックは僕の方へ走ってくると、石田も同じくすぐにやって来た。



「た、助かったのかな?」


「!?魔王が何故ここに!」


「おはようさん。そんでもって、食らいなよ!」


 僕は光魔法で強い光を放つと、ロックも石田も動きが止まった。



「うぎょえぇぇ!目が!目があぁぁ!!」


 石田より前に居たロックは、かなり間近で見たらしい。

 でもうるさい。



「へぶっ!だ、誰かに殴られた!?」


 うん、僕ではない。

 兄さんだな。

 ついでに石田にも、一撃かましてから逃げない?



【それは良い考えだ。食らえ!俺の鉄球一号!】


 目が見えない石田には、兄さんの鉄球は反応出来まい。

 腹に命中させれば、重傷を負わせられるはずだ。



「クッ!分かってるんだよ!」


「何!?」


 まさか背後の濃くなった影が、鉄球を打ち返してきた。

 勢いは弱くなったけど、まさか返されるとは。



「あ・・・」


「え?あがっ!」


 打ち返された鉄球が、ショートフライになってロックの頭に落ちた。

 膝から崩れ落ちたロックは、完全に気を失っている。



【・・・俺のせいじゃないぞ】


 ・・・さて、逃げようかな。



「さらばだ、明智くん」


「逃げるのか!?」


 その通りです。

 ロックも静かになったし、このまま空間移動で若狭国へ戻ります。

 あわよくば石田を倒したかったけど、無理そうだしね。



 さらば長浜。

 秀吉を倒さない限り、もう来る事は無いだろう。










「ただいま」


「魔王様!」


「怪我も無く、ご無事のようで。流石ですな」


 長秀と一益は、一応僕の心配をしてくれていたようだ。

 単身で敵地のど真ん中に行ったんだから、分からなくもないけど。



「ロック!まさか死んじまったのか?」


 ロックは鉄球により負った傷で、頭から血を流して倒れている。

 だから佐藤さんは、僕が間に合わなかったと勘違いしているみたいだ。



「くうぅ!阿久野くん!誰が仇なんだ!?」


「え・・・」


「誰がロックをこんな目に遭わせたんだ!?」



 すいません。

 僕のせいです。

 正確には兄のせいです。


 なんて言えないよね。

 かなりお怒り気味の佐藤さん。

 ここで冗談を言えば、ふざけてる場合かと怒られるのは必至。

 しかし本当にやったのは兄だ。

 だけどそれを言ったら、佐藤さんの怒りの矛先がこっちに来る。

 仕方ない。

 最終手段だ。



「石田だよ」


「石田ですと!?」


「猫田さんじゃなかったのか!?」


 あ、それでも問題無かったな。

 でも半分は本当だから、問題無いよね。



「どういうわけか、石田は影魔法が使えた。それでロックを追い込んだんだ」


「あの男、若狭国を混乱させただけじゃなく、ロックにまで手に掛けたのか」


「そ、そうだよ。その通り」


「ん?」


 マズイ!

 僕が挙動不審だったのか、長秀がちょっと訝しんでいる気配がある。

 は、話を逸らさなくては!



「で、でも安心して。ロックは死んでないから。頭から血を流してるだけだから」


「そうなのか。なんだ、良かった。いや、頭割れてるんだから、良くはないか」


「頭部裂傷ですか。ならばこの薬を」


 長秀は用意していた薬を使って、治療を始めた。

 頭に液体を掛けてから、割れた箇所に薬を塗っている。



「う、うーん」


「ロック!」


 寝起きのような仕草をすると、ロックは普通に目を覚ました。

 佐藤さんが背中をバンバン叩くと、どうやら見えなかっただけで、背中にも怪我をしているようだった。



「イタタタ!ちょっと佐藤っち!」


「どれ?打撲痕が多数あるな」


 一益が服を捲ると、それこそ鉄球をぶつけられたような痕が数多くあった。



「鉄球でも食らった?」


「ちょいちょいちょーい!僕はやってないからね」


「いや、阿久野くんだとは言ってないけど。どうした?」


 いかん!

 墓穴を掘ったかもしれない!



「魔王様、まさか?」


「え?何もしてないよ?」


「阿久野くんが来た後、何があった?」


 佐藤さん、そういう尋問は駄目でしょうよ。

 最早犯人はコイツだろって、決めてるような聞き方でしょうよ。



「マオっちに会った後・・・光魔法で目を潰されたなぁ」


「そ、それは不可抗力ですから。後ろから迫ってきた石田にやる為に、ロックには伝えられなかっただけだから」


「まあ後ろの石田っちにも、効いてる感じはあったかな?」


 よしよし。

 ロック、良いぞ。



「その後は?」


「えーと、何かが真横を猛スピードで通り過ぎて、バキッって音が聞こえた」


「阿久野くん、何したの?」


「に、兄さんが鉄球を石田に投げたんだよ。でも当てたから!ちゃんと当てたから!」


 勿論何に当てたかは言わない。

 影には当たったから、間違いではない。



「その後、マオっちが何かに驚いて、ちょっとしてから・・・ん?どうなったっけ?」


 ロックが首を傾げる。

 三人は僕の方を見てきた。



「魔王様、もしかして?」


「阿久野くん、俺もなんとなく分かったよ」


 うん、詰みだな。

 仕方ない。



「フラアァァァッシュ!」


「クッ!魔王様!」


「阿久野くん!」








「見事だ明智くん。まさか私の犯行を言い当てるとは。夜にはご飯を食べる為に戻ります。やったのは兄さんです。僕は悪くない!というわけで、ごめんなさいぃぃぃ!!」

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