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二重スパイの行き先

 いかんな。

 自分でも分かってるけど、もしかしたら出来るんじゃないかと思ってしまった。


 長秀と僕は、石田によって右顧左眄の森の力を使った薬を投与された男と戦っていた。

 腕を斬ろうが足を斬ろうが、更には首まで斬っても死なない相手。

 兄が戦っているのを中から見ていたけど、かなり不気味だったね。

 でも戦っているところを見ていたからこそ、冷静かつ変な事を考えてしまった。

 コレ、豊胸に使えるんじゃないかって。


 分厚い胸と屈強な腕。

 兄は薬の影響で肥大化した腕にぶん殴られて、吹っ飛んだ。

 歪なムキムキマッチョになっていたのだが、これは使い方を変えれば、豊胸だけに使えるんじゃないのかな?

 男の場合は筋肉かもしれないけど、薬の配合なんかを変えれば脂肪に出来たりしない?

 それが腹や二の腕にくっ付いたら怒るかもしれないけど、胸なら女の人も喜びそうじゃない?

 石田はこれを、僕達との戦いに備えて作ったのは分かる。

 だけど戦いが終わった後の事を考えてほしい。

 上手くいけば豊胸で、ひと財産築けそうな気もする。

 あわよくば実験と称して、僕が使用者の間に挟まれても良いのよ?

 うーん、柔らかさが足りないね。

 もっと豊満に出来るんじゃないの?

 なんて事を言いながら、巨乳だの爆乳だのに挟まれる。

 控えめに言って、最高ですね!


 分かってる。

 こんな事を口にすれば、蔑みの目で見られるってね。

 いや、コイツ頭おかしいんじゃないかという、哀れみの目かもしれない。

 でもハッキリ言いたい。

 男は皆、柔らかおっぱいが好きなんですよ。

 それは魔王だって同じさ。

 だから僕は言いたい。

 この実験、違う方向に持っていけば、需要はありそうじゃない?









 死罪。

 長秀の言葉を聞いた者達は、怒ったり悲しんだりと顔色を赤青に変化させていた。



「あんまりだ!」


「私達はこれでも、若狭国の為に働いていたのに!」


「仲間を殺す事が、若狭国の為になったのか?丹羽殿、どう思う?」


「うっ!」


 一益に痛いところを突かれた男は、黙りこくってしまった。

 すると長秀は少し考えた後、言葉を訂正した。



「そうだな。その通りだ。死罪はやり過ぎかもしれない」


「領主様!」


「死罪は取りやめにして、若狭国からの追放にする」


 縛られた者達は、歓喜に沸いた。

 その様子を見ていた一益は、不満そうである。



「良いのか?」


「問題無いです。今夜が若狭国で過ごす最後の夜だ。牢で反省せよ」


 彼等は笑みを抑えながら立ち上がり、連行されていく。

 一益と二人きりになった長秀は、真相を語り始めた。



「滝川殿は甘い采配だと、不満に思ったと思います。だけどね、結局運命は変わりませんよ」


「どういう意味だ?」


「追放となるのだから、勿論何も持たせません。それこそ武器も何もね。そんな中、右顧左眄の森に放り出されて下さい。森には魔物だって居るし、飲み物も食べ物も無い状態ですよ」


「なるほど。彼等は森に呑み込まれるという事か。しかし、ここで首を刎ねた方が早かったのでは?」


「そうしたら、部屋が血塗れになるじゃないですか。訳の分からない空間だったらそうしたと思いますが、ここでは掃除が大変だ」


 理由を聞いた一益は、目をパチクリとさせた。

 長秀からそんな言葉が出てくるとは、思わなかったからだ。



「ワッハッハッハ!まさかオヌシの口から、そんな冗談みたいな事が聞けるなんてな」


「魔王様の影響ですよ」


「あの方なら言いかねないな」


 二人は笑っていると、そこに当の本人がやって来た。



「アレ?誰も居ないじゃないか。お粥は何処に持って行けば良いのかな?」









 翌朝、早く目が覚めたので外を見てみると、何やら揉めているのが分かった。

 どうやら彼等は、追放刑になったらしい。

 仲間を殺した連中だ。

 追放なんて甘っちょろい刑はどうかと思うが、ここは若狭国。

 僕が口出しするべきではない。

 それに追放で済んでいるはずなのに、何故か文句を言ってるし。

 なんて傲慢な連中なんだ。



「追放で済ませたんだ。でも、ある意味死刑より辛いかもなぁ」


「佐藤さん」


 どうやら外が騒がしかったからか、同じく目が覚めたらしい。

 それにしても、死刑より辛いってどういう意味だ?



「何で追放が死刑より辛いんですか?」


「考えてみなよ。あの連中、戦闘に特化した妖精族じゃない。それを何も持たずに森に放たれる。あんな迷いまくる森で魔物に遭遇したら、逃げられないでしょ」


 そう言われてみると、そんな気もする。



「もし仮に魔物に遭ったりしたら、多分誰かは囮にさせられて殺されるだろうね」


 おとなしく首を刎ねられるより、魔物に生きたまま食われる方が辛いか。

 確かにその通りだな。

 それに誰かを囮にした時点で、次は自分かもと誰もが思うだろうし。

 そうなると、お互いに疑心暗鬼になって、更に右顧左眄の森は深くなっていく。

 絶対に出られない森の中で、魔物の恐怖に怯えるのか。

 ・・・案外死刑よりも酷いかもしれない。



「全員、蹴り飛ばされて森の中に追い出されたね」


「森も閉じた。もう彼等と会う事は、二度と無いだろう」









 若狭国を再び掌握した長秀とは、ひとまずここで別れる事となった。



「魔王様、お世話になりました。私は滝川殿と、この地にドワーフ達を受け入れようと思います」


「上野国は無くなったんでね。申し訳ないが、居候させてもらう事にした」


 となると、一益ともお別れか。

 二人とも、上野国を取り戻す為に共闘した仲だ。

 そういう意味では、気心が知れているのかもしれない。



「じゃあ僕は、佐藤さんと砦に戻るよ」


「私も回復薬の増産の為に、施設の拡充を行います。次の決戦の為に!」


「よろしく頼むよ」


 話を終えた僕達は、佐藤さんと帰る準備に入った。

 すると一益の電話が、突然鳴り始める。



「・・・何でワシの電話に?」


「お市かヨアヒム辺りかな?」


 不審な電話にどうするか迷いつつ、一益はその着信に出た。



「もしもし」


「もしもし!俺だよ!俺!」


 オレオレ詐欺かな?

 もしくはそんな事言ってくる人は、ハンバーグな人しか頭に出てこない。



「誰だお前は?」


「アレ?誰だろう、このおっさんは」


「おっさん!?誰に言っておる!」


「あ〜、間違えたかもしれない。俺っちの知ってる電話と、使い方が少し違うんだもの」


 俺っち?

 声がデカイから僕も聞こえているけど、これは間違いなく、あのおっさんだろう。

 僕は一益と電話を変わった。



「おい、お前もおっさんだろうが」


「その声は、マオっち!」


「一益に電話して、何の用なのよ?」


「電話した相手は間違いなんだけども。用件は急を要するよ」


 どうやら本気なのか、今までのおちゃらけた声の雰囲気とは違う。

 僕もそれに釣られて、声のトーンが低くなった。



「秀吉達の件で、何か分かった?」


「まず、今まで姿を見せなかった石田って男が戻ってきた」


「・・・うん、知ってる」


「知ってるの!?これ、かなりの重大な情報だと思ったんだけど」


 普通に考えたらそうなんだろうけど。

 何というか、タイミングが悪い男だなぁ。



「もしかして、それだけ?」


「違うよ!それで石田って男が、変な薬を持って来たんだ。それがなんと、アンデッドをパワーアップさせるんだよ!」


「・・・腕が再生したりする感じ?」


「なっ!?何で知ってるの!?」


 このおっさん、あんまりスパイに向いてないんじゃないか?

 こんなに簡単に言葉で揺さぶられたら、僕達の情報も何処まで筒抜けか、分かったもんじゃないな。



「分かった。情報ありがとう。電話切るね」


「ちょいちょいちょいー!まだあるんだよ」


 もう、何なのよ。

 どうせまた、僕達が知ってる情報なんだろうし、もう良いじゃない。



「石田が持ってきた薬がアンデッドをパワーアップ出来たと分かって、秀吉も動く事を決めたんだよ」


「・・・え?」


「一週間後、秀吉は騎士王国を急襲するよ」


「・・・え!」







 まさかの情報に、僕達は思わず顔を見合わせた。

 誰もが予想だにしなかった急な情報。

 もし今聞いていなければ、オケツ達はパワーアップしたアンデッド軍団に敗北していた可能性もある。



「だからマオっちには、騎士王国の人にこれを伝えてほしいんだ」


「分かった!情報、本当にありがとう!」


「うん?さっきと声のテンションが違う気がするけど」


「き、気のせいだよ」


「そうかなぁ。まあ良いや。じゃあ俺っちはバレると怖いから、この辺で。って、うわっ!」


「ロック!ロック!?」


 電話を落としたのか、大きな雑音が入った。

 すぐに拾ったみたいだけど、ロックが走ってるのか、激しい息遣いが聞こえてくる。



「ろ、ロック!」


「ハァハァ!ゴメン、見つかった。俺っち、もうダメかもしれない」


「やられたのか!?」


「ま、まいったね。誰にも見つからないと思ったのに、まさか影の中から出てくるなんて」


 影の中から?

 影魔法が使えるなら、猫田さんか!



「ロック、今何処に居るんだ!?」


「そりゃあ勿論、長浜だよ。秀吉達の会話を聞いてたんだから」


 チッ!

 敵地のど真ん中じゃないか。

 もう二重スパイしてたのはバレちゃったんだから、ロックは捕まれば殺される。



「阿久野くん!助けに行こう!」


「佐藤殿、それは魔王様に敵のど真ん中に飛び込めと言うのか!?」


「ロックだって仲間だぞ!このまま見捨てろって言うのかよ!」


 一益に食ってかかる佐藤さん。

 どっちの言い分も間違ってない。

 だけど、どうすれば・・・。



「お、俺っちの事は良いよ。もう逃げられないと思う」


「ま、待て!今長浜の何処だ!?」


「行くアテも無く、街中を走って逃げてるよ。このまま外に逃げても、どうせ捕まるし。というか、門も閉じてるから、逃げられないんだけどね」


 街中から外へ。

 門が閉じてる。

 ・・・やりようはある!



「ロック!そのまま長浜の外に出る門の方へ迎え!」


「え?誰か潜入してるの?」


「してない。だけど今から潜入する」


「・・・ちょ、ちょっと何言ってるか分かりませんね」


 一晩寝てるし、魔力もバッチリ。

 行きは一人で帰りは二人。

 余裕だな。



「佐藤さん、帰る日を一日遅らせるけど、良いよね?」


「問題無い。おっさんを助けに行くんでしょ?頑張って!」


 佐藤さんは軽く僕の背中を押してくれた。

 長秀と一益も理解したようだ。



「万が一に備えて、回復薬も用意しておきます。ご武運を」


「え?何?何をやろうとしてるの?」








「ロック、僕が今から助けに行く。門の前で待ち合わせだ。門にたどり着く前に、絶対に死ぬなよ!」

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