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追い込む長秀

 森が勝手に動く。

 だったらさ、僕達も一緒に動かせるんじゃないの?


 右顧左眄の森はガイストとの約束により、僕達を佐和山城の裏へと案内してくれた。

 しかも気を遣ってくれたのか、わざわざ城から僕達が移動しているのを見えないように、遠回りまでしてくれるサービス付きである。

 もう右顧左眄の森は、ケモノというより気の利く良い人ってイメージだよ。

 ただそこまでサービスしてくれるなら、どうせなら僕達をそのまま裏まで連れて行ってくれてもよかったと思う。

 森が動くなら、太い枝などを使えば僕達を運ぶくらい、容易に出来たんじゃないだろうか?

 何なら枝に座っていたら、そのまま佐和山城までご案内的な事だって、可能じゃない?

 出来る事なら、空港とかにある動く歩道のようなものが便利だけど、流石に右顧左眄の森でも土は動いていない。

 ・・・動いていないよな?

 僕達が知ってるのは木々や枝だけなのだが、それでも運べたと思うんだよね。

 そしたらトライクで、あんな無茶をする事も無かったのに。

 なんて言っても、そこは僕達の都合である。

 むしろガイストとの約束が無ければ、僕達は真正面に案内されていた。

 そう考えると、右顧左眄の森はかなりサービスしてくれているんだろう。


 しかし気になるのは、右顧左眄の森の性格だ。

 ガイストとは不仲だというのは分かったが、彼?彼女?はどういう性格なのだろうか。

 そもそも右顧左眄というのは、右を見たり左を見たりして迷う。

 もしくは周りの意見などを気にして、決断出来ない人の事を言う。

 一言で言えば、優柔不断というヤツだ。

 そんな人物を迷わせる森が、右顧左眄の森である。

 それを考えると彼は、真面目で優柔不断な人が嫌いなのかなと思った。

 それって、長秀に似てない?

 優柔不断な人が嫌いというのは別としても、領主の中でも明らかに真面目なタイプである。


 先代の丹羽長秀がどんな人物だったのかは、僕も知らない。

 だけど右顧左眄の森を抜けられるようにと考えると、歴代丹羽長秀って、全員真面目だったんじゃないかなぁ。

 なんて事を、トライクを運転しながら思った。










 真っ白な研究室ねぇ。

 中は城の外観よりも大きいと来た。

 となると、明らかに誰かの能力だな。



「石田が関わってるのは、間違いなさそうだ」


「しかし、奴の姿は見当たりません」


「人は?」


 時間的にも、もうすぐ夜になる。

 片付けはしていても、まだ働いてる人なんて居ないだろ。



「沢山居ます」


「居るのかよ!」


 このブラック企業め。

 寝る間を惜しんで働けってか?

 ちょっと俺も覗いてみるか。



「・・・意外とやる気満々だな」


「無理矢理働かされているという感じでは、ないんですよね」


「こういうの、何て言うんだっけ?輪投げホリック?」


(ワーカーホリックだよ。仕事中毒って意味)


 それそれ!



「家庭を顧みずに、仕事中毒になってるんだよ」


「なるほど。嬉々として動いてますからね。仕事中毒とは恐ろしい」


 覗いたは良いがこんなに人が多いと、ここからは侵入出来ないな。

 やはりもっと上に行かないとダメか。



「まだ入れそうな場所は上にもある。行こう」


「魔王様、ちょっと虫みたいです」


「何だって!?」


 全身黒タイツだからか、動きが怪しいのか。

 どっちか分からんが、俺の動きはGみたいだという。



「Gで上等。奴等は何処からでも入ってくる。行くぞ!シャカシャカシャカ!」


「動く時の音は、自分で言うんですね」


 俺はGだ。

 奴等になりきれば、最善の侵入口を見つけられるはず。



「あそこだぁ!」


 俺はなんとなく目に入った窓を、指差した。

 長秀がそこにたどり着くと、驚いた顔をしている。



「凄いです!本当に誰も居ませんよ」


「マジかよ」


 適当に言っただけなんだが。

 この黒タイツのおかげか?



「入りましょう」










 何だここ?

 やっぱり部屋の中は城と比べて広いんだが、真っ白な研究室から打って変わって、凄く暗いんだけど。

 明かりが無いとかじゃなくて、部屋全体が陰湿というか。

 その割にはなんか香水でもぶち撒けてるのか、フローラルな臭いが部屋全体に充満している。

 大きな箱みたいな物がブルーシートで覆われてるし、物置かな?



「変な雰囲気ですね」


「元々の佐和山城には無かった部屋?」


「そうですね。上階にこのような物置部屋は、普通は作らないかと」


 言われてみたらそうだよな。

 屋根裏部屋なら分かるけど、部屋の一室を潰して物置にするのは変な気がする。



「石田の秘密が、ここに隠されている。デュワッ!」


 俺はブルーシートをおもいきり捲ってみた。



「はわー!あわわわ!な、何だコレ!魔物か!?」


「さ、流石に人の形をした魔物は、若狭国周辺には居ませんよ」


 となると、これは人?

 人の割には、見た目がおかしい。

 俺の目の前の奴は、肩周りの筋肉だけが凄くて他は貧弱そうな身体だ。

 その隣は下半身は細くて上半身はマッスル体型。



「かなりグロいよな。作り物じゃないと思うし」


「もしかしてこの臭いは、死体の腐臭を消す為?」


 長秀も死体だと決めつけている。

 俺も死んでるとは分かるんだけど、明らかに異常な死に方で、本物の死体なのかと疑いたくなる。

 さ、触ってみるか?

 いやでも、腐ってたら怖いし。



「魔王様、隠れましょう。誰かこの辺りにやって来るようです」


「お、おう」


 いかんいかん。

 死体改め謎の物体Xに集中していたから、足音に気付かなかった。本当なら長秀よりも俺が先に気付くべきだったのに。



「端に余ったブルーシートがある。アレの下に隠れよう」


 俺達二人くらいなら、広げて入ってもあんまりバレないと思う。

 それに薄暗いし、膨らんでいても気付かないんじゃないか?


 そうこうしているうちに、誰かが入ってきた。

 向こうも二人組らしく、話し声が聞こえてくる。



「ホント気味悪いよな、ここ」


「早く観察して、記録を書いたら出ようぜ」


 観察?

 記録?

 観察するくらいなら、もしかして生きてるのか?



「おい、見てみろよ。この身体、腕が生えてきてる」


「死んでいても、まだ生えるんだな」


「こっちも筋肉が盛り上がってるぞ」


「気持ち悪いなぁ」


 話の内容からするに、俺達が見た奴だろうな。

 しかし今ので分かった。

 やっぱりコイツ等は死んでいる。



「コイツ等も馬鹿だよなぁ。石田くんに反抗なんかしなければ、こんな目に遭わなくて済んだのに」


「ずっと丹羽様が助けに来るって、信じてたもんなぁ。来なかったけど」


「長い物には巻かれろとは言わないけど、もっと賢く生きれば良かったのに」


「丹羽様よりも、石田くんだよ。やってる実験は狂ってるけど、研究者としては面白いよな」


 コイツ等、同僚を弄んで殺したのか。

 それが分かってて面白いと言う時点で、イカれてる部類だろう。

 こんな奴等なら、気兼ねなくぶっ飛ばして良いよな。

 そう思って横に居る長秀に確認を取ろうとした。



「アレ?」


 肩を叩こうとしたら、誰も居ない。

 俺は肩透かしを食らった形でバランスを崩すと、ブルーシートがガサガサと音が鳴った。



「誰だ!」


 ヤバイ。

 二人に気付かれた。

 気付いたら長秀消えちゃったし、俺もバレる前に自分から出ていくか?



「部屋の端だったよな」


「気を付けろ。誰か侵入者かもしれない」


 コイツ等、研究者じゃないの?

 剣を抜いたような音が聞こえたんだが。

 このままだと、いつ刺されるか分からない。

 ブルーシートの下だと相手が見えないし、ここは増援を呼ばれる前に、ぶっ飛ばすしか・・・。



「おい」


「うぐっ!」


「ひ、ヒイィィィ!!に、丹羽様!!」


「え?」


 なんかとても低い声が聞こえたと思ったら、小さな呻き声と倒れる音がした。

 それからすぐに悲鳴が聞こえたのだが、明らかに長秀がやっちゃった感じだ。


 既に姿を見せたなら、俺も隠れていても仕方ない。

 ブルーシートを剥いで俺も出ると、そこには今まで見た事の無い長秀の顔があった。

 正直言って、俺達の記憶が封印されていた時よりも、多分怖い顔をしている。



「喚くと殺す。叫んでも殺す。私の言葉を理解したなら、一度頷け」


 左手で相手の口を押さえながら、冷たい声で長秀が言った。

 それを聞いた男は、汗を流しながら何度も頷く。

 ゆっくりと左手を離した長秀は、更に言葉を続けた。



「彼等は何者だ?」


「も、元同僚です」


「妖精族か?」


「そうです」


 これが妖精族?

 どんな実験をされたのか分からないけど、身体の大きさが変わり過ぎているし、顔も形が変わっている。

 俺はてっきり、捕まった帝国の人間とかそんな感じだと思っていたのだが。

 まさか同族で実験をしていたとはね。



「彼等は何の罪で、このような目に遭った?」


「罪?」


「石田ではなく、私の味方だったからか?」


「そ、その通りです」


「・・・お前は一緒に働いていた仲間を、何とも思わずにこのように殺したのだな?」


 気のせいか、周囲の空気が冷たく感じる。

 お市が居るなら分かるけど、長秀の雰囲気がそうさせているのだろうか。

 それに長秀の武器を持つ右手の力が、強くなった気がする。



「わ、私がやったんじゃないです!これは全て石田くんが!うぐぅぅぅ!」


 反論しようと声が大きくなった男の口を、再び左手で塞いだ長秀。

 そして口を塞いで声が小さくなったところで、男の左脇腹を長秀の細い剣が突き刺さった。



「警告したはずだ。私は喚くなと」


 痛みと怖さで涙が止まらないようだ。

 それでも左手を離さなかった長秀だが、しばらくして回復薬を脇腹に使うと、そのまま質問を続けた。



「石田の目的は何だ?奴は何故、この若狭国を狙った?」


「そ、それは・・・」


「知っているのなら、今のうちに言っておくべきだぞ。じゃないとああなっちゃうからな」


 俺は横で血を流して一切動かなくなった同僚を指差すと、男の顔がみるみる青くなった。



「ほ、本当か嘘かは分かりませんよ。でも、彼の目的は右顧左眄の森だと聞いています」


「右顧左眄の森?どうして?」


「丹羽様も当然知っていますが、右顧左眄の森はどれだけ破壊されても、すぐに元に戻るじゃないですか」


 それは俺も知ってる。

 帝国軍に火をつけられても、翌日には普通に木々が生い茂っていたし。

 キモチワル!ってなったからな。



「右顧左眄の森を使って、何をしていた?」


 そんなんこの辺の下っ端には分からないんじゃないか?

 と思ったんだけど、意外にも石田に協力している人間は、全て知っているらしい。








「それがコレです。超速再生と言いますか、異常再生と言いますか。彼はこの森の再生能力に目を付け、この力を回復薬と組み合わせて使おうと考えたのです」

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