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石田の目的

 この野郎!

 ビビらせやがって!

 特にベティとマッツンは許せない!


 僕達が影の中に引きずり込まれると、そこには腕だけの存在になっていたマッツン達が居た。

 何故そうなっていたのかは分からない。

 兄はその理由を知りたがっていたが、僕はそうは思わなかった。

 何故なら、意味が無いから。

 もしかしたらメモ用紙とペンを渡せば、理由くらいは分かったかもしれない。

 だけど貴重な用紙を渡して、どうして腕だけなの?と聞いたとしよう。

 僕の予想では、こう書かれると思っていた。

 分からない。

 それ考えると、腕だけの理由を聞くのって無駄じゃない?

 貴重な用紙の空白部分を、分からないという文字で潰されるのって、アホでしょ。

 だから敢えて、この質問はしなかったんだよね。


 ただし、腕だけなのにそれが誰なのか分かったのは、幸いだった気がする。

 例えば腕の太い人だと、カッちゃんと権六が居た。

 でも二人の腕の色は違っていたし、何より腕にも性格が出ていた。

 カッちゃんはマッツンを助けようとしているからか、率先して動いていた。

 権六はそんなカッちゃんを、認めていたんだろう。

 それと僕達だと分かっていたからか、率先して僕や兄の身体を触ってこなかった。

 というよりも、イタズラを仕掛けてこなかったと言うべきかな。

 彼は僕達魔王を、ちゃんと敬ってくれているという気持ちがひしひしと伝わった。

 しかし!

 あの男は全くの逆だ。

 そう、ベティである!

 アイツ、ここぞとばかりに僕の股間ばかりを触りやがって。

 自分だってバレないと思ってたのか?

 マッツンや権六が居る時点で、お前も同じ場所に居るって分かるだろうに。

 助かった事に、あの時の僕は人形の姿だった。

 だから股間には何も無いし、触られたところで感触も無かった。

 もしあの時に生身の肉体だったと思うと、震えが止まらなかったと思う。

 痴漢をされるって、こんな気持ちなんだろうな。


 とりあえず僕は思った。

 ベティは戻ったら殴ろう。










 カッちゃんがペンを返してきた。

 おそらく彼等が出来る事は、これ以上無いだろう。

 早急に官兵衛にもこの情報を伝えたいし、名残惜しいけどここで彼等とお別れだな。



「皆、なるべく早く皆を助ける。それまで元気で居てくれよな」


「ハハッ!皆元気だね」


 全員が目一杯手を振っている。

 カッちゃんが言った通り、食べ物が無くて元気が無いってわけじゃなさそうだ。

 そう考えると、秀吉の目の前でゴブリンと鳥人族が一斉に味方に戻る?

 やばっ!

 まさかの形勢逆転も狙えるぞ!



「兄さんが考えている事は分かるけど、それは官兵衛と相談してからだね」


「そうだな。呑み込まれた人の中には、怪我人も大勢居ただろうし。あまりアテにしないでおこう」





 俺達は影の中から出ると、そこには一人で焚き火をしている佐藤さんの姿があった。



「佐藤さん、ガイストとは会えた?」


『我である』


「え?」


 焚き火してるのは、佐藤さんじゃなくてガイストだった。

 じゃあ本人は何処なんだ?



『ちなみにこの男は、向こうで気を失っている』


 枝で指し示した方を見ると、そこには木に寄りかかって寝ている佐藤さんの姿があった。



「戻ってきて良いよ」


 弟がそう言うと、佐藤さんの姿はスライムのようになり、再び魔王人形に張り付いていく。



『怖いのに我に会いたいとか。奴は一体何がしたかったんだ?』


 それを言われると、ぐうの音も出ないだろうな。

 言葉だけ聞くと、ただのバカだもの。



「本当は昼間に会えば、こんな目には遭ってないと思うんだけどね。ガイストを甘く見た佐藤さんが悪いという事で」


「そうだな。そういう事にしておこう」











「佐藤殿、お疲れのようだが?」


 例の一件から数日後、俺達は若狭国近くで長秀と一益の二人と合流した。

 戦えるドワーフも結構連れてきているみたいだが、右顧左眄の森を抜けられるか心配だったので、彼等はここで待機になるみたいだ。


 そしてお疲れの佐藤さんは、目の下にクマを作り、見た目は減量失敗したボクサーみたいになっていた。



「どうしてそんなに疲労しているんだ?まさか、秀吉一派に襲われたのか!?」


「そんな事は無いよ。彼はちょっと寝不足なだけさ」


「寝不足?」


 二人が不思議そうな顔をすると、佐藤さんは猛烈な勢いで俺と弟を罵倒し始めた。



「このひとでなし!悪魔!とんでもない魔王だ!」


「な、何を怒ってるんです?」


「実はね・・・」


 佐藤さんに起きた顛末を二人に説明すると、彼等は残念そうであり、尚且つ佐藤さんに同情的な眼差しで見た。



「酷くないですか!?」


「いやまあ・・・」


「幽霊や化け物と呼ばれる類のモノは、ワシ等も実際に見た事が無いからのう」


「だから余計に怖いというか。まあ佐藤殿の気持ちも分かりますよ」


 分かるけど、見た事が無いから残念に思える。

 二人は言葉とは裏腹にそう思っていた。



「オホン!まあね、今夜は僕達以外にも人が居るしね。大勢の中で寝れば、怖くないでしょ?」


「お、俺をバカにしやがって!でもそれでお願いします」


 佐藤さんは早々に、ドワーフ達の中に入っていった。

 まだ太陽が見える時間帯だが、今日はここで一晩を過ごすのは決定だから、佐藤さんはもう寝るんだろう。



 ちなみに何故彼があんな寝不足になったかと言うと、一言で言えば人間不信である。

 というよりは、魔王不信だけど。

 俺と弟の二人で仕込んだドッキリは、ある意味彼に強いトラウマを植え付けたらしい。

 あの晩以降、俺達とマトモに話してくれないのだ。

 そして夜になると、また俺達に何かをやられるんじゃないか?

 そんな気持ちが頭に強く残っているようで、疲れていても目がギンギンに覚めてしまい、朝まで寝られないという話だった。



「本当に、何をしたんですか」


「ありゃあ、戦力にはならんな・・・」


 ちょっとした茶目っ気だと思うんだけどなぁ。










 魔王達が若狭国の近辺に潜伏している頃、石田はようやく人の前に姿を見せた。



「出来た。完成だ!」


 彼が手にしていた物。

 それはこの数ヶ月間、研究に研究を重ねて作り出した薬品だった。



「おめでとうございます」


「ありがとう。このサンプルを早速、秀吉様の所へ届けて下さい」


 石田が妖精族の一人に瓶を渡すと、彼は外に出てフライトライクに乗り込んだ。

 右顧左眄の森を飛び越し、南へ向かっていく。



「フフフ。これで秀長のアンデッドも、パワーアップする事だろう。今のうちに、量産体制を整えなければ。皆、やるぞ!」


「おぉ!」


 妖精族が気合いを入れて返事をする。



 石田は他の味方にも姿を見せず、研究していた。

 それは秀吉に言われて、極秘にしていたからだった。

 そして彼が若狭国に籠っていたのは、その材料となる物がここでしか採取出来ないという理由もあった。


 当初は石田が力で支配していた佐和山城であったが、彼が何を研究しているのか知った一部の妖精族は、彼に賛同。

 そして領主である丹羽長秀から離反して、石田に助力したのだった。

 それは勿論研究者だけに留まらず、戦える者も居た。

 その為若狭国は、領主不在の丹羽派と新領主とも言える石田派の二つに割れてしまったのだった。


 前述した通り領主不在である丹羽派は立場が弱く、本来であれば石田派に潰されてもおかしくなかった。

 だが石田は研究に没頭し、丹羽派を歯牙にも掛けず、そのまま放置していた。

 そして若狭国は、立場の弱い丹羽派が街中に潜伏する羽目になり、逆に石田派が大手を振って歩くという状況になっていた。



「石田様、我等を騙って暴挙を振る舞っている連中、そろそろ抑えた方が良いのではないですか?」


「別に良いよ。研究の邪魔をするなら殲滅するけど、特に影響は無いしね」


 石田は白衣を着た妖精族から報告を受けるものの、全く興味を示さない。

 だが次の一言で、彼の手は止まった。



「そうですか?彼等が居るせいで、右顧左眄の森に行く連中が、手間取っていると聞きますが」


「右顧左眄の森へ行くのを、邪魔をしていると?」


「そのようです」


 石田は面倒そうに席を立つと、背伸びをする。

 周囲を見回した彼は、妖精族に休憩を取らせた。



「何処へ行かれるのですか?」


「ちょっとした運動かな。やっぱり少しは身体を動かさないと、頭も回らないってね」


 佐和山城から出た彼は、右手に持ったペンをクルクルと回して遊びながら、街へ向かっていった。










「俺達は石田派の近衛隊だぞ?道を開けんかい!」


 あまりにガラの悪い格好をした妖精族が三人、大通りを闊歩している。



 彼等はお堅い丹羽長秀の下では、窮屈さに鬱憤を溜め込んだ、元兵士だった。

 長秀が領主の頃は、彼等は基本制服から始まり何から何まで、全てが決まっていた。

 しかしそんな中、魔王が連れてきたトライクに乗った連中を見て、彼等は目覚めてしまったのだ。

 トゲトゲの付いた鎧や、明らかに雑魚なのにイキっているその立ち振る舞い。

 彼等はヒャッハーに憧れてしまった。


 長きに渡り、丹羽長秀は領主を務めてきた。

 そんな丹羽長秀という絶対領主が、消えた若狭国。

 彼等は思った。

 今しかないと。


 制服の袖を破り、サングラスを掛ける。

 そして大きな肩パッドを着けて、髪型をモヒカンに変えた。

 今まで与えられた武器は二種類。

 槍か刺突武器のどちらかだったが、彼等は太い棍棒と火炎放射器を模した火を吐く植物を、鉢ごと背負った。

 隊長に向かって炎を放射すると、彼等は外からやって来た石田通成を城へ迎え入れた。

 そして彼等は、石田派を名乗るようになった。



「ヒャッハー!」


「獄長様が太陽の恵みをやる。外に出たければ、並べぃ!」


 彼等は門衛のような事を始めると、門の外の薬草畑や右顧左眄の森へ行こうとする連中の身分をチェックし始めた。

 そう、彼等は丹羽派の人間を外に出さないように、見張っていたのだ。

 しかし丹羽派のほとんどは、本当の領主が戻ると信じて街の中に潜伏している。

 それを知らない彼等が邪魔をしていたのは、彼等が認めた石田派の人間だった。



「何だ、その目は?」


「おらぁ〜手を出してみろよ〜。おらぁ〜」


 研究員の頬を叩くヒャッハー軍団。

 彼等は薬草学が専門であり、戦いは苦手である。

 そして異様な格好をするヒャッハー軍団を見て、苦手意識を覚えていた。



「あの〜、その石田様から頼まれた仕事なんですけど・・・」


「あぁん?」


「嘘つけ〜!」


「痛っ!」


 研究員を蹴り飛ばすヒャッハー。

 するとそれを見ていた男が、ヒャッハーに近付いていく。



「お前は何をしている?」


「あぁん?ハッ!?石田様!」


 突然現れた石田に、彼等は地面に正座を始める。

 そして蹴られた研究員を起こした石田を見て、彼等は顔を青くした。



「もしかして、本物?」


「だからさっきから言ったのに!」


「うおぉ〜!すまねぇ!この通りだ!ほら、この通りだ!」


 土下座を始めるヒャッハー軍団。

 しかし石田は、冷たい目で言い放つ。








「ここで本来なら、お前はもう・・・と言うんだろうけど、私は違う。その代わりにお前達には、これから私の実験に付き合ってもらおうか?」

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