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恐怖体験

 いよいよこの時が来たか。


 僕の特訓が終わりを迎えたのをキッカケに、とうとう秀吉達に対してこちらから攻めるという段階にやって来た。

 まず最初に狙うのは、若狭国の奪還。

 その理由として、やはり回復薬の存在が大きい。

 回復薬が手に入れば、多少の無理を効くようになる。

 ただ少し気になっている点もあった。


 佐和山城は今、石田ミチナリという人物が滞在している。

 と言われている。

 言われているという言い方をするのは、理由があった。

 それは彼が本当に佐和山城に居るのか、僕達は把握出来ていないのだ。

 そもそも彼は、何故佐和山城を狙った?

 やはり薬草が狙いなのだろうか?


 それに気になる点もある。

 僕が聞く限り、秀吉軍の人数はそこまで多くないと思われた。

 と言っても潜在的な敵というか、まだ正体を現していない敵も居たりするので、ハッキリとは分からないんだけど。

 その大きな代表が、猫田さんやロックだったりしたんだけどね。

 そして安泰だと思われていた妖精族にも、石田に協力するような連中も居るという話だった。

 これがドワーフであれば、僕もなんとなく理解したと思うんだ。

 一益にライバル心を燃やした、昌幸という存在が居たからね。

 でも妖精族は、長秀の一強だと思っていた。

 誰が率先して、石田に協力したのだろうか?

 その理由は?


 しかし魔族も一枚岩じゃないんだな。

 鳥人族もベティに代わり領主になろうという考えの奴も居たと聞く。

 あそこは弱肉強食が基本だったようだから、その考えも分からなくもない。

 長浜も結局はテンジが失脚して、秀吉が半ば強引に奪い取った。

 そう考えると本当に一致団結していたのは、妖怪だけなのかもしれない。

 権六が居なくなっても、お市を持ち上げて頑張っている。


 もしかしたら僕達も、似たような状況にあったのかな?

 マッツンは別としても、もしそうだとしたら、僕は人間不信に陥りそうだ。










「そっか。楽しみだなぁ」


 佐藤さんの返事は、心からの声だった。



 そりゃ俺というか、弟の知り合い?

 ケモノは知り合いで良いのか?

 それとも仲間?

 何とも説明しづらい関係性だな。

 そんな彼と会う時は、俺達が居るから怖くないと感じられるのかもしれない。


 だけど一つ言いたい。

 ケモノは化け物。

 それが分かっての発言なのか?

 まあ俺達二人とも、それを説明していないんだけど。

 とりあえず何も知らずに、会ってみてほしい。

 さて佐藤さんは、どういう反応をしてみせるかな?



 今夜は森の中で、一晩を明かす事になった。

 若狭国へ行く途中で、関ヶ原から近い森の中だ。

 つい最近まで、戦場だった場所である。

 怖がりな人なら普通は嫌がるものだけど、佐藤さんは土地勘が無いからか、ここが何処なのか分かっていなかった。

 というよりも、俺も弟に言われるまで気付かなかった。



「今日は月が出てないですね」


「雲が多いからかな。星も見えないや」


 今日は月が出ない何とかの日。



(新月です。それくらいは覚えておこう)


 新月の日。

 別に覚えていなくても困らないから、どうでも良いのだが。

 たまたま天気があまり良くないのもあって、明かりが無いと本当に真っ暗になる。



「今日のメシは、肉しかないですね」


「やっぱり日本人だと、たまには米が食いたいよねぇ」


「佐藤さんって、減量しなかったんですか?」


「俺は厳しかったよ。だからこそ、今はめちゃくちゃ食うようになったよね」


 他愛も無い話で時間を潰していると、少し肌寒くなってきた。

 焚き火の熱が心地良い感じなのだが、俺達はここで動き始める事にした。



(準備は良いね?)


『我は火が消えたら、登場すれば良いのだな?』


(誰になるかは任せるよ。佐藤さんとのドッキリ初対面作戦、スタートだ!)










 話が途切れたところで、俺は立ち上がった。



「すいません。ちょっと用を足してきます」


「分かった。あんまり遠くに行くと、戻るのが大変だから。気を付けてな」


 佐藤さんは俺がわざと離れる事を、全く疑っている様子は無い。

 俺は小走りに離れていき、木の陰に入った。

 そっと覗くと、佐藤さんは火を眺めているだけで、こっちを気にしていない。



(こちらチャーリー。佐藤さんが焚き火から目を離したら、作戦を実行する)


 こちらブラボー。

 了解した。



『エコー、了解。火が消えたら、姿を見せる』


 どうしてガイストはエコーなんだ?

 お前は今回の作戦の主役なんだから、アルファを用意しておいたのに。



『我は本物ではない。だからエラーのEを取り、エコーとしたのだが』


(ガイスト、本当に凄いな。そこまで自分を客観的見られる人なんて、そうそう居ないから)


 マジかよ!

 俺より頭良さそうだ・・・。



(良さそうじゃない。確実に頭が良い)


『お前達の知識を見せてもらったからな。そのおかげだと言っておこう』



 ん?

 だったら官兵衛でも良かったんじゃない?


『アレは駄目だ。我でも全てを読めないからな』 


(官兵衛の頭の回転は、僕達みたいな凡人とは違うから。それは仕方ない)



 そういうものなのか。


 しかし佐藤さん、火をジッと見つめて目を逸らす気配が無いな。

 なんかキッカケが作れれば、良いんだけど。



(よし。ちょっと風を送ろう)


 弟は人形の身体を分離させると、俺の方から少し強い風を吹かせた。



「うん?風が出てきた?」


 佐藤さんが周囲を見回し始めた。

 今だ!



(南無三!)


 焚き火の火が消えた!



「な、何だ!?急に火が消えた!」


 佐藤さんが動揺している。

 弟は無駄に凝ったやり方で、火を消したからな。

 水を掛ければ、消えた時にジュッという音が聞こえて水を掛けたのがバレてしまう。

 風で消すには、強風を起こすしかない。

 そこで弟が考えたのは、大量の砂を焚き火の上にぶち撒ける事だった。

 顔を上げて火から目を離した隙に、土魔法で砂を掛けると言っていた。

 そして弟の作戦は見事に成功したのだった。



「阿久野くーん!何処に行ったー!?」


 フフフ。

 慌てて探している声が聞こえるぜ。

 さっきまでとは違い、声が少し震えている。



(もう少し近くで見たいね。影魔法で潜って近付こう)


 お前、結構楽しんでるよね。

 酷い奴だなぁ。



「阿久野くぅん?・・・何処まで行っちゃったんだよぉ〜」


 明らかに弱気な声だ。

 これはそろそろ、奴の出番ではないかな?



「だ、誰だ!?」


 佐藤さんの背後から、枯れ枝を踏んだようなパキッという音が聞こえる。

 どうやらガイストが登場したようだ。



『火を着けてくれ』


 弟は焚き火に着火すると、小さな明かりとなり人影が浮かび上がってきた。

 佐藤さんはそれを見て、ファイティングポーズを取っている。



「・・・イッシーさん?」


 佐藤さんの前に立つのは、イッシーだった。

 コイツ、敢えて顔が見えない男を選ぶかよ!



「な、え?ちょ、ちょっと待って。どうしてここに?」


 混乱しているのか、佐藤さんの言葉が続かない。

 しかしガイストは喋らない。

 ガイストは姿はマネられても、声まではマネ出来ないらしいからな。

 でも喋らないのが、逆に不気味さを増しているんだけど。



「な、なんか言って下さいよ」


 しかし喋らないイッシーは、佐藤さんの後ろを指差した。



「後ろに誰か居るんですか?」


 振り向いた佐藤さんだったが、そこはただの暗闇である。



「誰も居ないじゃないですか。驚かさ・・・」


 イッシーが姿を消すと、佐藤さんは口を開いたまま固まった。

 完全に思考が停止している。


 いかんな。

 笑ってしまってバレそうだ。



「ちょ、ちょっと待てよ。いやいや、幻でしょ。誰も居ないから、俺が勘違いしただけだな」


(自分に言い聞かせてる。ビビっているのは間違いない。ガこちらチャーリー、再び火を消す)


 佐藤さんの声は震えている。

 俺が戻らないから、さっきからキョロキョロしてるし。



『こちらエコー。次に移行する』


 キョロキョロしている佐藤さんの頭が止まった。

 木の陰に誰かが居るのが、分かったらしい。

 安堵した表情でそっちに歩いていくと、再び足を止めた。



「だ、誰?」


 そっか。

 俺だと背が低いから、違うって分かったのか。


 さて、佐藤さんはどうするのか?

 好奇心が勝って、この男に近付くか。

 それともビビって、その場から動かないか。



(僕は後者にラーメン一杯)


 なぬ!?

 俺も後者にラーメン一杯なんだが。

 賭けにならないじゃんか。



『ならば我は前者に賭けよう』


 マジか!?


(ガイスト、ギャンブラーだねぇ)


 佐藤さんの性格上、こういうのは苦手で近付かないと思うんだよな。

 これは俺達の勝ちかな?

 と思ったのだが、どうやら俺達は佐藤さんを甘く見ていたようだ。



「すいませ〜ん。返事してくれませんか〜?」


 い、行った!?


(ゆっくり歩き始めたよ!?)



 俺と弟の予想は、裏切られてしまった。

 佐藤さんは恐る恐る歩き始めると、木の陰に隠れている人物へと近付いていく。

 そしていよいよ、佐藤さんは隠れている人の肩をゆっくりと叩いた。



「ど、どうして返事をしてくれないんですかねぇ?」


 冷や汗で顔はびっしょりと濡れている。

 それでも佐藤さんは、好奇心が勝ったらしい。

 そして木の陰に隠れている人物が、ゆっくりと振り返る。



「こ、こんばんは。・・・え?」


 佐藤さんはその人物の顔を見て、そのまま固まった。

 そしてしばらくすると尻もちをつき、物凄い勢いで後退りを始めた。



「あわわわ!イテッ!」


 木に激突して止まると、佐藤さんはもう一度顔を上げた。

 そして顔を青くして、その人物を凝視する。



「お、俺?」


 無表情の佐藤さんが、真っ青な佐藤さんを見ている。

 お互いに目を逸らさないでいると、無表情だった佐藤さんの口角が釣り上がった。



「ひ、ヒイィィィ!!!」


 佐藤さんは腰を抜かしたのか、ジタバタしながら下がっていく。



(アッハッハッハ!)


 アッハッハッハ!

 めちゃくちゃ面白いな!



(やっぱり佐藤さんはビビリだなぁ)


 二人して影から顔を半分出してその様子を見ていると、ガイストから話し掛けられる。



『どうやって収拾をするつもりだ?』


 面白いから、しばらくそのままでも良いんじゃない?


(もう涙目だから、そろそろネタバラシしてあげないと可哀想だよ)


 それもそうか。

 仕方ない。

 そろそろ姿を現して、ガイストを紹介してあげよう。



 俺は弟と共に影から出ようとすると、出られない事に気付いた。

 俺だけかと思ったが、どうやら弟も同じらしい。



(アレ?おかしいな。こんな事初めてだよ)


 魔法に失敗なんか無いよな?

 さっきまでは自在に動けていたのに。



(ちょっと待って。何か聞こえる・・・)


 おいおい、俺までビビらせようって魂胆か?

 影魔法は弟が使ってるし、俺が出られないようにするのも簡単だ。

 佐藤さんに続いて、俺もやってやろうって考えなんだろう。



(うっ!)


 弟が急に影の中に消えた。

 どうせビビらせる為の芝居なんだろう?

 と思った瞬間、足が引っ張られた。

 影の中に入ると、弟がジタバタしている。

 その足には、何かがまとわりついているのが分かった。








「う、うわあぁぁぁ!!オバケぇぇぇぇ!!」

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