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特訓の終わり

 思った以上に有能。

 これが今の僕の感想である。


 ガイストは僕と兄、二人の思考を読んで同じように行動が取れる。

 それって凄い事だと思うんだよね。

 本人曰く、戦いは嫌いで強くないと言っていた。

 本人だけの戦闘力を考えれば、確かに強いとは言えない気がする。

 それにドッペルゲンガーとして、誰かの姿になったとしよう。

 それも結局は、ガイスト本人の身体能力から上には行けないという弱点があった。

 だから佐藤さんの姿になったとしても、同じように素早く動けたりしない。

 太田の姿になったところで、バルディッシュを軽々と扱えたりしないのだ。

 もっと言えば、太田と同じようなタフさだって無いからね。

 彼が出来るのは、姿形を変えてその思考をトレースするまで。

 佐藤さんが走るぞって考えて同時にスタートしても、置いていかれるのは目に見えている。

 だから本人は弱いと言ったんだと思う。


 しかしそれは、本人の強さに限った話なのだ。

 ケモノとして身体に宿してしまえば、それはまた別の話。

 彼は僕という身体を通じて、僕の魔力を使って僕と同じように魔法を使ってみせた。

 しかも4本の腕を同時に扱ったのだ。

 それを一人ではなく、僕二人分を同時にこなしているのと同じと言っても良い。

 ちょっと微妙な方向で考えると、僕の考えが浅はかだから読みやすいのかなと、少し勘繰ってしまうところもあるけど。

 それを差し引いても、やっぱりガイストの能力は凄いの一言である。


 そして次に始まった物理攻撃の実験。

 こちらも兄の考えをトレースして、兄をフォローするように短剣を動かしていた。

 本来なら兄の本気のスピードや攻撃に、僕なら追いつく事は出来ない。

 でもガイストなら、それはまた別である。

 オリハルコンで作られた身体を通じて短剣と化した僕の身体は、魔力で動いている。

 その魔力量は一般的には常識外の量であり、兄の速さに追いつけるだけの魔力があった。

 僕なら兄の動きが見えないから無理だけど、ガイストならそれが出来る。

 野球で言えば、ノーサインで変化球を投げても取れるだけの力が、彼にはあった。


 一つだけ難点があるとしたら、頭の中で聞こえる声が、二人になった事。

 彼はうるさくないからまだ良いけど、それでも違和感は残っているかな。









 本当だ!

 盾が段々と上を向いて、下に落ちていっている。

 長谷部は盾を、太鼓を叩くようにリズミカルに叩き、ノリに乗っている感じだ。



「やらせるかよ!」


 俺が鉄球を投げつけると、長谷部はそれを左手の木刀で弾いた。

 リズムが崩れた事で盾が動くと、長谷部は無理をして追っては来なかった。



「ナイス判断です!」


「あざっす!」


 官兵衛から褒められた長谷部は、左手を少し挙げて反応した。



(ぐぬぬ!動きが遅い!)


 確かに遅くて、凄くダサく見える。



(ダサい!?もはや人の形ですら無くなったのに、更にダサいと言われると凹むぞ・・・)


 ゴメンゴメン。



 しかし問題は、やっぱり官兵衛だな。

 あのペイント弾が厄介だ。

 物理攻撃なら、銃もアリなのかな?



(さあ?それは微妙な気がするけど)


 一応確認してみるか。



「コバ、短剣から銃にするのはアリなのか?」


「それを言ったら、魔法を使うのと変わらない。テストの意味が無いのである」


 んー、なんか違う気もするけど。

 テストなんだったら、実戦を想定して魔法も組み込んで良い気がするんだよなぁ。



(というか、出来るか分からないよ。ガイストが僕と兄さんの考えを同時に読めるかと言ったら、それは難しい気がするんだよね)


『それは試した事が無かったな。我は身体は一つしかなかった。だから複数人の頭を読んでも、変化出来るのは一人しか無理だったから』


 なるほど。

 言われてみれば、そりゃそうか。

 それで、出来るの?

 出来ないの?



『・・・やはり難しいな』


(やっぱり無理か)


 そりゃそうだよな。

 ガイストと言えど、二人分は難しいか。



『ただ単に、二人の考えを読むだけなら出来る。しかし二人の考えに合わせてコレを動かすのは、かなり至難の業だ』


(僕はまだしも、兄さんの動きに合わせるっていうのは、先読みして一緒に動く感じだもんなぁ。それに加えて僕の考えを読みつつ、魔法を使えっていうのは・・・。無理だな!)


 結論、俺達は求め過ぎだった。









 一時的に膠着状態に陥った僕と兄だったが、イッシーとガイストの方は金属音がまだ聞こえている。



『此奴、動くぞ』


 何?



(足蹴り!?)


 イッシーが下から、ガイストが変化している短剣を蹴り上げた。

 ほんの少しだけど、枚数的に有利を作られてしまったようだ。



「イッシー殿!今です!」


 官兵衛の声に合わせて、兄に向かってイッシーが短剣を投げた。

 圧力から解放されて自由に動けるようになった弟は、官兵衛のペイント弾を盾で守る事で手一杯にある。

 となると、自分で・・・



「おりゃあ!」


「チィ!」


 長谷部の奴、俺が投げた鉄球を拾って投げてきやがった。

 それを避けたところで、長谷部がその後ろから迫っている。

 しかもイッシーは、俺に向かって短剣だけでなく剣や槍まで投げてきていた。


 長谷部を相手にすると、イッシーの武器が当たる。

 イッシーの武器を弾こうとすると、長谷部から攻撃を食らう。

 避けようにも、イッシーの武器が広範囲に投げられているので難しい。

 被弾覚悟するしかないのか?



(まだだ!ガイスト!)


『分かっている』


 イッシーに蹴り飛ばされたガイストは、まだ戻ってこない。

 だけどまだ短剣の姿をしているガイストは、残っている。

 そしてそのガイストは、俺の後ろへ移動してきた。



(シールドに変わるんだ!)


 なるほど!

 オリハルコン製だから、短剣から盾に創造魔法で作り変えれば良いのか!



(フッフッフ。僕達は攻防一体で、死角は無いのだよ!)


 流石だぜ。

 と思った矢先、後頭部に何か当たった。



「おごっ!!」


 俺に続々と当たる、木製の武器。

 前のめりに倒れた俺に対して、コバの声が高らかに聞こえる。



「終了である!」











「ハッ!?戦いの続きは!?」


 アレ?

 皆集まってるぞ。

 もしかして終わっちゃったのか?



「お?負け犬大将が起きたみたいですぜ」


 起きた?

 俺の事か?



「って、誰が負け犬じゃい!」


「いや、負けたんだよ。僕達は」


 弟も人形の姿に戻っている。

 テストは終わったって事か。



「俺がやられて負けたのか。でも、どうして?」


「理由は簡単。イッシーの武器投擲をほぼ全て、後ろから食らったから」


「は?ちょっと待て。ガイストが動いていたはずだけど」


 俺が覚えている限り、空に蹴り上げられた短剣が、急スピードで俺の真後ろに落ちてきたはず。

 弟の声では、シールドに変わるって話じゃなかったっけ?

 俺は弟の方を見ると、すぐに理由を話してくれた。



「失敗したんだ」


「どんな?」


「ガイストは短剣から盾には、なれなかった」


 ん?

 ガイストが変化出来なかった?

 コイツ、姿形を変えるのが得意なんじゃないのか?



『それは誤りだ。我は人や獣のような、意思のあるモノには変化出来る。しかし無機質な物体には、変化は出来ない』


 それおかしくない?

 だったらどうして、弟の声に反応してOKを出したんだ?



「それに関しては、僕が説明するよ。僕はてっきり、ガイストなら変化出来ると思ってたんだ。理由は、僕の考えが読めるから」


「考えが読めるだけで、変化出来るのか?」


「違う違う。彼は僕の身体と魔力を使っていたんだ。だから創造魔法も使えると思っていた。でも、それは無理だったんだ」


 創造魔法か!

 それならガイストが人や獣の姿にしかなれなくても、魔法という手段で変化する事が出来る。



「どうして創造魔法は使えなかったんだ?」


「分からない。ガイストもどうして使えないのか分からなかったって言ってるんだ」


『我は康二の頭の中から、創造魔法の使い方を見た。だが同じようにやっても、それは無理だったのだ』


 なるほど。

 だから短剣のままだったガイストは、イッシーによる攻撃が全て捌ききれず、俺の後頭部を含めて色々な場所に当たったというわけだな。



「創造魔法は特別です。魔王様にしか使えない魔法ですから、仕方が無いのかもしれません」


 官兵衛の言葉には、説得力があった。

 でもおかしな気もしている。

 身体が創造魔法を使えるのなら、ガイストだって使えたはずなのだ。

 しかしそれで使えなかったという事は、身体よりも魂の方から引き出された力だと言える。

 歴代魔王なら分かるけど、元々無関係の俺達の魂に創造魔法が根付くなんて、変じゃない?



『お前達の記憶を見る限り、我も同じ事を思った。だから使えると思っていたのだが。やはり魔王というのは、特別な存在なのかもしれないな』


 ガイストでもそう思うんだ。

 というか、ガイストみたいな存在に特別って言われるのも変な気持ちになるけどな。



「今回は魔王の負けである」


「まさか、負けたから特訓延長!?」


 弟の声から絶望感が漂っている。

 アイツ、本当にやりたくないんだな・・・。



「いや、これでテストは終わり。オリハルコン製魔王人形は、完成したと言えよう」


「本当に!?」


「オリハルコンを自在に操り、創造魔法で形を変化させた。そして同時に魔法も使えるとなれば、文句は無いのである」


「いやったあぁぁぁ!!」


「おぉ!飛んだ!」


 お前はアストロボーイなのかな?

 足から火を噴いて、空に飛んでいってしまった。



「しかし改善点もありますね」


「そのようであるな。ひとまずケモノには、創造魔法は使えないという点が大きい」


「もし形状を変化させるなら、一度人形の姿に戻ってからなら、可能ですかね?」


 ・・・ん?

 もしかして俺に聞いてる?

 俺に聞かれても、それは分からないよ。



「おーい!戻ってこーい!」


 自由を手に出来たのが、そんなに嬉しかったか。

 しばらくすると戻ってきた弟は、コバと官兵衛から色々と聞かれていた。

 それじゃ俺も、イッシーと長谷部に反省点を聞くかな。



「特に無い」


「俺も同じ」


 反省終了。

 何かあるでしょうよ!

 俺だって戦ったのに、何も無いっておかしくないか?



「あっ!」


 長谷部が何か思い出したように、声を上げた。

 ほらっ!

 やっぱり何かあるんだよね。



「良いよ。何でも受け止めるよ。カモン!」


「魔王様って、何で俺の武器が木製の木刀だと思ったんすか?確認もしないでそういう思い込みは、危ないっすよ」









「あ、はい。すいませんでした・・・」

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