生き残り
魔王が手伝ってくれるなら、最高の戦力だったんだけどね。
オケツから騎士王国内のケモノは駄目だと言われた僕達は、渋々ケモノ探しから始めた。
その結果思いついたのが、信長を筆頭とした歴代の魔王達だった。
ただ、お市にその話をした時、彼女からは微妙な事を言われてしまった。
秀吉に勝つ為なら、悪い案ではない。
旦那である柴田勝家を失い、それでも執拗に攻めてきた秀吉達に対して、有効な戦力になる。
だけどその反面、それではやってる事が秀吉と変わらないんじゃないかという疑問もあった。
それはネクロマンサーである、羽柴秀長の存在だ。
向こうはほぼ無理矢理に近いやり方で、亡くなった人物を召喚している。
しかし騎士のやり方は、対話や対決をして認めてもらわないといけない。
その点で言えば、騎士ではなくケモノ側に選択権があるとも言える。
気に入らなければ手を貸さない事も出来るんだから、その通りだよね。
でもそれは僕達の考え方であって、お市からしたら変わらない。
むしろサネドゥだって、弟をあんな風に扱われているのだ。
彼も思うところはあるはずだ。
それに本来なら、シッチやタコガマといったボブハガーの旧家臣団だって、そう思わないとおかしいと思う。
復活した事を喜び、自らボブハガーに降る。
オケツの下に入るのが嫌だから、そうしたんだとしか思えない行動だ。
だけどそれって、ある意味依存してるよね。
その人が居なきゃ何も出来ないと言ってるのと、同じなんだから。
死んだ人を、死んでからも働かせるってどうなの?
でも僕は、死んだ人なんかよりも生きている人の事を考える方が大切だと思う。
僕はそれを、オケツやお市からはそれを教わった気がする。
というわけで、南の方へやって来ました。
が、広過ぎて何も見つからない。
むしろ見つからないのは、昔に朽ちて無くなったからかもしれない。
しかしこのまま無為に時間が過ぎるのは困る。
せめて痕跡だけでも見つけないと。
【ちょっと交代しようぜ。身体強化で聴力を上げるから、誰か居ないかそれで確認してみよう】
(何か気付いた?)
「・・・んん?コレ、どういう事だろう?」
(どうしたの?)
「俺の耳には、前の方から話し声が聞こえるんだけど」
(ええ!?)
おっかしいなぁ。
聞こえないっていうなら、耳が悪いとか何か詰まってるって言えるんだけど。
逆に聞こえるのに何も無いっていうのは、ありえない。
(だったら視力を強化してみたら?)
なるほど。
見えないんだから、それもアリだな。
「・・・コレは凄いな。考えてやってるのかな?」
(どうなの?)
「理由が分かったよ。壁が地面と同化してるんだ。外からは近付かないと分からないように、壁の色と地面の色を全く同じにしている。それと同様に、近付かないと草花も壁にくっついてるとは分からないだろうな」
誰が考えたんだか知らんが、これは俺みたいに聴力を強化しないと分からない。
他には獣人族の中で、耳の良い連中くらいだろうな。
(でもそんな仕掛けを作るって、盗賊くらいじゃない?)
言われてみれば確かに。
一般人が偽装する必要なんか、無いわけだし。
「どうする?」
(盗賊なら、潰しておくに越した事は無い。もしかしたら、秀吉達の一味かもしれないし)
そりゃそうだ。
ましてや盗賊なら、秀吉連中じゃなくても害は出る。
ぶっ潰そう。
(向こうは気付いてる?)
「どうだろうな。こんなチンチクリンが一人で立ってても、気付かないんじゃないか?」
(・・・まあそうなんだけど。言ってて悲しくない?)
今は悲しくないと、思う事にしよう。
それにこの虚しさを、奴等にぶつければ良いだけ。
「真正面からぶっ潰してやる!」
「ヒャッハー!汚物は消毒だぁ!」
真正面まで走っていった俺は、壁をジャンプで飛び越えて、見下ろしながら叫んだ。
が、向こうはポカンとした顔をしている。
そして俺も、中に居たメンツを見て、場違いだとすぐに気付いた。
「その姿、魔王様ですよね?」
「き、気のせいじゃないかな?こんな所に魔王なんて、居るわけないと思うけど」
「でも私、ベティ様と共に、魔王様にお会いした事があるんですけど」
はい、詰んだ!
ヒャッハー!が恥ずかしかったから他人のフリをしてみたけど、俺を知ってる人物なら意味が無かった。
(兄さん、そういう時はこう言うんだ)
ほう?
「オホン!越中国の大木も燃えたのを見てきた。だから生き残った鳥人族が居ないか、気になってね」
「直接魔王様が、それを理由に来てくれたんですか!?」
「それだけではないんだけども。それよりもだ。皆、どうやって生活しているの?」
俺が壁の上から見る限り、ここは町というよりは集落に近い。
店なんか無いし、自分達が食う分が困らなければ、それだけで良いというのは分かる。
だけど、鳥人族の中にたまにヒト族が混じっていた。
見た感じ、彼等の方がここの生活に慣れているようにも見えるのだが。
「今は彼等の手伝いをしながら、ここに居候させてもらっています」
「彼等は何者?」
「商人だよ」
俺が男に尋ねると、真下から声が聞こえてきた。
見覚えのある顔だが、誰だか思い出せない。
「お前、まさか俺達を忘れたわけじゃないだろうな?」
「忘れてないですよ。忘れてたら大したもんですよ」
男はため息を吐いている。
覚えていないのが、バレたかな。
(僕は覚えてるよ。交代しようか)
「覚えてるよ。アレから何年経ったかな?頭も白くなって、顔もシワが深くなったね」
「魔族とヒト族の時間を、一緒にしないでほしいな」
「久しぶりだね。ターネン」
僕は壁の下に降りると、ターネンとキーファーが出迎えてくれた。
彼等はキルシェの兄であり、ライプスブルク王国の第一と第二王子に当たる人物だ。
しかし二人は仲違いをして、更に王位継承権を持っていたにも関わらず、継承権が一番低かったキルシェに王位を奪われた経緯がある。
特にキーファーは、本来なら死刑になってもおかしくないような罪を犯していたのだが、キルシェの赦しがあり、一般人に身を落として王国から追放された。
何年も音沙汰が無かったので、死んだと思っていたのだが、こんな所に住んでいたとはね。
「商人をやってるの?」
「まあな。ここまで来るのは楽じゃなかったけど、今はそれなりに生活しているよ」
「そっか。とりあえずまず先に。鳥人族を匿ってくれて、ありがとう」
僕は二人に頭を下げると、彼等は苦笑いをした。
僕には恨みがあるだろう。
僕が手助けをしなければ、どちらかが王になっていた可能性もあるからね。
そんな人物に頭を下げられてもって、思ってるんだろうな。
「当然の事をしたまでだよ」
「俺達からも、あの大木が燃えて倒されたのは見えたからな」
「だから困ってる人達を、ここに招き入れたんですよ」
「キーファーも同意して!?」
王国はかつて魔族嫌いで有名な国であり、キーファーは元々魔族を受け入れられない人間の筆頭だった。
それを改革して今の王国を作ったのが、キルシェである。
そんな魔族を目の敵にしていたキーファーが、率先して助けるなんて。
「それはもう、過去の事だって」
「今や兄は、妻に魔族を娶ってるくらいですよ」
「嫁はエルフだ」
「ハァ!?」
苦笑いの理由はコレか!
嫁と同じ魔族が困ってるなら、受け入れるのは当然って考えなのも理解出来る。
「どういう心変わりだよ」
「実は、キルシェに追放されて困っていたところを助けてくれたのは、魔族の方々だったんです」
「俺も当初は反発してたりしたんだけどな。でも、王族じゃなくなった俺達を、親身に助けてくれた魔族を見て、俺は無駄な時間を過ごしていたんだなと気付いたんだ」
「それで、結婚までしちゃったと?」
照れながら頷くキーファー。
嬉しく思う反面、ムカつくという思いもある。
「商人って言ってたけど、お前達は何処と取引してるんだ?」
「帝国や連合、長浜を中心に動いてました。ちなみに規模が大きくなってからは、王国とも取引をしています」
「許してもらえたの!?」
「実は私達、今は違う名前で活動してまして」
あー、それで分からなかったのか。
でも間違っていないかもね。
王国の王子が追放されたのは、耳聡い商人達ならすぐに分かる。
キーファーとターネンだって名乗れば、追放された元王子かと足元を見てくる連中も居ただろう。
「今俺がキース、弟はロスと名乗っている」
「スミス兄弟かよ」
「なんか言ったか?」
スミス兄弟は、かつてイギリスとオーストラリアを飛行機で初めて飛んだ兄弟である。
まあ日本人からしたら、そこまで有名な兄弟ではない。
しかも微妙な話で、兄と弟でイギリスとオーストラリアと別々の空軍に所属していたりする。
その点を考えると、二人がこの名前に変えたのも、運命を感じなくもない。
「まあ良いや。それじゃあ鳥人族達は、今はキースとロスの手伝いをしてる感じ?」
「そうですね。やはり秀吉のせいで、彼等も長旅がしづらい環境になっているようでして」
「帝国とお前の戦争だけなら、分かりやすかったんだがな。今は魔族もヒト族も、入り乱れて敵味方になっている。たまに変な賊に絡まれて、強奪されたりしたんでね」
「そりゃ大変だったね。早めに終わらせたいのは山々なんだけど、今は僕達も余裕が無くてね・・・」
僕が微妙な事を言ってしまったからか、皆無言になり空気が重くなってしまった。
そこでキースがそんな空気を変えるべく、僕に話題を変えた質問をしてくる。
「さっき上で、ここに来た理由がついでみたいに言ってたけど」
「つ、ついでではないよ?」
「嘘言え。だったらもっと早く来るだろうが」
キースめ、せっかく鳥人族の印象を良くしようと思ってたのに。
「実は、岐阜城を探してるんだ」
「岐阜城?あの初代魔王が居城としていた、岐阜城ですか?」
流石はターネン改めロス。
魔族嫌いの国と言っても、信長の事はキッチリと知識にあるようだ。
「その岐阜城。もうとっくの昔に廃城になってるから、残ってないかなとも思ってるんだけど」
「ありますよ」
「あるの!?というか、知ってるの!?」
やった!
ここに来て正解だったじゃないか。
「実は最初に、あの城を利用させてもらおうと考えていたんだ。古いが何故か街ごと残っていたからな。だが、それも調べているうちにやめた」
「どうして?」
僕が理由を聞くと、キースの顔色が一気に悪くなった。
見かねたロスが、これまた同じように顔色を悪くしつつも、続きを話してくれた。
「古いだけあって、夜になると不思議な事が起きるんです。初期の商団メンバーも、それがキッカケで体調不良が続出してしまいまして」
「不思議な事とは?」
「夜になると、無表情の自分と出会うんです。私は恐怖で動けなかったんですが、恐怖感が増すと向こうは笑顔になって迫ってくるんです。あんな場所、生活出来ませんよ」




