ケモノの情報
ケモノと対話とか、普通なら無理でしょ。
オケツから教わった方法は二種類。
一つはケモノとの対話。
そしてもう一つがケモノとの対決になる。
幽霊とか化け物との対決って、何をするんだろう?
するとオケツは、戦うだけが勝負じゃないと教えてくれた。
まあね、それは分かるんだよ。
普通は幽霊なんて、触れないんだから。
殴り合いも斬り合いも、出来るわけが無い。
だから僕の中では、ある意味平和的な戦いになるんじゃないかと思った。
それに対して対話があるみたいなんだけど、こっちの方が難しいんじゃないかと思うんだよ。
例えば話をしたとする。
ケモノである彼または彼女が、何を求めるのか。
そっちの方がハードルが高い気がする。
オケツは例えに料理人の話を出してきた。
じゃあ中には、他の職種っぽい人も居ただろう。
しかしケモノは、強い気持ちが無いとなれないと思うんだよね。
何の未練も無い人が、ケモノになるとは思えないから。
じゃあ間違って、下着ドロみたいな人がケモノになったとしよう。
お前に力を貸す為に求める物は一つ。
それはギャルのパンティーだ!
なんて言われたら、どうしますか?
ギャルにパンティーもらいに行く?
それとも誤魔化して、オバさんのパンツ渡してみる?
まあ下着ドロのケモノの力なんか、普通は借りたいと思わないけど。
でも下着ドロの特性として存在感が希薄になるとか、暗殺向けの力を授かる可能性は否定出来ないよね。
かなり適当に言ってみたけど、対話をしたらそんな事を求められるかもしれない。
対決は対決でかなりハードルが高いものもあるけど、変わった勝負だと暗算勝負とかあるみたいだ。
そういう変わり種は、ヌオチョモとかが挑んでいそうだと思ったら、まさにその通りらしい。
対話も対決も、一筋縄ではいかない。
でも、もし僕達がケモノの力を宿したら、魔法以外の力を得られる。
秀吉を倒すのに、大きな一歩になるんではなかろうか。
言われて気付いた。
確かに信長を筆頭に、あの人達の力を借りられるなら、かなり大きなアドバンテージだと思われる。
だが太田が、それに待ったを掛けた。
「あの地は禁足地ですよ。いくら魔王様とはいえ、変な理由で行くのはどうかと思われますが」
「亡くなった歴代魔王の力を借りられるとしたら?」
「それは!大きな魅力ではありますが・・・」
理由を聞いても、太田はあまり乗り気ではない。
蘭丸は助けてくれる可能性があるなら、良いんじゃないかという考えみたいだが。
迷ったらここは一つ、年長者の言葉を聞いてみる事にしよう。
それにある意味、関係者でもあるからね。
「何用じゃ?」
お市は僕が尋ねると、少し不機嫌そうだった。
タイミングが悪かったかな?
「あのさ、信長や歴代魔王の力が借りられると言ったら、借りた方が良いと思う?」
「何?」
怪訝な顔で聞き返してくるお市。
僕はケモノの宿す方法などを伏せながら、オケツから聞いた話を彼女に話した。
「で、お市はどう思う?」
「借りられるのなら、借りても良いとは思う」
やった!
娘公認なら、親父である信長も手を貸してくれるかも!?
だがお市の言葉には、続きがあった。
「しかし妾個人の考えであれば、それはしない」
「何故?」
「彼等は既に息を引き取った。そんな故人を使って戦うというのは、あの下衆なネズミ共と同じ所まで堕ちた気がするのじゃ」
「なるほど」
確かに彼女の言い分も分かる。
死んでなお、戦いを強いられる存在。
僕の場合は強制ではないにしろ、お市からしたら亡くなった父を無理矢理引っ張り出されてきた感が、否めないんだろう。
良いんじゃないかと言った口とは裏腹に、顔はあんまりやってほしくないと言っている気がするし。
「やめとこうかな。やっぱり現世の事は、現世の人間が解決するべきだよね」
「妾はお前の意見を尊重するぞ」
「うん。やめておくよ。その代わり、お市が知ってる怪談話みたいなものってある?」
「怪談話?」
歴代魔王を諦めるのだ。
だったら僕が知りうる限り、二、三番目に長生きをしているお市に、そんな話を聞いてみたい。
彼女が知っている話なら、相当古くからある話もあるだろう。
長い年月が経っているなら、それだけ力もありそうな気もするんだよね。
「怪談話と言われると、知らんな」
「知らないか」
「だが、不思議な話なら知っている」
「詳しく!」
お市が知ってる話なら、参考に出来る気がする。
だから怪談話じゃなくても良いや。
「アレは妾が小さい頃、街中である噂が立ったのじゃ」
「どんな噂?」
「夜に出歩いていると、自分と同じ人間を見掛けるというものじゃ。そして自分を見た者は・・・」
「怪談じゃねーか!」
怖っ!
お市の話し方が上手くて、引き込まれてしまった。
人形の姿だから良かったけど、生身だったら冷や汗で顔色悪くなってたところだよ。
「ちなみにあくまでも噂じゃ。自分と同じ姿の者を見ても、死にはせん。気味悪がって体調を崩した者は、多かったみたいだがな」
「その言い方だと、実話なの?」
「そうじゃな。城の者も何人も見たと言っておったしの」
マジか!
やったぜ。
だったら、この城の周りを探せば・・・待てよ?
「小さい頃って言ってたけど、もしかして越前国じゃない?」
「当たり前じゃ。まだ妾が父と住んでいた頃の話じゃからな」
「信長と一緒に住んでいた城?」
そんなのあったら僕が魔王になった時、真っ先に勧められるよな。
もしかして現存していない?
「ちなみにその城は?」
「とっくに廃城となっておるわ。主人を失ったのだから、街も残っていないだろうな」
「駄目か・・・」
「だが、あった場所に行きたいのなら教えるぞ」
「覚えてるの!?」
「当たり前じゃ。そこまで耄碌しておらんわ」
何百年も生きてるのに、耄碌しないのもどうかと思うけど。
だけどそれが今回は助けられたな。
「教えてほしいんだけど、行ける場所?」
「それじゃ、帰るね」
「ワタクシ達も、今から騎士王国に向かいます」
太田達の所に戻った僕は、一旦砦に戻る事にした。
その間に準備を進めていた三人も、ウケフジ領へ旅立つようだ。
「一応手を貸す約束にはなってるけど、あまりに理不尽な命令だったら跳ね除けてくれて良い」
「オケツ殿なら、そんな命令はしないと思いますけど」
「素人の帝だと、分からないでしょ」
「なるほど」
まあトキドとウケフジ、タツザマも居る事だし、問題は無いと思うんだけど。
念の為、言っておかないとね。
「僕も特訓を休んできてる手前、時間を取り過ぎると怒られる。簡単で悪いけど、ここらで戻るから」
挨拶もそこらに、僕はすぐに砦に空間移動した。
「遅いぞ!」
到着して最初に耳にしたのが、兄の怒鳴り声である。
軽くイラッとしつつ、まずは謝っておいた。
「謝ったついでに言っておくけど、またすぐに旅立つよ」
「何?そんなのは許さないぞ。秀吉達がいつ動くか分からないんだ。そんな勝手は許されない」
「騎士王国の騎士と同じ力を、手に入れられると言っても?」
不機嫌だった兄は、その言葉ですぐに手のひらを返した。
「え?それって俺達が、宿れ!って言ったらケモノが宿っちゃう感じ?良いじゃない!で、何処に行くの?」
「切り替えが早いな!まあ今回は、兄さんも一緒に行った方が良いかなと思ってね」
僕はまず、元の身体に戻った。
急いでいる手前、僕の魔力量の残りが少ないので、兄の魔力も使いたかったからだ。
【え?早速行くの?官兵衛とコバには伝えた方が良いんじゃない?】
もうすぐ夜になる。
官兵衛には報告しておくけど、コバは説明するのが時間掛かりそうだからパスだな。
【夜だと何かあるの?】
急がないと、帰るの遅くなるだろ。
フヒヒ。
兄にはまだ、ケモノの正体を教えていないからね。
二人で行くのも、それが理由なんだけど。
ハッキリ言うと、一人で行く勇気は無い。
怖いものは怖い!
「というわけで、悪いんだけどもう一度出てくる」
「ケモノの力ですか。・・・もしかしたら、魔王様の特訓のヒントになるかもしれませんね」
案外肯定的に認めてくれた官兵衛だが、どうやら行き詰まった僕の特訓の役に立つと読んでいるらしい。
実際そうなってくれたら嬉しいけど、個人的にはただ単に現実逃避で外に行きたいだけとも言う・・・。
【それで、何処へ行くんだ?】
それは今からのお楽しみ。
僕がまず空間移動で訪れたのが、燃え落ちた大きな木の前だった。
【ここは、もしかして越中国か?】
ここまで酷いとは、僕も予想してなかった。
生きている人が居る気配は無い。
木の下にあった街も、今では下敷きになって跡形も残っていない。
「ここから南に行くよ」
【越中国から南?何かあったっけ?】
越中国から西側に行くと、帝国の治める領地になる。
だがお市がまだ小さかった当時は、帝国なんて国は無かったらしい。
他のヒト族の国はあったみたいだけど、信長によって統一されて、お市は名前も覚えていないという話だった。
そしてこの南には、かつて信長が治めていた国があり、そして信長と幼かった頃のお市が住んでいたという、城があるらしい。
【らしいというのは、どういう意味だ?】
「お市が言うには、信長が亡くなってからその息子であるフエンが、次の城主になったという。だけどその次のジルバは、その城を捨てて違う場所に移り住んだらしい」
【どうしてそんな面倒な事を?】
「理由は簡単。近くに国が作られたからだ。戦争をして勝ち取るという手もあっただろうけど、ジルバはそうはしなかったみたいだね」
その近くの国というのは、多分帝国かその流れを汲む国なんだろう。
今は越中国もあるけど、当時はどういう勢力図なのかは、僕もよく分からない。
【ちなみに、何があるんだ?】
「分からない。というのも、廃棄されてから何百年も経ってるわけで。誰かが住んでいない限りは、風化して何も残っていないんじゃないかな?」
【な、何も残ってない!?】
まあ行ってみない事には、分からないけど。
もしかしたら残ってるかもしれないし、何も無いかもしれない。
というより残っていたら、それこそ怖いんだけど。
「いや、可能性あるな」
【何故?】
「誰も知らないって事は、それだけ誰も来なかった土地でしょ。それって盗賊とか山賊からしたら、絶好の隠れ家じゃない?」
【なるほど。一理ある】
「むしろ僕としては、盗賊とか居た方がありがたい。だって奴等は、生きてるし。得体の知れないワケの分からんモノよりも、はるかに安心出来るわ」