希望選択選手
要は取り憑かれるって意味じゃないか。
オケツは僕に、騎士王国の秘密であるケモノの宿し方を、手を貸すのを条件に教えてくれた。
しかしそれは予想外にも、獣ではなく化物の方だとは思わなかった。
わざとバケモノとは呼ばずにケモノと呼んだり、虎や龍と呼んだりしているしているのは、騎士王国の人間以外に悟られないようにカモフラージュするという意味もあるのかもしれない。
しかしケモノが、動物以外に人も居るというのは驚いた。
しかも幽霊と同じみたいなものなのだ。
ちょっと考えると、ゾッとする話である。
だって考えてみてほしい。
例えばオケツやボブハガー、トキドやウケフジといった連中は、おそらく有名なケモノを宿していると言えるだろう。
名前がカモフラージュだとしたら、宿しているケモノは全くの別物の可能性もある。
麒麟や紅虎という名前なだけで、実はろくろ首やお岩さんだったみたいな感じかもしれない。
もしくは過去の有名な騎士の幽霊とかね。
多分有名なケモノというのは、その地に由来しているから皆も何処に居るか知っているんだと思う。
じゃあ知らない無名なケモノは?
どんな存在なのかも知らない、そんな幽霊だって居るはず。
夜な夜な全裸で走り回る変態が、野犬に襲われて股間を噛まれて死んじゃったって可能性だってあるわけだ。
そんな人なら恨みや恥ずかしさから幽霊になる事だって考えられるわけで、本人の意思とは関係無く、知らず知らずのうちにケモノと化している可能性だってある。
もしそんなケモノだと知らずに、宿してしまったら?
宿れ〇〇!って叫んだ瞬間、全裸になっちゃうの?
そんなの最悪でしょ!
いや、そんな奴程凄い能力がある。
わけが無いよね・・・。
ケモノの正体はある程度分かった。
ただコイツ、肝心な事は教えてくれない。
ケモノの力をどうやって手に入れるのか。
そして何処に居るのか。
もしかして情報を小出しにして、僕から有利な条件でも引き出そうって考えなのかな?
そういう考えなんだったら、こっちにも考えがある。
「それじゃまず、やり方を教えてもらおうか?」
「まあまあ。まだ時間も早いですし、一服でもしませんか?」
オケツの野郎、喧嘩売ってるのか?
この身体を見て、よくそれが言えるな。
「あのさ、人形に対して一服って、僕に何をさせたいの?口元にコーヒーでも持っていって、飲むフリでもしろと?」
「あっ!そういうつもりじゃなかったんです!すいません!」
めちゃくちゃ謝られた。
腹芸が苦手な男だなぁ。
身構えた僕が馬鹿みたいじゃないか。
「ハァ。確かにオケツ一人に話してもらってるからね。お茶でも飲みながら、ゆっくり話してよ」
「あ、ありがとうございます」
主導権が一気にこっちに傾いたな。
まあオケツは駆け引きとか苦手だろうし、このままゆっくりと情報を引き出させてもらおう。
「どう?落ち着いた?」
お茶を飲んでから茶菓子を口にしたところで、僕は話しかけてみた。
オケツはマッタリした顔で頷く。
「色々あったみたいだし、気を張ってたんだろう。ゆっくり話してくれれば良いから」
「ありがとうございます。そうですね。まさかお館様とハッシマーが、手を組んでくるとは思わなかったので。気を張ってたのは事実です」
「主君と仰いでた人が急に復活して、敵になるんだもんな。気持ちは分かるなんて軽々しく言えないけど、同情はするよ」
「私はあの方の運命を変える為に、色々な世界を回ってきたというのに。このパターンは初めてですよ」
そういえばオケツは、本能寺の変を起こさないで、信長が殺されないようにしようとしてたんだったな。
今回も失敗したけど、ようやく前向きになれたというのに。
この仕打ちは確かにキツイものがある。
「なあ、ボブハガーと戦えるのか?」
「分かりません」
「秀吉側についたのは聞いてる。悪いけど、僕達なら確実に息の根を止めるよ」
「それは・・・やるなら私がやります。相討ちになったとしても」
まさかコイツ、一緒にボブハガーと死ぬつもりか?
そうなれば、新しい世界にまた行けるって考えじゃないだろうな。
「お前、それはやっちゃ駄目だぞ。帝やトキド達って仲間が、居るんだから。もし死んだら、それこそ羽柴秀長をとっ捕まえて、絶対に生き返らせるからな」
「ハハッ!それは嫌だなぁ」
「嫌なら死なないようにしないとね。その為にも、僕達も手は貸すと約束する。だからケモノの力に関して、教えてくれる?」
「ズルイ言い方だなぁ。まあ、元々教えるつもりだったんで、良いんですけどね」
オケツは張り詰めた気持ちが緩んだのか、いつものゆるい顔になって話し始めた。
「ケモノの力を手に入れるには、大きく分けると二つあります。一つは対話を試みる事。ケモノが比較的温厚なら、それでも協力してくれるようになります」
「それは人の形じゃなくて、動物タイプでも?」
「そうですね。言葉は通じなくても気持ちが通じるというか、分かるみたいですよ」
驚いたな。
動物と対話とか言われたから、そりゃ無理だろと思ったけど。
動物じゃなくて、動物霊だから大丈夫なのかな?
「でも温厚だと思ったら、実は罠でしたってパターンもありますから。油断は出来ないですけどね」
「怖い事言うね!」
クーンって鳴いてるから手を出したら、噛んでくる小型犬と変わらんぞ。
やっぱりケモノは化物だし、気を抜くなって話なんだろう。
「そしてもう一つが、ケモノを屈服させる方法です」
「屈服って、幽霊とか化物をどうやって屈服させるのよ?」
「それは様々ですよ。例えば麒麟の場合、待つんです」
「待つ?何を?」
「麒麟をひたすら待つんですよ。ある土地に居るのは、皆知っているんです。でも自分から姿を現すまで、手を出したら駄目なんです」
何じゃそりゃ。
公明の三顧の礼みたいな感じか?
「どれだけ待ったの?」
「三年待ちました」
「えっ!」
「食事をする時以外は、ずっと同じ場所に居ましたね」
マジかよ。
麒麟って結構凄いとはケモノだとは思ってたけど、そりゃ凄いな。
ボブハガーに対する気持ちも同じだけど、忍耐と一途さって意味では、オケツが麒麟に選ばれたのは必然だった気もする。
「他には?」
「変わり種だと、ひたすら魚の名前の漢字を書いていくとか」
「・・・それ、強いの?」
「強くはないです。でも料理を作らせたら凄かったらしいです」
「どうして過去形?」
「既に亡くなっているので。料理は凄い上手なんですけど、騎士としては強くないので・・・」
なるほど。
後継者が居ないってワケね。
料理が上手くなっても騎士として強くなれないなら、あんまり希望する人は居ないかもなぁ。
「方法は分かったけど。肝心な場所はどうなのよ?」
「それはさっきも言った通り、ご自分で探して下さい。それとも今言ったケモノの所でも、案内しましょうか?」
「それはちょっと・・・」
やっぱり駄目か。
というより、オケツやトキドレベルのケモノを相手にしようとすると、それだけ時間も掛かりそうだし。
言われた通り、自分で探した方が確実かも。
「分かったよ。自分で探してみる」
「魔族にも伝承とか無いんですかね?この地に近寄ったら駄目だとか、見たら逃げろとか」
「聞いた事無いなぁ。とは言っても、僕が聞かなかったのもある。皆に聞いてみるよ」
「それじゃ僕は戻るよ」
「送っていかなくて大丈夫ですか?」
「一瞬で戻れるから。見送りも要らないよ」
「あっ!」
そのまま砦に戻ろうかなと思ってたら、オケツに肩をおもいきり掴まれた。
「何?」
「だ、誰が来てくれるんでしょう?」
「・・・あぁ!」
本気で忘れてた。
流石に申し訳無い気持ちになってきた。
「ちなみにどんな人が良いの?例えば魔法が使える人とか、力が強い人とか」
「そ、そんな希望通るんですか!?」
「言うだけ言ってくれると、参考にしやすいかな」
まあそうは言っても居ない人は無理だし、送れる人も限られるんだけどね。
「と、とにかく継戦能力がある人が良いですかね」
「継戦能力?それは軍や小隊を率いれる人が欲しいって意味?」
そうなるとイッシーやゴリアテとか、かなり限られる。
悪いがこっちもかなり重要なメンバーなので、その要望は応えられないな。
「ち、違います!もっと単純に、タフでずっと戦える人というか」
「あー、そっちね」
だったら話は早いな。
ん?
そういえば慶次がムッちゃん連れてきてたような。
「太田とムッちゃんは?」
「ムッちゃんとは?」
「えーと、タケシって言った方が分かりやすいか」
「そ、それって帝国に許可取らなくて良いんですか?」
・・・どうなんだろう?
でも僕達に手を貸すように来てくれたんだから、構わないでしょ。
「事後報告で済ませる!」
「怒られても、私のせいにしないで下さいよ」
「お、おう!」
でもヨアヒムが怒って、呼び戻すとか言われても嫌だな。
んー、官兵衛もどうせ送るつもりだったって言ってるし、もう一人追加しちゃうか。
「ええい!大盤振る舞いだ。慶次も一緒に連れてけ!」
「い、良いんですか!?」
「その代わり、ボブハガーとハッシマーをさっさとぶっ倒してくれると助かるんだけど」
「が、頑張ります!」
満面の笑みのオケツと別れた僕は、すぐさま越前国に戻った。
「というわけで、太田と慶次。そしてムッちゃんには、騎士王国でオケツ達と一緒に、ボブハガーとハッシマーを倒してほしい」
「俺も?越前国は大丈夫なの?」
ムッちゃんの心配も分かる。
だから僕は先に手を打っておいた。
勝手に決めて怒られると嫌だから、三人に話をする前にお市には連絡済みなのですよ。
「問題無いよ。幸い秀吉は越前国への手は、緩めたみたいだから」
逆に騎士王国への攻撃が厳しくなったけどね。
要は三人には、激戦区に行ってもらう事になるわけだが。
それを敢えて言う必要は、無いかなと思う。
「それでは諸君、頑張ってきてくれたまえ」
「なんか投げやりだなぁ」
「そんな事は無いよ!オケツの希望だからね。期待されてると思ってほしい」
「そうなんですか?オケツ殿がワタクシ達を」
これは本当の事だし、嘘は言ってない。
でも慶次とムッちゃんの目は、僕を怪しんでる。
最近彼等には、あっちこっち行ってもらってるからな。
でも二人の代わりになるのは、ゴリアテくらいしか考えられなかったし。
それは無理なので、頑張ってもらうしかない。
「それで、お前は砦に戻るのか?」
「そうそう。戻る前に聞かないといけなかったんだ。あのさ、魔族の中で近寄ったら駄目な場所とか、コイツを見たら逃げろみたいな奴居る?」
太田と慶次は顔を見合わせた。
しかしそんなの知らんといった感じだ。
ムッちゃんも知るわけもないし。
すると横から蘭丸が聞いていたらしく、口を挟んできた。
「お前、どうしてそんな簡単な事を思いつかないんだ?」
「え?」
「あの洞窟なら、そんな方々が沢山居るんじゃないのか?」
「ハッ!?歴代魔王か!そういえばアレも、ある意味幽霊だな。行ってみるしかない!」