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気分転換

 箔が付くという事かな?


 騎士達はこぞって、帝を自分の領地に招き入れようとした。

 そりゃ国のトップである帝が自分の領地を選んでくれたら、そりゃ嬉しいだろうね。

 日本では例えるなら、天皇陛下や総理大臣が自分の家に来る感じかな?

 いや、飲食店に食べに来ると考えた方が、良いのかもしれない。

 ただどちらにしても、陛下や総理が食べに来るなんていうのは考えられない。

 だから大物芸能人や自分が好きな芸能人くらいが、丁度良いのかもね。

 好きな芸能人が食べに来てよと勧誘したら来てくれたと考えると、そりゃテンションは上がるわな。

 ただし!

 彼等はその先を、考えているのだろうか?


 前述した通り、飲食店に芸能人を呼ぶくらいなら問題は無いだろう。

 しかし今回の話は、帝を滞在させるのが目的となる。

 それって単純に、帝に相応しい住居を用意し、更には彼が満足出来る食べ物を毎日出さなくてはならないという事になる。

 僕に騎士王国の食糧事情は分からないけど、皆はそれをクリア出来ると自負しているのだろうか?

 これがヌオチョモなら海外との取引もあるし、帝は喜んだりするんだろうけど。

 他の人達はどうなの?

 家族は了承しているの?

 いきなり自分の会社の社長を自宅の宅飲みに呼んだとして、家族はそれが分かっているの?

 下手をすれば呼んでおいて、やっぱり無理でしたのパターンもありそうだけど。

 それって逆に、自分の領地を貶める事になったりしない?


 あくまでも個人的な意見だけど、突然の接待って難しいと思うんだよね。

 もし上手くいったなら、そりゃ成功が約束されるのは分かる。

 だけどそれには、大きなリスクも伴うというのを忘れちゃ駄目だと思う。

 もし帝が来たとしても、彼がこの領地は駄目だなって印象を持たれたら、逆に信用は一気に落ちる事になるんだから。

 だから僕は、こういう事は遠巻きに見ているのが一番だと思っている。









 目から鱗が落ちたような気持ちだった。

 オケツはケモノの宿し方を教えるだけ。

 あくまでも教えるだけで、騎士王国で試させるわけではないのだ。



「まさかトキド殿に言われて、気が付くなんて・・・」


「不覚でしたね」


「おいおい。俺、バカにされてない?」


 タツザマとウケフジが頭を抱えて言った事で、トキドもどんな気持ちで言われているのかは想像が出来た。

 しかし他の騎士達も、トキドの話を聞いて賛成に回った事で、話は有耶無耶になった。



「それじゃあ皆は、騎士王の意見に賛成で良いね?」


「帝も賛成でよろしいですか?」


「そうだね。魔王なら悪用しない気がするし、良いと思う」


 全員一致で賛成すると、ここで彼等は一旦解散する事になった。








 解散した騎士達は、主に二手に分かれた。

 西側に領地を持つ騎士や領地を持たない騎士は、このままウケフジ領へ。

 そして東側に領地を持つ騎士は、いつでもウケフジ領に駆けつけられるように話を通していた。

 その結果、タツザマはウケフジ領へ行く事になったが、トキドは自分の領地へと戻る事となった。



「うぅ・・・。ウケフジめ、上手くやりやがって」


「私が決めたんじゃないんですが」


 トキドが恨めしそうにウケフジにボヤくと、そんなトキドに向かってオケツがあるお願いをする。



「トキド殿、仕事を頼んで良いですか?」


「仕事ですか?」


 オケツは魔王からもらった携帯電話を見せたが、それが繋がらない事を伝える。



「だからトキド殿には、一旦越前国へ向かってもらい、私が魔王様と話がしたいと伝えてほしいんです。それも早急に」


「なるほど。だったら今から国江で向かおう」


 トキドはすぐさま国江を呼び出すと、背中に乗って空に上がっていく。



「単純な奴だなぁ」


「わざとですか?」


「そういうわけじゃないけど。ウケフジ領でひと息してから向かうと言えば、少しは帝と一緒に居られたのにと思ったんだけど」


「まあ彼の中では、トキド領にどうしても来て欲しかったみたいなので。とは言っても、私の領地と隣接しています。帝が良ければ、向こうに顔を出してあげて下さい」


 ウケフジがそっとトキドをフォローすると、帝はそれとは裏腹に少し微妙な顔をする。



「そんなに嫌ですか?」


「嫌というか。ウケフジ以外の人って、大半が必死過ぎて怖かったんだよ。もし行ったら行ったで、過剰な歓待をされそうだし」


「フフ。今の帝の方が素敵ですよ」


「うっ!あんまりそう言わないでほしいな」


 苦笑いする帝。

 彼はマロやおじゃると言って、世俗の者とは違うところを見せていた。

 だが自然体の帝は他人への気遣いが出来ているし、ウケフジは守るならこっちの方が良いなと素直に話した。

 我慢して話していた分、自分が馬鹿みたいに思えて笑ってしまったのだった。



「どうです?まだ先は長いですから、普段の帝の話が聞きたいですね」


「普段の話か・・・。まあ気が向いたらね」


 帝は思った。

 普段の自分は、DJやってるだけの引き篭もりなんだよな。

 そんな事を口が裂けても言えない彼は、敢えて誤魔化すのだった。









「魔王様にお話ですか?」


 越前国に滞在している太田は、騎士王国から飛んできたトキドの対応に当たっていた。



「どうしても、早急に話がしたい」


「ゴリアテ殿、どう思われます?」


 必死なトキドに対して、太田は疑問を抱いた。

 しかしトキドは、戦友と言っても良い人物。

 自分の判断だけでは難しいと考えた太田は、ゴリアテにも意見を求める。



「理由を教えてもらっても?」


「・・・騎士王国に、魔族を派遣してもらいたい」


「それは難しいですよ!ワタクシ達も余裕がありませんから」


「だから、直接お願いしたいんだよ!」


 トキドはボブハガーとハッシマーが復活した事を、二人に伝えた。

 驚いた二人だったが、現状では騎士王国内での話になる。

 余裕が無い彼等に、ボブハガー達は騎士王国内で対応してもらうのがベストだと考えた。



「いやいや、無理だ。それにもし魔王様が耳にすれば、同情して承諾しかねない」


「ゴリアテ殿の言う通りですね」


「そこをなんとか!」


「そうは言われても・・・。無い袖は振れないと申しますか。ワタクシ達も余力がありませんので」


「別に良いんじゃないですか?」


 太田とゴリアテが渋っていると、後ろから声がした。

 三人は振り返ると、そこには魔王と一番懇意と言っても良い蘭丸が立っていた。



「蘭丸殿、勝手な事は言わないで下さい」


「だから、本人に聞いてみれば良いんだよ。冷静な方のアイツに聞けば、無理なものは無理って言う。だけど俺達にも騎士の力が必要だと思うなら、手を貸すって答えるさ」


「そ、そうですけど・・・」


 やはり歯切れの悪い二人に対して、蘭丸はトキドに向かって連絡を取っても良いと言った。



「ほ、本当か!?」


「ただし!俺達に先に聞かせてほしい。騎士王国は俺達が手を貸したら、何をしてくれるんですか?」


「う、うーん」


 トキドは魔王以外に、ケモノの宿し方に関して話しても良いものか悩んだ。

 しかし蘭丸が、せっかく取り次いでくれると言っているのだ。

 彼は意を決して、誰にも言わない事を条件にそれを話した。



「良いか?絶対に誰にも言うなよ?魔王様には騎士王国の秘中の秘である、ケモノの宿し方を教えるつもりなんだ」


「そ、そんな大事な事!良いんですか!?」


「だから俺達も、それくらい必死なんだ。教える意味が分かるだろ?」


 トキドが大袈裟に身振り手振りをしてみせると、流石に太田とゴリアテも観念したのか、蘭丸に電話をするように指示を出した。








「あん?トキドが会いたいって言ってる?」


「お前じゃなくて、もう一人の方にだな」


 蘭丸は電話に出た兄ではなく、弟に用件があると伝える。

 すると電話の先から、悲鳴が聞こえてきた。



「ヒィィィ!もう無理だあぁぁぁ!!」


「諦めんな!やれば出来る!」


「うっさい!この脳筋が!出来ないものは出来ないんだよ!」


「黙ってやれ!お前にはそれくらいしか取り柄が無いんだ」


 明らかに魔王が、誰かと喧嘩をしている。

 それが電話越しに聞こえた四人は、何事かと耳を澄ましていた。



「おう、すまんな」


「な、なんか揉めてたけど」


「今、弟の特訓中なんだ。だからそっちには行けないんだわ。うわっ!お前!」


 どうやら向こうで電話を落としたらしい。

 受話器部分からノイズが聞こえると、奪い合いでもしたのか、電話の相手が変わった。



「僕に用だって!?行く行く!すぐに行く!越前国だな?」


「お前、特訓をすっぽかすつもりか!」


「うっさい!バーカ!気分転換くらいさせろよ!」


「何だと!頭でっかちが!」


「言ってろ!さらばだ!」


「あっ!逃げやがった!」


 電話の先で何か言い争いをしていたが、突然電話がまた落ちたような音がした。



「おーい!どうなってるんだ?」


「あぁ、悪い。アイツ、人形の姿で越前国に向かったっぽいから。もう俺からは何も出来ん。そっちで何とかやってくれ」


「へ?」


「俺は俺で、少しやる事があるから。用件はアイツだけだろ?じゃあな」


 勝手に居なくなった事でイラついたのか。

 一方的に話して、電話を切られてしまった。



「こ、こっちに来てるみたいだけど」


「は?」


 蘭丸に説明をされた三人は、辺りを見回す。

 しかし何処にも、魔王人形が居る気配が無い。

 と思われたその時、城の方が急にざわつき始めた。



「行ってみよう」








「ちょっと待って!」


「ええい!怪しい奴!」


「突然現れたのは謝るけど、魔王だから。僕、見た事あるでしょ?」


 城の衛兵に囲まれている何かが居る。

 太田とゴリアテが衛兵に割って入ると、そこには確かに人形の姿をした魔王が立っていた。



「魔王様!」


「太田!ほらね。魔王だったでしょ」


 間違っていない事が分かったからか、衛兵達は謝罪してからまた元の配置に戻っていった。



「お前、何で一人で来たんだ?」


「一人じゃ駄目なの?僕に用があるんでしょ?」


「駄目ではないですが。トキド殿、よろしいですか?」


「人形でも魔王様なんだよな?だったら問題無い!」


 トキドは食い気味に太田の言葉を遮ると、すぐに人形の前に出た。



「な、何?そんな勢いで来られると、怖いんだけど」


「魔王様!」


 地面に正座をしたトキドは、姿勢を正して頭を下げる。



「今回は騎士王の代理として、魔王様にお願いがあって参りました。豊臣秀吉との一件は、こちらでも重々承知しています。それを承知で言わせてもらいますが、騎士王国へ魔王様達の手を貸していただけないでしょうか?」


「無理でしょ」


「早いよ!まだ続きあるんだよ!」


 人形にたった一言で断られると、トキドはいつもの調子に戻った。



「んで、続きって?」


「もし力を貸していただけるなら、騎士王から特別な御礼があります」


「オケツから?また帝のライブとかだったらキレるよ?」


 うんざりしたような声で魔王が言うと、トキドは人形に近付いて、小声でこう言った。



「騎士みたいに、ケモノ宿したくないですか?その方法、騎士以外に初めて教えますよ?」


 人形の首がグイッと急に回ると、トキドはビックリして尻もちをつく。








「何それ、面白いね!もう少し詳しく!」

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