ハッシマー現れる
死んだ人の声が聞こえるって、どうなんだろう?
ボブハガーは秀吉の本心を聞いて、手を貸す事にした。
世界の破壊と創造。
彼がやろうとしている事は、神と同じだと言って良いだろう。
しかし彼は、そんな神と同じにされると激怒すると思われる。
まあ彼等の受けた仕打ちを聞く限り、分からなくもないけど。
とは言っても、秀吉にはあまり同情は出来ないな。
魔法が使えるようになりたいと願って、実際は魔法が使えるんだから。
別にネズミ族だって、毛嫌いする程かと思える。
しかも信長のせいでトップに立てず、明智光秀の居ないこの世界は、信長の子孫が脈々と魔王を歴任してきた。
要は日本と違い、秀吉にはトップに立つ次の順番が来なかったのである。
でもだからと言って、世界を壊して良いはずも無いし、そもそも魔王になりたいなんて考えは、彼の場合は自分の好き勝手にしてみたいというのが見え見えなのだ。
だから僕には、自分の好きなように世界を動かせないから、破壊と創造と言っているように聞こえる。
しかし、少しだけ見直した点もあった。
それは世界から疎外された、彼の仲間達を受け入れられる世界にしようという考えだ。
秀長はネクロマンサーとして、死人を蘇らせられる能力がある。
考えてみてほしい。
そんな人が同じ町に住んでいたら、普通の人なら怖いと考えるよね。
自分の祖父母が亡くなったと思ったら、翌日彼に蘇らせられたりしていた。
そんな事を考えたら、何考えているんだと怒ると思う。
でもそんな彼も、能力を使わなければ普通の人と変わらない。
ただのネズミ族だと言える。
だけど彼の耳には、死人の声がずっと聞こえるという。
その話をしただけでも、受け入れない人は出てくるだろう。
ただね、これがもし地球であったならどうだろうか?
仮定の話だけど、秀長や他の転生者達はこの世界より生きやすいんじゃないかな?
今の世界は、多様性という言葉を使い、LGBTQというのを受け入れる世界になっている。
これは性に関する事だけど、秀長達みたいな人達が他にも居ると思う。
彼等にとっては、魔法や異能が使える世界よりも今の地球の方が、生きたいと思えるかもしれないね。
「う、うおぉぉ!凄いな!」
秀吉は声を上げて興奮していた。
信長の背中から大きな獅子が浮かび上がり、その獅子は彼の後ろに立つと、何かを訴えるように大きく吼えた。
物凄い威圧感に、耳を塞いでいたはずの秀長はタタラを踏んで、ペタンと尻もちをつく。
「よし。これで良いだろう」
「な、何をしたんですか?」
「フッフッフ。私が説明してやろう」
何故かハッシマーが秀長に対し、マウントを取らながら胸を張って言ってきた。
秀吉も気になるのか、ハッシマーに早く言えと催促する。
「お館様の獅子の咆哮は、おそらく騎士王国全土に響いた。もしかしたら、越前国まで聞こえたかもしれない」
「声が聞こえたから、何だと言うんです?」
「お前、馬鹿だなぁ。さっき言っただろ。復活した事を知らせるって。お館様が復活したと知った連中は、どうすると思う?」
「あっ!さっき言っていた話は、ここに繋がるのか」
秀長はようやく理解した。
ボブハガーが復活した事で、オケツに不満を持っている騎士はこちらに味方してくる可能性が出てくるのだ。
まだ復活を知っている騎士はオケツとサネドゥだけだったが、今の咆哮を聞けば全騎士に知れ渡る。
国を割るというのは、不満の持つ騎士をこちらに引き入れる狙いがあった。
「今の咆哮が、北から聞こえたのは分かっているはず。不満のある騎士やワシに忠誠を誓っていた者は、必ずこの城に向かってくるだろう」
「分かりました。城の者に敵意が無い騎士には説明を求め、貴方に会いに来た騎士は迎え入れる準備を進めます」
「頼んだぞ。猿、お前も手伝ってこい」
「へい!」
秀長と共にハッシマーは城の中に戻ると、秀吉は改めてボブハガーを見た。
「お前のような男が、本来なら魔王と呼ばれるのかもしれないな」
「ハッハッハ!あのクソガキは、多分ワシでは勝てんよ。一度やり合った時、そんな気がした」
「それでも俺は、お前の方が相応しく見えるよ」
「魔族にそう言われるとは。褒められたと思って、喜んでおくとしよう」
二人はまた笑みを浮かべると、城に戻っていった。
「ウケフジ殿!どう思う?」
「やはり貴方も聞きましたか!」
ウケフジはキョートを馬を走らせている途中、空から降りてきたワイバーンに声を掛けられた。
勿論それはトキドのワイバーンである国江だったのだが、二人の目的は一つ。
騎士王国内に聞こえた咆哮である。
「新たな獅子の誕生か?」
「しかし獅子を宿せる人物が、そうそう簡単に見つかるとは思えませんが」
「何にせよ、急ごう。俺は先に行っている」
トキドは再び空に上がると、西へ飛んでいった。
トキドがキョートに到着すると、御所の前は騎士によってごった返していた。
しかしトキドのワイバーンが空から降りてくると、議論にヒートアップしていた彼等も、有力な騎士が来た事で少し冷静さを取り戻した。
「と、トキド殿!貴殿も聞いたか!?」
「あぁ。東側だけでなく、西でも聞こえたんだな。こりゃ俺達だけの勘違いでは、済まなそうだ」
トキドがワイバーンから降りるなり、いきなり声を掛けてくる騎士。
そしてトキドは、彼等から御所に入れない事を知らされる。
「どうして?帝はいらっしゃるんだろう?」
「何やら体調が悪いようで」
「であれば、オケツ殿が対応するのでは?」
「その騎士王から、反応が無いのだ」
「分かった。俺が代表して聞いてくる」
トキドが騎士達を掻き分けて御所の前に来ると、門衛が道を塞いだ。
しかし彼はその門衛に近付くと、無理矢理通ろうとした。
「トキド殿でもお通し出来ません」
「あ?」
「騎士王から、時間になるまで待てとの事です」
「時間?それは一体いつになるんだ?」
「もうまもなくです」
既に陽も傾いてきた。
このままだと辺りは暗くなってしまう。
すると中から門衛に報告があり、彼が扉を開けた。
「騎士王が皆様をもてなします。どうぞ中へ」
「もてなす?」
話を聞きに来たはずが、何故かもてなしの場になっている。
疑問に思いつつ、トキドを筆頭に騎士達は中へ入った。
大きな広間では、騎士王国では珍しい立食が出来るように準備されていた。
彼等は説明された通り、騎士王がやって来るまでここで立食会に参加する事となった。
勿論酒も振る舞われた為、彼等の口は軽くなり、もっぱら会話の中心は咆哮の話になっていく。
「どうして騎士王は何も言わないんだ?」
「まさか咆哮にビビったとか?」
「しかしそれを言ったら、騎士王だけではないだろう。我々だって、また獅子が内乱を起こすのではと思った者も居たはずだ」
「我々がビビっていると言うのか!?」
飲み過ぎた連中が一悶着起こすと、そこにウケフジとタツザマが間に入った。
「ウケフジ殿!」
「タツザマ殿も今到着ですか」
二人のオケツ派である有力騎士に囲まれた彼等は、オケツへの悪口とも取られかねない今の会話に、戦々恐々としながら去っていく。
「貴殿も聞きましたか?」
「その様子だと、西側の端にある我等タツザマ領でも聞こえたのに、ウケフジ殿の東側でも聞こえていたみたいですね」
「これは紛れもなく本物の獅子。しかも力を存分に発揮出来る人です」
まだ力を全て十分に発揮出来なければ、騎士王国全土に響き渡らせるなど不可能。
しかしお互いの領土まで聞こえたとなると、それは無いと判断した二人は、そんな人物が今まで何処に居たのかという疑問が湧いた。
「それをオケツ殿が発表するのでしょうね」
「それを待つとしましょう」
しばらくして皆も落ち着いた頃、ようやくオケツが姿を見せた。
その横には体調不良と言われていた帝も歩いており、何事かと騎士は驚いていた。
しかし神妙な面持ちで現れた騎士王に、この場に居る騎士の一部も不安に駆られた。
「皆さんこんばんは。どうもオケツです。今回の立食パーティーは楽しんでいただけたでしょうか?」
「騎士王、皆は本題を待っているでおじゃる」
「すすすすいません!では本題である、全土に響いた咆哮についてですが」
「それについては、ワシが説明しよう」
広間の反対側から、オケツの話を遮った人物が現れた。
いや、人と言って良いのだろうか?
その姿は異形であり、かつて魔王が持っていた人形に似た姿をしていた。
「その声は、ハッシマー!」
「は?」
オケツが睨みつけて叫ぶと、全ての騎士が後ろを向いた。
この得体の知れない人物が?
何を言っているのだとオケツを馬鹿にしたり、本気と受け取り慌てて距離を取ったりと、騎士の反応は様々だった。
「この姿では分からない連中も居る。では、この姿ならどうかな?宿れ、白猿」
「なっ!?その姿は!」
白猿を宿した人形は、かつてのハッシマーの姿へと変えていった。
「まやかしか!?」
「ワシのケモノ白猿は、他人のケモノと同じ能力を扱える。確か姿を変える能力を持ったケモノも、ワシはコピーしていたのでな。かつての自分の姿に変えさせてもらった」
「な、何と!本物だと言うのか!?」
オケツの本気の反応とハッシマーの能力。
この二つが合わさった時、騎士達は彼が本物のハッシマーだと察した。
「その者を倒せ!」
オケツは問答無用で騎士に命令すると、ハッシマーは両手を挙げて無抵抗の意思を見せると、大きな声で話し始めた。
「騎士の諸君!キミ達に朗報だ。皆も聞いただろう?あの獅子の咆哮を」
「き、聞きました!」
「ハッシマー殿はあの声が誰の者か、分かると言うのですか!?」
相手が本物のハッシマーだと分かった騎士達は、突然態度が急変する。
オケツが相手の時とは違って口調も丁寧になり、彼等はハッシマーに自らの疑問をぶつける。
それを聞いた彼はニヤリとすると、自分の事を指差した。
「この通り、ワシは一度死んでからこの姿で蘇った」
「蘇った?」
「そう!ワシが蘇ったのだから、他にも蘇った方が居る」
「奴に話をさせるな!」
オケツが反対側から叫ぶものの、やはり咆哮の使用者が気になる彼等は聞く耳を持たない。
そしてハッシマーの、巧みな話術に引き込まれていった。
「ワシが蘇ったのだから、あの御方も蘇っていらっしゃる。かつて獅子を宿した御方。アド・ボブハガー様だ」
「え・・・。それってハッシマー殿が・・・」
「聞かなくて良い!」
ざわめく広間にオケツが叫ぶが、誰も反応はしない。
しかし彼等は、ハッシマーの後ろに回り込む人物が居るのを見た。
「そして彼等が、ボブハガー様に再び出会った人物達である」
「彼等って、アド様の元家臣団では?」
「そう!彼等というのは、シッチ殿やタコガマ殿。ボブハガー様の騎士だった人物達だ。その彼等が本物だと認めるのだから、あの咆哮が嘘偽りではないと分かってもらえただろう。そして我々は、ボブハガー様の下へ行く事が決定している」
広間は大きくどよめいた。
彼が言ったのは、騎士王であるオケツを見限るという発言だったからだ。
それを聞いた彼等は、ようやくオケツの方へ振り向いた。
「だから聞くなと言ったのに。コイツの狙いは私達を混乱させ、この国を分ける事。そして再び、国を二つに分けて戦を起こそうとしているのだ!」