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サネドゥの動揺

 慶次とムッちゃんのコンビって、ある意味怪しいかも。


 二人は越前国へ向かうはずが、魔物の大量発生という面倒な出来事に遭遇し、気付いたら騎士王国の方に入ってしまった。

 そんな事もあるとは思っていたんだよ。

 道に間違えたり思わぬ事故に遭ったりすれば、騎士王国の方に向かう可能性だってあるってね。

 でも予想外だったのは、まさか捕まるとは思わなかったよね。

 ただ、二人とも騎士に手を出さなかったのは助かった。

 ここで二人が暴れたら、オケツやトキド達が何か弁護したとしても、やっぱり魔族と召喚者は信用ならないって話になりかねなかった。

 よくよく考えると、二人とも秀吉軍のメインでもある、魔族と召喚者だし。

 魔王の配下と帝国の大将って言っても、手を出してたら信じてもらえなかったかもしれない。


 それと捕まってから気付いた事もあった。

 二人とも、不審者と言えば不審者なんだよね。

 慶次は傾奇者としてそこそこ派手な格好しているし、ムッちゃんに至っては素顔を見せないマスクマンだもんなぁ。

 ちょっと何かあると、上半身の服は脱いじゃうし。

 もし捕まった時に二人とも裸族だったら、変態だと言われても言い訳出来ない。


 人選、誤ったかな?








 オケツが抱えられると、騎士達は騒ついた。

 これは騎士王に対する叛逆なのか。

 それとも仲間内でのおふざけなのか。

 オケツが本気で嫌がっていないから後者のように思えるが、ただ単に呆気に取られているだけにも思える。

 護衛の騎士達は、困った顔をしながら三人の後ろに付いていく事にした。



「拙者達はトライクで行くでござるが、オケツ殿はどうするでござるか?」


「どうするとは?」


「乗ろうと思えば、もう一人乗れるでござる」


「だったら私は、後から行きますから。先に行って」


「仲間のピンチでしょうが。はよ乗らんかい!」


 タケシがオケツの尻を蹴り上げると、トライクの後部座席に強制的に座らされた。



「イッタァ!」


「貴様!騎士王に対して!」


「待て!」


 太刀を抜こうとする護衛だったが、隊長らしき人物がそれを止めた。



「どうして止めるのです!?」


「サネドゥ殿がピンチなのは間違いない。タケシ殿が発破をかけたと考えれば、あの行動も頷ける」


 オケツの腰が重いのは、皆も知っていた。

 事なかれ主義であり、何か起きても誰かにやってもらう事が多い。

 それを考えるとタケシの行動は、オケツを思っての行動にも見えなくもなかった。



「それでは護衛の方々。拙者達は先にサネドゥ殿を助けに行くでござる」


「皆も早く来いよな。さあ助けに行くぞ!誰か知らんけど」


「知らないんかい!」


 タケシの言葉に思わずツッコむオケツ。

 あまり見ない行動に、護衛達もポカンとしていた。



「オホン!私はサネドゥ殿を助けに行く。皆も後から来てくれ」


「はっ!」


 慶次がアクセルを回すと、御所を勢いよく飛び出していった。











「これはマズイかもしれんなあ」


 サネドゥは見渡す限りのアンデッドに、冷や汗を流した。

 こちらとの数の差は、約7000以上。

 一人で三人を相手しても、まだ数で負けているレベルだ。



「構え、撃て!」


 横一直線に並べた鉄砲隊が、アンデッド達に鉛の弾をプレゼントする。

 肩や胸に当たり、勢いで後ろに倒れるアンデッド。

 しかしゆっくりと起き上がると、何事も無かったかのようにこちらに向かってきた。



「あんなのどうやって倒せばいいんだよ!」


 最前線から、悲鳴のような愚痴が聞こえてくる。

 サネドゥは苦い顔で、後退を指示した。



「サネドゥ殿、これ以上下がるとキョートに危険が」


「くっ!俺は集団戦に適してないっていうのに。お前達、ここが死地だと覚悟しろ!」


 背水の陣。

 まさに同じような状況に追い込まれたサネドゥ隊は、全員が太刀を構えた。

 目の前に迫るアンデッドに一斉に斬り掛かると、すんなりと倒す事が出来た。



「あら?強くないぞ」


「イケる、イケるぞ!」


 鈍い動きで蠢くだけのアンデッドに対し、騎士達は盛り返し始めた。

 だがそれもしばらくすると、前線が停滞し始める。



「うわあぁぁぁ!!手が足に絡みついてくる!!」


「く、来るなぁぁ!!」


 袈裟斬りにして倒したはずのアンデッドの腕が、足を掴んで離さない。

 足元のアンデッドに手を焼いていると、目の前に迫ったアンデッドが一人の騎士に襲い掛かった。

 鎧に身を包まれた騎士だが、フルプレートではない。

 生身の部分を噛みつかれると、騎士は麻痺したように動かなくなった。



「一人で戦うな!数人で組んで、死角を消して戦え。誰かがやられそうなら、皆で助けるんだ」


 サネドゥの言葉が聞こえた連中が、その通りに動き始める。

 すると混乱していた連中も、周囲の騎士の行動を見て同じようにチームを組み始めた。



「なかなかしぶといな」


「誰だ!?」


 明らかに生きている人の声が聞こえる。

 他の騎士に余裕は無いが、サネドゥだけ周囲を見回した。

 しかし近くには人の気配は無い。



「安全な場所から高みの見物か。いいご身分だな」


「そうだな。お前達のような下賤の者とは違う」


「偉そうに!」


 会話を仕掛ける事で、声の持ち主の居場所を探し出すサネドゥ。

 そして聞こえてきた左前方に鉄砲を放った。



「ククク、浅はかな考えだな」


「チッ!」


 サネドゥは確かに、声の持ち主を撃ち抜いた。

 しかし倒れたのは、胸にスピーカーを装着したアンデッドだった。



「お前はそこそこ有能な騎士のようだ。という事は、お前さえ倒せば、この守備は瓦解する」


「倒せればな。こんなアンデッド程度で、倒せるとでも?」


「こんなアンデッドでも、それは中身次第じゃないかね?」


「中身?」


 サネドゥは後ろに飛び退いた。

 その瞬間、空から何か大きなモノが落ちてくる。



「人?」


「グオォォ!」


「魔族のアンデッド!?」


 アンデッドは両腕を振り上げると、サネドゥに向かって振り下ろした。



「宿れ!金狼!」


 金色の鎧を装着したサネドゥは、腕を受け止めた。

 だが思った以上の威力に右膝をつくと、背中に何かが落ちてきた。



「う、うわあぁぁぁ!!キモチワル!!」


 背中に落ちてきたのは、アンデッドの崩れた右腕だった。

 それが背中を這いながら、サネドゥの首を掴もうと上がってくる。

 彼は慌てて転がると、腕を地面に落として蹴り飛ばした。



「やはり土では、耐久力は低いか」


「こ、この野郎!・・・ん?」


 サネドゥはアンデッドに怒りをぶつけようとするが、なんとなく顔を見ると、それが誰かに似ている事に気付いた。



「お前、ゴットゥーザか?」


 ゴットゥーザ・ナサゼー。

 かつてハッシマーの配下として、サネドゥと共に活動していた頃の仲間だったオーガである。

 あの頃と違い、生気の無い土色の顔をしていて覇気も全く無い。

 過去の記憶とは全く異なるからか、サネドゥはしばらく気付かなった。



「知り合いだったか。そこまで役に立つとは思えない男だったのでな。依代は土塊にしておいたんだ」


「き、貴様!」


 特別仲が良かったわけではない。

 しかし、かつての仲間であるゴットゥーザを馬鹿にしたような発言をした事に、サネドゥは怒りを露わにした。



「フフ、知り合いが相手なら戦いづらいかね?」


「誰が!死人を弄ぶようなマネをしやがって!」


 サネドゥの拳が、ゴットゥーザの土塊の身体を壊していく。

 最後に頭を粉砕しようとすると、彼はその顔を見て手が止まった。



「・・・ゴットゥーザ?」


 何故かその顔は、薄らと笑みを浮かべているように見える。

 だがゴットゥーザが腕を大きく振り上げると、サネドゥは迷いながらも顔に拳を叩き込んだ。

 するとゴットゥーザの拳から、親指だけが上がったのが目に入った。



「お、お前、意識が!?」


 土塊はボロボロに崩れると、ゴットゥーザは復活する様子を見せずにそのまま土に還っていく。



「やはり所詮は泥人形と変わらないか」


「お前ぇぇぇ!!」


 何処からか聞こえる声に激怒するサネドゥ。

 だが彼は、ある事に気が付いた。



 ゴットゥーザがアンデッドになったのなら、他のハッシマーの配下もアンデッドになっているのではないか?

 そうなると、彼には会いたいが会いたくない人物の顔が思い浮かんだ。



「気が付いたか?」


「ま、まさか・・・」


 額に一筋の汗が流れ落ちるサネドゥ。

 すると彼の耳に、男の言葉が嫌でも入ってくる。



「サネドゥ・トブユッキー。かつてケルメン騎士王国でアド・ボブハガーに下剋上を起こした、ハッシマーの家臣」


「うるさい」


「あの魔王をあと一歩まで追い詰めたが、ハッシマーがオケツに斃され、敗軍の将となるはずだった。しかしその力を認められ、今に至る」


「うるさい!」


 色々な場所から男の声が聞こえ、サネドゥは激しい苛立ちを見せる。



「おっと!肝心な事を忘れていた。サネドゥ・トブユッキーには、優秀な弟が存在した。過去形なのは、お前も分かっているだろう?」


「黙れよ!クソ野郎!」


「グハハ!心から嫌がるその声が心地良いなぁ。やれ!ヤバスィゲ!トブユッキーを殺せ!」


 男が叫んだ瞬間、前方から轟音が鳴り響いた。

 トブユッキーは何かにぶつかり、後ろに大きく吹き飛んでいく。



「ぐはっ!」


 胸を押さえるサネドゥ。

 金狼のおかげで鎧には傷がある程度で済んだが、その衝撃によるダメージは残っている。

 起き上がったサネドゥは、何か大きなモノがこちらにやって来る音が耳に入った。

 するとそれは、自分にも見覚えのある乗り物だった。



「ば、馬鹿な・・・。サネドゥ丸だと!?」


「お前のおかげだよ、サネドゥ・トブユッキー」


「何だと?」


 サネドゥは思わず、男の声に反応する。



「お前という存在が来てくれたから、この男は覚醒したのだ」


「覚醒?」


 サネドゥの前で戦車が止まると、ハッチが開いた。

 そこから出てきた顔は、忘れたくても忘れられない、そして忘れたくない顔だった。



「ヤバスィゲ」


「お久しぶりです。兄上」


 さっきのゴットゥーザとは違い、顔は土色をしているが、何故か死んでいるとは思えない受け答えをしている。

 他人のなりすましではないか?

 そう思いつつも、ゴットゥーザの件から彼が本物であると頭の中でずっと叫んでいる自分が居た。



「記憶を激しく揺り動かす。それと出会う事が、覚醒する条件なのだよ。そしてお前という存在が、ヤバスィゲの記憶を動かしたのだ」


「ヤバスィゲ!だったらこっちに戻れ!」


「はい、死んで下さい」


 戦車から主砲が発射されると、トブユッキーは反応出来なかった。

 だがその瞬間、トブユッキーは横から誰かに突き飛ばされた。



「誰だ!?」


「ギリギリ間に合ったでござるな」








「イタタタ!流石に戦車の砲撃を生身で食らうと、俺の腹だって穴空くよ?慶次さんよ、俺の扱い酷過ぎだと思うんだけど。まあ彼が助かったから、ヨシとするけどね」

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