動く秀長
熊は鮭を咥えている。
北海道のお土産で有名な熊の木彫りだと、そうなんだけどね。
熊本城ことビッグベアーは、口から主砲を発射するのだが、何故か鮭の形をしたエネルギー砲が発射されるらしい。
だから太田は、危うく鮭に食い殺される牛になるところだったわけだ。
ビッグベアーのモデルなのかな?
実はこの熊の木彫り、いつから鮭を咥えていたのか分からないらしい。
戦前から作られていたというのは記録に残っているのだが、当時の木彫りには鮭は無かったという。
戦後のいつからか分からない時代から鮭を咥えた熊に変わり、気付けば北海道で有名なお土産として売られるようになっていた。
そんな熊の木彫りだが、気になる事がある。
実際に手に取った事のある人は分かるだろうが、コレ結構高いんだよね。
木彫りというくらいだから、一つ一つ手で彫ってるのかなと思うんだけど。
手のひらサイズでもそこそこの値段がするので、僕は敬遠しているのだが。
更に言うと、重量もかなりある方だと思う。
今でこそ飛行機も飛んでいるし、北海道まで新幹線も走るようになった。
だけど昔はそうじゃない。
そこそこ重いこの木彫りを持ち帰るのは、結構な労力なんじゃないかと思っている。
友人宅のテレビの横とかに置いてあったりしたけど、やっぱり重かった。
別に悪く言うつもりは無いのだが、修学旅行での記憶なので、どうしても値段と重さがネックだった気がする。
そんな熊の木彫りを模したと思われるビッグベアーだけど、やっぱり気になる。
どうして熊本城から変形するのに、北海道土産がモチーフなんだ?
熊本じゃないにしろ、せめて九州の何かに似せるべきだったんじゃないか?
なんて疑問に思ったんだけど、こんなの転生者か召喚者以外、誰も気にしないんだよね。
モヤっとするのは僕だけなんだろうか?
「加藤は分かっていない。そんなに当てたきゃ、自分で撃てば良いんだ」
「甘ったれるな!」
加藤が山田に手を出そうとすると、山田達は一目散にその場から離れた。
「何だよ。お前に乗ってやったのに」
「俺達、親父にはぶたれた事あるから。加藤に殴られたら、結構本気で頬腫れそうだし」
「そう・・・」
残念そうな顔をする加藤。
山田は話を逸らそうとモニターを見ていると、慶次とタケシがビッグベアーから離れていったのを確認した。
「どうやら倒せないと読んで、逃げたようだ」
「俺達のビッグベアーの勝利だ!」
「壊されてるから、負けじゃない?」
「そんな事はどうでも良い。山田、アイツ等が戻ってきそうな気配は?」
モニターから見えなくなるくらい遠くに走っていくのを見て、山田は来ないと断言した。
「前脚の確認をしてくる。場合によっては、修理まで足止めになるぞ。下手をすれば、秀吉様の作戦までに間に合わないかもしれない」
「それはダメだろ!俺達も手伝うから、必ず行かないと」
四人は外に出ると、前脚の爪部分が割れて車輪と干渉している事が分かった。
「山田、おもいきって爪を割ってくれ。ここが外れたら、走るだけなら可能なはずだ」
「良いのか?壊せって言ってるのと同じだろ?」
「熊本城は江戸城と合流したら、新たなフェイズに移行する。おそらく脚をちょっと壊した程度なら、問題は無い」
「新しいフェイズ?秀吉様の命令か?」
「そうだな。向こうに着いたら、俺達はしばらく出番は無いと思った方が良い。次は、アイツの出番みたいだからな」
アイツと言われて、少しだけ嫌な顔をする山田。
しかし出番が無いなら、関わる事も無いはず。
山田はそう割り切って、爪を破壊した。
「よくやった。俺達も行くぞ」
四人は再びビッグベアーに乗り込み、北上していった。
「駒は揃ったか?」
江戸城のある一室。
秀吉は配下である秀長に尋ねた。
「それはもう。やはり騎士王国の内乱が、大きかったですね」
「アレか。フフ、懐かしいな」
秀吉が軽く笑みを浮かべると、かつて出会った自分と似て非なる人物を思い出した。
「あの方も、今ではこちらに揃えておりますゆえ」
「ほう?だったらその相手は?」
秀吉に聞かれた秀長は、溜めてからニヤリと笑う。
「勿論おります。まだ二人とも自我を取り戻したばかりですから。本来の力は発揮出来ませんが」
「どれくらい掛かる?」
「このまま様子を見るなら、しばらくは。記憶を揺さぶるのであれば、彼等の知り合いや体験を思い出させれば、早いかと思われます」
「知り合いや体験。・・・分かった」
秀吉は立ち上がると、南の方を向いた。
「騎士王国、キョートを攻めるぞ」
「キョートを!?しかしキョートは厳しいですよ。落とすとなれば、私の戦力の大半は消失する覚悟を決めなければなりません。そうなると、次の作戦に支障が出る可能性が」
「だから倒す必要は無い。記憶を揺さぶる相手が、あの地には居るだろう?」
「なるほど。目覚めさせるだけで良いのですね?」
「そうだ」
秀長は秀吉の考えを理解した。
最低限の事しか伝えなくても、秀長は理解してくれる。
秀吉は満足そうに頷く。
「それでは私はあの二人とアンデッドを連れて、キョートに向かう準備をします」
「頼んだぞ。・・・何?」
秀吉は何かに耳を傾けると、一瞬不機嫌そうな顔をして、秀長を見る。
「キョートから戻ったら、また仕事を頼む事になりそうだ。お前には負担を掛けてしまうが、頑張ってくれ」
「はっ!」
秀長は頭を下げてから部屋を出ると、秀吉の影が揺らめいた。
「小六」
名前を呼ぶと、スッと影から姿を現す蜂須賀。
「損傷は激しいですが、山田一益と山田長秀の死体の回収が終わりました」
「ご苦労だった。藤堂も死んだようだが?」
「藤堂も回収はしておりますが、必要ありますか?」
秀吉は藤堂高虎の使い道を考えた。
山田は能力的に、まだ使い道は多い。
しかし藤堂高虎の主な能力は、築城の時間短縮。
あまりに使い道が限定されていて、特殊と言わざるを得なかった。
そこで考え出した答えが、城の砲台としての役割だった。
「江戸城で砲撃手でもやらせておけ。アイツは無詠唱で、火球を大量に出せたはず。弾幕張りには便利だろう」
「なるほど。流石は殿」
「それと、秀長が助けた福島の様子は?」
「胸の怪我さえ治れば、すぐに復帰可能です。数日で治ると聞いています」
福島は秀長に、唯一助けられた人物だ。
その大きな理由として、秀長が扱いづらいという点もあった。
アンデッドを操るネクロマンサーの能力は優秀だが、少し欠点もある。
それは細かな命令が、出来ない点だ。
一般的なアンデッドは、自我が薄い。
だから進め、止まれといった簡単な命令や、敵を倒せといったものしか受け付けない。
しかも敵と言っても、生者か死者かくらいでしか判断していないので、近くに生きている者が居れば、味方であろうと襲い掛かる。
死んだ山田は能力的に扱いやすいが、福島の能力は日本号を操る以外に、声が関係している。
アンデッドは例外以外、叫ぶくらいしかしない。
だからその能力を活かすなら、死んでアンデッドとして扱うよりも、助けておいた方が得策だと考えたのだった。
「アイツは弱いが、便利だからな」
「それでは何故、日本号などという武器を与えたのですか?」
蜂須賀は前々から疑問だった。
福島正則は、皆と比べると大して強くはない。
その真価は別にある。
それなのに特殊な武器である日本号を与えた意味は、一体何故なのか?
「気まぐれだな。アイツだけ後方でのうのうとしているのが、他の連中は気に食わないと思う連中も居た。だから日本号を与えて、コイツは別格だと思わせたかったのもある」
「気に食わない連中。そんな奴が居るなら、罰を与えましたが?」
「既に死んでしまったよ」
死んでしまった主な人物は、山田と藤堂。
蜂須賀はおそらく藤堂だろうと、見当をつけた。
「それでは今後の予定は?」
「まずは秀長による、覚醒が済んでからだな。それが終わったら、いよいよ最後の仕上げに入る」
「加藤もこちらに向かっています。しかし藤堂の失態により、名古屋城は失いました」
「ならば戻り次第、清正に代わりを作らせよ」
「では加藤が完成させ、羽柴殿による覚醒が終わったら、最終フェイズへ移行という形でよろしいですか?」
「そうだな。お前にはヨアヒムと騎士王、そして魔王に伝言役を頼むとしよう」
「承知しました」
蜂須賀は頭を下げると、自らの影に入っていく。
秀吉は部屋に一人残ると、ボソッと呟いた。
「もうすぐ、もうすぐだ。神よ、お前が遊んでいるこの世界が、俺の手によって変わるからな」
「凄いじゃん」
「感想が素っ気無いですね」
俺は太田から、東の城を退けたと報告をもらった。
しかし城を退けるという意味が分からず、詳しく説明を聞いてみると、あんまり勝ったという気がしなかった。
「それで、負傷者は太田とイッシー。沖田は・・・大丈夫なのかな?」
「イッシー殿も怪我をしたんですね」
「まあな。でも西側の城は退けたんじゃなく、爆破したらしい。だから城自体が無くなった」
「爆破!?巻き込まれたんですか?」
「福島正則と戦った時の負傷みたいだな。でも向こうの武器を手に入れて、案外ご満悦だったぞ」
イッシーは日本号を手に入れて、その力にご執心らしい。
どんな力か詳しく聞いていないけど、使いこなす練習だけは毎日していると言っていた。
というか怪我治ってないのに、練習って何してんだ?
「俺達はやるべき事はやった。お前達の方はどうなんだ?」
「蘭丸か」
お前達っていうのは、俺と弟の事なんだろうな。
そんでもって、何とも返答に困る質問だ。
「聞いてるのか?」
「聞いてるよ。俺は全く問題無い。気力も体力も万端だ」
「俺は?お前だけなの?」
「・・・そうね」
なんかもう、アイツが何をしているのか分からない。
人形の姿で叫んでたと思ったら、何時間も微動だにしなくなったり。
精神的にまいってるのかと思って、元気づけようと声を掛けた時もある。
しかし無視された。
頭きてぶん殴ったけど、それでも反応が無かった。
むしろ手が痛かった。
ミスリルの塊を殴るのは、やめた方が良いね。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫!」
だと思う。
多分だけど。
あんまり突っ込まれたくないし、ちょっとこの話題から逸らしたいな。
「あのさ、慶次とムッちゃんも送ったんだけど。どう?役に立ってる?」
「越前国に向かっているのか?俺達、越前国に戻ったけど会ってないぞ。騎士王国に向かっているんじゃないのか?」




