熊殺し?
成長したなぁ。
やり方は間違っているけど、僕は嬉しいよ。
太田はピンチのウケフジを、身体を張って助けた。
身体というよりは、命を張ったのかもしれない。
ビッグベアーの主砲は、地獄シリーズのような特殊な魔法を除けば、現状僕達の誰の攻撃よりも強力みたいだ。
そんな強力な攻撃に耐えられるのは、太田とゴリアテ以外居なかったと思う。
また太田を越前国に送っていなかったら、ウケフジは死んでいた事になる。
これは狙っていたわけではないので、本当に運が良かったと言わざるを得ない。
しかし問題は、どうしてそんな行動に出たかという点だ。
太田は元々、僕や兄の命令を遵守する傾向にある。
だから言われた事はほぼ必ず遂行するし、どんな無茶でもやる気を見せる。
だが逆に言えば、僕達の命令以外はそこまで重要視していないというように思えた。
官兵衛の言葉は僕達の代弁という意味もあり、とても素直に従っている気がするけど、他はそこまでじゃない。
だから命令をしていないから、又左や慶次達と一緒に鍛錬を積むような事も無い。
しかしそんな彼が、僕達の命令ではなく自分の考えで行動を起こした。
ウケフジは魔族にとって、重要な人物だから守った。
その考えは間違っていないと思うし、自分から動いてくれた事には感謝したい。
ただやり方だけは間違っている。
自分の考えで動いてくれるのは嬉しいが、やはり自分の命を蔑ろに動くのは勘弁してもらいたいな。
太田だって大切な仲間なのだから。
それに僕は言いたい。
スーパーサーモンだかスモークサーモンだか分からない主砲で、もし太田がそんなダサい名前の主砲なんかで死んだら、後世に絶対に残るぞと。
魔王の為に死んだはずが、鮭に殺されたミノタウロスが居るとネタにされるってね。
太田と蘭丸は顔を見合わせた。
お互いにそんな話を聞いているのか、確認する為だ。
しかし二人ともお互いの目を見ると、どうやら違うという事が分かった。
「こっちの人間ではないですね。騎士王国の騎士ではないのですか?」
「それは無いだろう。自分を大きく見せるつもりは無いが、俺とウケフジ殿、そしてタツザマ殿を除いた騎士の中で、あの熊と戦える騎士なんか居ないと思うぞ」
「トキド殿、騎士王を忘れずに」
「あぁ!オケツ殿なら戦えるかもな」
「普通は自分の所の王様、忘れますかね?」
「蘭丸殿、オケツ殿ですから」
「二人とも、聞こえてますよ・・・」
しまったといった顔を見せる太田と蘭丸。
小声でオケツの話をしていたつもりだったが、ウケフジには聞こえていた。
四人は、改めて熊の方を見た。
「本当に騎士王ですか?」
「それは俺も疑問に思うところではある」
オケツは帝と共に、御所に滞在しているはず。
騎士王国の領土ギリギリであるこの地に来ているなら、怪我で越前国で療養していたトキドならいざ知らず、ウケフジの耳に入らないのはあり得ない話だった。
「オケツ殿ではないですね」
「援護しに向かいますか?」
「やめておきましょう。太田殿はまだ完治には程遠いですし、熊と戦っているからといって、味方とは限りませんから」
「敵の敵は味方か、分からないもんな。俺達は撤退しよう」
四人は意見をまとめると、お互いの領土に戻る事にした。
「太田殿、運転は出来ますか?」
「戦えと言われたら厳しいですが、トライクに乗るくらいは」
太田の体格に合わせたトライクは、この場に居る誰にも運転は出来ない。
仮に乗れたとしても、魔力の無いトキドやウケフジには無理だった。
だから怪我をしていたとしても、太田のトライクは自分で運転して帰るしかなかった。
「トキド殿は、騎士王国へお戻りになられるんですね?」
「配下の連中にも、無事な姿を見せたいからな。今まで世話になった」
トキドは拳を突き出した。
それに蘭丸も拳を合わせると、太田も一緒に拳を出した。
「今度は北の城で会おう」
「ワタクシ達は、参戦するか分かりませんよ?」
「そうなのか?まあこの戦いが終わらない限り、また会う機会はあるさ」
「そうですね。では、うわっ!」
熊の方から大きな音が聞こえた。
やはり四人は、あの熊と戦っているのが誰なのか、気になっていた。
「声は聞こえないから、多分少数だよな」
「おそらくは。私達が苦戦した相手と戦える人物か」
「はいっ!気になるのは分かりますが、帰りましょう」
トキドとウケフジの目が険しくなったところで、蘭丸は手を叩いた。
気持ちを切り替えると、彼等は東西へ分かれていく。
少し時間を遡り、ビッグベアーを北進させる清正。
するとそこに、騎士でも妖怪でもない二人組と鉢合わせする事になった。
「何だコレ?」
「熊でござるな」
「デカイな。味方かな?」
「どうでござろう。騎士王国から外へ向かっているようでござるが」
トライクを止めて、ビッグベアーに見入る慶次。
そして後部座席に座るタケシも、その大きな熊には驚いていた。
そしてビッグベアーに乗る清正と山田達も、トライクの存在には気付いたようだった。
「江戸城からの迎えか?」
「加藤、俺達が合流する事は、向こうの連中は知ってるのか?」
「秀吉様が伝えていればな。しかし、そうなるとおかしい。迎えであれば、俺達に気付いてもらえるように合図を出すはずだ」
「言われてみれば確かに。だったら敵だな」
「それなら今度こそ、スモークサーモンキャノンの出番か!?」
山田の頭を叩く清正。
不満そうな顔をする山田に、清正は説明する。
「次撃ったら、ビッグベアーは停止する。残りの魔力がもう少ない」
「何だって!?でも加藤は魔族なんだから、魔力の補給出来ないのか?」
「バカタレ!秀吉様と俺を一緒にするなよ。あの方の魔力量は尋常ではない。俺みたいな有象無象と一緒にしたら、怒られるぞ」
「そういうもんなのか?」
「そうだ。それに俺は、魔族は魔族でも妖怪だからな。ちょっと違うんだよ」
「へえ」
清正の話を聞き、感心する山田達。
しかし結論は出ていない。
「このまま進んじゃう?」
「ちょっと待て。モニターを拡大してくれ」
外の様子をモニターで見ていた山田が、清正にズームを頼んだ。
清正は運転席からモニターを操作すると、山田はある事に気付いた。
「コイツ、前田慶次だ!」
「何!?」
「間違いない。帝国の方で見た事がある」
「だったら敵だな。行くぜ山田!俺達の銃捌きに任せろ!」
山田は座ると、防衛機構の一部を操作し始めた。
そして城の銃口を慶次達に向けると、有無を言わさずに引き金を引いた。
「銃がこっち向いてるぞ」
「マズイでござるな」
トライクのアクセルを回すと、慶次は一気に加速する。
しかし、それが失敗だった。
「うわっ!イテッ」
「タケシ殿!?」
急発進するとは思っていなかったタケシは、バランスを崩して後ろに転げ落ちた。
それを見逃さない山田達は、タケシに向かって発砲を続ける。
「ワハハ!一人殺ってやったぜ!」
「バカだなぁ。戦場でトライクから落ちるからいけないんだ」
「もう身体なんか穴だらけで、原形を留めてないかもな」
山田二人は敵を倒したと満足そうな顔をしてみせると、清正は前進を開始した。
「前田慶次一人なら、ビッグベアーは止められない。このまま江戸城と合流に向かう」
「それもそうだな。うおっ!な、何だ?」
ビッグベアーが大きく揺れた。
清正は一度後退し、モニターで外を確認する。
「何か巨大な岩を踏んだのかと思ったんだが、違うみたいだ」
「前田慶次の攻撃か?」
「トライクは横を並走しているだけで、攻撃はしてきていない」
「車輪に不具合でもあったんじゃない?テスト走行はしただろうけど、実戦は初めてでしょ?」
山田が清正にそう言うと、清正は迷いながらも山田の言う通りだと思い込んだ。
「少し向きを変えて、このまま進もう。うわっ!」
「違う!やっぱり何かに攻撃されている!あ、脚から煙噴いてるぞ!?」
「モニター!一番下にあるモニターを映せ!」
混乱する清正達は、外で何が起きているのか慌てて原因を探る。
すると山田の言う通り、一番地面に近いモニターを映し出すと、ようやく何が原因なのか把握した。
「た、タケシだとぉ!?」
「イタタタ。のわっ!イデデデデ!!」
左右から銃弾の嵐を食らうタケシ。
逃げ場は無く、ただひたすら痛みに堪えるしかなかった。
しばらくすると攻撃は止まり、彼は慌てて熊に近付いていった。
「タケシ殿!大丈夫でござるか?」
「いやあ、かなり痛かったわ。死ぬかと思うくらい」
「普通は死んでるでござるよ・・・。っと!今助けに」
「いいよ!俺もあんな攻撃食らって、黙ってるのもシャクだしね。流石にこの大きさを投げるのは無理だけど、幸いこっちは得意だからさ」
慶次に向かって拳を見せるタケシ。
仕返しをする。
タケシの意図を理解した慶次は、熊と付かず離れずの距離を保って見守る事にした。
「倒すつもりでござるか!?」
「いや〜、簡単には倒せないでしょ。やられた分やり返したら、合流を目指しましょ」
「分かったでござる。拙者、口は出すけど手は出さないでござるよ」
「ニヒヒ。じゃあ、いっちょぶちかましますか!」
後退したビッグベアーに走って近付くと、タケシは動かなくなったビッグベアーの前で、腰を落として止まった。
「フン!ハアァァァ、せいっ!」
右の拳を突き出したタケシ。
激しい衝撃音が響くと、ビッグベアーがほんの少しだけ浮いた。
「かあぁぁぁ、デカくて壊れねえな」
「もう一発やってみたらどうでござる?」
「だな。ハアァァァ・・・ハッ!そいやぁ!」
今度は溜めを作るタケシ。
右拳がビッグベアーに当たると、右の前脚の一部が破壊された。
慶次はさっきより明らかに大きくなった衝撃音に、顔を歪める。
「こんな大きい音だとは」
「ハッハー!ぶっ壊してやったぜ」
「満足したでござるか?」
「あぁ」
スッキリした顔を見せるタケシ。
慶次はトライクで満足するタケシを拾った。
その直後に地面に銃弾の雨が降り注いだが、時すでに遅し。
慶次はタケシを乗せて、そのままビッグベアーの横を通り抜けて南下をしていった。
「ぬあぁぁぁ!!」
「に、逃げられたぁぁぁ!!」
山田二人が頭を抱えると、清正は二人に向かって怒鳴った。
「弾幕遅いよ!何やってんの!」