ビッグベアー
山田が言っていたノーモー塾。
実は僕は知っていたりする。
山田は清正に、山田の過去に関して少し説明をした。
その際に出てきた言葉が、ノーモー塾である。
ではこのノーモー塾とは、一体何なのか?
それは単純に、大学高校受験向けの学習塾である。
一時期はテレビでも話題になるくらい、多くの学生が通っていた塾だ。
名前の由来はモーという言葉が関係している。
もう無理、もう出来ないといった、マイナスな言葉に繋がりやすい副詞。
それ等を使わない使わせないという意味で、ノーもうからノーモー塾と言われていた。
それとこの世界に来て知ったのが、この山田の名前が牛一だから、牛からモーと取ったのも一つの理由になると思われる。
そんなノーモー塾は、とても厳しいが合格率の高さから、入塾希望者が後を立たなかった。
しかしある時、転機が訪れた。
それは塾生による大学入試での、集団カンニングである。
とても厳しい講義についていけなかった彼等は、結果を残さないと怒られるという強迫観念から、入試でカンニングを実行した。
それが一人程度なら、ここまで大きな問題にはならなかったと思う。
だが実行したのが集団であり、それが全員同じ塾に通っていたとなると、話は変わってくる。
マスコミはすぐに、この話題を取り上げた。
最初はカンニングした人達への批判が多かったのだが、いつしか話の方向は変わり、それが塾へと向けられるようになった。
無理矢理勉強を教えたのが原因であり、カンニングした人達はある意味被害者だと言い出したのだ。
その結果、ノーモー塾は退塾希望者が増加し、マスコミも報道に飽きた頃には塾の話は一切聞かなくなった。
何故僕がこんな話を知っているのか?
それはまさに、僕が高校受験生だった頃の話であり、他人事ではなかったからだ。
高校ではこのノーモー塾生だった人が何人も居たし、話を聞くと賛否両論だったのも覚えている。
まさかあの時の事件の関係者の話を、こんな所でまた耳にするとは。
厳しいと有名だったノーモー塾。
山田に興味が湧いてきた。
いつか会う日があるならば、今度は僕が挑んでみたい。
「ぐぬっ!」
「うぐぐ・・・」
トキドと蘭丸は歯を食いしばり悔しそうな顔をする。
だが太田の結果を聞く限り、ウケフジに反論は出来なかった。
しかしそこに現れた救いの手。
それはとても大きくて、ゴツイ手だった。
「ウケフジ殿。漢字が書けても戦場では役に立ちません。それにワタクシよりもトキド殿の方が、人心掌握には長けています。領主としても騎士としても、素晴らしいと思いますよ」
「う、うおぉぉぉ!!」
号泣するトキド。
ウケフジはそれを見てビクッとした。
「太田殿。いや、太田先生」
「先生!?」
「俺、先生みたいな人になら、ついていきたいです」
「トキド殿、貴方領主でしょうが」
「違う!そういう意味じゃない!山田と違って太田殿のような人が先生なら、勉強が出来なくてもやる気にさせてくれそうだって話だ」
それを横で聞いていた蘭丸は、大きく頷く。
「太田殿は、確かに根気良く教えてくれそうだ。マオが関わると暴走するけど、それ以外だと本当に良い人だって皆知ってるからな」
「な、なんか照れますなぁ」
「事実を言ったまでです。太田先生なら、俺達ももう一度あのテストを受けようという気にさせてくれそうだ」
二人はしみじみとしながら答えると、ウケフジはその空気をぶち壊した。
「それよりも先にしなくてはならないのは、この城の攻略でしょう。テスト勉強なら、城を落としてからにして下さい」
「ヘイヘイ」
「ウケフジ様は、山田と同じ空気を纏ってますよね」
渋々返事をするトキドと、そのトキドに愚痴をこぼす蘭丸。
ウケフジはそんな二人に不満を感じたが、彼等の手を借りずして落とすのは不可能だと分かっている。
だから彼も、わざと聞かないフリをした。
「しかし蘭丸殿が壊した箇所から出ていた煙が、収まっていますね」
「既に修理済みというわけだな。山田のテストは、時間稼ぎが狙いだったか」
「だったら、修理箇所を更に攻撃しましょう。一度壊れたのだから、脆いはずです」
「蘭丸殿の言う通りです。だからワタクシが、特大の一撃をぶちかましてみせますよ」
太田がトライクから立ち上がると、バルディッシュを構えた。
「太田、バ」
「待て太田殿!」
大きな声で叫ぼうかというタイミングで、トキドから待ったが入る。
出鼻をくじかれた太田は、不満そうな顔を見せた。
「何故止めるのですか?」
「す、すまんな。俺には熊本城が動いたように見えたんだ」
「城が動いた?銃口がこちらに向いたとかではなく?」
「いや、天守が更に高くなったような・・・ほら!」
四人は慌てふためいた。
地鳴りのような音が聞こえると、城が本当に動き出したからだ。
「立ち上がった!?」
「へ、変形していく・・・」
熊本城は動き始めると、石垣の下から車輪のような物が姿を現した。
「な、何だぁ!?」
「加藤、時間稼ぎは出来てたかな?」
山田は戻ると、早速清正に尋ねた。
親指を上げて答える清正に、山田は満足気な顔を見せる。
「だったらここから、反撃開始だな」
「いや、状況が変わった。俺達はこの地を放棄する」
「どういう意味だ!?騎士王国を封鎖するんじゃなかったのか?」
山田は清正に詰め寄った。
自分の時間を稼ぐという仕事は、全うした。
それなのに諦めると言う清正に、山田は激しい怒りを見せた。
「違う。山田は確かに良い仕事をしてみせた。だから俺も、この城を直して、動かせるようになったんだ」
「では何故!?」
「やらかしたのは俺達じゃない。名古屋城を守っていた福島正則と藤堂高虎だ」
「な、何?二人が?」
「名古屋城は自爆した。奴等に大ダメージを与えたとは思うが、既に封鎖は解けているという事だ」
清正の説明を聞き、ようやく納得する山田。
他の山田もその様子にホッとすると、今度は自分達がどうするのか気になっていた。
「もしかして、熊本城も自爆を?」
「いや、持っていく。熊本城ごと、この包囲網を脱出する」
「城ごと脱出?頭大丈夫か?」
山田に心配される清正だが、彼は三人を引き連れて移動を開始した。
着いた場所は、城の二階部分のとある一室。
掛け軸を捲ると、秘密の通路へと繋がっていた。
「うおぉ!なんか忍者みたい」
「良いねぇ!」
「やっぱりこういうのって、ロマンを感じるだろ?」
「加藤!お前、分かってるなぁ!」
清正をべた褒めする山田一行。
通路を抜けるとそこは全くの別世界で、ハイテクな現代技術が多く見られる場所だった。
「ここは?」
「コントロールルームだ。少し揺れるから、捕まっていろ」
清正の言う通り、近くの手すりや椅子を掴むと、彼は叫んだ。
「熊本城、チェェェンジビッグベアー!!」
「ななななんだ!?」
部屋が揺れ始めると、通ってきた通路が封鎖された。
緊張しながら揺れが収まるのを待つと、数分でそれは静まり返る。
「な、何が起きたんだ?」
「変形したんだ。よし、俺達はここから脱出する!ゴー!ビッグベアー!!」
清正がレバーを前に倒すと、再び揺れ始める。
モニターを確認すると、外にはワイバーンに乗るトキドとフライトライクに跨った蘭丸と太田の姿が見えた。
「アイツ等、無事だったか」
「何か唖然としている気がするけど」
「俺の熊本城が変形した事に、驚きを隠せないんだろう。お前等、ここがら攻撃出来るぞ」
「マジか!やる!」
清正は攻撃用のレバーやボタンを教えると、山田達は三人で席に着いた。
「お前とお前は機銃が使える。左右別々だから。そしてお前は、主砲だ。しかし奴等は正面に居ないから、主砲は使っても無意味だな」
「主砲!?使いたい!山田、お前達で正面に追いやってくれないか?」
「ガッテン!やるぞ山田!」
「任せろ山田!」
山田達は三人になって、初めて心が通い合った。
「な、何だよこれ!」
「城が熊の形になりましたね・・・」
「でも歩くんじゃなくて、足裏の車輪で走るらしい」
四人は熊本城が、熊の形へと姿を変えた事に驚いていた。
慎重に熊を調べていると、なんと両サイドから機銃で撃たれ始めたではないか!
「チィ!銃が多い!」
「しかしあまり上手くないな。ウケフジ殿の白龍で霧を発生させれば、相手は俺達を見失うんじゃないか?」
トキドがウケフジにそう伝えると、彼は苦い顔でそれはやめた方が良いと首を横に振った。
「私達が一時撤退したのは、白龍の霧が通用しなかったからです。おそらく、また同じ事になるかと」
「何故そうなったと思うんです?」
蘭丸がウケフジに原因を尋ねると、彼は思案し始めた。
そして、ある結論に達した。
「考えられるのは二つ。見ているのではなく、音で感じている。もしくは温度で感じているかだと思います」
「音かぁ。ギターがあれば、俺もフライトライクに乗りながら弾いて邪魔出来るけど」
「持ってきてないですからな。それは無理です」
蘭丸が何処ぞの天才パイロットみたいな事を言い出すと、太田はつかさず無理だと答えた。
しかしトキドは、もう一つの案なら潰せると言い出す。
「温度なら、俺がどうにか出来るぞ。ただし、お前達も暑くなるけど」
「どうせ攻撃するつもりだったんです。やってみましょう」
太田が賛同すると、ウケフジ達もトキドの案に乗ると言った。
ニヤリと笑ったトキドは、国江の上で叫ぶ。
「行くぜ国江!侵略すること火の如し!」
トキドは自分の身体に発火すると、ビッグベアーの周りを回り始めた。
「アチッ!確かにこれは暑いですね」
「ウケフジ様。この間に俺達の周りに霧を発生させれば、分からなくなるのでは?」
「分かりました。白龍!」
ウケフジは太刀を掲げた。
たちまち霧が発生すると、辺りは炎の影響でオレンジ色の霧に覆われていく。
「なんか幻想的な光景ですね」
「ウケフジ様の霧は、熱があっても消えないんですね」
「そういえばそうですね」
ウケフジは自分が気付かなかった現象に、少し驚いた。
霧は温度が低い時で無いと発生はしない。
そして水蒸気も無いと不可能である。
トキドの炎によって両方とも満たしていないのに、何故か霧は消えなかった。
「今のうちに熊へ取り付きましょう」
「ま、待って下さい!」
太田が熊へ近付こうとすると、ウケフジが後ろから止めに入った。
その瞬間、熊の口から主砲が発射された。
トキドの炎を軽々と巻き込んで、明後日の方向へ飛んでいく主砲。
その威力はクリスタルの魔法よりも大きく、トキドの風林火山を凌駕していた。
すると熊から、何故か内部の音声と思われる声が聞こえてくる。
「勝手に発射するんじゃない!」
「だって、俺だけ出番無いんだもんよ。少しくらいやってみたかったんだもんよ。それにこんなの見たら、言ってみたくなるじゃない?波動砲、発射!って。波動砲じゃないけど」




