表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1105/1299

河童と騎士と壬生狼

 モノマネかぁ。

 正直なところ、苦手だな。


 イッシーは福島に、ジャケットプレイやジャパ〜ン!のモノマネを教えていた。

 ハッキリ言ってしまえば、それって何か意味あるの?と思ってしまう。

 イッシーは福島のモノマネが下手だから、文句を言っていたみたいだけど、別に技の発動に必要なだけで、下手だろうが上手かろうが関係無いと思えるんだよね。

 そもそもイッシーはさ、何事も上手く出来るから、そうやって相手に対して下手だろとか言えるんだよ。

 彼の特性である器用貧乏というか、ある程度何でもこなせる能力が、モノマネでも発揮されているんだろうけど。

 普通の人にモノマネにこだわって上手くやれと言われても、無理だと思うんだよね。


 兄もたまにモノマネをするけど、兄がするのは往年のバッターやピッチャーのモノマネくらいだし。

 それも分かりやすく、トルネード投法や振り子打法、一本足打法とかだから。

 それを見せられたところで、めちゃくちゃ似てるー!って言える?

 素人である僕達からしたら、あの人のマネをしてるのねくらいにしか思えないんだよ。

 身体を大きく捻ってたり、片足で立ってたりするから分かるのであって、似てるのかは分からない。


 僕の感想を言うと、モノマネが出来るのは凄いと思う。

 でも一般的な人からすると、モノマネをするのって羞恥心を捨てないとダメだと思うんだよ。

 似てなかったら恥ずかしいし、でも羞恥心を捨てないと似てないとも思えるし。

 何にせよ、僕には無理だ。

 だからイッシーには、こう言いたい。

 他人に強要するのは、やめてくれってね。








 イッシーは寄り掛かりながら、左手で日本号を掲げてみた。


 本物を見た事は無いけど、ちょっと変な感じだな。

 槍という割には短いどころか、むしろ剣よりも短いかもしれない。

 片手で持てる重さで、彼はなんとなく言ってみた。



「ジャパ〜ン!うおっ!俺でも出た!」


 日本号の穂先の周りに、分身したような穂先が現れた。

 しかしイッシーは、すぐに福島と自分の違いに気付く。



「えーと、俺の方が明らかに数が多いな」


 福島の場合、ジャパーン!と叫ぶだけだと、多くても三本が限界だった。

 しかしイッシーは何気なく言っただけなのに、それだけで八本はある。

 その違いが何なのか分からないが、イッシーは思った。



 もしかして本当に、俺の方が上手く使えるんじゃない?

 右手がボロボロで構えられないけど、これは良い物をもらった気がする。



「ヌフフ。早く右手を治して、ちゃんと使ってみたいなぁ。楽しみだ」


 彼は空で戦うイッシー隊と福島隊の行方を見守りつつ、仮面の下で頬を緩めていた。









「もう大丈夫だろう」


「駄目です。火傷は初期対応が大事。もっと長い時間冷やしておかないと、痕に残りますよ」


「うぅ、しかしだな・・・」


 タツザマは川の水を使い、火傷した箇所を冷やしていた。

 とは言っても、頭を守っていた両腕くらいしか火傷は負っていない。

 幸いな事にすぐに落下したので、火球が直撃したのが腕くらいしか無かったからだ。



「まだか〜?まだなのか〜?」


「まだ駄目ですよ」


 両腕を川の中に突っ込みながら、空を見上げるタツザマ。

 そこには河童達の放水で動きが鈍い、鯱鉾の姿があった。


 しかし問題は、自分が倒すと明言した藤堂高虎である。

 タツザマが一時離脱している中、彼だけがフリーなのだ。

 今は数の差で河童達が押しているが、それも奇襲込みだったからだ。

 高虎の目標は名古屋城を半壊させた潜水艦枝垂に向いており、このままだと河童達の母船がが破壊されないと、タツザマは危惧していた。



「もう良いだろ!拙者、そろそろ行くぞ!うわっ!」


「殿!?」


 タツザマが立ち上がろうとすると、彼は水の中から何かに腕を引っ張られ、もう一度倒れてしまった。

 周囲の人間が水に向かって剣を突こうとすると、突然左手の手のひらが水面から出てくる。



「僕です」


「だ、誰だ!?」


「あ、あぁ初対面でした。僕は沖田、魔王様の命で手を貸しに来た者です」


「なるほど。失礼しました」


 納刀したタツザマ隊。

 そしてタツザマ本人も動こうとしたが、彼は水中で沖田の右手に掴まれていて動けなかった。



「あの、手を離してもらえませんか?」


「いやぁ、治療を放棄して向かおうとしていると聞いたので。河童の皆さんなら、もう少し大丈夫ですよ。ところでタツザマ殿、僕があの男を倒しても?」


 高虎を倒すと宣言する沖田に、タツザマはあからさまに嫌そうな顔をする。

 それを見た沖田は苦笑いした。



「分かりました。そこまで嫌なら、あの男は譲りましょう」


「すまないな。拙者、やられた借りは自分で返したい性分なのでね。この火傷のお返しは、あの男の命をもって払ってもらう。ただ問題もあってな」


「問題ですか?」


 藤堂高虎にそこまでの脅威を感じない沖田は、怪訝そうな顔をする。

 すると彼は、高虎ではなく名古屋城の方が面倒だと説明した。



「彼等のおかげで、城の防衛機構の一部は停止した。だが一番面倒な物が残っている」


「もしかして、アレですか?」


 河童達に対して炎を吐いている鯱鉾。

 片方は接近戦をして、尻尾の鉾で河童に攻撃していた。



「なるほど。遠近両方の攻撃をしてくるんですね」


「それだけでなく、とてつもなく硬い。並の攻撃では傷すら付かないのだ」


「へぇ・・・それは興味深いですね」


 沖田は水面に顔の半分を沈めた。

 ニヤける顔を隠して素に戻ると、再び顔を出した。



「おそらく河童達の放水だけでは、あの鯱鉾は倒せない。だから貴殿には、鯱鉾をどうにかしてもらいたい」


「分かりました!僕がどうにかしてみせましょう」


「助かる!では」


「いやいや、もう少し冷やして下さい」


 再び手を引かれるタツザマ。

 手を離さない沖田に、呆れて彼は何も言わなくなった。



「勝つ為には、適当では駄目ですよ。万全を期して、倒しに行かないと。その為には河童の皆さんに、もう少し頑張ってもらいましょう」








「沖田殿ー!沖田くーん!沖田さーん!おい沖田ー!」


 沖田が消えた。

 河童達は潜水艦から泳いできたが、沖田も一緒に川へ飛び込んだはずだった。

 流石に自分達と比べたら遅いのは分かる。

 しかしいつまで経っても来ない沖田に、河童達は不安と苛立ちを混ぜたような感情で叫んでいた。



「隊長、あの魚強いんだが」


「あっし等だけじゃあ、倒せそうも無いぜ」


「くっそ!あの男なら、魚くらい簡単に倒してくれそうだったのになぁ」


 河童達は徐々に押されている事が分かり、少しずつ焦り始める。



「大氷塊!」


「ぬあっ!枝垂にバカでかい氷の塊が飛んでいくぞ」


「フハハ!名古屋城を壊した罪は重い。沈め!」


 潜水艦の真上から、大きな氷が押し潰そうと落ちていく。

 すると再びミサイルが発射され、真上にあった氷とぶつかった。



「割れた!?それでも!」


 ミサイルのおかげで氷の塊は三分割されたが、それでも大きさはまだ十分である。

 枝垂にぶつかる船尾が跳ね上がり、そのまま沈んでいった。



「沈没したか。当然の報いだな」


「隊長、枝垂が!」


「慌てるな。爆発していないのだから、沈没したんじゃない。おそらく危険だと判断して、移動をしたんだろう」


「なるほど」


 なんて言ったものの、河童の顔は青い。

 適当な理由で誤魔化しただけで、実際はどうなのか分からなかった。



「さて、邪魔は居なくなった。次はお前達だ!」


「ヤバイな・・・」


 高虎の矛先が、枝垂から河童達に変更された。

 ただでさえ鯱鉾への対応に追われた河童達は、タツザマへの不満が爆発する。



「あの男、自分が倒すって見栄を切ったのに、いつの間にか居ないじゃないか!」


「あの男なら、川で倒れているぞ」


「はあ!?」


 振り返ると、確かにタツザマは川に腕を入れて倒れている。

 全く動かない様子から、もしかして別の何かにやられたのではないかと勘繰った。



「た、隊長、このままだとあっし等もやられますぜ」


「仕方ない。野郎共!」


「へい!」


「とんずらするぞ!」


 河童達は高虎と鯱鉾に背を向けて、川へと走り出した。

 高虎は一目散に逃げる河童に、唖然としている。



「ハッ!?逃げるだと!」


「ワハハ!三十六計逃げるに如かず。生きてた方が勝ちなんでい!」


「くぅ!だが私もそう思う」


 篠山城を爆破して名古屋城へ移動してきた高虎は、河童達の考えがとても共感出来た。

 生きていてこその勝ち。

 河童達は勝つ為に、必死に川へ向かって走っていく。



「そいやっ!」


 隊長である河童が一番に川に飛び込んだ。

 続々と川に入っていく河童達。



「アタッ!た、隊長!」


「やはり何処にでも、鈍い奴というのは居るものだ。まずはお前から死んでもらおう!河童のミイラになりたまえ」


 転んだ河童に向かって、火球を大量に放つ高虎。

 わざと周囲を炎で囲むと、河童は大量の汗をかき始めた。



「あの野郎、痛ぶるつもりかよ」


「どうする?助けに来なければ、お前達の仲間は干物になるぞ?」


「放水しろ!」


「鯱鉾、奴等の邪魔をしろ!」


 鯱鉾が炎を河童達に向かって吐くと、彼等はそちらの消火が忙しく、仲間の方に手が回らない。



「チクショウめ!だったら、ん?」


 隊長が岸に向かおうとすると、何かを気にした。



「・・・分かった。お前とお前!こっちに来て手伝え」


 隊長は河童を二人呼び寄せると、何かの準備を始める。



「良いのかな?お仲間さんは、呼吸が苦しそうだけど」


「うるせい!まずは鯱鉾からだ!大水球!」


 隊長が人よりも大きな水球を作り出し、勝負に出た。

 それを投げるように鯱鉾へぶつけようと放つと、鯱鉾はそれに対して炎を吐いて応戦する。



「フハハ!蒸発して終わりじゃないか」


「それはどうかな?」


 隊長が不敵に笑った。

 すると水蒸気の中から、ある男が鯱鉾に向かって飛び出していく。



「さあ、硬いと言われるお前の身体、どんな物か試させてもらおう」


「お、沖田総司!?」


「五連突き!からの、お前はこっち!」


 左手の爪で一体の鯱鉾の身体を貫くと、そのままグッと手を握るように身体を引き裂く沖田。

 そのまま鯱鉾の身体を足場にして飛ぶと、もう一体の鯱鉾へと近付いていく。



「やらせるか!」


「やらせるんだよ」


「え?」


 高虎が沖田に目を奪われていると、横から太刀に袈裟斬りにされる。



「た、タツザマ・・・」


「やられたらやり返す。拙者の流儀だ」


 高虎は身体を半分にされて、フライトライクから力無く落ちていった。



「あんまり手応えが無かったな」


 タツザマは沖田の方を見ると、もう一体の鯱鉾も真一文字に切り裂いていた。

 そのまま川へ落下していく沖田。



「今助ける!」


 タツザマは落ちていく沖田へ向かおうとしたが、彼は明後日の方向を指して叫んだ。






「僕よりもあの河童を!川に入れてあげれば、多分助かるはずですから。急いで下さいね!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ