河童と騎士と壬生狼
モノマネかぁ。
正直なところ、苦手だな。
イッシーは福島に、ジャケットプレイやジャパ〜ン!のモノマネを教えていた。
ハッキリ言ってしまえば、それって何か意味あるの?と思ってしまう。
イッシーは福島のモノマネが下手だから、文句を言っていたみたいだけど、別に技の発動に必要なだけで、下手だろうが上手かろうが関係無いと思えるんだよね。
そもそもイッシーはさ、何事も上手く出来るから、そうやって相手に対して下手だろとか言えるんだよ。
彼の特性である器用貧乏というか、ある程度何でもこなせる能力が、モノマネでも発揮されているんだろうけど。
普通の人にモノマネにこだわって上手くやれと言われても、無理だと思うんだよね。
兄もたまにモノマネをするけど、兄がするのは往年のバッターやピッチャーのモノマネくらいだし。
それも分かりやすく、トルネード投法や振り子打法、一本足打法とかだから。
それを見せられたところで、めちゃくちゃ似てるー!って言える?
素人である僕達からしたら、あの人のマネをしてるのねくらいにしか思えないんだよ。
身体を大きく捻ってたり、片足で立ってたりするから分かるのであって、似てるのかは分からない。
僕の感想を言うと、モノマネが出来るのは凄いと思う。
でも一般的な人からすると、モノマネをするのって羞恥心を捨てないとダメだと思うんだよ。
似てなかったら恥ずかしいし、でも羞恥心を捨てないと似てないとも思えるし。
何にせよ、僕には無理だ。
だからイッシーには、こう言いたい。
他人に強要するのは、やめてくれってね。
イッシーは寄り掛かりながら、左手で日本号を掲げてみた。
本物を見た事は無いけど、ちょっと変な感じだな。
槍という割には短いどころか、むしろ剣よりも短いかもしれない。
片手で持てる重さで、彼はなんとなく言ってみた。
「ジャパ〜ン!うおっ!俺でも出た!」
日本号の穂先の周りに、分身したような穂先が現れた。
しかしイッシーは、すぐに福島と自分の違いに気付く。
「えーと、俺の方が明らかに数が多いな」
福島の場合、ジャパーン!と叫ぶだけだと、多くても三本が限界だった。
しかしイッシーは何気なく言っただけなのに、それだけで八本はある。
その違いが何なのか分からないが、イッシーは思った。
もしかして本当に、俺の方が上手く使えるんじゃない?
右手がボロボロで構えられないけど、これは良い物をもらった気がする。
「ヌフフ。早く右手を治して、ちゃんと使ってみたいなぁ。楽しみだ」
彼は空で戦うイッシー隊と福島隊の行方を見守りつつ、仮面の下で頬を緩めていた。
「もう大丈夫だろう」
「駄目です。火傷は初期対応が大事。もっと長い時間冷やしておかないと、痕に残りますよ」
「うぅ、しかしだな・・・」
タツザマは川の水を使い、火傷した箇所を冷やしていた。
とは言っても、頭を守っていた両腕くらいしか火傷は負っていない。
幸いな事にすぐに落下したので、火球が直撃したのが腕くらいしか無かったからだ。
「まだか〜?まだなのか〜?」
「まだ駄目ですよ」
両腕を川の中に突っ込みながら、空を見上げるタツザマ。
そこには河童達の放水で動きが鈍い、鯱鉾の姿があった。
しかし問題は、自分が倒すと明言した藤堂高虎である。
タツザマが一時離脱している中、彼だけがフリーなのだ。
今は数の差で河童達が押しているが、それも奇襲込みだったからだ。
高虎の目標は名古屋城を半壊させた潜水艦枝垂に向いており、このままだと河童達の母船がが破壊されないと、タツザマは危惧していた。
「もう良いだろ!拙者、そろそろ行くぞ!うわっ!」
「殿!?」
タツザマが立ち上がろうとすると、彼は水の中から何かに腕を引っ張られ、もう一度倒れてしまった。
周囲の人間が水に向かって剣を突こうとすると、突然左手の手のひらが水面から出てくる。
「僕です」
「だ、誰だ!?」
「あ、あぁ初対面でした。僕は沖田、魔王様の命で手を貸しに来た者です」
「なるほど。失礼しました」
納刀したタツザマ隊。
そしてタツザマ本人も動こうとしたが、彼は水中で沖田の右手に掴まれていて動けなかった。
「あの、手を離してもらえませんか?」
「いやぁ、治療を放棄して向かおうとしていると聞いたので。河童の皆さんなら、もう少し大丈夫ですよ。ところでタツザマ殿、僕があの男を倒しても?」
高虎を倒すと宣言する沖田に、タツザマはあからさまに嫌そうな顔をする。
それを見た沖田は苦笑いした。
「分かりました。そこまで嫌なら、あの男は譲りましょう」
「すまないな。拙者、やられた借りは自分で返したい性分なのでね。この火傷のお返しは、あの男の命をもって払ってもらう。ただ問題もあってな」
「問題ですか?」
藤堂高虎にそこまでの脅威を感じない沖田は、怪訝そうな顔をする。
すると彼は、高虎ではなく名古屋城の方が面倒だと説明した。
「彼等のおかげで、城の防衛機構の一部は停止した。だが一番面倒な物が残っている」
「もしかして、アレですか?」
河童達に対して炎を吐いている鯱鉾。
片方は接近戦をして、尻尾の鉾で河童に攻撃していた。
「なるほど。遠近両方の攻撃をしてくるんですね」
「それだけでなく、とてつもなく硬い。並の攻撃では傷すら付かないのだ」
「へぇ・・・それは興味深いですね」
沖田は水面に顔の半分を沈めた。
ニヤける顔を隠して素に戻ると、再び顔を出した。
「おそらく河童達の放水だけでは、あの鯱鉾は倒せない。だから貴殿には、鯱鉾をどうにかしてもらいたい」
「分かりました!僕がどうにかしてみせましょう」
「助かる!では」
「いやいや、もう少し冷やして下さい」
再び手を引かれるタツザマ。
手を離さない沖田に、呆れて彼は何も言わなくなった。
「勝つ為には、適当では駄目ですよ。万全を期して、倒しに行かないと。その為には河童の皆さんに、もう少し頑張ってもらいましょう」
「沖田殿ー!沖田くーん!沖田さーん!おい沖田ー!」
沖田が消えた。
河童達は潜水艦から泳いできたが、沖田も一緒に川へ飛び込んだはずだった。
流石に自分達と比べたら遅いのは分かる。
しかしいつまで経っても来ない沖田に、河童達は不安と苛立ちを混ぜたような感情で叫んでいた。
「隊長、あの魚強いんだが」
「あっし等だけじゃあ、倒せそうも無いぜ」
「くっそ!あの男なら、魚くらい簡単に倒してくれそうだったのになぁ」
河童達は徐々に押されている事が分かり、少しずつ焦り始める。
「大氷塊!」
「ぬあっ!枝垂にバカでかい氷の塊が飛んでいくぞ」
「フハハ!名古屋城を壊した罪は重い。沈め!」
潜水艦の真上から、大きな氷が押し潰そうと落ちていく。
すると再びミサイルが発射され、真上にあった氷とぶつかった。
「割れた!?それでも!」
ミサイルのおかげで氷の塊は三分割されたが、それでも大きさはまだ十分である。
枝垂にぶつかる船尾が跳ね上がり、そのまま沈んでいった。
「沈没したか。当然の報いだな」
「隊長、枝垂が!」
「慌てるな。爆発していないのだから、沈没したんじゃない。おそらく危険だと判断して、移動をしたんだろう」
「なるほど」
なんて言ったものの、河童の顔は青い。
適当な理由で誤魔化しただけで、実際はどうなのか分からなかった。
「さて、邪魔は居なくなった。次はお前達だ!」
「ヤバイな・・・」
高虎の矛先が、枝垂から河童達に変更された。
ただでさえ鯱鉾への対応に追われた河童達は、タツザマへの不満が爆発する。
「あの男、自分が倒すって見栄を切ったのに、いつの間にか居ないじゃないか!」
「あの男なら、川で倒れているぞ」
「はあ!?」
振り返ると、確かにタツザマは川に腕を入れて倒れている。
全く動かない様子から、もしかして別の何かにやられたのではないかと勘繰った。
「た、隊長、このままだとあっし等もやられますぜ」
「仕方ない。野郎共!」
「へい!」
「とんずらするぞ!」
河童達は高虎と鯱鉾に背を向けて、川へと走り出した。
高虎は一目散に逃げる河童に、唖然としている。
「ハッ!?逃げるだと!」
「ワハハ!三十六計逃げるに如かず。生きてた方が勝ちなんでい!」
「くぅ!だが私もそう思う」
篠山城を爆破して名古屋城へ移動してきた高虎は、河童達の考えがとても共感出来た。
生きていてこその勝ち。
河童達は勝つ為に、必死に川へ向かって走っていく。
「そいやっ!」
隊長である河童が一番に川に飛び込んだ。
続々と川に入っていく河童達。
「アタッ!た、隊長!」
「やはり何処にでも、鈍い奴というのは居るものだ。まずはお前から死んでもらおう!河童のミイラになりたまえ」
転んだ河童に向かって、火球を大量に放つ高虎。
わざと周囲を炎で囲むと、河童は大量の汗をかき始めた。
「あの野郎、痛ぶるつもりかよ」
「どうする?助けに来なければ、お前達の仲間は干物になるぞ?」
「放水しろ!」
「鯱鉾、奴等の邪魔をしろ!」
鯱鉾が炎を河童達に向かって吐くと、彼等はそちらの消火が忙しく、仲間の方に手が回らない。
「チクショウめ!だったら、ん?」
隊長が岸に向かおうとすると、何かを気にした。
「・・・分かった。お前とお前!こっちに来て手伝え」
隊長は河童を二人呼び寄せると、何かの準備を始める。
「良いのかな?お仲間さんは、呼吸が苦しそうだけど」
「うるせい!まずは鯱鉾からだ!大水球!」
隊長が人よりも大きな水球を作り出し、勝負に出た。
それを投げるように鯱鉾へぶつけようと放つと、鯱鉾はそれに対して炎を吐いて応戦する。
「フハハ!蒸発して終わりじゃないか」
「それはどうかな?」
隊長が不敵に笑った。
すると水蒸気の中から、ある男が鯱鉾に向かって飛び出していく。
「さあ、硬いと言われるお前の身体、どんな物か試させてもらおう」
「お、沖田総司!?」
「五連突き!からの、お前はこっち!」
左手の爪で一体の鯱鉾の身体を貫くと、そのままグッと手を握るように身体を引き裂く沖田。
そのまま鯱鉾の身体を足場にして飛ぶと、もう一体の鯱鉾へと近付いていく。
「やらせるか!」
「やらせるんだよ」
「え?」
高虎が沖田に目を奪われていると、横から太刀に袈裟斬りにされる。
「た、タツザマ・・・」
「やられたらやり返す。拙者の流儀だ」
高虎は身体を半分にされて、フライトライクから力無く落ちていった。
「あんまり手応えが無かったな」
タツザマは沖田の方を見ると、もう一体の鯱鉾も真一文字に切り裂いていた。
そのまま川へ落下していく沖田。
「今助ける!」
タツザマは落ちていく沖田へ向かおうとしたが、彼は明後日の方向を指して叫んだ。
「僕よりもあの河童を!川に入れてあげれば、多分助かるはずですから。急いで下さいね!」