突破する河童
藤堂高虎めぇ。
また小癪な城を作りおって。
キルシェは騎士王国への援軍として、駆逐艦八重と潜水艦枝垂を送った。
が、それは秀吉に読まれていたのか、王国から騎士王国へ流れる川の上に、城が建てられていたのだ。
ちなみに川の上に、城なんか建てられるのかと思う人も居るかもしれない。
ところがどっこい!
なんと存在するんですね。
日本では本当に水の上には建てられていないけど、ヨーロッパなんかでは未だに現存していたりする。
その良い例が、フランスにあるシュノンソー城だ。
これは本当に川の上に城がある。
凄いよね、川の上に城を建てるなんて。
水面に映る城を見たら、感動しちゃいそうだよ。
でも僕は、ひねくれ者なんでね。
悪い面も考えてしまう。
例えば水の上となると、虫が湧きそうである。
気付けば大量の蚊が城の中に入りそうだし、朝起きたら虫刺されだらけなんて可能性もある。
それに川が氾濫したら、城はどうなるのか?
二階があるなら困らないかもしれないけど、下手したら外に出られなくなる。
もっと言えば大木か何かが流れてきて城の基礎にでもぶつかったら、倒壊の恐れだってありそうだし。
なんてネガティブな事ばかり考えたんだけど、フランスのこの地域が寒ければ、蚊なんて飛んでないかもしれないし、川だって氾濫しない事を見越して建ててるのかもしれない。
何にせよ、こういう場所だ。
どうせカップルとか新婚旅行なんかで、一杯なんだろうなぁ。
だからこそ僕は、コイツ等の目の前で蚊の話とか氾濫の話をしてやりたいけどね。
リア充は蚊に刺されろ!
ちなみに日本にも高松城とか、水上ではなく海に面していたりする城は結構あったりする。
藤堂高虎が関わった篠山城も、似たような感じかな?
日本に帰れたら、こういう城を観に行くのも楽しそうだなぁ。
帰れたらの話だけど・・・。
高虎は身構えた。
居るはずの無い人物が、自分の命を狙っている。
武器は持っているが、城内の一室という狭い空間で、沖田と戦えば勝てない事は本人が一番理解していた。
だから彼は、慌てた様子を装いつつ、自分がここから脱出する方法を模索した。
「答えろ!」
「ただ単に、様子を見に来ただけですよ。魔王様の命令で、タツザマ殿という方の支援を頼まれました」
「それがどうしてここに居る?」
高虎はそのまま窓から、外に飛び降りられる事は分かっていた。
だが問題は、沖田の隙をどうやって突くかという点だった。
「タツザマ殿と合流したイッシー殿に話を聞くと、王国から秘密裏に援軍が来るというではないですか。しかし現れる様子が無いので、僕が見に来たというわけです。まさか船一隻だとは思いませんでしたけどね」
援軍という割には、あまりにショボい。
沖田は王国という国が、あまり信用出来ないなと思った。
「それは違うぞ!」
沖田の後ろから、階段を上がってきた河童が叫んだ。
思わず後ろを気にした沖田。
それに気付いた高虎は、光魔法を放った。
「光球!」
「うっ!」
強い光を放つ球を沖田と河童に放った高虎は、そのまま外へ飛び出した。
「何も見えん!」
「さらばだ!」
「は?城を捨てるのか!?」
高虎の声に反応する河童。
すると沖田は、声が聞こえた位置へ猛然と走っていく。
「うおぉぉ!!?こ、コイツ!」
「外しちゃったか。声を聞く限り、下へ飛び降りたみたいです」
沖田が走ってきた事で焦って飛び降りた高虎は、間一髪で沖田の突きを躱した。
しかし光で目が見えていない沖田は、流石に高さが分からず飛び降りる事までは出来なかった。
「フハハ!諸君、運が良ければまた会おう」
フライトライクに乗り込み、単身城を後にする高虎。
残った兵達も、将が自ら逃げたのを見て、我先に逃げていった。
「な、何だぁ?」
「何が起きたか分かりませんね」
二人は目が回復するのを待っていると、外が何やら騒がしい事に気付く。
「何か言ってますね」
「逃げろ?」
沖田がようやく目を開けられるようになると、彼等が何を言っているのか理解した。
「河童さん!悪いけど、掴みます!」
「おぉ!どうした!?」
「今すぐに脱出しますよ!あの男、最後に置き土産があるみたいです」
沖田が空を見ると、高虎がフライトライクから巨大な火球を放つ準備をしていた。
「ジイ様!船から降りるぞ!」
「総員退避!八重から脱出しろ!」
河童達は船を捨てて、城から岸へ走っていく。
沖田もその後を追うと、岸へ着く前に高虎の火球が城へ落ちてきた。
「死ね!」
火球が城に直撃すると、城に残っていた重油に引火し、更に仕掛けられていたミサイル等の火薬類に火がついた。
その瞬間、大きな爆発と共に沖田と河童は爆風に巻き込まれて吹き飛んでいく。
「ぬあぁぁぁ!!」
火の海と化した川へ落ちた沖田と河童。
沖田は気を失って、そのまま沈んでいく。
川に飛び込んだ事で驚き目を開けた河童は、沈む沖田を抱えて更に潜っていった。
「誰だ?誰かが枝垂を叩いているな」
河童は潜水艦までたどり着くと、すぐに火から離れた場所へ移動しろと艦を叩いた。
「見ろ!城が爆発した事で、八重も巻き込まれていくぞ」
「網が外れた!全速前進!」
枝垂は作戦遂行の為に城を通過すると、火から離れた所で上がった。
「おいお前!」
気を失った沖田の頬を叩く河童。
胸に耳を当てると、鼓動の音は聞こえている。
「水を吐け!おらっ!」
「ゴホッ!」
水を大量に吐き出した沖田は、目をゆっくりと開ける。
それを見た河童は、勢いよく頭を叩いた。
「ありがとうよ!このすっとこどっこい!」
「イテッ!何で僕、叩かれた?」
「俺なんか見捨てて逃げれば、お前がこんな目に遭う事は無かっただろうが!」
河童は自分の身の危険を顧みずに助けようとした沖田に、感謝と怒りをぶつけた。
すると沖田も頭に来たのか、河童の皿をペシっと叩く。
「見捨てたら気分が悪いでしょうが!」
「おま、皿は叩いちゃいけねえよ。割れたら大変なんだからな」
「ところで、船はどうなりましたか?」
「そんなの俺が知るわけないだろ」
沖田は起き上がり振り返ると、黒い煙が立ち上がる城があった場所を見た。
城に突っ込んでいた船は、煙が酷くてまだ見えない。
「・・・んん?船は残っている?」
城から遠い船尾だけは確認が出来た。
煙に巻かれて見えづらいが、損傷があるようには見えない。
「あの男は逃げたみたいですね」
「消火活動が始まらないな。アイツ等、何してんだ?」
河童は煙の先の岸を見ると、味方が何をしているのか確認した。
沖田も目を細めて見てみると、そこには岸で河童と敵の生き残りが戦っていた。
「アイツ等!」
「僕が助けに行きますよ。って、アレ?」
足がもつれる沖田。
潜水艦の上でフラフラっとすると、バランスを崩してコケてしまう。
「お前、まだ爆発に巻き込まれた余韻が残ってるんだよ。枝垂の連中に消火をやらせよう。お前は休んでいろ」
「僕も出来ますよ。いや、無理か」
枝垂が動き始めると、ハッチから数人の河童が出てくる。
彼等は川に飛び込むと、遠くから水を大量に船に向かって放水し始めた。
それを見た沖田は、同じマネは出来ないと諦めて、潜水艦の上で座り込む。
「岸の河童達も、勝ったみたいですね」
「俺達も鍛えるようになったからな」
河童は水中以外では弱い。
そう言われた彼等は、独自に戦闘訓練を重ねていたらしい。
そのおかげで秀吉軍を打ち破ると、岸の河童達も放水を始めた。
「・・・船の先端、曲がってますね」
「あの程度なら大丈夫だろ」
河童達は火が弱まった隙に船に乗り込むと、重油まみれの川を突っ切っていく。
「凄い。あんなに曲がっているのに」
「アレは飾りだからな」
「飾り?何があったんです?」
「キルシェの姐さんを模した飾りだ。ひしゃげてブサイクになっちまったけど」
「ブサイクというか、潰れてて何だか分かりませんよ」
実はこのキルシェ像、本人はとても嫌がっていた。
しかし河童達が、王国の象徴だと言って彼女を讃える為に造り、大半の船の何処かにキルシェを模した物が作られるようになっていた。
ちなみに潜水艦枝垂には、艦の横にキルシェの顔がペイントされている。
「俺達も八重に移るぞ」
船を乗り換えた沖田は、艦長とジイ様と面会する。
「キミは、魔王様の手の者かな?」
「そうです。様子を見に来ただけだったんですけど、まさかこんな事に巻き込まれるとは」
「すまねえな。あっし等だけだったら、城は突破出来なかったわ」
高虎をどうにかしたのは、沖田が来てくれたから。
二人ともそれが分かっているからこそ、感謝の言葉を述べた。
そしてジイ様が沖田に質問をする。
「ところでキミは、タツザマ殿の援護には向かうのかな?」
「そうですね。ちょっと頭がフラフラするので、少し休んだら向かうつもりです」
やはり爆発で頭を打ったのか、まだ本調子とは言えなかった。
すると艦長が、敬語もへったくれも無い言葉で沖田を誘う。
「そうか。だったらこの船に一緒に乗ってけよ」
「良いんですか!?」
「あたぼうよ!アンタはあっし等の恩人だぜ。ジイ様、良いよな?」
「う、うむ。というかお前、魔王様の所の客人なんだから、ちゃんとせいよ」
「ああ、そうか。というわけで、貴方を戦場へ送り届ける」
丁寧な口調に変更した艦長だが、素を知ってしまったので違和感がある。
だから沖田は、言葉遣いは気にしないで良いと伝えた。
「よっしゃ!流石は・・・名前何だっけ?」
「沖田です。沖田総司」
「んじゃ総坊だな」
「坊!?僕、一応成人はしてるんですけど」
「いや、坊だな。まだまだ海の男には程遠いぜ」
「海の男って言われても・・・」
河童達とは価値観が違い過ぎる。
沖田は苦笑いすると、なんとなく過去の記憶が蘇った。
「坊か」
「どした?」
「ちょっと昔の事を思い出しただけです」
沖田は近藤と土方に、子供扱いされていた頃の事を思い出した。
ヨアヒムにこの大陸に連れてこられた連中の中で、唯一関係が深かった人物。
それがこの二人だった。
小さな頃から知っていて、一時は剣と爪の使い方を教わったりもした。
「何か面白い事でも思い出したのか?」
「え?」
「お前、笑ってるぞ」
頬を触ると、確かに笑っているのが分かる。
「そっか。僕は早くあの二人と戦いたいのか。僕はもう坊主じゃない。西側の城に、近藤さんと土方さんが居れば良いんだけどなぁ。援軍として来ていないかなぁ」




