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東西同時進行

 複雑な気持ちなんだろうな。

 自分の領地を取り返せないというのは。


 一益の領地奪還が失敗に終わると、長秀は若狭国の奪還を一旦保留にした。

 本当なら取り返したい気持ちがあるのは分かる。

 妖精族がどんな仕打ちを受けているか分からないし、もしかしたら虐待を受けているかもしれない。

 しかし功を焦れば、一益の二の舞だと理解したのだろう。

 圧倒的な強さですぐに奪還すれば、被害は少なくなると思う。

 それにはあの二人、阿形と吽形の力が必要なんだけど、まだリハビリ期間っぽいからなぁ。

 長秀もドワーフの力が借りられなくなった今、戦力という面で二人が居ないと無理だと分かったはず。


 とは言っても、実は僕はそこまで若狭国を心配していないんだよね。

 その大きな理由として、若狭国は秀吉にとっても重要なんじゃないかと思っているからだ。

 そもそも安土や上野国は、秀吉にとってそこまで重要な土地ではなかった。

 安土はただの大きな貿易都市であり、食事が楽しめる程度の場所である。

 じゃあ上野国はどうなのか?

 上野国は、新たな武器防具の生産には欠かせないのではないか。

 そう思った人も居るだろう。

 だが考えてみてほしい。

 秀吉の配下には、コバのライバルと称される男が居る。

 飛行機や戦車を作り出し、近代武器を投入してくるような奴だ。

 おそらくその男が居れば、上野国の鍛治など必要無いという考えなのだろう。


 それに比べて若狭国は、薬草や薬の生産地として有名である。

 武器や防具は作れても、医療関係には乏しいのではないか?

 僕はそう思ったからこそ、若狭国は安泰なんじゃないかとも考えていた。

 長秀にはそれを直接言えないけど、薬草や薬の知識がある妖精族は、多分酷い扱いはされていないと思う。

 ただそれ以外の妖精族となると、話は別だけどね。










 越前国には蘭丸や太田達が居る。

 手を貸すなら、西側のタツザマ達という事だろう。



「よーし!早速準備しようじゃあないか!」


「分かりました」


 長秀は二つ返事で動き始める。

 僕も準備をしようとした瞬間、肩を掴まれた。



「何処に行くつもりであるか?」


「・・・タツザマの援護をしに」


「まだ上手く、扱えていないのにであるか?」


「・・・」


「何も答えないという事は、自分で意識しているのと同じである。分かったなら、休憩を終えてさっさと特訓の続きをするのである」


 クソー!

 援軍に行くなら、この特訓も中断になると思ったのに!

 ハッキリ言おう。

 少し気分転換がしたい。



 正直なところ、特訓は上手くいっていない。

 自分だけなら何とかなるが、兄との連携を考慮すると、どうも難しい。

 しかも魔王という役柄からか、他の人よりも求められているものが多い気がする。

 皆の期待もあるので、頑張りたいとは思うのだが、ちょっとくらいは手を抜かせてほしい。


 だからタツザマの援護にと考えていたのだが、どうもそれは許されないようだ。



「魔王様には申し訳ありませんが、今回行くのであれば、イッシー殿と沖田殿です」


「え?長秀は?」


「休養を取ってもらいます」


 やる気十分だったのに、どうしてだろう。

 そんな疑問が顔に出たのか、官兵衛は理由を教えてくれた。



「あの方は根を詰め過ぎです。若狭国が心配なのは分かりますが、無理をして倒れられても困りますから」


「なるほど」


 そういえば長秀は、領主なのに自分から動き過ぎな気もする。

 若狭国を取り戻したいからという理由もあるのだろうが、記憶の封印からそのまま一益の手助けに動き、そしてまたタツザマの手助けに行こうとしている。

 身体を動かす事で、何か不安を紛らわせようとしている節がある。



「分かった。少し休ませよう」









「タツザマによろしくな」


 弟は再び特訓に戻ったので、俺が見送りをする事になった。

 イッシーは自分の隊を率いていき、沖田は別行動を取る形となった。

 もし狙えるのであれば、沖田には一人で城に潜入してもらう。

 イッシーはタツザマと連携した方が強いだろうし、二人の部隊が暴れている間に、城も混乱するはず。

 その間に沖田が城を任されている男を倒せれば、万々歳だろう。



「長秀、お前もちょっとくらい何か言えよ」


「頑張って下さい」


 全然心が込もっていない。

 やはり外された事に根を持っているらしい。

 だけど官兵衛と弟が言っていたように、長秀はちょっと休ませた方が良い。

 故障や怪我というのは、疲れから来る事もあるのだ。

 俺はそれをよく知っている。



「長秀、お前にはこの後の戦いがあるからな。そっちの方が激戦だぞ」


「激戦?」


「そうだ。次の戦いに備えてほしいから、今回は休んでほしいんだ。って、官兵衛が言ってた」


「なるほど」


 勿論、そんなのは嘘である。

 次の戦いがあるのは分かるが、いつあるかなんて知るわけが無い。

 だからこの休養も長くなるかもしれないし、とんでもなく短いかもしれない。

 全ては官兵衛にぶん投げである。



「しかし少しくらいは身体を動かさなければ、鈍ってしまいますね。滝川殿を手伝ってきます」


 長秀は少し表情が和らぐと、イッシーに頭を下げて去っていった。



「イッシー、相手は誰だか分からんが、頼んだぞ」


「やれるだけやってみるさ。ヤバかったら逃げるだけだし。それにタツザマ単独との共闘は、あまり経験が無い。その辺りは楽しみでもあるかな」


 長秀と違い、イッシーは逆に心身共にリラックスしている感じだな。

 これなら成功も期待出来そうだ。



「沖田は判断を任せる。イッシー達が動くまで待っても良いし、陽動を仕掛けても良い」


 と、官兵衛から言われている。

 おそらく官兵衛にここまで信頼されているのは、誰も居ないだろう。

 それくらい沖田には、能力があるという事だ。



「分かりました。臨機応変に動きます。それでは行ってきます」


「俺達も行ってくる。着いたらまた報告はするから」


 流石は元サラリーマン。

 一益と違い、報連相の基本が出来ているようだ。



 二人は出て行った後、しばらくして電話が鳴った。



「魔王様!ワタクシです!」


「太田かよ。元気にしてたか?」


 めちゃくちゃ声がデカイ。

 すぐに誰だか分かったが、何の用だろう?



「タツザマ殿が動いたという報告はありましたか?」


「まだ分からない。でも今さっき、こっちからイッシー達が援軍に行ったけど」


「なるほど。では三日くらいで到着しますかね。分かりました。こちらも同じくらいの時間に、熊本城を攻撃します」


 なるほど。

 同時攻撃を開始して、北側の判断を鈍らせるつもりだな?

 お市達もよく考えている。

 いや、考えたのは蘭丸かトキド辺りかな。



「よし!太田、絶対に城を落としてこい!落とせなかったら、またしごくからな」


「キャプテンでしたか!?フフフ、あの頃が懐かしい。しかし

 キャプテンには悪いですが、ワタクシ達で城を落としてみせますよ」


「頑張れよ」


 俺は電話を切ると、ちょっと懐かしい気持ちになった。

 最近、弟の出番が多くて、俺が太田と話したのがだいぶ前な気がしたからだ。

 まあ太田だから別に良いんだけど。



「さてと、俺も特訓の練習に付き合うかな」









「キミ、なかなか良いね」


「あ、ありがとうございます」


 蘭丸と太田二人を相手にしながら、汗を流したトキド。

 普段あまり前に出ない蘭丸の槍を相手にして、率直な感想を言う。

 有名人に褒められた蘭丸は、顔を赤くして照れている。



「太田殿は、正直もう相手にしたくないな」


「え・・・」


「悪いが硬過ぎて、自分に自信を無くす」


 真剣ではなく模擬刀で戦ったトキドは、どれも急所に当てたはずだった。

 しかし何の反応も見せない太田を見て、自分の攻撃が効いていないと錯覚してしまった。



「ふーむ、やはり魔王様の周辺は恐ろしいね。特にキミ!ケモノを宿せなくても、魔法で代用出来るし。騎士王国に来たら、即領地持ちになれるよ」


「それは、領主という意味ですか?」


「そう。どうだろう?来る気は無いかな?」


「トキド殿、勧誘はやめていただきたい」


「ハハッ!社交辞令ですって。俺にはそこまでの価値は無いですよ」


 トキドによるスカウトを断った蘭丸。

 自分を過小評価しているとも知らず、太田が間に入った事でこの話は流れた。



「もう準備運動は良いでしょう。西側は動いたようですから、東のウケフジ殿も動くはずです」


「そうだな。今度こそ仕返しさせてもらう」


 トキドの顔が一変すると、空気が変わった。

 そして水嶋が準備が整ったという報告に来ると、彼等は動き出した。



「行きましょう、トキド殿」


「よし!待ってろ加藤清正。俺が絶対に倒す」







 一方で、西側にある名古屋城の目の前。

 既にいつでも攻撃が出来る状態にあるタツザマは、報告が来ない事に苛立っていた。



「遅い!どうなっている!王国からの援軍は、まだ来ないのか!」


「報告では、既に出たという連絡が・・・」


「しかし現れないではないか!」


「も、もしかしたら、敵に察知されているのかもしれませんよ?」


 恐る恐るタツザマに意見する男。

 タツザマが考え込むと、男はそそくさと前から姿を消した。



「秀吉軍に察知されたか。いや、たまたま遭遇した?それなら分からなくもない」


 予定では、挟撃を仕掛けて混乱をさせる作戦だった。

 しかし来ないのであれば、このまま自軍のみで攻める他ない。



「殿、どうされますか?」


「ウケフジ殿を、これ以上待たせるわけにはいかない。我々だけで攻めよう」


「分かりました。全員、進軍開始!」


 今回の城攻めは、東西同時進行が作戦の肝となる為、タツザマは泣く泣く名古屋城への進軍を開始した。

 片方だけ勝っても意味が無い。

 東西同時に城攻めを成功させなければ、北から援軍が来る。

 王国からの援軍が来ない中、勝率は五分しかないと思いつつも、タツザマは攻めるしかなかった。



「殿!伝令が戻ってきました!」


「ようやく拙者にも運が向いてきたか!」


「読みます。え・・・」


 手紙に目を通した男は、手紙とタツザマの顔を交互に見比べる。

 早く伝えてほしいタツザマは、男を急かした。



「何故黙る?早くしろ」


「は、はい。・・・怒らないで下さいよ?」


「聞いてもいないのに、怒りようがないだろう」


 男は肩を竦めながら、恐る恐る手紙を読んだ。








「王国を出た船は二隻。機動力に長けた艦と、隠密性に長けた艦。川を上り順調に来ていたが、途中の川に城が立っている。その為これ以上の進軍は、不可能となった。城を落とし次第向かうが、作戦遂行時刻には間に合わない故、実行するか延期するかは、任されたし。との事です」

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