反撃の騎士王国
後悔先に立たず。
一益は自分の判断を、大きく後悔した。
一益と長秀は山田を倒す事に成功はしたのだが、代わりに多大な被害を受けてしまった。
避難をしろと言ったものの、秀吉軍の捨て身の攻撃で多くの同胞を失い、更には山田達の策略によって上野国も炎上してしまった。
一益はそれを嘆くと、領主の座を降りると宣言した。
これに関しては僕も驚いたのだが、しかし人によっては、これを逃げたと捉える人も居るだろう。
上野国を再建しろ。
おそらくそう考えている人も、居るんじゃなかろうか。
だけど考えてみてほしい。
そもそも今回の奪還作戦は、一益だから失敗したとは言いづらい。
長秀と真田家の支援を受けた時は、膠着状態から一転、街の一部を取り返して城まで奪える寸前まで行ったのだ。
しかし山田登場という不慮の出来事が起きたせいで、今回のような結果になったと言っても良い。
その山田登場だって、外から城に入られたわけじゃない。
魔法か何かで、突然城内に現れたのだ。
こんなのどれだけ警戒していても、防げないだろう。
もしこれが一益ではなく僕であっても、山田の登場は予想出来なかった。
では反省すべき点は無いと言えるのだろうか?
それは当然ながら、あると言わざるを得ない。
もし山田登場をキッカケに、一益が引く事をしていたら、上野国は炎上しなかった。
だけど一益の判断を非難するのは、僕としては酷だと思う。
もう少しで自分の領地を奪還出来る。
そんなところまで来ておいて、今から撤退すると皆に言えるか?
言えないでしょ。
確かに判断としては間違っていたかもしれないけど、僕だって安土で同じような事になったら、進軍を続けると思う。
辛うじて官兵衛から強く言われたら、渋々下がるかもしれないけど。
人の振り見て我が振り直せ。
などと言っても、安土は秀吉に消滅させられてしまったので、僕には直す事も出来ないのだが。
だから今回の件で一番良い経験をしたのは、確実に長秀だったと思っている。
信之の口から、どんどん出てくる今後の案。
一益や長秀だけでなく、父である昌幸もこれには開いた口が塞がらなかった。
「兄上、その辺でよろしいかと」
「え?ハッ!私とした事が、勝手な妄想ばかりしてしまい、申し訳ありません!」
自分が浮いている事に気付いた信之は、一益に頭を下げた。
だが当の一益は、それを笑って一蹴する。
「良い良い!それくらい考えがあるのなら、ワシよりも優れた領主になれるだろうよ」
「私も少々驚きましたが、なかなか良い着眼点だと思いました。むしろ参考にさせてもらいたい案も、あるくらいですよ」
「御二方にそう言ってもらえると、ありがたいですね」
皆が一通り話を終えると、彼等は今後の事について話し始める。
「まずは砦に戻るべきだな」
昌幸の提案に、長秀も頷いて同意する。
「砦か。ワシには規模が分からないのだが、ワシ等全員が入れるのだろうか?」
「全員となると・・・入れるかは微妙ですね」
信之と信繁は、脱出したある程度の人数を把握していた。
だが砦の大きさから言って、全員は難しいだろうという判断になった。
「そうか。ならばワシ等は、越前国まで避難するしかないな」
「いや、大丈夫じゃないですか?」
「そうですよ。父上とコバ殿が居るんです。砦を勝手に、魔改造して拡張しちゃうと思いますよ」
「ま、魔改造!?」
信之と信繁は、コバの常識外れの考え方を知っていた。
だから砦に入りきらなくても、問題無いと言い切った。
「お前達、ワシ等を何だと思っている!魔改造なんかせんわ!」
「す、すいません〜!」
息子二人に雷を落とす昌幸。
しかし彼は、別の言い方をしただけで似たような事を言い出す。
「砦の周りを広げるなら、ワシ等じゃなくても出来る。幸いな事に、ここにはドワーフが沢山居るのだし、勝手に何を作ろうがコバ殿もワシも何も言わんわい」
「なっ!?ブハハハ!真田殿も、上野国を出て変わったな。ならばワシ等は、勝手に自分達の居場所を作らせてもらうとしよう」
「コバ殿に毒されたからな」
照れ臭そうに顔を背ける昌幸に、一益は笑いながら肩を叩く。
そして一行は、上野国の火を見ながら一夜を過ごすと、翌日には砦へと旅立つのだった。
「というわけで、全員で来ました」
「・・・事前に連絡するべきなのでは?」
一益達がドワーフを引き連れて砦に戻ってきた。
でもこれには、僕は文句が言いたい。
領主には携帯電話を持たせているのだ。
普通このような事になるなら、先に連絡してから来るべきでしょ。
【これに関しては俺もそう思うわ。予約しないで店に行っても、人数多過ぎて入れないとか多々あったし】
部活帰りのメシ屋と一緒にされるのも、どうかと思うけど。
まああながち間違ってないから、良いか。
「自分達の住まいは、自分達でどうにかしますので。それでは、作ってまいります」
一益は挨拶も早々に切り上げ、外へと出ていった。
真田家も同族のよしみからか、手伝いに行っている。
そうなると浮くのが、長秀だ。
「上野国の件、大変だったね。それで、どうするの?」
僕が聞いたどうするのというのは、若狭国を同じように奪還を目指すのかという点だ。
同じ領主である一益の失敗を、彼は間近で見ている。
やり方は変えるだろうが、それでも若狭国奪還を目指すのか。
それとも今回は保留にして、まずは違うところから攻めていくのか。
彼は少し悲しそうな顔をすると、すぐに即答した。
「今回は諦めます。今回の件で、無理矢理攻めても上手くいかないのは明白ですし、何より戦力が乏しいですから」
「阿形と吽形の事だね」
「いつ戻ってくるのやら」
二人はまだ、帝国で治療中である。
動けるようにはなったものの、戦場に出るほどではないようで、リハビリ期間が必要らしい。
「しかし魔王様、この後の作戦は?」
作戦ねぇ。
長秀は戦いに出たいようだが、僕は違う。
僕はまだ、専用の武器が使いこなせていない。
それに今のままでは、秀吉に勝てるか分からないし。
だから戦いに向かうよりも、まずは今回の武器の取り扱いを優先したいのだ。
「えっと、官兵衛」
言葉に詰まった時は、全て官兵衛にぶん投げる。
これが鉄則である。
「今のところオイラ達に出来る事は、あまり無いんですよね」
「そうなの!?」
少し驚いたな。
このまま何もせず時間を費やすのは、あまり得策じゃないと僕は思っていたんだけど。
官兵衛はそうは思っていないらしい。
ところがある報告が入った事で、事態は変わった。
官兵衛は報告を耳打ちされると、僕と長秀に言った。
「騎士王国が動いたようです。狙いは西の城のようですね」
「西?また一番微妙な所を、狙っている気がするんだけど」
ハッキリ言って、騎士王国の西側には大して重要なものは無い。
強いてあげるならば王国があるくらいで、キルシェが日和見を決め込んでいる時点で、特に重要視する点など何も無いと思うのだが。
「どうして西側なんでしょうか?」
「僕も気になるな」
「勝てると踏んだのでしょう。でなければ、わざわざ出陣しないと思います」
「その言い回しだと、官兵衛も分からなくて不審に思ってる?」
僕の聞き方が悪かったのか、ちょっと不満そうな官兵衛。
ただすぐに切り替えたのか、やはり理由が分からないと言った。
「私達は援護に向かわなくて、良いのかな?」
「現状では、あまり得策ではないでしょう。こちらも戦力が少ないですから」
援軍は送らない。
官兵衛の考えに対し、少し長秀は思うところがあるらしい。
だから別の意見があるようで、僕の顔を見て発言して良いのか様子を窺っている。
僕は官兵衛の考えに従う方が、多いからだろうな。
僕はそれを察して、先に聞く事にした。
「長秀は何かある?」
「ありがとうございます。私は援軍を送るべきだと、考えております」
「その心は?」
「私達は戦力が少ない。だったら他を頼るしかないですよね。その戦力を、騎士王国から借りるのはどうかと思うんです」
今や一番の支援者であるヨアヒム率いる帝国は、藤堂高虎の仕業で動ける状態には無い。
ハッ!
もしかしてそれを見越していた!?
ヨアヒムは最大戦力であるムッちゃんを、単独で騎士王国に向かわせている。
帝国に恩を着せる事で、僕達への援護を騎士王国にさせようと考えているのか?
いやいや、ヨアヒムも騎士王国の状況が分かっていないんだから、そこまでは考えていないだろう。
「官兵衛殿は、私の意見をどう思われるか?」
ストレートに官兵衛と、真っ向勝負を挑むつもりか。
「私もその案はアリだと思いますよ。ただそれを、騎士王と帝が認めるかというのが、大きな問題です」
「そこは協力したのだから、こちらから求める事も出来るのでは?」
「手を貸したいが、自国の立て直しに時間が掛かると言われたら、何も言えなくなります」
「うぅ・・・」
長秀は言葉が詰まった。
領主である彼には、それを言われると否定出来ないというのが分かったらしい。
だったら志願兵だけでもという考えはどうなのか?
おそらくトキドなんかは、今回の敗北で秀吉にやり返したい気持ちもありそうなんだけど。
「あの二人は、自分第一でちょっと危険なんですよね」
それを言われると、ぐうの音も出ない。
やはり確約が無いと難しいか。
僕達が考えに行き詰まっていると、今度は電話が鳴った。
「もしもし、蘭丸か?」
「おぉ!久しぶりだな。ちょっと聞きたいんだけど、騎士王国が反撃に出たって本当か?」
何処から聞いた話なのだろうか。
騎士王国の西側の話なんて、正反対の東側に伝わるとは思わなかった。
「本当みたいだよ。こっちも報告が来たばかりだけど、タツザマが西側の城に攻め込むみたいだ」
「なるほど。それだけ分かれば良い!」
「ちょ、ちょっと!もしかして越前国も攻めるの?」
「トキド様も回復した。東西から攻めれば、向こうも焦るに違いない。こっちが動けば騎士王国も動くはずだと、トキド様は言っているからな」
僕達が知らないところで、約束でもしたのかな?
でもそれはそれで悪くない。
「東西の城さえ落としてしまえば、残るは北の城だけ。そこに戦力が集中出来るなら、少し考えは変わりますよ」
「官兵衛殿!?」
官兵衛は東側も動くとは思わなかったらしい。
オケツの事だから、そこまで大胆な行動には出ないと思ったのだが。
「丹羽様、朗報です。東西の城が落ちれば、残るは北の城のみ。そうなればこの砦からも挟撃が出来ます。北の城さえ落とすと、騎士王国の安全は確保される。先程の話、少し変わるかもしれません」
「では!?」
「東には越前国があります。だから我々も西側に、援軍を送りましょう」




