表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1096/1299

ドワーフの未来

 戦いは数だよ。

 かつてそう言った偉い人が居た。


 一益と長秀は、お互いの戦う相手を交換して戦うと、急に戦い易くなった。

 それは今までの苦戦が嘘だったみたいだった。

 戦いにおいて数というのは、非常に大きい。

 どんな軍師や策士も、念頭に置くのはどれだけ数を揃えられるかという点だった。

 しかしそれが、お互いに同数だったり少数だった場合はどうなるのか?

 そうなるとまず思いつくのは、どれだけ個々の強さに差があるかという事になる。

 じゃあそれもまた、同じくらいだったらどうなるのか?

 そしたら相性という点が、出てくるのではないだろうか。

 要はジャンケンである。


 とは言っても、僕はそのジャンケンが本当に合っているのかと聞かれたら、どうなんだろうと思っている。

 僕が子供の時に習ったのは、パーは紙でチョキはハサミ。

 そしてグーは石だった。

 じゃあそれ等を現実的に用意してみよう。

 まず最初に思うのは、明らかに紙は最弱だという点だ。

 紙に向かって石を投げれば、簡単に破けるんじゃないか?

 でもハサミが金属製なら、切らずに穿つやり方をすれば、石も削れると思うんだよね。

 そう、これは性根の曲がった僕という男の屁理屈である。

 だから僕はこう言いたい。

 相性なんかで分かるはずは無い。

 要は勝った方が、強かっただけなのだ。


 一益も長秀も、戦っていくうちに苦手意識を持ったから苦戦したんだと思う。

 おそらく同じ名前の人物には、負けたくないという意識も働いたんじゃなかろうか。

 自分と同じ名前の男なんだから、強くて当たり前。

 そういう気持ちが、頭の中にあったんだと僕は思う。

 何故そう思ったのかって?

 だって僕には、それと近い人物が同じ身体に居るんだ。

 いつもそう思っているんだから、なんとなく分かるんだよね。

 似たような人物には負けたくない。

 これは誰にでも、同じような経験があるんじゃないかな。











 口から大量の血を吐く山田。

 だがその目は、まだ死んでいない。



「こ、この恨み、地獄で・・・晴らす!」


「残念だが、ワシはまだ当分死ぬ気は無い。だからお前とは、もう会う事は無い」


「フ、フフ。アヒャヒャ!ツウッ!」


 山田は突然笑い出すと、一益はそれが不気味に感じて少し距離を取った。

 山田の顔は、既に真っ青である。

 もうすぐ死ぬのは目に見えているのに、何故こうもプレッシャーを感じるのか。



「お、お前とはすぐに会う。お、俺達には、秀長氏が居るから・・・」


「秀長氏?」


 最後の力を振り絞ったのか、山田はカッと目を見開いた。



「俺の意識は無くなろうとも、俺はお前への恨みを覚え続ける!ゴホッ!忘れるな。俺は地獄からお前を倒す為に、また姿を現すぞ。イヒヒヒ!」


 山田は言いたい事を言うと、そのまま息を引き取った。

 その形相は凄まじく、一益は恐怖を感じて後退りするくらいだった。



「恐ろしい事を言いますね」


「聞いていたのか!?」


「死ぬ間際の声は。アレだけ大きな声で言えば、私にも聞こえますよ」


 気付くと長秀が隣に立っていた。

 一益は長秀に、山田の最期の言葉について聞いた。



「あの言葉の意味、どう思う?」


「地獄から姿を現す。幽霊になって、呪うつもりですかね?」


「丹羽殿・・・」


「冗談ですよ。すいません。でも私は、全ての言葉を聞いていないので」


 真剣に聞いたつもりが、茶化された。

 一益は少し苛立ちを見せると、長秀は謝罪し、言い訳をする。



「気になるのは、秀長氏かな」


「秀長氏?たしか木下殿の配下に、羽柴秀長という男が居たはずです。その男が鍵なのかもしれないですね」


「羽柴秀長か。その男には要注意という訳だな」


「私も覚えておきましょう」


 一益と長秀は、避難したドワーフ達と合流するべく、移動を開始した。








「これだけか?」


「敵だった連中が、決死の覚悟で襲ってきたので・・・」


 避難したドワーフの数は、とても少なかった。

 その理由は、秀吉軍が避難をせず、ドワーフ達に攻撃を続けたのが原因だった。

 自分が死のうとも敵を討つ。

 それ故に彼等は、仲間の死と引き換えに生き残ったと言っても過言ではなかった。



「・・・ワシの選択が間違いだったのか?」


 一益は俯くと、ポツリと呟いた。

 誰もその答えを言える人は居らず、長秀も真田も沈黙している。



「どう思う?」


「わ、私は・・・。いえ、私も同じ事をしたと思いますよ。私達は領主。自分の城を奪われたなら、取り返そうとするのが筋です」


 長秀は突然聞かれると、しどろもどろしながらも、自分の気持ちを伝える。



「しかし、その結果がコレだ。急ぎ過ぎたのかもしれない」


「さ、真田殿!」


 昌幸が意を決して口を開くと、長秀は思わず叫んだ。

 しかし彼は、言葉を止めなかった。



「滝川殿がもう少し冷静に、敵の戦力と覚悟を見誤らなければ、ここまでの被害は出なかっただろう」


「真田殿!口が過ぎるのではないか!」


「ワシは事実を言ったまでだ。この責任は、領主でありこの部隊を率いていた滝川殿にある」


「真田殿!」


「いや、良いのだ。ワシもそうなのかもしれないと、今になって思っている。ワシは負けたのだな」


 一益は未だに燃えている上野国と厩橋城を見ながら、自分が悪かったと認めた。

 長秀は彼のそんな言葉を聞いて、口を閉じた。

 だが、昌幸はまだ言葉を続ける。



「だが、ワシはそんな滝川殿を誇りに思う。ここまで上野国が発展したのは、間違いなく貴殿が領主だったからだ。ワシは鍛治師としてはオヌシに負けているとは思わないが、やはり治政という点においては勝てるとは思えなかった」


「父上・・・」


「ワシはやはり生粋の鍛治師だ。鍛治仕事をしながら領地を治めるなど、出来る気がしない。それをしていた滝川殿は、やはり凄いとしか言いようが無い」


 昌幸は初めて、自分の気持ちを一益にぶつけた。

 鍛治師としてトップに立てなかった悔しさもあれば、領主としては認めていた誇らしい気持ち。

 色々と入り混じった気持ちを吐露すると、一益はそれに応えた。



「ワシは良い領主だったか。真田殿にそう言ってもらえると、とても嬉しく思う。だが、ワシは上野国を失った」


「また造れば良かろう。その時はワシも手を貸す」


「いや、もうワシの役目は終わった。今回の件で、少なからずワシに懐疑的な目を向ける人物は、この中にも居るだろう」


 もし奪還を焦らなければ、ドワーフはここまで数を減らさなかった。

 生き残った連中の中には、一益を恨んでいる人は居るはず。

 彼はそれを認めて、自分は領主の器ではないと言い出した。



「しかし、そうなると誰が領主を務めるのだ?さっきも言ったが、ワシには無理だぞ」


 昌幸は一益に尋ねると、彼は昌幸の後方へ目を向けた。

 それを見た昌幸と長秀は、二人とも振り返る。



「・・・父上、誰も居ませんよ?」


 昌幸と長秀が振り返ると、その後ろに居た信之と信繁も振り返った。

 しかしその二人の後ろには、誰も居ない。



「まさか、オヌシ!」


「その通りだ。これからは次代のドワーフが、新しい世界へ導くべきじゃなかろうか?」


「滝川殿!それはまさか、この二人のどちらかに任せると言うつもりか!?」


 昌幸も長秀も、驚きを隠せない。

 当の本人達は二人が驚く様を見て、ようやく事態を理解した。



「どうだろうか」


「無理無理!私には領主なんて出来ませんよ!」


「なあに、最初から完璧にこなせと言っているわけではない。もう上野国は無いのだ。一から手探りでやっていけば良い」


「そ、それでも無理ですよ〜!」


 信之は泣き言を言うと、一益は隣の信繁にも目を向けた。

 見られた信繁はビクッと反応して、何を言われるのかと急に汗を流し出す。



「ちなみにワシは、弟の信繁殿も認めている。しかし今や少ないドワーフを割るのは、あまりよろしくない。だから君には、兄である信之殿を助ける役目をこなしてほしい」


「兄上を助ける・・・」


「滝川殿、二人を過大評価し過ぎではないか!?ワシの息子ながら、そこまで評価されるとは思えないのだが」


「いや、二人とも頭の回転が速い。おそらく二人とも、領主に向いている。丹羽殿はどう思う?」


 再び話を急に振られ、長秀は言葉に詰まった。



「えっと、私はドワーフではないので何とも・・・」


「領主の先達としてなら、どう思われるか?」


「それは・・・良い!」


「良い?」


 そこで長秀は、ピンと来てしまった。



 真田兄弟が領主を務めるのであれば、自分のところの阿吽のテストケースに出来るのではないかと。

 問題はこの二人は、信之を立てて信繁が支えるという形を選ぼうとしている。

 領主を争う阿吽とはタイプが違うので、その辺りは参考に出来ない。

 しかしそれでも、兄弟で領地を盛り立てていくという考えは、今の長秀にはとても興味深い話だった。



「ゴホン!何事も初めては怖いものです。信之殿が怯むのも無理はない。しかし!信繁殿が支えてくれるのであれば、一人ではないと実感出来るはず。それに滝川殿だって、最初からいきなり全てを任せるつもりじゃないでしょう?」


「それは当然だ。引き継ぎやら色々と、魔王様にも報告しなくてはならないしな」


「どうです、信之殿。私達も手を貸します。一度、考えてみてはいかがでしょう?」


 長秀の言葉に考え込む信之。

 昌幸は二人の領主の言葉を聞いてから、何も言わなくなった。

 信繁は兄が口を開くまで、何も言うつもりは無いらしい。

 そして彼は、重い口を開いた。



「分かりました。やってみましょう。ただし!」


「ただし、何か条件があるんですか?」


「条件というのも失礼かもしれませんが、まずは秀吉を倒してからにしませんか?」


「なるほど。それは一理ありますね」


 秀吉との争いが収まるまでは、一益がドワーフの頭領を続ける。

 そして全てが解決したら、信之が引き継ぎを始めるという話で話は一致した。



「では、上野国を引き継ぐという形で良いな」


 一益が信之に確認をすると、彼はそれに対して首を横に振った。



「今回の件で、私は考えを改めました。領地は移します!」


「ナニィ!?」


 この発言には、一益や長秀はおろか、昌幸も驚いた。

 しかし弟の信繁だけは、なんとなく彼の言わんとしている事を理解していた。



「兄上は、この地では今回のような事が起きたら、危険だと感じておられるのでは?」


「の、信繁殿は話を聞いていたのか!?」


「いえ、全く聞いていません。だけど、何処を候補にしているのかは分かります」


 信繁が言い切ると信之は少し笑い、何処を候補にしているのか同時に言う事を提案した。



「「せーの、川沿い!」」


「二人とも同じだと!?」


 二人は顔を見合わせると、信繁は少し下がり、信之を立てる。









「そうです。今回の火災に備え、川沿いに城を造りたいと考えております。場所は上野国から近い場所で良いかと。ただ領地を変えるのですから、名前は変更しましょう。北にある川を候補にしているので、上に移動という意味も込めて、上田という名前はどうでしょうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ