一益と長秀
必殺技の名前って重要だと思う。
オクトパスハンマー。
8個の鉄球を使った、とっておきの必殺技なんだろう。
山田は一益に対して、8個の鉄球を自在に操って攻撃していた。
だけど僕は、オクトパスハンマーに対して気になる点があった。
ハンマーとは一益が使うような金属製の鎚。
または木製の槌の事を指す。
でも鉄球は、ハンマーではない。
鉄球は英訳すると、直訳と同じでアイアンボールである。
だから山田の必殺技は、本当はオクトパスアイアンボールになるはず。
もし技名が長いというのなら、オクトパスボールが適切なはずなのだ。
だがしかし!
ちょっと考えてみてほしい。
オクトパスボールだと頭に浮かぶのは、8個の球かタコがボールを扱うかのどちらかになる。
勿論、後者は必殺技としてなんのこっちゃとなるので、必然的に8個の球を扱う方を想像するだろう。
そうなると、僕は変な疑問があった。
どうしてタコなんだ?
タコって強く見えるか?
僕は見えない。
それこそ8という数字で強い生き物を想像するなら、八岐大蛇が出てくる。
しかも山田の攻撃は、鉄球を自在に操る事。
鎖を首と連想させれば、まんま八岐大蛇と思えたはずなのだ。
では、どうして彼は八岐大蛇を使わなかったのか?
僕が考えついた理由は、英語にあると思われる。
八岐大蛇を英語で言うと、エイトヘッドサーペントとかその辺りだろう。
ハッキリ言って、あんまりカッコ良くない。
もしくは山田が、英語に詳しくなくて分からなかったという可能性も否定出来ない。
だからこそ、8=タコからオクトパスになったんだろう。
そう考えると、山田は苦労して考えた必殺技名だったのかもしれない。
それをダサイと言われれば、怒るのも理解出来る。
そして結論から言うと、やっぱり山田の言う通り、オクトパスハンマーはダサイと思った。
長秀が一益に対して感心していると、誤爆した山田が立ち上がった。
そこそこのダメージが残っているのか、足元がおぼついていない。
「うぅ・・・」
「技は巧みのようですが、少々体力に難ありですね」
「う、うるさい!」
鉄球を二つに増やした山田は、左右から挟み込むように長秀を襲う。
「二つなら威力はそこまで落ちない。そして挟み込むように当ててしまえば、更にダメージは倍増する!所詮お前等には、俺の鉄球は避けられん!」
「そうですか?」
長秀が特殊な歩法で歩き始めると、鉄球はするりと彼をすり抜けた。
「な、何をした!?」
「何を?見ていませんでしたか?歩いただけですよ」
「こ、この!だったら!」
今度は鉄球を4個まで増やすと、前後左右から4個同時に長秀に襲い掛かった。
逃げ場は無い。
山田は今度こそ一益のように、長秀をサンドバッグのように追い込んだと確信した。
だが、鉄球同士が当たると、ある物はヒビが入り、ある物は砕け散った。
山田の前まで歩いてきた長秀は、腹に掌底を叩き込む。
「ぐはっ!ど、どうして・・・。避ける隙間なんか無かったはずだぞ」
「うーん、私と滝川殿を一緒にされては困りますね。あの方なら確かに避けられなかったかもしれない。でも私は避けられる」
「ど、どうやって!?」
「同じ場所に居れば、確かに逃げ場は無いです。でも襲ってくる鉄球に向かい、そのまま避けてしまえば簡単ですよね」
余裕を見せて説明する長秀。
腹を押さえて痛みに耐えた山田は、だったらと持っていたモーニングスターの棍棒部分で殴り掛かる。
「甘い」
左手で円を描き、長秀は攻撃を受け流す。
そして身体が泳いだ山田の左腕を取り、引っ張りながら足を引っ掛けた。
倒れた山田の顔面に再び掌底を入れると、長秀は立ち上がり一益の様子を伺う。
「ガハッ!」
「ふむ。まさか滝川殿は、ここまで読んでいた?」
長秀はあまりの戦いやすさに、心底驚いていた。
極太の釘を使って、力押しで攻めてくる山田。
彼には長秀も相当苦労していた。
ただの力任せの攻撃なら、そこまで問題は無い。
しかし彼には、それに加えてスピードもあった。
自分の技で受け流そうにも、そのスピードが自分を追い詰めていく。
それに比べ、このモーニングスター山田は異様にやり易かった。
確かに鉄球の威力はそこそこあるが、スピードは大して脅威ではない。
自分の技でどうとでもなる速さで、レイピアを持っていなくとも体術だけで戦える相手だった。
「バカにしてくれちゃってぇ!」
「バカにはしていない。だがやり易いと思っているのは事実だ」
「クソッ!山田ぁ!」
山田は自分との相性の悪さから、山田との交代を考えた。
だが、向こうの山田も返事をする余裕は無い。
「貴方との戦いも、そろそろ終わりですね」
「まだだ。こんな所で俺は死ねない」
山田はポケットから何かを取り出すと、それを口の中に入れた。
「うぅ!」
「薬物か!?」
山田の意識が朦朧としている。
しかし朦朧としながらも、動きはとても速くなった。
「厄介な!」
意識が朦朧としているからか、動きは単調になっている。
その為避ける事に専念した長秀は、反撃さえしなければ苦ではなかった。
「うーむ、しばらく様子見ですかね」
これならば無理しなければ問題無い。
長秀は山田の攻撃を避けながら、一益の方へと意識を向けた。
「イギエェェェ!!」
「奇声張り上げて、うるさいわい!」
「オゴッ!」
一益の金槌が後頭部に当たると、山田は前のめりに倒れた。
だがダメージは少ないのか、すぐに立ち上がる山田。
すると彼は、真っ赤な顔で一益を睨んだ。
「お前、俺を見下ろしたな?どうせ俺の事を見下してるんだろ!」
「な、何だぁ?」
「この恨み、晴らさでおくべきか・・・。否!キエェェェ!!」
山田が両手の釘を巨大化させると、一益に向かっていく。
それに応戦する形で、一益は大鎚を構えた。
「キエェェェ!!」
「うるっさい!」
左手の巨大釘を大鎚ではね返す一益。
あまりの威力に、山田は左手を弾き飛ばされ、身体が傾いた。
「どっせい!」
「んぎゃぱっ!」
返す大鎚で、今度は右半身をぶっ叩かれる山田。
勢いよく飛んでいくと、山田は立ち上がれずに居る。
「ふむ。さっきと比べると、かなり戦い易いな」
一益は思わず独り言を呟いた。
さっきまでは鉄球に良いように遊ばれ、当たらない大鎚にイライラしながら耐えるだけだった。
しかしこの山田は違った。
奇声は喧しいと思うが、動きは単調。
力はかなりあるものの、自分が苦労するほどではない。
劣勢だから提案した苦肉の策だったが、まさかここまで上手くいくとは思っていなかった。
「グフウゥゥ!」
「何じゃあ、その程度か」
山田はヨロヨロと起き上がると、釘を投げつけてくる。
しかし右半身を叩かれたダメージが大きかったのか、釘は大鎚で叩き落とすまでもなく、威力は低かった。
「そろそろ終わりだな」
「誰がこんな所で終わるか。この恨み、晴らしてみせる。キエェェェ!!」
山田は更に大きな奇声を上げると、ポケットから何かを取り出した。
それを口に当てると、一益は何かを飲み込んだと気付く。
変な薬じゃないかと警戒していると、山田が奇声を上げなくなった。
「ん?どういう事だ?」
「ハァ、頭がスッキリしてきた」
「な、何じゃあ?」
さっきまでの奇声を上げていたのとは打って変わり、とても清々しい顔をする山田。
さっきまでの山田が変質者だとしたら、今の山田は好青年と言える。
「うん。冷静になれた。だから!山田ぁ!」
「なっ!?丹羽殿!気を付けろ!」
山田は釘を両手に持つと、それ等を全て長秀の方に放った。
一益の声に気付いた長秀は、大量の釘が降り注いできている事に気付く。
「クッ!」
両腕で頭をガードし、釘から身を守る長秀。
すると両腕が使えなくなった隙を突いて、山田が鉄球を脇腹目掛けて放ってくる。
「やらせんわい!」
一益が大鎚をフルスイングで放り投げると、鉄球とぶち当たり相殺した。
鉄球が地面に落ちたのを確認すると、刻印魔法で再び大鎚を手元に戻す。
「あらら、一人倒せばどうとでもなると思ったんだが。やはりこの恨み、先にアンタにぶつけないとダメらしい」
「恨み恨みとしつこいな。貴様、人を恨んでばかりいると、後から自分に返ってくる事を知らんのか?」
「ハハッ!その前に恨んだ相手は、地獄に落ちるから。関係無いね」
爽やかな笑顔で、怖い事を言う山田。
一益は呆れると、山田はそんな忠告を無視して一益に突っ込んだ。
「何だと!?速くなっている!」
「ハハッ!その程度で驚かないでよ!」
「むぅ!力も増しているか。だが!」
両手の巨大釘を、大鎚ではね返す一益。
腕がビリビリと痺れ、かなり威力が増している事が分かった。
思わず下がりそうになったが、大筒モードがまだ使えない今、離れると勝機は無い。
すると山田が爽やかな笑顔で、バックステップで下がった。
「逃がすか!」
「逃げてはいないよ。その証拠に」
「鉄球だとぉ!?」
山田の背後から、8個の鉄球が一益に襲い掛かってくる。
思わず両手を交差して、ガード体制に入った一益。
すると山田が、一益に両手に二本の巨大釘を持って、トドメを刺そうと走っていく。
「むぅ!この程度!」
一益はガードを解いて、大鎚を真下から大きくアッパースイングでぶっ叩いた。
予想外の攻撃に、山田は二本の巨大釘を空へ打ち上げてしまう。
「耐えるのかよ!でも!」
ジャンプをしようと大きく膝を曲げる山田。
しかし飛ぼうとした瞬間、何かが足に絡み付く。
「何だよコレ!?蔦?」
「滝川殿!くっ!」
長秀が森魔法で一益を支援すると、今度は長秀の目の前に鉄球が迫っていた。
だが当たると思われた瞬間、鉄球が顔の横を通り過ぎていく。
「やらせんよ!丹羽殿、今だ!」
一益の金槌がライフルに変更されると、そのレーザーは山田の膝を撃ち抜いていた。
バランスを崩した山田は鉄球の操作を誤り、長秀に当たらず通り過ぎていったのだった。
「さらばだ山田!」
長秀は走り、鉄球の鎖を封じていたレイピアを抜き、山田の喉元へ突き刺した。
山田は力無くモーニングスターを落とすと、そのまま前のめりに倒れていく。
「山田!ハッ!?」
山田は山田がやられた事に目を向けると、一益を見失った。
周囲をキョロキョロと見回すと、空から影が降ってくる事に気付く。
「山田、これで終わりだ!」
ジャンプした一益に、二本の巨大釘を胸と腹に突き刺される山田。
そのまま地面に磔にされると、大量の血を吐いた。
「グフッ!」
弱々しく巨大釘に手を当てると、釘はみるみるうちに小さくなっていく。
だが、胸と腹に空いた穴は塞がらない。
それを見ていた一益は、山田に言い放った。
「恨み辛み、妬み嫉み嫌味僻みやっかみ。これ等が生まれるのは、誰でも仕方の無い話だ。それがあるから、深い人生となる。だが恨むだけの人生ならば、それはつまらないだろうな。人を呪わば穴二つ。お前の恨み、全て返ってきたようだ」




