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強いぞ山田

 スコーピオンテイルって知ってる?

 直訳すれば蠍の尻尾なんだけど、そういう武器がある。


 モーニングスターという、棍棒の先に鎖と鉄球を取り付けた武器は聞いた事があるだろう。

 元々は先端にトゲトゲを付けただけの武器だったが、その威力を増す為にモーニングスターという武器が出来た。

 ちなみに名前の由来は、朝見える星という明けの明星から来ているらしい。

 モーニングスターで頭を殴ると、その鉄球が星に見えた事や、噴き出した血を見て明けの明星に見えたと言われているが、考えてみてほしい。

 勢いよく鉄球を叩きつけるシーンを見て、おぉ!アレは明けの明星だ!なんて言ったのかと思うと、その人の神経を疑ってしまった。


 しかしそんなモーニングスターだが、必殺性も高く一時期は流行ったらしい。

 流行ったのは良いのだが、問題はそれを上手く扱えるかという点だ。

 棍棒に付いた鎖を振り回して、その先の鉄球をぶつける。

 ちょっと想像すると分かるのだが、狙った所にぶつけるのはとても難しい。

 似たような話をすれば、子供の頃におもちゃのヌンチャクを振り回していたら、それが自分の顔に当たったなんて人も居ると思う。

 それと同様の事がモーニングスターでも起きると考えると、そんな怖い武器がどうして流行ったんだろうと疑問が湧いた。


 そして最初に出たスコーピオンテイルだが、これはまさにギャグだろうと思われる武器だ。

 何処がおかしいのかと言うと、スコーピオンテイルには鉄球が三つも付いているのだ。

 振って当たれば、物凄い威力になるだろう。

 だが外せば、鉄球が三つも自分に返ってくる。

 もし自分が放った鉄球が、当たりどころが悪く頭に当たったりしたとしよう。

 それで死んだら馬鹿である。


 モーニングスター。

 ゲームでも出てくる有名な武器だけど、もし僕がその武器を使えと渡されたなら、断っていただろう。

 僕の中でコレは、扱えるとは思えない。








 一益の眉がピクリと動く。

 二、三発の鉄球でも防げないのに、八発もの鉄球を同時に?

 見せかけだけだ。

 そうに違いない。

 彼は自分にそう言い聞かせる。

 だが、本当に扱えたなら?

 それがどうしても気になってしまった。



「それは無理だろうよ。そもそもどうやって、それを全て振り回すのだ?」


「それは、こうやってだよ!」


 山田は棍棒を頭の上で振り回すと、遠心力で鉄球が浮き始めた。

 全ての鉄球が回り始め、それを勢いよく叩きつける山田。



「どおぉりゃあぁぁ!!」


「ぬおおぉぉ!?」


 本当に8個全ての鉄球を使ってみせた。

 それに思わず声を出した一益は、全ては避けられないがこの数なら今度こそ弾き返せると大鎚を構えた。



「無駄な事を」


「これだけあれば、一つくらいは当たるだろうよ!」


 大鎚を横振りでフルスイングした一益だが、8個もあった鉄球が当たった感触は無い。

 その異変に気付いた彼は、大鎚をそのまま手放し、すっぽ抜けに見せかけて山田に向かって放り投げた。



「おっと!?」


「そうか。そうだったのか」


「チッ!気付かれてしまった。だが、気付いたところで防ぐ手段は無いだろうさ!」


「ぐぬっ!」


 8個の鉄球が、前後左右から一益を襲う。



 彼は大鎚を手放して、初めて気付いた。

 鉄球は空中で静止しており、空振りをしてから自分に向かってきていたのだと。

 一益の大鎚はかなり大きい。

 その為自分の視界も遮っていて、振っている時には鉄球がどうなっているのかなど、全く見えていなかった。



「ハハハハ!どうだ、俺の鉄球は?」


「うぐぐっ!だが!」


 一本の鎖を掴んだ一益。

 それを手繰り寄せようと引っ張ると、山田は簡単にバランスを崩した。



「うわっ!こ、このっ!」


「ぐぅ!」


 残った7本の鉄球が一益に襲い掛かり、腕に鉄球が直撃すると、痛みから思わず鎖を手放してしまった。



「ぐぬぅ!」


「フ、フフフ。魔族の領主って言っても、そんな大した事無いな」


「ほざけ!」


 刻印魔法で大鎚を操ると、それを山田に向かって放った。

 だが鉄球が集まり、大鎚を防いでいる。

 それを見た一益は、再び大鎚を刻印魔法で操り手元に戻した。



「フハハ!万策尽きたか?」


「阿呆が。まだ手は残っているわい」


 大鎚を肩に担ぐと、一益は大きく叫んだ。



「滝川高綱、大筒モード!」


「変形するのか!?スゲー!!」


 大鎚から大筒へと変わっていくと、山田はそれを目を輝かせて見ていた。



「フフフ、まだ終わりじゃない。ライフルチェンジ!」


「おぉ!金槌も変化していく!」


 空中に浮いていた金槌も、全て銃の形へと変わっていく。

 そして銃が一益の背後に集まると、彼は再び叫んだ。



「ワシのとっておきだ。滝川高綱フルバースト!」


「ぬ、ぬおぉぉぉ!!?」


 大筒から放たれた極大のビームに加え、周囲の銃から放たれたビームも、大筒のビームと合流して一点集中された。

 山田は鉄球を縦に並べると、自分の近い方に高く変更していく。

 鉄球に当たったビームは真っ直ぐ山田に向かおうとするが、徐々に上へと向きを変えていった。



「ナニィ!?そんな事が可能なのか!?」


「あ、危ねぇ・・・。マスドライバーみたいに空へ方向を変更出来ないかと思ってはいたが、本当に成功するとは」


 大筒から高熱が放出され、再び大鎚の形へ変わっていく。

 一益はそこに触れないように、肩に担いだ。



「クソッタレ。やはりワシ等を押し返すだけの力はあったか」


「今度はこちらの反撃だ。食らえ、俺のオクトパスハンマー!」


 8個の鉄球が、タコの足のように自在に動き始める。

 するとそれを横目で見ていた山田が、一言注意した。



「山田、その必殺技の名前、ダサイから変えろって言っただろ」


「俺はカッコイイと思ってるんだ!だったらお前だって、笑い方がキモいんだよ!」


「キモい?お前、俺の事キモいって言ったな?許さんぞ!」


 山田が極太の釘を投げようと構えると、山田は慌てて取り繕う。



「待て待て!悪かった!見ようによっては悪くない。むしろカッコイイとも思えるぞ。だから、ひとまず敵を倒す事に専念しよう」


「そうか。だったら良い。ギヒッ!」


 山田達が同士討ちを始めるかと期待した一益と長秀だったが、思惑は外れた。

 そして一益には8個の鉄球が。

 長秀には極太の釘が襲ってきた。



「ぬうぅ!」


「くっ!この馬鹿力め!」


 鉄球に滅多打ちにされる一益と、防ぐだけで手一杯の長秀。

 しばらくすると踏ん張っていた一益が、とうとう鉄球に吹き飛ばされた。

 するとその先に居た山田に直撃し、釘を持っていた山田がバランスを崩して倒れた。

 その隙に長秀は一益の腕を取り、距離を取った。



「山田ぁ!キシャアァァァ!!」


「わざとじゃないんだよ!ゴメン!」


 山田が山田にキレている。

 あの様子だと、山田の怒りはしばらく収まらないはず。

 一益はようやく鉄球から逃れる事が出来た。



「す、すまぬ。助かった」


「お互いに、劣勢のようですね」


「あれほど面倒な動きをされるとな」


「その割には、ダメージは大きくないようですが?」


「・・・そうだなぁ」


 一益は長秀に言われて気が付いた。



 アレだけ滅多打ちにされたにも関わらず、骨は折れていない。

 痛みは感じるが、むしろあの鉄球を食らって動けている事が、不思議に思えた。



「っ!そうか!」


「何か気付きましたか?」


「・・・ふむ。そろそろ意地を張っている頃合いは、終わりだな。丹羽殿」


 一益は長秀に、向こうの様子を見ながらある事を提案した。



「なるほど」


「問題無さそうか?」


「あの程度であれば」


「よし!」


 話し合いを終えると、途端に鉄球と釘が飛んでくる。

 二人は後ろへ飛ぶと、それ等を軽々と避けてみせた。



「なにを休んでいやがる」


「それはお前さん達が、喧嘩を始めたからであろう」


「お前が吹き飛んだからだろうが!」


「吹き飛ばす方向を考えなかった、お前が悪い」


「キイィ!!ムカつくー!」


 山田を挑発すると、見事に引っ掛かった。

 しかし予想外に、もう一人の山田が冷静だった。



「ギヒヒ。でも山田より弱い。だから俺の所まで吹き飛んだ」


「そ、そうだよな。山田の相手も苦戦している。山田、強いぞ!」


「アハッ!良いな。俺達は強い」


「そうだ。俺達なら領主に勝てる。強いぞ山田!」


「お前も強いぞ山田!そして俺をバカにした恨み、晴らさせてもらう!ケェェェ!!」


 山田が釘を投げると、その後ろから鉄球も飛んでくる。

 一益は釘を弾き返すと、長秀は一益を引っ張り鉄球から回避させた。



「あの男、邪魔しやがって!」


「俺の釘ぃぃぃ!!」


 攻撃を回避された山田は怒りを露わにするが、次の瞬間その怒りはすぐに消え、慌てる事になる。



「滝川殿!よろしく頼む!」


「どおおりゃあぁぁぁ!!」









 ジャンプした長秀の足裏を、大鎚で打つ一益。

 予想外のスピードで迫ってくる長秀だったが、驚いたのは向かう先は鉄球を持った山田だったからだ。



「お、俺に来るのか!?だが、そんなの鉄球で!」


「甘いわ!」


 動き始めた鉄球の鎖に、レイピアを差し込む長秀。

 その瞬間スピードは少しだけ落ちたが、思った程ではなかった。



「やはり滝川殿の言った通りだったか!」


「クソッ!バレたか!」


 長秀は鎖を差し込んだまま、他の鉄球の鎖にレイピアを更に差し込む。

 しばらくすると長秀は地面に降り立ち、動き回る鉄球の鎖を、楔を打ち込むようにレイピアを差し込んで回った。



「これで最後!」


 全ての鉄球の鎖をレイピアで封じると、それを地面に強く突き刺した。



「ど、どうして分かった!?」


「簡単な事よ。滝川殿は8個もの鉄球に、打ち込まれ続けた。なのに動けない程の重傷はおろか、骨折すらしていない。だから彼は気付いた。鉄球は数が増えると、その分威力が軽くなると」


「チィ!でも残念。俺にはまだ、モーニングスターがもう一つある。ネタがバレたんだ。今度は数を増やさないぜ」


「それは面倒だ」


「じゃあ死ねよ!」


 山田がモーニングスターを、長秀目掛けて振り下ろす。

 そして長秀に当たる瞬間を目にして、口角を釣り上げた。



「フハハ!なんだよ、回避も出来ないじゃないか。残念だな。もっと戦ってみたかったのに」


「そうですか。でも安心して下さい。避けてますよ」


 モーニングスターが巻き上げた土煙の向こうから、長秀の声が聞こえる。

 山田は慌てて鉄球を戻した。

 土煙の中から現れる鉄球に合わせて、長秀がその後ろを追従している。



「わあぁぁぁ!!」


「うるさいですね」


「ぐはっ!」


 驚いた山田は操作を誤り、鉄球が自分の腹にめり込んだ。

 それを見た長秀は、彼の評価を少し下げる。








「うーん。コレに滝川殿は苦戦したのか。いや、違うな。相性の問題があったのだろう。だから彼は私と交代した。同じ名を持つ相手に固執せず、短時間でこの考えに至っている。私にはまだその考えに至るには時間が短かった。流石は滝川殿だな」

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