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領主vs山田

 逆恨みも良いところだな。

 どうして山田が、一益達に対してキレる要素があるのだろうか。


 一益は山田達を、壊れゆく厩橋城に強制的に残した。

 酷いと思う?

 僕はそうは思わない。

 そもそもあの都市は、一益達ドワーフが造り上げたものだ。

 それを横から掠め取って、城を占領したのは向こうである。

 しかも奪還しようとしたら、略奪者扱いで攻撃されるとか。

 勘違いも甚だしい。

 挙句、奪還されそうになったら、キレて街ごと爆発させようとする。

 そんな連中に情けなんか要らないでしょ。

 一益達は山田を磔にして見殺しにしたけど、これがヨアヒムやお市みたいなタイプの人だったら、問答無用でそのまま炉に放り込まれてたと思うよ。

 ちなみに僕も、後者のタイプに入る。

 安土を消滅させられ、怒り心頭に発するというヤツだ。

 一つだけ上野国よりもマシだなと思えたのは、住民は全員が前もって脱出する時間を与えられた事くらいだろう。

 それでも安土が無くなった事には、変わりないけどね。

 僕は秀吉を許さない。

 だから一益も、山田を許せないのは当然である。

 もし僕がこの場に居たら、全力で一益を応援しただろう。


 でも一益は、僕よりも少しキツイ気がする。

 安土は消滅したと聞いた。

 それこそ何も残っていないと。

 その点上野国は、爆発した残骸や逃げ遅れた人が居たはず。

 死亡者も居ないし、安土があった場所には何も残っていない僕より、その凄惨な現場が残っている上野国を見る事になった一益は、ショックが大きいだろうからね。

 いつか会ったら、慰めてやろうと思う。









 一益は少し嘘を吐いた。

 ガトリング砲が残っているのかは、まだ分からないのだ。

 真田家の連中が避難を誘導していたのは知っているが、その時あんな重いガトリング砲をわざわざ街の外まで運び出したか、確認していなかった。

 戦う事は確定しているが、一騎打ちは避けたい。

 一益によるハッタリは通用するのか?



「さあどうする?」


「相談する時間が欲しい」


「不気味に豹変しているのに、話が通じるのか?」


「その辺は大丈夫だ。おらっ!」


「イヒヒヒ!イタッ!山田、何するんだ?」


 一益は元に戻った山田を見て、渋々頷いた。

 そして怪しい動きをしないか、二人を見張った。



「四人で戦う理由って何だと思う?」


「妖精のおっさんの手助けじゃないか?あのおっさん、俺の釘で怪我をしているみたいだし」


「それだけか?」


 山田は二人で悩むと、何かを思いついた。



「アレだ!俺達には一騎打ちで、勝てないと踏んだんじゃないか?」


「なるほど。それはありそうだ。現にお前の攻撃で、妖精の方は怪我をしているしな。でも、二人でタッグを組めば勝てると考えている」


「浅はかな。俺達山田の絆を知らないようだ」


「受けよう」


「コイツ等を倒して、山田達を見返すぞ」


 振り返った二人は、一益に向かって言い放った。



「その申し出、受けてやる」









「どうして共闘を?」


 一益が山田達に提案をする前、長秀は一益に聞いた。



「丹羽殿は怪我をしている。もしその怪我が原因で敗北となると、丹羽殿も悔しいだろうと思ってな」


「このくらいなら大丈夫です」


 麻痺や毒が塗られていた形跡は無い。

 腕も痛むが動くし、長秀は戦いに影響は無いと言い切った。



「それともう一つ。ワシの勘が、二人で戦った方が良いと告げておるのだ」


「勘、ですか。それなら仕方ないですね」


 苦笑いする長秀。

 一益の勘を信じて受け入れると、一益は山田達に四人による戦いを提案した。



「相談する時間が欲しい」


 一益はその言葉に、内心で喜んだ。

 最初はわざと苦々しい気持ちを見せつつ、渋々受け入れたように見せかける。

 そして山田が背を向けて話し始めた時、一益は長秀に左腕に包帯を巻くフリをして見せて、腕の治療をしろとジェスチャーで伝えた。



「なるほど!」


 小さく呟いた長秀は、こちらも山田に背を向けて左腕の治療を始めた。



「その申し出、受けてやる」


「そうか。ならば、山田一益とやら。貴様はワシが相手してやる」


「結局、一対一でやる戦い方をするのか?」


「そういうわけではない。が、やはり気になるものは気になるのでな」


 一益はどうしても、同じ名を持つ男の正体が気になった。

 名前が浸透していないこの世界に、自分と同じ名前の者など会った事は無い。

 だから名前が同じだけで大きな共通点になり、強烈な縁を感じていた。



「では、貴方の相手は私ですね」


「丹羽長秀。若狭国の領主にして、妖精族のトップか」


「・・・普通にしていれば、気持ち悪くないのに。せめて奇声はやめてくれ」


 不気味な動きに加え、奇声を発する男。

 それが自分と同じ長秀という名を持つ事に、彼はとても嫌悪していた。

 しかし理性があるのであれば、そこまで悪い印象は無い。

 だから長秀は、奇声を発する前に短時間で奴を倒したいと考えていた。



「では行くぞ!キイィィエェェェ!!」


「だから、それをやめろと言っている!」


 山田は両手に持った釘を四本ずつ放つと、距離を取った。

 楽々とレイピアでそれを弾く長秀だったが、横からの突然の攻撃に慌てて後ろへ飛び退いた。



「惜しいな」


「滝川殿!」


 一益と対峙していたはずの山田が、こちらに鎖を伸ばして鉄球を投げつけてきていた。

 長秀は一益が相手をしていないのかと怒声を放ったが、向こうは向こうで棍棒と大鎚で戦っているのが見えた。



「ど、どういう事だ?」


「アヒャヒャ!」


 一益達を見ていると、大きな釘で突きに来た山田。

 右手の大きな釘をレイピアで逸らすと、その勢いを利用して回転し、肘打ちを脇腹に入れる。



「イギィィィ!!」


「うぅ・・・何故かやられた気分になる」


 山田の奇声に少し苛立ちを感じる長秀。

 山田が肘打ちで前のめりに倒れると、彼は顔を赤くして何かを呟き始めた。



「カッ!どうせ馬鹿にしてるんだろ。俺を下に見てるんだろ。そうやって見下ろして。ムカつくー!!」


「な、何なんだお前は!」


 左右に大きな釘を持った山田は、二刀流のように釘で長秀に襲い掛かる。



「チョエチョエチョエチョエェェェ!!」


「くっ!お、重い!」


 左右から繰り出される釘を捌く長秀だが、さっきよりも容易に弾く事が出来なくなっていた。

 その理由は怪我ではなく、山田の力が増していたからだった。



「クアァァァ!!チョアィ!」


「ぬあっ!」


 左腕を釘が掠めると、その強さから肉片が飛んでいく。

 長秀はそこで初めて気が付いた。

 この男の馬鹿力が、自分の技を上回っているかもしれないと。



「も、森魔法!」


「ニュ?」


 両腕に絡みつく蔦。

 魔法で動きを封じて、攻撃に転じようという考えだった長秀だが、それも軽々と乗り越えられてしまった。



「キイィィエェェェ!!」


「引き千切る!?馬鹿な!蔦とはいえ、鉄よりも硬い強度だぞ!」


「アビャビャ!!」


 長秀が困惑していると、山田は蔦を力任せに引き千切った。

 その両手を勢いよく交差させると、持っていた大きな釘を長秀目掛けてぶん投げた。



「う、うおぉぉ!!重いぃぃ!」


 猛スピードで飛んでくる釘の一本は避けたが、もう一本はレイピアで受け流そうとした。

 だがその重さと力が上手く受け流せず、長秀の頬を強く切り裂いていった。



「危なかった・・・」


「ウンギイィィ!!」


 接近戦は不利。

 まだ通常の釘を投げて攻撃された方が楽だと、長秀は山田から一定の距離を取る。



「コイツは強い・・・」


「イヒヒヒ!ハア、疲れた・・・」


 距離を取った事で、山田が冷静になった。

 大きなため息を吐いて呆然とすると、彼は突然厭な笑みを浮かべる。



「イヒ!この恨み、晴らさせてもらう。ギヒッ!」


「わ、藁人形?ぐあぁぁぁ!!」


 頬を押さえて叫ぶ長秀。

 しかしそこには、先程傷付けられた切り傷以外に何も無い。



「もう一度」


「うわあぁぁぁ!!痛いぃぃぃ!!」


「ハアァァァ!きんもち良い〜!!」


 山田は両手を広げて、悦に浸る。

 その瞬間、手にしていた藁人形が叩き落とされた。



「痛っ!山田、ちゃんとやれよ!」


「すまんな!」


「ぐふぅ!丹羽殿、そんなワケの分からん攻撃で、やられるんじゃあ無いぞ」


 金槌を投げて山田の藁人形を叩き落とすと、一益の腹に山田の鉄球がめり込んだ。



「滝川殿!」








 向こうの山田が動き出した。

 向こうは長秀という名の男だ。

 ひとまずお互いに、相手の力量を測るとしよう。



「さあ来い!鉄球一益!」


「変な名前で呼ぶな!俺は山田だ!」


 山田は鉄球を一益に向かって投げつけると、一益は刻印魔法の入った金槌で応戦する。

 六本の金槌が鉄球へ飛んでいくと、それは鉄球とぶつかり合った。



「バカめ。鉄球の質量と金槌じゃあ、違うに決まってるだろ」


 吹き飛ばされる金槌。

 一益が操って再び鉄球とぶつかり合うも、やはり鉄球の勢いは弱まらない。



「だったらワシが叩き落とせば良い事よ。フンッ!」


 飛んでくる鉄球に合わせ、大鎚を大きく横に振る。

 一益は、勢いが変わらない鉄球のスピードを読んでいた。

 だが一益の大鎚は空を切った。



「オゴッ!」


 右肩に鉄球が命中すると、その場でゴトリと音を立てて落ちる。



「おっと!命中したのに、元気だな」


「こ、この程度。肩に蚊でも止まったのかと思ったわい」


「ハッ!へらず口を」


 落ちた鉄球を破壊しようと、大鎚を振りかぶった一益を見て、すぐに鎖を引いた山田。

 鉄球が当たったはずなのにピンピンしていて、山田は少し驚いていた。



「一発で倒せないなら、二発三発当てれば良いだけ。アンタに全部、避けられるかな?」


「な、何だと!鉄球が増えた!?」


 棍棒の柄の部分の鎖が分裂すると、その先の鉄球も鎖に合わせて増えていく。



「まずは二発」


 鎖を器用に操りながら、左右から鉄球で一益を挟む。

 一益は一発は諦めて、先に飛んでくる右からの鉄球に狙いを絞った。



「フンッ!ガッ!うぐっ!」


 今度こそ当たる。

 狙いを定めて振った大鎚だったが、何故か遅かったはずの鉄球が背中に当たると、そのまま右からの鉄球も命中した。



「ハッハッハ!ドワーフは鈍重だなぁ」


「ほざけ!この程度、耐えられないとでも思ってか!」


「ほう?二発じゃ足りないのか」


「二発でも三発でも四発でも。ワシには効かんわ!」


 痛みに耐えながら吠える一益。

 しかしそれを聞いた山田は、ニヤリと笑った。









「そうか。じゃあ俺の最大の攻撃を出そう。八本。最大で同時に、八発の鉄球を繰り出せる。頭を守れば背中や足に。股間を守れば頭や腕に当たる。絶対不可避の鉄球を食らっても、アンタは立っていられるかな?」

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