爆発寸前
山田。
悔しいが先を越されてしまった。
いつか皆でやりたいと思っていたのに。
山田達は五人で強力なバズーカを、一益達に向かって放っていた。
アレは戦隊モノの必殺技で、怪人を倒したりする時に使っていたヤツだ。
そして僕は、アレと同じ事をいつか皆でやりたいと考えていたのだ。
戦隊といえばカラーリング。
まずは中心人物であるレッドは、やはり僕達しか居ないだろう。
そしてブルー、これは力持ちキャラとして太田にでもやってもらおう。
だいたいどのシリーズにも居るクールキャラは、ブラックで蘭丸が。
ここでイエローかと思いきや、たまにこちらを使うグリーンは、敢えての長谷部にしておこう。
最後に悩みに悩んだ色、ピンク。
普通であれば紅一点という立場なのだが、あいにく僕には女性の友人が居ない。
キルシェなんか考えたくないし、長可さんもなんか違う。
となると、やはりここに収まるのはハクトしか居ないのだ。
本人はピンクが嫌とか言いそうだけど。
でもハクト、桃は結構好きだって言ってたから問題無いだろう。
もっと考えると、お助けキャラでゴールドやシルバーとして又左とか慶次を出したいかな。
敵には、どれだけ必殺技を当てても翌週には復活してくるムッちゃんを。
ラスボスは、高笑いが似合いそうなヨアヒムかな。
スタイリッシュなスーツとか着てたら、ラスボスの方が人気出そうだけど。
戦隊の司令官は、やはり長可さんだろう。
これも紅一点が司令官という立場から、人気出そうな気がする。
これだけキャストも色々と考えられたのに、先に使われるとは!
山田めぇ、悔しいぃぃぃ!!
山田が悪い顔をすると、他の山田も悪い顔をした。
「突入!突入しろ!」
外から聞こえてくるドワーフ軍の声。
それに気付いた山田達は、二手に分かれた。
「分かってるな?必ず奴等を城に招き入れてから、爆破させろよ」
「いちいち確認するな!それくらい俺達だって分かってる!それくらい信用しろよ」
「やらかしたお前達が信用出来るとでも?」
「チッ!」
残る一人の山田が舌打ちすると、三人は最上階から外へ出た。
「舌打ちするくらいなら、失敗するなよ」
「後は頼んだ」
「死ぬなよ」
三人は最上階にあったフライトライクに乗り込むと、そのまま空へ飛び立っていった。
最後の山田だけは優しい言葉を掛けると、残った二人は少しだけ癒された。
「アイツ、普段色々とやられてるくせに、優しいんだよなぁ」
「俺達、戻ったら少しは優しくしてやろうな」
「やめろ!そういう事を言うと、何かが起きてしまう・・・」
「す、すまん」
フラグを立てるなと怒る山田に、山田は素直に謝る。
すると思った以上に敵の進行は早く、直下の階で戦闘をしている声が聞こえてきた。
「俺達もそろそろ準備するか」
「武器は持ったぞ」
「やってやろうぜ!」
山田は一益達一行を、最上階で待ち受けるのだった。
「アイツ等、逃げるみたいですよ!」
信繁が最上階を見ると、フライトライクが飛んでいくのが見えた。
一益は大筒モードに変更して空に向かって構えようとするが、昌幸はそれを止めた。
「待て!」
「止めるな!ワシの城でやりたい放題やってくれた連中だ。後ろから撃っても、文句は言えんはずだ!」
「見て下さい。三人しか見えない。だから城には、二人残っている事になります」
冷静な長秀が補足すると、一益は空から最上階へと視線を変える。
すると人影がまだ残っている事を確認し、彼は大筒を下ろした。
「チィ!奴等で我慢してやるわい」
「正解だ。あの二人を倒す為にも、まだ力は温存しておこう」
「あの二人を倒せば、城は奪還出来ます。行きましょう!」
一益達は壊れた城壁から敷地内に入ると、他のドワーフ達に敵を任せて城の中に侵入した。
「案外綺麗だな」
「ワシが攻撃しなかったからな。当然だ」
昌幸が城内を見回すと、壊されたような箇所はあまり見受けられなかった。
勿論城内でも戦闘が続いているので、多少の破損は見受けられたが、思った以上に綺麗だった。
「滝川殿、階段はそっちではないが」
「ワシ等しか知らん上がり方がある。それなら最上階は一気に行ける」
「何だと?」
長秀が呼び止めると、一益は合っていると言って進んだ。
すると一益の言葉に、昌幸が反応する。
「これだ。二人ずつしか上がれんが、相手も二人。問題無いはず」
「この板に乗るんですか?どうやって上がるんですか?」
信之が興味深そうに見ている。
その板は人が二人乗れるくらいの大きさで、周囲は板と同じサイズで上まで伸びていた。
やり方を聞いた信之に使い方を教えるように、一益が長秀を呼んで一緒に板に乗った。
すると横にある細い紐のような物に、急に火を点けた。
「何をしたんだ?」
「まさかお前!」
「丹羽殿、足に力を込めろ。壊れるなよ」
「何ですと?ぬあぁぁぁ!!」
板の真下から爆発音がすると、その板は勢いよく上へ向かっていく。
「頭を抱えて姿勢を低くしろ!」
「こ、こうか?ブッ!」
二人は屈みながら頭を押さえると、天井に頭をぶつけた。
天井には羽毛布団のような物が取り付けられ、痛みは無いが初見だとビックリする仕様だった。
「も、もう少し説明してほしかった」
「時間が無いわい」
二人は一階から一気に最上階にたどり着くと、一益は迷わず真っ直ぐに進んだ。
「この盗人共が!」
「は?そっちから!?」
直下の階を覗き見ていた山田二人は、まさか違う方から一益達がやって来るとは思っていなかった。
扉ではなくいきなり開いた壁に、山田は驚いていた。
「マズイぞ。あの位置だとトライクに乗り込めない」
山田の一人が、隣の山田に小声で話し掛ける。
トライクは、丁度一益と山田の中間にある窓の外にあった。
窓から外に出るには、その窓を背にしておかなければならない。
それにトライクがまだ用意されていると知られれば、最悪破壊される可能性もあった。
というより、既に長秀に目を付けられていた。
「滝川殿、奴等も逃げるつもりだったようですね。そこにトライクが」
「なぁにぃ!?誰が逃すか!」
「しまった!」
トライクに向かって金槌をぶん投げる一益。
しかしボディは、傷が付く程度で壊れる様子は無かった。
それに怒った一益は、狙いをハンドルに変更。
今度はハンドルをひん曲げて、左にしか行けないようにしていた。
「あー!!」
「俺達の逃げる手段が!」
「やはり逃げる気だったか。だが、逃がさん!」
「城を壊す気ですか!?」
一益が大鎚を肩に乗せてから、大きく振り下ろした。
しかし途中で長秀に叫ばれると、力を両手に込め、床に叩きつける直前でピタッと止まる。
「あ、危なかった!」
「自分で壊してたら、世話ないですよ。だから、ここは私が!」
長秀がレイピアを抜くと、独特の歩法で近付いていき、山田の一人を突き始める。
山田は持っていた剣で防ぐが、手一杯で徐々に押されていく。
「こ、この!」
「貴方、本当に強いんですか?」
反撃を試みた山田の剣を、軽々と弾く長秀。
呆れたような顔をすると、山田は言い訳がましく武器のせいだと言った。
「山田、時間を掛けるな!もうそろそろ脱出しないと」
「何を言ってるんですかねぇ。逃がすはずないでしょうが!」
長秀の刺突が、一層激しくなる。
すると山田は剣を弾かれ、後ろへ飛んだ。
「クソッ!普段の武器が使えれば!」
「使えば良いのでは?」
挑発する長秀に対し、山田は怒りを込めながら一益を指差した。
「コイツと同じで、この狭い場所では使えないんだよ!」
「言い訳を!」
「山田!もうダメだ!時間が無い!」
長秀と山田の間に、その辺にあった皿を投げつける山田。
それを見た一益は、顔を青くして飛んだ。
「ぬあー!その皿は信長様から頂いたと言われる、由緒ある物!」
ギリギリでキャッチすると、長秀と山田の手は止まった。
「貴様ー!」
「て、停戦したい!」
「皿を投げつけておいて、今更許せるか!」
「しかしこのままだと、俺達諸共吹き飛ぶぞ!」
「吹き飛ぶとはどういう意味ですか?」
長秀が説明を求めると、山田は一階にある炉を暴走させた事を伝えた。
それを聞いた一益は更に怒りを露わにしたが、長秀が宥めた。
「滝川殿、止める術は無いのか?」
「あるにはある。しかし、限界を超えたら無理だ」
「それが分かる人は?」
「それは」
一益が何かを言おうとすると、下から何やら大きな声が聞こえてきた。
「逃げろー!早くこの城から脱出するのだ!さもなくば、爆死するぞー!」
声の主は昌幸だった。
彼は信之と信繁を使い、ひたすら大きな声で敵味方問わず伝えていた。
「もしや真田殿か!?」
「おぉ!久しぶりだな」
上野国在住時代の知人が真田を見つけると、彼は何があったのか尋ねた。
「どうして逃げなくてはならない?」
「おそらく敵の手によるものだと思うが、炉が暴走している。臨界点を超えていて、既に熱を下げるのは不可能な状態だった」
「炉を!?ドワーフなら何が起きるか分かるだろうに!」
戦っている連中も、元はと言えば上野国のドワーフである。
鍛治仕事をしていた連中が大半で、炉を熱し続ければ何が起きるのかは、誰でも容易に想像出来るものだった。
「敵と言えど、ドワーフが炉の暴走で死ぬのは目覚めが悪い。敵味方問わず、皆城から脱出するのだ」
昌幸の言葉を聞いて、ドワーフ達はお互いに武器を止めた。
そして彼は言葉を続ける。
「城の炉は大きい。街にも影響が出るだろう。全員、街で戦う連中にも離れろと伝えるのだ」
「分かった!」
滝川軍のドワーフも秀吉側のドワーフも、昌幸の指示に従い街へ向かうと、敵味方問わずに避難を呼び掛ける。
「父上、滝川様と丹羽様は?」
「あの板の場所から上に向かって叫べ。聞こえるはずだ」
信之は言われた通りに叫ぶと、自分達も避難を始める。
「お、落ち着け。俺達が暴走させたんじゃない。あの三人がやったんだ」
「同じ事だろうが!」
一益は炉の暴走の言葉を聞き、大鎚を躊躇無く振り下ろした。
床にめり込む大鎚。
するとそこから床が抜け、下の階へと落ちた。
「滝川殿、大丈夫か?」
「ワシは大丈夫だが、城はもう無理だ。この城はもう助からん。だから!」
大鎚を振りかぶる一益。
それに対し山田は解決策を伝えた。
「落ち着け!冷気を浴びせれば、暴走は止まるだろう?お前達なら水魔法とか氷魔法みたいなの、使えるんじゃないのか?」
一益は一瞬動きを止めると、鬼の形相で大鎚を振り下ろす。
「うわあぁぁ!!」
「こんのアホ共がぁ!ワシ等ドワーフは土魔法や火魔法は使えても、水魔法なんぞ使えんわ!まして派生の氷魔法など、使えるはずないだろうが!お前達は解決策も無いのに暴走させた。つまり貴様等二人は、ただの捨て駒だな」




