厩橋城奪還作戦
恐るべし真田家の血筋。
昌幸は同胞でありライバルでもあった一益を助ける為、彼の上野国奪還に志願して援護に向かった。
上野国を乗っ取られた一益達は、補給という点で劣勢だったのだが、昌幸達による援護で新たな武器を手に取り、彼等は再び息を吹き返した。
そもそも真田家というのは、日本ではかなり有能な人物の集まりでもあった。
彼等の名前が有名になったのは、昌幸の父である幸隆という人物からだろう。
この人は武田信玄の配下であり、武田二十四将と呼ばれるうちの一人だった。
ちなみにこの人の後は元々、信綱という長男が跡を継いだのだが、長篠の戦いで戦死してしまい、その後に昌幸が当主となった。
この頃になると武田家の力は衰えていて、昌幸は色々と苦労をしながらも、自分の領地である上田を守るのに奮闘したんだけど。
そんな中で織田家に頼った頃に知り合ったのが、滝川一益だったんだよね。
その頃には信繁、真田幸村は一益への人質となっていたんだけど、当時の年齢はまだ十代後半。
特別優れていたというわけでもなく、逸話も残っていない。
そんな昌幸や信繁が、ドラマや時代劇等ではクローズアップされやすいけど、本当に優れていたのは信之だと僕は思っている。
だってこの人、家康からなんだかんだで上田を任されたわけだ。
太刀である昌幸が色々と奔走して頑張っていたが、息子がそれを成し遂げたのだから凄いと思う。
しかもその能力を買われていたんだろうなと思うのが、家康の重臣である本多忠勝の娘を正室にもらっている事だ。
もし真田家と縁を結びたいというだけなら、もっと下の家臣の娘でも良かったはず。
それが本多忠勝の娘となると、それだけ信之には期待していたんじゃなかろうか。
真田家を残す為に奔走した昌幸と、家康に恐れられるくらいの武将になった信繁。
でも信之にも、もう少し注目してほしいなと僕は思っている。
「オォ!」
あまり大きくならないように、声を張らずに気合を入れる一行。
一益はあまり締まらないなと苦笑いしつつ、立ち上がった。
「丹羽殿、合図はワシの大砲だ。城には当てないが、大砲を打ち上げる」
「分かりました。その機に乗じて、潜入してみせましょう」
「頼んだ」
一益達は武器を手に取り、他のドワーフを率いて再び厩橋城へ向かった。
長秀は彼等を見送ると、街を大回りで移動し、城の後方へと移動する。
「そういえば、遠距離攻撃出来る武器は無いのか?」
「ありますよ。滝川様が城に損傷を与えたくないと思い、用意しませんでしたが」
「そうか。感謝する」
信之の心配りを聞いた一益は、何とも言えない気持ちになった。
長秀の言う通り、真田は後進が育っている。
だが一益の下には、まだ目立った活躍を見せる配下は居ない。
一益の要望に応えた信之を見て、ありがたくも思いつつ、悔しさを滲ませた。
「今回用意したのは、こちらです」
「普通の銃ではない?」
「こちら、水嶋殿の銃をモデルにした、スナイパーライフルになります」
「遠くから一撃死を狙える銃ですが、風を読まないと急所に当てるのが難しい武器です」
「・・・ワシ等、そんなの使えんぞ」
話を聞く限り、ドワーフに風を読むというような芸当は不可能である。
水嶋も見たモノに飛んでいくという能力が無ければ、必中というわけではなかった。
そんな難しい銃を誰も扱えるはずもなく、これはお蔵入りとなった。
「そうなると、普通のアサルトライフル以外は、特注のアレだけですね」
「と、特注品があるのか!?」
「続いて紹介する品はこちら!」
「信繁、どうして声が甲高くなった?」
「アレ?何故でしょう?」
何故か特注品の布に手を掛けた瞬間、信繁の声は高くなった。
しかし理由は本人にも分からず、しょうがないので甲高いまま聞く事にした。
「ジャン!ガトリングガンでございます!」
「大きいな!持ち上がるのか?」
「こちら、下の荷台を使えば移動は楽に出来る仕様となっております。今ならお得なセットで、こちらの荷台も付いてくる!」
「おぉ!でも、ワシ等に扱えるのか?」
「ご安心下さい!こちらの商品はなんと!このレバーを引いてもらうだけで撃てます。誰でもお手軽に蜂の巣に出来てしまう優れ物!」
信之の説明を聞いて、興奮する一益。
彼は鼻息を荒くして、ガトリングガンに触れた。
「買った!」
「お買い上げありがとうございま〜す!お支払いは、上野国奪還した後にいただきたいと思います」
「え、本当に?」
「全て冗談でございます。ただし、取り扱い方法は真実です。狙いをある程度定めて撃てば、下手な人でも当たるでしょう」
声が元に戻った信之の最後の一言に、一益は安心した。
ガトリングガンを配下のドワーフに運ばせると、一益は城の真正面に向かっていった。
「敵襲!敵襲!」
「何が敵襲だ!厩橋城はワシの城だというのに!」
城内のドワーフ達の声に苛立ちを露わにする一益。
その怒りを相手の見張りに向かって金槌をぶん投げる事で、解消していた。
「当たるかバーカ!うごっ!」
金槌を避けた見張りだったが、後方から戻ってきた金槌に後頭部を叩かれて落下していく。
「当たるんだよ!バーカ!」
「滝川様・・・」
子供のようなやりとりに、少し可哀想な視線を向ける信繁。
それに気付いた一益は、大きく咳払いした。
「オホン!今のが、刻印魔法を刻んだ金槌の使い方の一例だ」
「なるほど!自在に操れるというのは、素晴らしいですね」
「そ、そうだな」
口から出た誤魔化しだったが、信繁には有効的だった。
そんなピュアな反応を見せた信繁に、一益はいつか教えてやっても良いかもしれないと心に思っていた。
「出たなドワーフ共!」
「アイツ等は!」
城の中から現れた五人組。
彼等は横一直線に並ぶと、罵詈雑言を浴びせ始める。
「バーカバーカ!」
「俺達がこの城に来たからには、お前達なんか目じゃないぜ」
「その通り!お前達にこの城を落とすのは、不可能となったのだ」
「諦めて帰れ帰れ!」
「帰れって、この城がアイツの帰る所じゃない?」
「山田、空気読め!」
最後の山田が、他の四人にボコボコにされている。
それを見た一行は、口を開けたまま呆れていた。
「今だ!奴等に撃ってしまえ!」
一益は配下に命令して、アサルトライフルを発射させる。
だが距離が遠いからか、あまり効果的ではなかった。
「滝川殿、城を無傷で取り戻すのは不可能だ。城壁にぶち込んで、一部破壊するくらいしないと、こちらの攻撃は届かんぞ」
「クッ!」
昌幸の言葉に悩む一益。
しかしそんな時間が惜しむように、昌幸は言葉を続ける。
「貴殿のその時間が、配下を危険に晒す。このままだと彼等は、前回の二の舞になるぞ」
「分かっている!ガトリングガンで城壁を破壊。城内に突撃するぞ!」
一益の許可を得た事で、ガトリングガンが前に出てきた。
すると壁に集中砲火を浴びせ、辺り一帯の壁は穴だらけになっている。
「今だ!突撃!」
「やらせるか!山田スーパーギャラクティカウルトラマグナムダイナマイトバズーカ!」
「ぬおぉぉぉぉ!!退避だ!退避!」
山田達が五人で巨大なバズーカを、神輿のように担いでいる。
そのバズーカから発射されたビームは、ガトリングガンに当たると大爆発を起こした。
「クソッ!またあの大砲だ」
「射程距離が長いですよね」
「しかし再充填されるまでの時間も長い。今が狙い目だろう」
「よし!ゴーゴーゴー!」
一益が配下を城の中に突入させる。
すると上から、細いビーム光線が飛んできた。
「うっ!」
「アレも威力は低いけど、邪魔ですね」
五人は拳銃を持ち、下に向かって連射していた。
当たったドワーフは痛みに顔を歪めながら怯むと、途端に集中攻撃を浴びせられた。
「しまった!再充填が終わってしまったぞ」
ドワーフ達が城壁付近で怯む間に、五人は再び巨大バズーカを持ち出した。
すると信繁が、一益にアドバイスを送る。
「滝川様、あの金槌です!」
「あの金槌で五人を狙いましょう!」
「そうか!刻印魔法の刻んだ金槌なら、この距離でも当たる。やってみよう」
一益は右手を大きく振り上げて、金槌をぶん投げた。
「遅いわ!山田スーパーギャラクティカウルトラマグ痛っ!」
「おい、途中で技名を止めるな」
「もう一度だ」
「山田スーパーギャラクティカウルトラマグナムダイナイッテエェェェ!!」
「ちゃんと言え!」
山田達は避けたと思った金槌が、とんでもない方向から戻ってきている事に気付かなかった。
その為意識外からの攻撃に、油断して痛みに耐えきれず、声に出してしまっていたのだ。
「き、効いてるぞ」
「父上、滝川様の代わりに指示を」
「皆の衆、滝川殿が食い止めている間に、城へ突入だ!」
一益は金槌を気付かれないように、五人の視線の外へ外へと操っている。
五人分の目から気付かれないように飛ばすのは、やはり難しい。
その為、昌幸が勝手に指示を出したのを聞いても、敢えて無視して金槌の操作に集中した。
「山田スーパーギャラおぼっ!」
「山田スーあんっ!」
「山田スーパーギャラクティカウルもっと!」
「山田スーパーばっち来ーい!」
「誰だ!?誰か求めてる奴居るだろ?」
山田の一人が、恍惚な表情を浮かべている。
それに気付いた四人は、山田をタコ殴りにした。
「良い!良いヨォ!」
「クソッ!コイツはもう使えん」
「どうする?既に敷地内に侵入されたぞ」
山田達は下で、ドワーフ達が同種族で争っているのを目にした。
こちらが押されているのは明らかで、時間が経てば城内に入ってくるのは目に見えていた。
「チィ!山田、お前とお前が責任を取れ!」
「どうして俺達が?」
「お前が最初に技名を言わなかった。そしてお前!お前のMっ気がこの結果を招いたんだろうが!」
山田は責任転嫁を始めると、他の山田をそれに追従する。
「そうだな。二人が責任を持って倒せ」
「お前達はどうするんだ?」
「この城から脱出する」
「何だと!?」
「秀吉様から、既にこの城の役目は終わったと指令は来ているからな。いつ捨てても問題無いのさ」
代表の山田がそう言うと、他の四人は初耳だったと驚いた。
そして彼は、指示が来た自分がリーダーだと胸を張った。
「くぅ!仕方ない。俺達だけで足止めするぞ」
「分かった。足止めだけで良いんだよな?」
「問題無い。ある程度足止めしたら、お前達は脱出しろ」
「脱出して良いのか?」
二人の山田から脱出の確認をされると、山田リーダーは悪い顔をしてこう答えた。
「問題無い。城にあった炉に爆薬を仕掛けて、限界まで熱する。お前達は爆発するまでの足止めだけで良い。奴等は取り戻したと安堵した瞬間、爆発して終わるという寸法よ。最期に良い思いをさせてから、逝かせてやろうや」




