表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1086/1299

王国の選択

 新しい武器。

 しかも僕専用。

 なんと素晴らしい響きだろうか。


 僕には専用の武器は無い。

 まあ当たり前の事なんだけど。

 理由として大きく挙げられるのが、ただ単純に使いこなすだけの力量が無いからだ。

 もし僕が専用だと言われて剣をもらっても、使いこなせない自信はある。

 使いこなせない自信がだ。

 もっと正確に言えば、多少は使えると思う。

 イッシー隊で一番弱い人くらいなら、剣でも戦えるんじゃないかな?

 なんて事をイッシーの前でポロッと口にしたら、めちゃくちゃ怒られたんですけどね。

 でも遠目で見てても、最弱の人よりかは強い自信はあった。

 その程度の腕前である。


 最弱よりちょっと強い程度の腕前の僕だから、自分の武器が欲しいとは、口が裂けても言わなかった。

 そんな事に資源を無駄にするなら、他の人に使ってほしいと考えていた。

 でもね、心の底では思ってたのよ。

 皆、自分専用の武器とかカッコイイよねって。

 又左や慶次の槍は勿論、佐藤さんだって特注のグローブだし。

 ゴリアテなんか武器じゃないのにカッコイイ。

 本当は羨ましかった。

 しかし、コバから僕専用と言われた時、内心では踊りまくった。

 小躍り程度じゃない。

 もう激しいリンボーダンス並みに、身体を震わせてたから。


 楽しみではあるが、怖さもある。

 本当に僕が使えるのかという不安があるからだ。

 しかしコバは、僕専用と言っている時点で、僕が扱える物を用意するはず。

 すぐに完成するという話だが、楽しみ半分怖さ半分というのが実情かな。

 早くどんな武器か、見たいなあ。


 ちなみにイッシー隊最弱だと思われ、剣の勝負なら僕が勝てると思った人は、後方支援の弓使いでした。

 だから僕は思った。

 後方支援は、剣が下手なのは仕方ないってね。









 サネドゥは淡々と告げたが、タツザマはその言葉を疑った。



「本物なのか?」


「どういう意味か?」


「見間違いではないのかと聞いている。それこそ騎士王国を陥れようと、死人に扮している可能性だって否定出来ないと思うのだが」


 ビビらせる為の向こうの手段ではないか。

 タツザマはそう言ったが、サネドゥは少し嫌みを込めてこう言った。



「アンタはわざわざ死んだ人全員の格好をして、戦場に現れるのか?」


「どういう意味か?ハッ!」


 サネドゥと同じ答えを口にしたタツザマは、思わず口を押さえる。

 それを見ていたウケフジは、軽く笑みを浮かべてサネドゥに注意した。



「サネドゥ殿も、あんまり困らせないであげて下さい」


「ウケフジ殿は信じるのか!?」


「そもそも彼の言葉は、私が言おうとした事です。私もね、興味深い人物を見たんですよ」


「だ、誰を見たんですか?」


「先代騎士王、アド・ボブハガー」


「な、なんだって!じゃあ二人は、あのボブハガーとハッシマーが手を組んで現れたと言いたいのか!?」


 タツザマが額に冷たい汗を流すと、ウケフジ達は顔を見合わせて頷く。



「そういう事ですね」









 ウケフジ達の報告は、既にオケツと帝の耳にも入っていた。

 二人は対策を練ると言って、二人きりで部屋に篭っている。



「どどどどうする!?」


「落ち着けキーくん。キミは騎士王だろ。頑張れ」


「が、頑張れ?みっちゃんはどうするのさ?」


「そうだな。マロは王国にでも亡命する。あの国はメリットさえあれば、受け入れてくれそうだしな」


「ハアァァァ!?ズルイだろ!自分だけ逃げようとか、何してるんだよ!」


 帝の胸ぐらを掴み、本気で怒りをぶつけるオケツ。

 帝はガクガクと揺らされながら、反論する。



「キーくんや、マロは帝でおじゃる。騎士王の代わりはいくらでも居る。しかし帝の代わりは居ないのでおじゃるよ。まあそれも、俺が結婚もせず子供も作ってないからなんだけどね」


「そんな時だけ帝ぶるのはズルイ!私だって!」


 二人が言い争いをしていると、部屋をノックする音が聞こえた。

 二人は姿勢を正して、テーブルで向かい合って座り直す。



「どうぞ」


「失礼します!越前国から報告が入りました」


「越前国から?」


 入ってきた騎士に毅然とした態度を見せる二人は、何故越前国から報告が来たのかと、少し戸惑いを見せる。

 しかしその内容を見たオケツは、再び希望が湧き上がってくるのを感じた。



「何と書いてあるのでおじゃるか?」


「帝、良い知らせです。トキド殿は生きておられました」


「なんと!」


「今は越前国で療養中との事。お市殿は、騎士王国との共闘を望んでおられます」


「吉報でおじゃる!皆にも伝えなくては!」


 オケツと帝が抱き合って喜ぶと、それを見ていた騎士の存在に気付いた。

 二人はわざとらしい咳払いをして、再び威厳のある態度を見せる。



「うむ。全騎士にトキド殿の生存を報告。まだ騎士王国は負けていないと伝えて下さい!」


「ハッ!失礼します」


 騎士が部屋から出ていくと、帝は扉に耳を当てて足音が遠ざけるのを確認する。



「やったぜキーくん!トキドが生きてるなら、まだ見込みはあるよ」


「でも、安心は出来ないんだよね。だって療養中って言ってたから、怪我をして越前国に助けられたって事でしょ?要はトキド殿だけだと、あの東の城は落とせなかったって意味だもの」


「うぅ、確かにその通りだけど。でも次は越前国と一緒に戦うんだから、勝てそうな気がする」


「西と北の城さえ無かったら、東に全騎士動員するんだけどなぁ」


 トキドの生存が、二人に希望を与えた。

 そして帝は、今の言葉である事を決めた。



「よし!帝が命じるでおじゃる。騎士王は東の城を、トキドと共に落とすでおじゃる」


「・・・へ?」


「落とすでおじゃる」


「聞こえてないわけじゃないよ。どうして私が?」


「トキドだけで落とせないなら、この国の最高戦力を投入するしかないっしょ」


「た、タツザマは?」


「彼には西の城を見てもらってるから。やっぱり騎士王自ら動けば、他の騎士の模範にもなるし」


 帝が真面目な顔をして言うと、口元が少し綻んだ。

 それを見逃さなかったオケツは、帝にビンタをかました。



「イッタ!ぶったでおじゃる!帝の顔をぶったでおじゃる!親父にもぶたれた事無いのに!」


「クソー。今回限りでやめだ!俺、この戦いが終わったら、騎士王辞めるんだ」


「キーくん、フラグ立ててから行くのやめた方が良いよ」


「うっさい!バーカ!」


 オケツは勢いよく扉を開けると、乱暴に部屋を出ていった。



「騎士王オケツ、トキド救出と越前国との共闘作戦に入る!準備しろ!」









 一方、この世界で唯一と呼べる、何の影響も無い国があった。

 この大陸の南西に位置し、魔王と秀吉の戦いから最も遠い国。

 それがライプスブルグ王国である。


 その国を治める女王、キルシェブリューテ・ツー・ライプスブルグは、今ある人物と会談をしていた。



「それでは女王様、よろしくお願いします」


「帝国との交易断絶の件、お約束致しますわ」


 キルシェは立ち上がり、対面している男と握手を交わす。

 男はキルシェの顔を窺い、そしてキルシェも男の顔を窺う。



「何故ですかな。貴女は何処か、親近感が湧いてきます」


「そうですか?次期魔王とも呼べる木下様にそう言われると、嬉しいですわ」


 美しい笑みを浮かべながら、会談相手の秀吉に言うと、秀吉はフッと少し笑った。



「貴女は賢い。賽の目が何処に転がるか、分かっているようだ」


「それは貴方も同じでしょう?用意周到な下準備に加え、魔族を分断するだけでなく、世界の国々を混乱に陥れた」


「それでも貴女は、唯一冷静ですけどね」


 年の功があるからな。

 キルシェは心の中でそう思いつつ、笑顔でそれを返す。



「それでは私は、この辺で」


「木下様、騎士王国はどうされるのですか?」


 会談の主な話を終えた秀吉は、席を立った。

 するとキルシェが、そんな秀吉を呼び止める。



「彼の国ですか?滅んでもらいますよ。帝国への警告を意味してね。貴女の国は、あまり騎士王国とは関係無いと思いましたが」


「実は北東にある城を、一緒に攻撃してくれないかと言われまして」


「名古屋城ですか。まあその辺はご自由に」


 秀吉は言葉ではそう言ったが、手を出せば騎士王国と同じ立場になるぞという警告だった。

 無言になったキルシェに、秀吉は頭を下げる。



「それでは私はこれで失礼します」


 影の中に潜る秀吉。

 秀吉の影が無くなったのを見て、しばらく周囲を警戒した後、キルシェは再び椅子に座った。



「んだよ!ホント、面倒な奴だなぁ」


 ようやく秀吉の影から解放されると、キルシェは独り言による愚痴が止まらない。



「何が私と似ているだ。お前ネズミじゃねーか。こっちは美人で通ってる女王様だぞ。ふざけんなっつーの」


「その姿を見たら、木下殿も似ているとは言わないと思うぞ」


「あらやだ!って、爺さんか。驚かせるなよ」


 部屋に入ってきたのは、河童の老人先代九鬼嘉隆だった。

 船の件からずっと世話になっている先代とは、キルシェは気付けばとても仲良くなっていたのだ。

 中身がアラフィフで死んだキルシェは、若い連中よりも先代の方が歳が近いという感覚があったのか、親交を深めると自分の本性を彼の前では見せるようになっていた。



「しかし女王よ、何故あの男と手を組む事にしたのじゃ?」


「そりゃ簡単だよ。勝ち馬に乗りたかったから」


「だが奴は、魔王様の敵ではないか。その辺りはどうするつもりじゃ?」


「どうするも何も、魔王からは何の連絡も無いし。それに奴は、安土を奪われた。貿易も出来ないんじゃ、どうしようもないからね。だから今は、秀吉に乗っかって稼がせてもらう」


 悪い顔で答えるキルシェ。

 それを見た先代は、呆れ顔でこう答えた。



「アンタ、そういうところがあの男に似ていると言われたんじゃないか?」


「え?」


「今のアンタ、物凄く悪い顔しておったぞ」


「何を言ってるのかしら。こんな美人を捕まえておいて、ネズミなんかと一緒にしないでほしいわ」


「そういう性格じゃよ」


 キルシェはおどけてみせると、先代はやっぱり似ていると言った。



「しかしあの男、国を滅ぼすと言っていたが。アンタはそれに加担するつもりか?」


「加担はしない。でも見捨てもしない」


「だったら何をするつもりじゃ?」


「幸い、城の南から騎士王国には入れる。それも川を使ってね」


「船を動かすつもりか?」


 キルシェは悪い笑みを浮かべると、先代は苦笑いをして頷いた。



「分かった。しかし手を貸したら、奴から酷い目に遭うのではないか?」








「そんなもの、証拠さえ無けりゃ問題無いのよ。こちとら何十年も日本でサラリーマンやってたんだ。あんな男の裏を掻くくらい、やってみせないと。それに言っておくけど、私はあんな男と違って腹黒ではありませんのよ。オホホホ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ