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絶望の騎士王国

 やっぱり頭のネジが一本どころか、数本は抜けてるのかもしれないな。


 沖田は近藤と土方がアンデッドとして蘇った事で、気に病むのではないかと僕は思っていた。

 ただ動く死体であったなら、彼もそこまで何も思わなかったかもしれない。

 しかし僕達が会った二人は、会話も出来るし意思も持っていた。

 見た目以外は生前とほとんど変わらない相手に、沖田は剣を向けられないんじゃないか。

 だから僕は、沖田を彼等とは違う場所で戦わせる事も視野に入れながら、彼の気持ちを探った。

 だが実際はどうだ。

 満面の笑みを浮かべ、本気で斬って良いんですよね?と聞いてくる始末。

 普通はそんな言葉、口から出てこないでしょ。


 沖田からしたら、近藤と土方はどんな相手なんだ?

 親兄弟といった関係ではないし、友人でもない気がする。

 もしそれだったら僕に置き換えると、兄や蘭丸、ハクトがそれに当たると思う。

 だから近い関係性で言えば、又左や佐藤さんになるのかな?

 二人とも僕達を魔王や阿久野くんと呼んではいるけど、ちょっと歳の離れたお兄さんという関係になる?

 太田はどうしてもお兄さんという感じはしないし、イッシーは歳が離れ過ぎてる。

 慶次はなんとなく、性格的に歳上という感じはしない。


 こうやって考えると、あまり当てはまりそうな人は居ないのだが、近い人で又左や佐藤さんだとしてもだ。

 その人達を斬りたいと思うか?

 僕は絶対に思わない。

 多分兄も思わない。

 それを嬉しそうに、本気で斬れると言い放った沖田は、やっぱり僕達とは少し違う。

 壬生狼は戦いを好む種族とは言っていたが、落ち着いてるように見える沖田もそうなんだなと、この件で改めて思い知らされた気がした。










 久しぶりに戻ってきた気がした。

 連合へ向かってミスリルを手に入れるまで、そんなに日は経っていないはずなんだけど。

 それでもこの砦に戻ってきて、帰ってきたという気持ちになった。

 やっぱり待ってくれている人が居るというのは、あまり慣れない場所でもそう思えるのかもしれないな。



「ただいま〜!」


「おかえり。案外早かったな」


 イッシーが慶次と模擬戦をしていた。

 僕達が戻ってきたタイミングで手を止めると、そのまま終わりになったようだ。

 慶次はこちらを一瞥して、そのまま無言で立ち去っていく。



「慶次はどう?少しは気持ちの整理がついたのかな?」


「ダメかなぁ。俺と槍を合わせても、やっぱり何処か気が抜けているように思えるし」


 イッシーの話だと、慶次が本気であればもっと対応に追われて、自分では歯が立たないはずだという。

 しかしイッシーでも戦える時点で、慶次が本気ではないと確信してしまったようだ。



「情けない話だけど、アイツが本気なら俺はもっとボロボロだから。俺が無傷な時点で、慶次の槍が腑抜けているのは明らかだよ」


「やっぱり又左の件をまだ引きずっているか」


 本気で刺されそうになった。

 イッシーが助けてくれなければ、自分の命もしくは腕が無くなっていたはず。

 それが実の兄である又左だと知った時から、慶次の様子は少しずつおかしくなっていた。



【とはいえ、このまま腑抜けのままだと困る。ベティやカッちゃんが居なくなった今、俺達の戦力は落ちているんだ】


 まあね。

 気持ちは分かるよ。

 でも、慶次がショックを引きずるのは、まだ仕方ない気がするんだよね。

 もう少し彼に時間をあげても、悪くないんじゃないかな。



【お前は甘い。もしこの場所を奇襲されたら、慶次にそんな事言ってられるのか?】


 それはそうなんだけど・・・。



 同じ弟である僕としては、慶次の気持ちが少し分からなくはないんだよね。

 でも慶次は、僕よりも強いと思う。

 それは戦闘力ではなく、精神面という意味でだ。

 だから時間は必要だけど、本人の中で折り合いがついた時、彼はまた立ち上がれると思う。



「もう少し、様子を見てやってくれない?アイツは自分で立ち直れると思うんだよね」


「そうだね。僕もそう思う」


 イッシーが僕と同じ考えを言われた時、やっぱりこのおっさんは他人を見る目があるなと思った。

 イッシー隊なんて色々な連中を率いてるのは、伊達じゃないな。



「遅い!戻ったなら早く挨拶を寄越すのである!」


 えぇ・・・。

 魔王である僕じゃなく、コバがこの砦の主人になっているらしい。

 何故か戻ってきた報告は、僕からしなくちゃいけないようだ。



「ミスリル手に入れてきたよ」


「そんなの当然である。が、当初の予定よりも多いとハクトが言っていたのである。その辺は褒めてやろう」


 あれあれ〜?

 おかしいな〜。

 どうして僕が、こんな上から言われないといけないんだ?



「お前ねえ」


「これだけあれば、魔王専用の新しい武器も試せるのである」


「新しい武器?」


「何だ?何か言おうとしていたようだが」


「いえ、何でもないです」


 ちょっと愚痴を言ってやろうと思ったのだが、それで僕達の新しい武器の開発が遅れるのも嫌だし。

 悔しいけど、ここはグッと我慢するのが大人だろう。



「それで、新しい武器というのは?」


「一つはトキドに渡してしまったバットの代わりに、新たな武器を作る」


【おぉ!この前は近藤と土方に、武器が無くて苦戦したようなもんだからな。武器さえあれば負けないぜ】


 やっぱり斬れ味の良い剣を相手にすると、徒手格闘は難しいからね。



「でも一つはって言い方を聞く限り、まだあるの?」


「ある!それはお前専用である」


「僕専用?でも僕、あまり接近戦は得意じゃないんだけど」


「それは分かっている。だからお前の専用武器は、遠距離向きなのである」


 ふむ、それなら理解出来る。

 でも魔法が使えるから、今更銃も弓も必要無いんだけどな。

 なんて考えが顔に出ていたのか、コバは少し不満そうに訂正する。



「バカタレ。お前専用の武器というのは、お前さんが表に出ていない時に使う武器である」


「うん?それって、兄さんが戦ってる時に僕も戦えるって話?」


「その通り!」


「へぇ。それはかなり重要だね」


「それをお前は不満そうに」


 やらかした。

 ここからはしばらくコバの愚痴が長く続くのだが、僕はどんな武器なのか想像してそれをやり過ごした。



「というわけで、お前の人形も少し改造するのである」


「えっ!?顔はやめてよね」


「顔は使わない。身体だけで事足りる」


 だったら良いかな。

 改造して顔が崩れたら、また大変な事になる。

 僕が作り直すと、ひょっとこを百回くらいビンタしたような顔になって、表には出してはいけないような顔になるからね。



「それ、すぐに完成するの?」


「プロトタイプは既に出来ているのである」


 プロトタイプ?

 という事は、誰かが使っている武器を変更する形になるのかな?



【俺、なんとなく予想出来た。多分ゴリアテの盾じゃないか?俺が攻撃に専念している間に、お前が防御に特化する。そうすれば、攻撃力倍増するだろ】


 なるほど。

 悪い線ではなさそうだけど。

 でもコバの言っていた遠距離向きの武器という言い方が気になる。



【そっか。そういえば武器って言ってたもんな。じゃあ盾は違うかもしれない】


 ゴリアテの盾は武器にもなるし、あながち間違ってないかもよ?



【それもそうか。でもまあ、そんなに時間掛けずに完成するって言ってるし。楽しみに待とうぜ】


 フフ、何だろうこの気持ち。

 誕生日直前にプレゼントは何がもらえるのかなって、そんな期待と不安が入り混じったような、そんな気持ちだ。

 久しく誕生日プレゼントなんかもらってないから、昔よりももっとこの気持ちは大きい気がする。



「おそらく数日で原型は完成するのである。調整も含めて、しばらく魔王は残ってもらうからな」


「了解であります!」









 騎士王国は孤立した。

 トキドの姿が見えなくなった事から、彼は敗北して死んだという噂が、騎士王国内に流れ始めた。

 そしてその噂を信じる者と信じない者が、更に国内を混乱に導いていった。


 信じる者は領地を放り投げ、自分だけ国から逃亡しようと画策していたり、騎士王であるオケツや帝に対して不平不満をぶつけるだけの者達が多かった。

 逆に信じない者は、トキドの策略だと考え、トキドが再び立ち上がる時、呼応しようと考えていた。

 だが後者の方には、そう思いたいという希望的観測で考えている人物も多く居た。

 そのうちの一人が、ウケフジだった。



「ウケフジ殿はこの噂、どう考えられている?」


「死んだとは思わない。というより、思いたくないというのが本音ですかね」


「そうですか。その気持ちは分かります」


 実はトキドが死んだのではという噂が流れた大きな理由は、トキド隊にあった。

 敗走したトキドのワイバーン隊は、数を大きく減らして騎士王国へ戻ってきた。

 しかしその中にトキドの姿は無かったのである。

 彼ならしばらくして戻るだろうと考えられたが、一向に戻る気配の無い状況から、トキドが死んだという噂が真実味を帯びて流れたのだった。



「して、タツザマ殿が見た西の城はどうだった?」


「立派な城でしたね。堀も作られて、落とすには苦労すると思いました。それと妙な物が一つ」


「妙な物とは?」


「城の天守閣に、金色の変な生き物に模した物が上げられていました」


「それは・・・意味があるんですかね?」


 名古屋城の金のシャチホコ。

 日本人なら知らない人は居ないと思われる物だが、彼等からしたら何の意味があるのかサッパリ分からなかった。



「ウケフジ殿が見た、北の城はどうだったんですか?」


「北の城も立派だった。立派ではあったのだが・・・」


 言い淀むウケフジに、タツザマは首を傾げる。



「何か問題でも?」


「あの城は落とせないと思います」


「落とせない!?」


「おそらく、騎士王国の全騎士を北の城に進軍させても、下手をしたら全滅します」


「な、何を言ってるんですか!こんな時に冗談はやめてほしい!」


 大きな声を出したタツザマは、本当は理解していた。

 ウケフジは冗談を言うような性格ではない。

 そして彼の顔色の悪さから、それが真実であると分かっていた。



「り、理由を聞いても?」


「聞いても信じられるか、分かりませんよ?私が見たのは、とんでもない数の動く死人です」


「死人!?どうして死人だと分かるんです?」


「それは」


「それは簡単だ。死んだ身内があの場に居たからだよ」


「だ、誰だ!」


 突然横から口を挟んできた男。

 タツザマが男を確認すると、ウケフジは知り合いだと制した。



「貴方も見たんですね。サネドゥ殿」


「見た。しかも俺が知る人を二人ね」


「誰ですか?」








「一人は俺の兄。ハッシマー様とオケツ殿の戦いの時に、命を落としている。そしてもう一人は、そのハッシマー様本人だ」

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