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苦悩する男

 魔物の大量発生。

 僕達にはあまり縁が無い話だった。


 そもそも魔物は、魔族と同じでほぼ弱肉強食の世界である。

 中には共存共栄するような魔物も居るみたいだけど、大半はそんな感じだ。

 だから分かりやすく言えば、強い奴の気配を感じれば、近付かないのが普通なんだよね。

 だって自分より強い奴が居ると分かれば、下手をすると自分が食べられるだけなんだから。

 だから気配で分かる相手なら、近付かないのが当たり前のはず。


 だからというべきか、安土の周りには魔物はほとんど居なかったんだよね。

 それはおそらく、僕じゃなく防衛を担当していたゴリアテが頑張っていたからだと思うんだけど。

 でもこの話は、あくまでも安土の話。

 越中国なんかは大木の上に都市があったからか、下の森は魔物だらけだった。

 同じ理由で、大きな壁に覆われた越前国も多い。

 長浜もネズミ族がそこまで強くないから、多かったイメージもある。

 対して上野国なんかは、火を大量に扱っているからか、あんまり近くに魔物が居るイメージは無い。

 例外なのは、右顧左眄の森がある若狭国。

 あの国の周りの魔物は、他と違って特殊だからか、近くにも魔物が現れる。

 しかし若狭国では魔物除けの薬も作られているから、街の中には入ってこないらしい。

 しかしあの辺りの魔物は、力の差関係無く襲ってくるという話だ。

 だから領主である長秀だろうが、守護者である阿吽の二人でも、普通に魔物が襲ってくるらしい。


 無駄な殺生はしない。

 だけどそれは、向こうから来なかった場合の話。

 今思えば、最近はあまり魔物の姿を見ないな。

 子供の頃と比べると、僕も強くなったという事だろう。

 姿は変わらないけど・・・。









「召喚者?では帝国の仕業ですか?」


「そうか!魔族同士が争って混乱してる中、帝国は裏から手を回してきおったんやな!セコイで、まったく!」


 コイツ等、人の話聞いてないな。

 まあ召喚者と聞けば、真っ先に思い浮かぶのは帝国なのは分かる。

 だけど僕は、秀吉って名前を出したんだけど。



「うーん、あんまり言いたくなかったんだけど、帝国も被害者なんだよね」


「どういう意味ですか?」


 僕はニックとパウエルに、他言無用という条件を飲ませ、ヨアヒムと秀吉の話を教えた。

 他国のトップが操られていたのである。

 あまりに衝撃的だったのか、二人は口を開けたまましばらく放心していた。



「聞いてる?」


「あ、あぁ大丈夫。という事は、帝国が異世界から多数召喚したのも」


「秀吉の策略になるね。それでもって、秀吉の仲間の中にも召喚者は居る」


 僕が知る限りでは、山田A〜Eという強いのか弱いのかよく分からない連中くらいだけど。

 それでもモブだと思われた奴ですら、空から落ちてもダメージが無いという、驚異的なタフさを持っていた。



「それでは木下様が我々を狙う理由は?」


「木下様?」


「す、すいません。あの人も私達のお得意様なので。つい・・・」


 分からない話でもないか。

 元々長浜も貿易都市。

 商売という面では、僕達安土に居た連中よりも長浜の方が関係が深いと思われる。

 やり手だった秀吉なら、連合の中でもトップクラスの会社を持つパウエルと懇意だったとしても、おかしくない。



「じゃあ秀吉の仕業で決まりなのかしら?」


「決まりではないけど・・・。その可能性も否定出来ないよってだけ」


「可能性ねぇ。理由が分かれば、魔王の言い分にも理解出来るんだけど」


 理由と言われてもなぁ。

 そもそもリュミエールに喧嘩を売って、何の得があるのかすら分からない。

 魔王レベルの魔族とはいえ、ドラゴンには勝てる気がしないしね。



「と、とりあえず今日は、この辺りでお話は終わりという事で」


「何故?」


 パウエルが話を中断させると、少し挙動不審な動きを見せながら僕に対してこう言ってきた。



「こ、これからミスリルの商談をしたいからですよ。ウチの在庫で良ければ、販売させていただきたいのですが、価格は少々割高になりますので」


「なるほど。価格交渉をしたいってわけね。だったらそうしようか」


 まんまと乗せられた感はあるが、僕の目的はこっちだし。

 リュミエールは話を途中で断ち切られて不満げではあるが、悪いけどこちらを優先させていただこう。

 その代わり、不満を解消する術もあるしね。



「ハクト、リュミエールにご飯作ってあげてよ」


「分かった」


「魔王、アナタの心遣いは受け取ったわよ!」


 今泣いた烏がもう笑うではないが、不満そうな顔が今では笑顔になっている。

 これでしばらくは、リュミエールの機嫌は良いだろう。



「じゃ、ミスリルの商談をしようか」








 パウエルは人を呼ぶと、彼が仕切る料理店へとハクトとリュミエールを案内させた。

 二人が出ていくと、彼はドッと疲れを表に出すように、大きなため息を吐いた。



「なんや、えらい疲れとるな」


「・・・ニック、お前も巻き込んで良いか?」


「ミスリルを売るっちゅう話なら、喜んで巻き込まれるけど」


 パウエルの深刻な顔を見る限り、ニックはそうじゃないと分かっていた。

 だが重い雰囲気が嫌いな彼は、少しおどけて見せた。



「まあえぇわ。今回ばかりは聞いたる。いつも余裕のあるお前が、ここまで思い詰められとる理由も知りたいしな」


「すまん!」


 おもいきり頭を下げるパウエルに対し、ニックはやはり調子が出ないとぶっきらぼうに頭を上げさせる。



「で、本当のところ、どの程度話が分かってるんだ?」


「なんやと?どういう意味ですか?」


「流石は魔王様。話が早い」


 泣きついてきたパウエルは、ニックと少し様子が違っていた。

 多分何かしらの情報を知っているんじゃないかと、カマをかけてみたんだが、どうやら当たっていたらしい。



「実は魔王様の推理した魔物を操るという話、当たっています」


「マジか。我ながら凄いな」


 でもその上に、誰が居るかという点が問題になる。

 そしてパウエルが悩んでいる元凶が、まさにそれだった。



「魔物を操る人物と会ったの?」


「会いました。感情が乏しそうな表情をした若いヒト族の男性と、もう一人別の人物が私に会いに来たのです」


「もう一人はヒト族?魔族?」


「素性を隠していたので分かりません。しかし私が悩んでいるのは、彼が帝国の使者だと名乗った点です」


「帝国!?」


 意味が分からん。

 ヨアヒムが今、連合にちょっかいを出す理由は無い。

 むしろ帝国は、僕達との戦いで戦力は大幅にダウンしている。

 意味も無く周りに敵を作る行為は無駄だと、アイツは理解しているはずだ。

 それはギュンターだって同じだろう。

 軍上層部として、帝国に不利益になるような指令を出すとは思えない。



「まさかお前、その男の言う事をバカ正直に、真に受けたっちゅうんか?」


「俺だってそこまで馬鹿じゃないさ!しかし彼は、帝国の軍服を着ていた。だから頭から、嘘だとは言い切れない気がするのだ」


 帝国兵の格好をした男と、謎の人物か。

 少し違和感があるな。



「ちなみにその使者は、何の用件で来たの?」


「そ、それが・・・。魔族との取引を中断しろと言うのです」


「魔族との取引を?ちょ、ちょっと待って!それは僕達だけじゃなく、秀吉達とも取引を停止しろって意味だよね?」


「そうなります。しかし先程も言ったように、長浜との取引もあれば、安土ともあります。答えはすぐに出せないと伝えると、悩んでいる間にも魔物を操って、この国を孤立させると言ってきたのです」


「何やて!?それで今の状況が生まれたっちゅうんか!じゃあお前がこの混乱を作ったんやないか!」


 パウエルは言い終えると、全てを出し切ったのか、力が抜けたようにその場にへたり込んだ。

 その姿を見たニックは怒りでパウエルの胸ぐらを掴んだが、パウエルが泣きそうな顔で僕を見ると、ニックは荒々しく手を放した。



「待てよ!お前がパウエルの立場だったら、どうするんだ?コイツは悩んでたんだよ。それをお前は気付かなかったんだ。文句は言えないだろ」


「チィ!だったらどないしろと言うんです!?」


「犯人を探そうと思う」


「帝国の仕業ちゃうんですか?」


「違うと思う」


 確実とは言い切れないけど、僕達にあそこまで協力しておいて、今更裏切る理由が無い。

 しかし二人は、そんな僕達の関係を知らない。

 むしろちょっと前まで戦争をしていた関係だ。

 あながち嘘じゃないと考えているのかもしれない。



「だったら誰なんです?もしかして、魔王様が裏で糸を引いてるって・・・そりゃ意味無いですね」


「僕ならミスリル安く売ってもらえるように、脅迫するっての!」


「魔王様、恐ろしい人!」


 なんか少しだけ女優になった気持ちになったけど、それは置いといて。

 まずは疑惑を解かないと。

 ヨアヒムに直接電話するのもアリなんだけど、それだと偽者だと言われかねない。

 だから説得力のある人物に、二人に説明してもらう事にしよう。



「もしもし、官兵衛」








「なるほど。では、率直に聞きますが、パウエル殿とニック殿は、裏には誰が居ると思っていますか?」


「えっと、ワタシは帝国かな。弱った帝国は、連合に魔族と手を組まれるのを危険視してるとちゃいます?」


「私は、王国が怪しいと思っています」


「王国!?」


 パウエルなりにある程度考えていたのか、彼はニックとは違い迷いなく答えた。



「何故?」


「王国は野菜や果物、そして今は生鮮業で成り立っている国です。しかし連合が潰れれば、その代わりとして船も使い帝国や越前国のような場所とも交易が出来る」


「連合の商いを、そのまま奪おうと?」


「あの女王なら、混乱している今ならやりかねないと思うんですけど」


 マズイな。

 僕の考えは違っていたのだが、パウエルの話を聞くと否定出来ないと思ってしまった。

 彼の言う通り、キルシェならやりかねない。

 リュミエールがどれだけ強力だろうと、キルシェなら彼女が前世の記憶を元に作ったスイーツを餌に、抑えられなくもない。

 もしかして、本当に王国か?



「お二人の意見も、可能性はあると思います。しかしオイラの意見は違いますね」


「官兵衛殿はどういう考えですか?」


「オイラは、長浜が自作自演を行なっていると思っています」


「自作自演!?何故?」


「厳しい事を言うようですが、長浜は連合を介さずともやっていける力があります。それこそ王国との取引もあれば、帝国とも取引をしていた。そして越前国からクリスタルも仕入れていたし、長浜にはミスリルの産地がある。今は帝国とも越前国とも断交していると思われますが、それでも困る事は無いのです」


 言われてみれば、確かにその通りだ。

 長浜は王国さえ蔑ろにしなければ、現状やっていけるだけの力がある。

 食料事情は王国で全て賄える。

 クリスタルだって販売するくらいの余裕があったのだから、在庫は大量にあるはず。

 ミスリルは言わずもがな、問題は無い。

 おそらく上野国から、記憶を封印している間に様々な物も購入していたと考えれば、武器だってあるだろう。



「魔王様は、この事を最初から知っていたんですか?」








「僕を誰だと思っているんだ。謎は全て解けた!真実はいつも一つ!官兵衛の名にかけて、犯人は秀吉だぁ!」

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