代わりの剣
帝もオケツも、意外と皆を信用してるんだな。
少し微妙な気持ちになった。
二人はトキドをネオ熊本城へ向かわせると、彼なら熊本城を陥落させられると信じて疑っていなかった。
トキドは騎士王国でも、最強と呼ばれる存在である。
それこそ騎士王であるオケツよりも、強いんじゃないかと言われるくらいだ。
そんなトキドのライバルと称されているのがウケフジなのだが、二人には奇妙な共通点があった。
それは二人とも、親が偉大だったという点だ。
トキドとウケフジの先代の領主は、それはもう凄かったらしい。
僕も直接会った事が無いので聞いた話だけど、ボブハガーが戦いたくないと距離を置いたレベルだという話だ。
だが今は、そんな偉大な親を二人は超えたんじゃないかと僕は思っている。
そうじゃなければ、トキド達がこんなに帝やオケツが信頼するはずが無い。
その証拠に彼等は、相手が誰だろうとトキドなら倒せると思って、熊本城へ向かわせたのだから。
どんな相手でも倒してくれるはず。
熊本城が対空攻撃を持っていても、城主がどれだけ強かろうが勝てると踏んでいたはずだ。
そして二人の考えを理解した時、僕の場合は誰なんだろうと考えてみた。
そこでパッと頭の中に思いついたのが、又左だった。
又左ならやってくれる。
たまにやらかす事はあるけど、真っ先に向かわせるなら又左だと僕は思った。
佐藤さんや沖田、慶次も強いんだけど、三人とも共通して言える事がある。
それは個の力が突出しているのであって、部隊を率いるとなると又左には及ばないという点だ。
だから又左が、パッと浮かんだのかもしれない。
二人はトキドがやられたと知って、凄く動揺していた。
そして僕も同じだ。
又左が秀吉側についたと知って、どうしようもない気持ちになった。
二人にはその件で、最初にちょっと馬鹿にされたけど、やっぱりそれだけ信用しているんだと思うと、僕も怒らずに動揺するその気持ちが理解出来たのだった。
太刀が折られた。
トキドの持つ太刀は、それなりの業物だったと思われる。
しかしそんな立派な業物も、清正の剣の前では打刀同然の扱いだったらしい。
「トキド殿、だったら直してもらいますか?」
「そういえばマオは、コバ殿の所から来たんだよな。だったらトキド様の太刀を渡せば、直してもらえそうだな」
太田の提案を聞いたトキドは一瞬頭を上げた。
しかしすぐに落ち込み、また項垂れてしまった。
「どうした?金なら別に要らないぞ」
トキドが金を持っていないと言っているわけじゃない。
今回は特別。
越前国と騎士王国は同盟を結んだし、同盟相手には活躍してもらわないと困る。
その為には一番の騎士であるトキドが必要だと、僕は思っていた。
「駄目だ。この刀を直したところで、奴の剣には勝てない」
「どうして?」
「俺の剣は、奴の剣に斬られたのだ。見てみろ。って、俺の剣は何処だ?」
「そういえば、どうされたんですかね?」
「誰か回収したっけ?」
落下してきたトキドを助けた際、折れた太刀の先の方を二人は拾っていなかった。
トキドが握ったまま落ちてきたので、半分はある。
しかし残りの半分をどうしたのか、誰も知らなかった。
「もしかして、熊本城の前に落としたままだったりして」
「うおぉぉ!!俺の国江があぁぁ!!」
「国江って、ワイバーンの名前じゃないの?」
「あの太刀も国江って言うの!うわあぁぁ!!」
トキドが頭を抱えて叫んでいる。
愛刀が無くなった。
騎士にとってそれは、命の次に大事な物だと後から知った。
「ど、どうしますか?先っぽ探しに行きます?」
「敵の城の前かぁ。探してる間に、絶対攻撃されますよね」
太田が申し訳無さそうに探そうと言うと、蘭丸が至極当然な事を言った。
結論は一つ。
今は諦めるしかない。
「俺の太刀が・・・。剣が無いと俺、戦えないぞ」
「だったら越前国の剣を使えば良いんじゃないですか?」
トキドは顎に手を当てて考えると、やはり何か問題があるのか、首を横に振った。
「駄目だな。普通の剣だと俺の風林火山に耐えられない」
「なるほど。一理ありますね」
二人ともトキドのとんでもない戦闘力は知っている。
だから耐えられないという意味も、すんなり受け入れられた。
「しかしそうなると、代替用の剣は無いですよ」
「トキド様の力に耐えられる剣ねぇ」
トキドの太刀は騎士王国製である。
帝国や王国が使う両刃の剣とは、製造方法も違う。
そして越前国の妖怪達はあまり武器を使わないので、そこまで質の良い剣は無いのだ。
そんな物あったら、お市も言ってくるだろうし。
無い物は無い。
考えても思い当たらないので、諦めるしかないかと思っていたところ、何故か視線を感じる。
誰かが僕を見ているのかと見回すと、蘭丸が僕を見ていた。
「どうしたの?」
「んー、ちょっと気になったんだが、お前の剣は駄目なのか?」
「僕の剣?」
あぁ、コレか。
正確には僕のではなく、兄の剣である。
持つ部分がバットのグリップになっている特注品だ。
そういえば、コレも改良されてたんだっけ?
「それが剣?」
トキドも見た目が奇妙だからか、蘭丸から剣だと言われて興味を持ったらしい。
「見てみる?」
「良いんですか!?」
「うん、まあ・・・」
良いんですかって、それだけ食い入るように見られたら、そう言うしかないでしょ。
僕は腰からバット剣を抜くと、トキドは更に近付いて身始める。
「へぇ、短いけど太刀と同じで片刃なんですね。へぇ、ほぉ、ふぅん」
「さ、触ってみる?」
「良いんですか!?いやぁ、悪いなぁ」
コイツ、絶対わざとだろ。
僕の周りを回りながら、へぇとかほぉとか言って、持ってみたいオーラが凄い出てたじゃん。
悪いなんて、1ミリも思ってない気がする。
「うん?なんかちょっと違うような。ちょっと振ってみても良いですか?」
「だったら外に行こう」
トキドが試し斬りならぬ試し振りをしたいと言うので、鈍った身体を動かす意味でも外に出る事にした。
太田と蘭丸の視線を浴びながら、トキドはバット剣を構えた。
やっぱり握る部分に違和感があるようで、首を何度か傾げている。
「なんとなく振りづらい気がする・・・」
トキドは剣を振るように上から何度か振り下ろすものの、しっくりこない様子。
すると頭の中で、ため息が聞こえた。
【フゥ。違うんだよなぁ。そんな甘い振りじゃあ、三振だぜ】
剣だから三振とか無いから。
【ちょっと変わって。俺が見本を見せてやる】
「トキド。構えが違うんだよ。そうやって真正面に持つんじゃないんだよ。正眼の構え?そういう剣の持ち方とは違うんだ」
俺はトキドから剣を一旦返してもらうと、見本となる構えを見せた。
「これが基本ね」
「野球の構えじゃねーか」
蘭丸からツッコミが入ったが、まさにその通り。
俺は剣は上手くないけど、野球なら誰にも負けない自信がある。
不得意な分野で勝負するよりも、自分が持ってる得意な技術をそれに活かした方が良いと、俺は判断したまでだ。
「そ、そんな構えで、どうやって斬るんですか?」
「こうやって振るんだ。そうだな、例えばこの大木も斬れるぞ」
「は?そんな短い刃で?」
トキドの奴、俺を疑ってるな?
まあバット剣の長さを見れば、そう思うのも無理は無い。
百聞は一見にしかず。
見りゃ分かるだろう。
「行くぞ。・・・フン!」
俺がバット剣を振ると、直径2メートル近い木がスッパリと切れた。
アッパースイング気味に振ったからか、斜めに切れた大木は俺が少し押すと、ゆっくりとずり落ちていく。
「なっ?こんな感じよ」
「凄い!」
「フフフ、やってみるかね?」
「良いんですか!?」
「良いとも良いとも」
なんか気分が良い。
そういえば最近、野球関連で凄いと言われた記憶が無いな。
剣を振ってるから野球ではないんだけど、バットを振った感覚と同じだから、ちょっとそういう錯覚をしてしまった。
「えっと、こんな感じだったかな?」
「な、何!?」
「マオと構えが少し違うな」
トキドは肩の力を抜いて、全身がリラックスしたような形でバットを持っていた。
俺の構えとは違い、やっぱり正眼の構えに似ている。
「そんでもって、こう!」
「へ?」
トキドが剣を振った。
残っていた大木の一部に当たったように見えたが、木は切れた様子は無い。
ように見えた。
「トキド様、空振りですか?」
「うーん、当たった気がしたんだけどな」
「当たってるよ。ほら」
俺が木の上の部分を押すと、1センチ程だろうか。
薄くスライスされた丸太が、ズレて現れた。
「ぜ、全然見えなかった!」
「マジかよ!神主打法の構えだぞ!」
「神主打法?何ですか、それ?」
「バットコントロールの天才じゃないと難しい、とんでもないバッティングフォームだ」
神主打法は、かつて三冠王を三回も獲った偉大な選手が使っていた。
俺もマネくらいはしたけど、やっぱり全然当たらなかったんだよなぁ。
まさかトキドが使えるなんて。
いや、マグレの可能性もある。
「もう一回同じ事出来る?」
「ちょっと時間をもらっても良いですか?」
「構わないけど」
何か納得がいかなかったのか、一人でブツブツと喋りながらスイングを確かめている。
その風格はもう、一流のバッターにしか見えない。
納得が出来たのか、再び神主打法で構えるトキド。
「行きます!」
フッと力が抜けた瞬間、トキドが神速のバッティングを見せる。
「トキド様、凄いですよ!さっきよりも薄いです!」
「ワタクシには出来ない芸当です。これはとんでもない事ですよ」
蘭丸と太田が手放しに誉めると、トキドは満更でもない顔をしてこちらを見てくる。
どうやら俺の感想が欲しいらしい。
「いや、まあ凄いと思うよ」
たった二振りで、異次元のバッティングセンスを見せつけられた気分だ。
コイツは狙って丸太を薄切りにした。
そのコントロールがあれば、動く球も当てられると思う。
野球を始めて半年とかで、甲子園に出場しました。
そう言われてもおかしくないレベルだろう。
「きんもち良い〜!コレ、良いですね。めちゃくちゃ斬れ味も良いし」
「・・・あげないよ?」
トキドはバット剣と俺を交互にチラチラと見ながら、コレは良いアレが良いと称賛している。
だから俺はもう一度言った。
「それは俺の剣だから。あげないよ?」
「良いじゃん。お前、最近は鉄球か素手ばかりだし。別にトキド様に貸したところで、問題無いだろ」
「バカ!使う相手がたまたま居なかっただけで、接近戦やるなら使うっての!」
「しかし、キャプテン。トキド殿の戦力は大きいですぞ」
「うぅ、それは分かるんだけど」
二人には、貸さない俺が悪者みたいになっている。
確かに言いたい事は分かるし、仕方ない気もするんだけど。
でも・・・うーん。
「じゃあ、今回だけ・・・」
「やった!お前の名前は、真・国江だ。これから頑張ろう」
「あげないよ!」




