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騎士魔族同盟

 文句を言っても良いですか?

 めちゃくちゃ人使いが荒いんですけど。


 僕はお市に呼ばれて、越前国へ転移した。

 理由を言うでもなく、早く来いという命令である。

 ハッキリ言おう。

 僕がお市に呼ばれた時、実はフォルトハイムへ転移する直前だったのだ。

 こちらはこちらでやるべき事がある。

 しかしお市が怒り気味に言っていたので、余程切羽詰まってるのだろうと考えていた。

 話を聞いたら、それなりに重要な案件ではあったと思う。

 そもそも街道を封鎖されて、騎士王国との連絡手段が無くなってしまったからね。

 まさに僕にしか出来ない、重要な任務だったとも言える。


 ただ秀吉の狙いが騎士王国を孤立させる事だったのは、ちょっと意外だった。

 越前国を落としたいのだとばかり想像していたけど、これは驚きだったかな。

 でも秀吉の狙いは、内容を知らなかったら僕達は動かなかっただろうね。

 こっちが狙われているんだったら、戦力が整うまで待機していたと思う。

 それこそ敵が越前国に攻めてこなくて、ラッキーとか考えてただろう。

 もしかしたら知らない間に騎士王国は滅亡して、越前国も知らぬ間に風前の灯だった可能性だってあった。

 秀吉の狙いが知れたのは、本当に運が良かった。


 ただ僕達がその狙いを知ったところで、秀吉は僕達が動くとは考えていなかったかもしれない。

 魔族は魔族で領地を奪われたりして、余裕は無い。

 越前国の妖怪も、領主である権六と共にかなり数を減らしてしまっている。

 だから知ったところで、見殺しにすると考えていたのかもしれない。

 騎士王国と越前国が手を結ぼうにも、街道を封鎖した時点で連絡方法も無いし。

 上手くいかないと思われていたんだろうな。

 でも僕が転移出来るなんて、流石の秀吉も知らない話だ。

 まさか両者が手を組んだと知ったら、奴はどういう反応を示すかな?


 現状、僕達は劣勢にある。

 でも今回の件がキッカケとなって、事態は好転するかもしれない。

 それにこの同盟の話は、秀吉をギャフンと言わせるチャンスでもある。

 アイツが驚く顔を想像するだけで、ニヤニヤが止まりませんなぁ。

 なんて、先の話をすると鬼に笑われてしまうな。

 だから何処かで権六が笑ってたら、これまた面白いんだけどね。










 僕が扉を蹴り飛ばして入った部屋は、薄暗かった。

 ミラーボールが天井からぶら下がっていて、クルクル回っている。

 部屋の奥にはDJで使われるような卓があり、その先にはサングラスを掛けた帝が、首をリズム良く振りながら手を動かしていた。



「ダサッ!」


「誰だ、ダサイとか言った奴!」


「ま、魔王様!?」


 僕が大きな声でダサイと言ったからか、帝は手を止めた。

 するとオケツが、部屋の入り口に立つ僕に気付いたようだった。



「ダサイでしょ。薄暗い部屋でサングラスって。最初から暗いんだから、掛ける必要無いし」


「う、うるさいなぁ。こういうのはファッションとしてアリなの!」


 多分無いな。

 だって言われた本人が、突っ込まれて恥ずかしそうにしてるんだもの。

 芸能人じゃあるまいし。

 暗い所でサングラスなんて掛けるなよ。


 それに自分の国が大ピンチだって時に、何やってんのって感じだし。

 もし諦めてこんな事してるんだったら、尚更ダサイと言わざるを得ない。



「で、魔王様は何しに来たのかな?」


「そんなの分かってるでしょ。手を貸してやろうって話だよ」


「ほ、本当に!?」


 オケツが僕に詰め寄ってくると、帝はそれを止めた。

 やはりオケツと違って、政治が分かる奴だな。



「待て待て。貸してやろうって言い方をしてくる辺り、怪しい」


「だって、借りられるなら何だって良いじゃない。今は猫の手も借りたいくらいだよ」


「キーくん、それじゃあ騎士王国はナメられて終わりだぜ。特に貸してやるなんて言って、主導権を与えるのは問題外だ」


 やはり駄目だったか。

 あわよくば貸しを作って、こちら有利な同盟に仕立ててみようかなとも考えたけど。

 もしかこれがオケツだけなら、上手くいったかもしれないな。



「まあ良いさ。元々僕が主体の話でもないし」


「どういう意味です?」


「今回僕は、あくまでも使者としてやって来たのよ。今回の話を切り出したのは、お市。彼女は騎士王国と、同盟を結びたいと考えている」


「なるほどね」


 普段は誰か居ると、マロとかおじゃるって言うけど、今回は僕達三人しか居ない。

 そのせいかイラッとしないし、話もスムーズに進む。



「同盟と言うからには、手を貸してくれると?」


「そうだね。まずは騎士王国と越前国の間に出来た、ネオ熊本城を落とす」


「バカだなぁ。あの城はもう落ちてるよ」


「えっ!?」


 アレ?

 話が違うぞ。

 トキドがやられたのに、直後に陥落したのか?



「正確には、まだ落ちてないですけどね。トキド殿に頼んだから、後は報告待ちです」


「というワケだ」


 自信満々に胸を張る帝。

 オケツもトキドには全幅の信頼を置いているせいか、負けるとは思っていない様子だ。


 そうか!

 僕は転移してきちゃったから、敗走したトキド隊よりも先に、キョートに着いちゃったんだ。



「それ、失敗してるから。トキドはネオ熊本城に居る加藤清正に、敗北したよ」


「またまた冗談を。そんなに魔族有利に話を進めたいのか?」


 帝は僕を嘘吐き扱いしているが、こんな笑えない冗談は言わないタチなんだよね。

 オケツはそれを知ってるから、まさかという表情をしている。




「キーくん、どうした?」


「いや、それが本当なら大問題だなって」


「本当だし、大問題なんだよ。むしろトキドは、僕達が助けなければ敗死していたから」


「だから、笑えない冗談はやめてくれ!」


「みっちゃん!最初から疑って掛かるのはやめよう。もしこの話が本当なら、ここで突っぱねた私達はどうなる?それこそみっちゃんが言った通り、魔族に優位な同盟を組む事になるよ」


 オケツが大きな声で反論したからか、帝は僕を見てきた。

 真実味があると、ようやく理解したらしい。



「話を聞いてくれる体制になってくれて、何よりだ。まず同盟は、今のところは騎士王国と越前国だけ。理由は、他の領主はそれぞれやる事があるから」


「あぁ、領地を奪われたんだったな」


「ぐぬっ!」


 帝の奴、知ってやがったな。

 敢えてハッキリとは言わなかったのに。

 記憶を取り戻してから、国内外で動いていたようだな。



「知ってるなら別に良い。今自分の領地が安泰なのは、越前国のみ。越中国以外は全て、敵の手に落ちている」


「越中国は違うのか?」


「何だ、そこまで知らなかったか。あそこは陥落した。文字通り都市が落ちたよ」


 大木の上に造られた都市、越中国。

 その木が燃やされ折られ、本当に都市が落ちた。

 それを聞いた帝とオケツは、秀吉がそこまでやるのかと、改めて思い知ったらしい。



「み、みっちゃん。騎士王国は秀吉から、滅ぼすと言われちゃったんだよ。その話を聞く限り、冗談じゃなく本気でやりかねないよ」


「そうだな。俺も考えが甘かったかもしれない」


「だからこそ、この同盟は不可欠だと思うよ」


 その言葉を聞いて、二人はすぐに気持ちが固まったようだ。



「この申し出、ありがたく受けたいと思う」


「良かった。じゃあ十日後、ネオ熊本城へ攻め込んでほしい」


「早いな!」


「他の二つの城もあるからね。あまり時間を掛けたくない」


「しかし、口約束だけで良いのかな?」


 オケツは同盟に関する書状が必要じゃないかと、色々と考えているみたいだが、ぶっちゃけ要らないかなと思ってる。

 たとえ口約束だけだったとしても、約束を破れば滅びるのは自分達だ。

 もしオケツと帝が裏切って来なかったとしても、越前国が滅んだ後に騎士王国が滅びるだけ。

 そしてそれは、こっちも同じ事が言える。



「だから、そんな物無くても信用してる」


「分かった。じゃあ今日は、ゆっくりしていくと良い」


「そうしたいのは山々なんだけどね。僕、本当は騎士王国じゃなくて、フォルトハイム連合に行く予定だったから。また越前国に戻ったら、今度こそ連合に行かないと」


「お前も忙しいんだな・・・」


 分かってくれて嬉しいよ。

 魔王なのにパシリなんで。



「それなら最後に」


 帝は僕の前に来ると、右手を差し出してくる。

 それに気付いたオケツも、左手を出してきた。



「俺達は運命共同体。対秀吉で頑張ろう!」


「越前国のピンチには、騎士も派遣します」


「分かった。お市には報告しておくよ。二人とも、十日後のネオ熊本城は忘れずに頼んだよ。それじゃ、僕は帰るから」


 二人と交わした握手を離すと、僕は越前国へ転移した。



「き、消えた!」


「魔王ってあんな事も出来ちゃうのか。俺も帝じゃなくて、魔王が良かったなぁ」


 二人は少しだけ愚痴を溢すと、十日後の為に動き始める。










「ただいま〜」


「おかえりなさい!」


 僕が越前国へ元居た場所に転移すると、太田が待ち構えていた。

 もしかしてコイツ、ずっとここで待ってたのか?



「お市は?」


「今はお休み中です」


 よく見ると、もう日も暮れてきている。

 報告は明日でも良いか。



「もう戻ったんですか!?」


「まあね。向こうも状況が状況だし、決まるのは早かったよ」


「そ、そうですか。マジすげぇな・・・」


「天才ネゴシエーターですから」


 僕が戻った事を知ると、慌ててトキドが走ってきた。

 冗談を言いつつ十日後の話を伝えると、トキドはやる気を漲らせた。



「今度こそあの男に借りを返さなくては」


「いやいや!奴を倒すのはワタクシ達ですぞ」


「俺が倒す!」


「ワタクシです!」


 二人が張り合っていると、僕が帰ってきた事を知った蘭丸がやって来た。



「何してんの?」


「どっちが加藤清正を倒すかで揉めてる」


「ふーん」


 僕が呆れていると、蘭丸はあんまり興味無さそうに生返事をしてくる。

 そんな態度が気に入らなかったのか、二人は蘭丸に迫ってきた。



「蘭丸殿、俺だと思うよな?」


「蘭丸殿はワタクシの味方ですよね?」


「え?どう考えても太田殿でしょ」


「やった!」


 太田が大きなガッツポーズを取ると、トキドは不満げに理由を尋ねた。



「どうしてだ!俺は太田殿にも負けていないぞ」


「あー、そういう意味ではなくてですね」


「では何だ?」


「だってトキド様、武器折られちゃったじゃないですか。越前国に、代わりとなる太刀とかあるんですか?お市様に確認しましたか?」


 トキドは口を開けたまま、固まっている。

 しばらくフリーズして動き始めると、思い出したように叫んだ。








「そうだった!俺、武器が無い!」

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