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パシリ

 僕には前々から、ちょっとした疑問があった。

 加藤清正と武田勝頼。

 史実では戦った事も無ければ、関わりはほとんど無い。

 しかし二人とも、今でも名前が残る歴戦の武将である。

 そこで僕が思うのは、いつの時代にも起きる最強は誰かという議論だ。


 清正は元々、秀吉の親戚として小さな頃から秀吉に仕えてきた。

 だが武田勝頼と織田信長が長篠で戦った頃、加藤清正はまだガキンチョだったはずである。

 同じ戦国武将でも、彼等が顔を合わせた事は無いのだ。

 武田勝頼は微妙に情けない敗北をしたからか、評価が低い武将でもある。

 だが実際には、信長からとても警戒されていた、信玄にも劣らない優れた武将だった。

 では加藤清正はどうなのか?

 清正が有名になったのは、おそらく賤ヶ岳の七本槍だと思われる。

 じゃあ加藤清正は強かったのかと聞かれると、ちょっと分からない。

 彼が出世したのは、実は戦功よりも財務や政治の方だったとも言われている。

 熊本では優れた治政を敷いていたからか、熊本では今でも有名だ。

 後方支援や政治が得意だと思われる加藤清正だけど、でも朝鮮出兵の際には大きな虎を倒したとも言われている。

 人より虎の方が強く思えるんだけど、じゃあ加藤清正は強かったのかと言われたら、疑問だよね。


 では、武田勝頼と加藤清正のどちらが強いのか?

 僕は圧倒的に武田勝頼だと思っている。

 でも武力ではなく総合的な面で見れば、加藤清正かなとも思った。

 どれだけ優れた武将でも、治めている国が発展しなければ意味が無い。

 甲斐という国は不便な土地だったから、他国に攻め入っていたと言われているけど、でも加藤清正がもし治めていたら、もうちょっと発展していた気もする。


 最強は誰か?

 僕としては、武力だけでは判断したら駄目だと思うんだよね。










 お市はトキドに更に詰め寄った。

 鼻の穴を膨らませ、ちょっと間抜けな顔をしているトキドに対して、お市は何も答えないトキドに苛立ちを覚える。



「ハッキリせんか!」


「ハッ!?ダメだ!アンタ、ちょっと近過ぎる!」


 お市の肩を押し返すと、トキドは頭を振って冷静さを取り戻した。



「ダメだと申すのか」


「ち、違う。距離が近いと色々と危ないという事だ」


「何だ、溜まってるのか?」


「うるさい!そういう下ネタは、やめてほしいのだが」


 真顔で水嶋から言われると、揶揄われているのか本気なのか分からなかったトキドは、思わず叫んでしまった。

 老人に対して怒声を浴びせて流石に申し訳無さそうな顔をすると、蘭丸が気にしなくて良いとフォローをしていた。



「話が逸れてしまった。本題に戻るが、申し訳無いが俺の一存では返答出来ない。これは騎士王に判断を委ねるしかない」


「しかし越前国と騎士王国は、連絡手段が断たれている。どうやって聞くつもりだ?」


「それは・・・。街道以外には道は無いのか?」


 トキドは越前国を訪れた事が無かった。

 その為、他の道など知るはずも無かった。



「獣道ならあるそうだ。なあ、サマ」


「はい」


「お前はオケツ殿の・・・。どうしてここに居る?」


「それはちょっと訳アリで。騎士王の命令で道案内をしたのですが、私も帰れなくなってしまいました」


「そうか」


 サマを見たトキドは、少し安心感を見せる。

 知り合いが居るというのは、それだけで気持ちが安まるのだろう。



「時間に猶予は無い。貴様が決めるのじゃ」


「し、しかし」


「トキド様。だったらこの話、受けましょう」


「シャマトフセ殿?」


「このまま手をこまねいていても、どちらも滅びるだけです。であれば、報告は後でも良いでしょう」


 煮え切らない態度のトキドにサマが口を挟むと、彼は意を決したようにサマの言葉に頷く。



「そうだな。この判断は間違っていない。だが手を貸すと言っても、どうするつもりなのかな?」


 トキドがお市に尋ねると、彼女はこう言った。



「城を落とす」


 お市達が一言言うと、トキドは絶句した。

 ここには魔王は居ない。

 魔王の片腕の蘭丸と、自称片腕の太田。

 オーガのゴリアテと老人の水嶋といった、頼って良いのか判断に困るメンツしか居なかった。



「ど、どうやって?」


「それはこの後に話し合うのじゃ」


「口だけかい!」


 思わずツッコミを入れたトキドだが、胸の傷が痛むのか、顔を歪める。



「お市様、彼はまだ怪我が治っていません。交渉が成立したという事で、彼を休ませましょう」


「そうじゃな。後はゆっくりと療養するが良い」


 魔族の一行が部屋から去ると、トキドはサマだけを残した。



「信じて良いのか?」


「さっきはハッキリ言いませんでしたが、あの城を魔族と騎士で挟撃するようですよ」


「連絡方法が無いのに、どうやって!?イタタタ」


「それに関しては、何やら秘策があるようでして。自信があるようです」


「自信ねぇ。まあ越前国は、あのアド・ボブハガーとオケツ・キチミテという騎士王二人が懇意にしていた場所だ。下手な嘘など言わないとは思いたいが」


 トキドは不安を見せつつ、静かに眠りについた。









「魔王を呼べ」


「え?」


「良いから呼べ」


 お市が蘭丸に対して命令すると、反論する余地も無く押し切られる。

 お市を怒らせると怖いのは、蘭丸も知っている。

 彼はすぐに電話を掛けた。



「もしもし、俺だけど」


「オレオレ詐欺か!って言っても、この世界にあるはず無いよね。蘭丸、何か問題でも発生した?」


「貸せ」


 魔王の間の抜けた声がお市の耳に入ると、彼女は少し怒り気味に蘭丸から携帯を奪い取った。



「魔王!今すぐに越前国へ来い!そうだな、若狭国の薬も持ってくるのじゃ」


「へ?アレ?この電話は蘭丸のじゃなかった?」


「はよせんか!」


「は、はいぃぃ!!」


 電話を切ったお市は、腕を組みながら待つ。

 数分後、魔王が現れたという報告が入ると、彼女は蘭丸を連れてすぐに向かった。







「な、何でしょう?」


「まず最初に、奴の所へ向かうぞ」


「奴?」


 何の説明も無しにお市が歩き始めると、蘭丸は歩きながら魔王に越前国の状況を説明する。



「そんな事になってたのか。でもそれって、一つだけ良い報告でもあるよね」


「何処にそんな要素があったよ?」


「あったよ。騎士王国は、間違いなく僕達の味方をしてくれるってね」


「なるほど」


 お互いに秀吉から、敵と認識された同士。

 だったら手を組まない理由は無い。



「着いたぞ」


 部屋に入ると、トキドがぐっすりと寝ていた。

 胸には包帯が巻かれ、かなりの重傷を負った様子だった。

 まさか、トキドにこんな大怪我を負わせる相手が居るなんて。



「お前は回復魔法も使えたはずじゃな?薬と魔法ですぐに治せ」


「なるほど。それで僕が呼ばれたのか」


「良いからはよやれ!」


「え?え?魔王様?何だ、夢か」


 お市が大きな声を出すから、トキドが慌てて飛び起きてしまった。

 怪我人なのに休ませてもらえないなんて、気の毒な奴だ。



「夢じゃない。トキドの為に、薬を持ってきたんだ。ついでに回復魔法も」


「あ、ありがとうございます。でもいつの間に来たんです?」


「それは後で話すよ」



 僕は治療に専念すると、しばらくしてトキドは布団から出て、立ち上がった。

 胸を触り怪我を確認すると、痛みも無く普通に動ける事に驚いていた。



「す、凄い。これが若狭国の薬か」


「回復魔法もね」


 本音を言えば、カーリスさんに教わった完全回復の創造魔法を使えば、話は早かったと思う。

 しかし魔力の負担が大きい魔法を使うなら、余程の大怪我をしていない限りこのやり方の方が良いと判断した。



「治ったな?では魔王、次の仕事じゃ」


「次?人使い荒くない?」


「妾に文句があるのか?」


 うん、逆らうのはやめよう。

 あまりに冷たい目で見られた為、体温がスッと何度か下がった気がした。



「次の仕事は、騎士王に会いに行くのじゃ」


「オケツに?」


「妾は騎士王国と同盟を組む事にした。そしてネオ熊本城と呼ばれる城を落とすと、この男と約束したのじゃ。その為には、騎士と魔族の挟撃が必要となる。しかし騎士王と、この約束は交わしていない」


「なるほど。僕にその同盟を結んでこいって事ね」


「話が早くて助かる」


 ワイバーン隊をも蹴散らした城か。

 確かに戦力がかなり減った越前国だけでは、厳しいだろう。

 向こうもトキドを倒した相手だと分かれば、魔族の支援があった方が良いと思うはず。

 お互いにメリットしかない話だな。



「はよ行ってこい」


「うぅ、魔王使いが荒い・・・。トキド、オケツって普段何処に居るの?」


「騎士王は今はキョートかと。東だけじゃなく、北と西に出来た城も警戒しないといけないので」


 キョートか。

 行った事があるから大丈夫だな。



「分かった。じゃあ行ってきます」


 僕はキョートの場所を思い出して、転移した。



「消えた!?」


「これが妾の秘策じゃ。奴なら今頃、キョートに居るじゃろう」


「す、凄い・・・。これならさっき話した挟撃も、真実味が出てきた」


「出てきたのではない。するのじゃ。そしてトキド、お前を回復させたからには、働いてもらうぞ」


 トキドはお市に跪いた。



「リベンジのチャンスをいただき、感謝します!あの男は必ずや、俺が仕留めます」


「期待しておるぞ」


 お市は満足そうな顔をして振り返ると、靡く髪からの匂いにトキドは、また鼻の穴を膨らませていた。









 キョートに着いた。

 だけど、以前来た時とかなり変わっている。

 随分と現代風になったものだ。



「すいません。オケツに会いたいんですけど」


「魔族?貴様、またあの城の使者か!?」


 あの城?

 もしかして秀吉の配下の事か?



「違うよ。僕は悪い魔族じゃないよ。だって魔王だし」


「ま、魔王様?そ、そういえば子供の姿・・・。失礼しました!」


 魔王が子供の姿というのは、騎士王国ではある程度知れ渡っている。

 オケツに協力してたり、キョートで帝とも会ってるのが主な理由だ。

 彼は帝を守る騎士なんだろう。

 顔は覚えていないけど、僕を知ってるという事は多分そうだと思う。



「中へお入り下さい。案内がすぐにやって来ます」


 門番の人に言われて御所へ入ると、すぐに別の女性がやって来た。

 するとその人は、すぐにある注意をしてきた。



「中は少しうるさいので、もし音が大きいと感じたら耳栓をして下さい」


「え?耳栓?」


 耳栓を手渡されると、彼女はすぐに案内を始める。

 扉を開けると、本当にうるさかった。

 その理由がすぐに分かった僕は、彼女の肩を叩いて音のする方へ案内を頼んだ。



「こちらです」


 部屋の目の前に着くと、振動まで響いてくる。

 イラッとした僕は、扉を蹴り飛ばした。







「バカ帝!お前の国がピンチって時に、ドムドムうるさいんだよ!少しは控えろ!って、オケツも居るし。お前等、ふざけてんのか?」

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