落ちる騎士
なんか悔しい。
僕が作ったわけじゃないけど、秀吉達は頻りに最先端やら高性能と謳っていた。
秀吉達は僕達とは違う、変わった装備を持っていた。
その一番分かりやすい例が、清正が持つガンランスだろう。
見た目は日本の槍のような形をしている。
穂先を見ただけなら、普通の槍と変わらない。
だが柄には、幾つかのボタンが付いていた。
そのボタンの一つが、トリガーとなっているようだ。
トリガーを押すと、槍の先端は二つに割れて発砲する。
完全に初見殺しの武器とも言える。
トキドも刃を交えたわけじゃないので、穂先の強度がどうなっているのか分からない。
しかしアレがミスリルで作られ、また最先端と自ら謳う技術を使っているなら、普通に刃をぶつけ合っても壊れる事は無いんだろう。
ガンランスは確かに新しい技術だ。
それは悔しいけど認めざるを得ない。
だけどフライトライクは違うでしょ。
それを我が物顔で、自分達の物だみたいな使い方をしている。
実に腹立たしい。
そもそもトライクは、コバではなく僕が最初にこの世界に作り出した物だ。
二輪の運転なんか、太田や又左達には出来ないと考えた僕が、だったらコケる事の無い乗り物をと考えたのがキッカケである。
それをコバが改良して、フライトライクへと昇華した。
僕達が苦労して作った物を、奴等は自分達の物だと言わんばかりに使っている。
これが日本なら、特許取って絶対に文句言ってるからね。
空飛ぶトライクは、我々が作りました!
大々的に垂れ幕とかで、発表するレベルだから。
似たような物を作られるのなら分かるけど、完全にパクっておいて自分達が元祖ですみたいな顔をされると、イラっとする。
僕達が反撃の際には、本家フライトライクが絶対に勝ってみせる!
元祖とか本家とか、なんかラーメン屋みたいになってきたけど、気のせいだろう。
国江の背中に乗っていたトキドも感電したが、鎧のおかげなのか身動きが出来ないほどではなかった。
彼は太刀を左下のトライクに向けると、炎で攻撃する。
「国江、脱出しろ!」
電磁ネットの一角が崩れた事で自由を取り戻した国江は、再び空へ舞った。
だが影響も大きく、辛うじて空を飛べる程度で、フライトライクから逃れるほどのスピードは出ていない。
力強さを潜めた大きなワイバーンを見て、清正は再びフライトライクに包囲をさせた。
「クソッ!」
「悪足掻きはやめる事だな。足掻けばそれだけお前の相棒も、苦しむ事になる」
国江を見たトキドは、覚悟を決めたような顔をする。
「国江、逃げるのはやめだ。やはり俺達は、戦ってこそのトキドだろう。やるぞ!」
「簡単に乗ってくるとは、馬鹿な奴。だが手間が省けた」
清正は包囲を狭めていくと、トキドはスピードを上げてトライクの上を取った。
太刀を下に振り下ろし、全力で攻撃を開始する。
「燃えろ!」
今までに無い大きな火柱が立つと、トライクは炎に飲み込まれ爆発していく。
流石の清正も、この高威力ではドローンも無駄だと判断したのか、部下の救出を諦めて自らトキドへ向かっていった。
「まだ来るか!」
「逃しはしないと言っている」
清正は槍ではなく、剣を持った。
予想外の武器にトキドは戸惑ったが、こちらの方がやりやすい。
剣の腕なら勝てると踏んだトキドは、銃にならないか警戒しつつ飛び込んだ。
「その程度の腕か?だったらもらった!」
国江への負担を考え、勝負を急ぐトキド。
しかしそれがアダとなった。
「な、何だとぉ!?」
「確かに俺は、お前に剣の腕では勝てないだろう。だが、剣そのものの強さだけなら俺の方が上だ」
トキドの一撃を受け止めた清正は、そのままトキドの太刀を斬るように押し返した。
するとトキドの太刀は綺麗に折れてしまった。
「よく調べもせず、勝負を急いだな。さらばだトキド」
腰に差した脇差を抜こうとするトキドに、清正は袈裟斬りにする。
トキドは声も出さずに、国江から落ちていった。
勝った。
騎士王国最強の騎士を倒した清正は、勝利の余韻に浸った。
この高さから落ちれば、間違いなく死ぬ。
あわよくば運良く生き残っても、それは苦痛が延びるだけだと清正は思った。
その為、地上を確認しなかった彼は、ある事を見落としていた。
「ゴリアテ殿!」
「任せろ」
落下してきたトキドを受け止めるゴリアテ。
彼等は誰が落ちてきたのか分からなかったが、ワイバーン隊の誰かだろうと救出した。
「なっ!?トキド殿!」
「ジジイ!あのワイバーンを助けろ」
「人使いの荒い奴だ。だが、城から出てきている今が好機でもある。死ね!」
連続して銃声が鳴り響くと、その時初めて清正は下を向いた。
「アイツ等!また来たのか!」
オーガの男が、トキドを抱き抱えている。
その姿を見た清正は、予定が狂い怒りを覚えた。
「チィ!」
一発目の銃弾を余裕で弾くと、その真後ろに隠れるように放たれていたもう一発の銃弾が、清正の肩に直撃した。
「よし!」
「水嶋殿、撤退します」
「何だと!せっかく奴の肩を負傷させたというのに!」
「今はそれよりも、トキド殿の治療が先決ですよ」
ゴリアテに撤退を言われた水嶋は、どうして優勢なのに下がるのかと憤った。
だが太田が言った言葉を聞きトキドを見ると、明らかに重傷だと分かる傷が、左肩から右脇腹にかけてあったのを確認する。
「チッ!」
水嶋は舌打ちしつつ、電磁ネットから逃げ回る国江の援護を始める。
蘭丸もハンドルから手を離して弓を構えると、フライトライクに向かって矢を放った。
「ぬおぉぉぉう!!」
ゴリアテも丸い大盾を空へ投げつけると、フライトライクごと敵を真っ二つにしていく。
フライトライクが混乱すると、その隙を突いた国江が急降下してきた。
「よし!越前国に撤退だ」
弱々しく飛ぶ国江に合わせ、後方を気にしながら走る一行。
水嶋の一発が効いたのか、追っ手は来なかった。
「ハッ!皆は!?」
トキドは目を覚ますと、周りを見回した。
全く知らない部屋で起きたトキドは、起き上がろうとするも傷が痛んで力が入らなかった。
「起きたか」
「お前は、えっと蘭丸だったな。魔王様の片腕の」
「魔王様の片腕は、ワタクシですよ」
「え?・・・え?」
自信満々に片腕だと言う太田に、トキドは困惑する。
蘭丸は少し苦笑いをしながら、その話を流した。
「とにかく、助かって良かった。貴方は加藤清正という男に深手を負わされ、死にかけたところを俺達が助けた」
「それに関しては、深く感謝する。しかし他の皆は?」
「トキド隊のほとんどは、西へ撤退していったのを確認している。貴方の相棒も、今は療養中だ」
「そうか。国江は無事だったか」
安堵のため息を吐くトキド。
ちゃんとしたお礼を言おうと再度起き上がろうとするも、やはりそれは無理だった。
「こんな姿で済まないが、本当に感謝している」
「こっちも、もっとしっかりとした治療が出来れば良かったんだが。あいにくと回復魔法の使い手は、ここには居なくてね。若狭国の薬の在庫も、既に切れてしまっているんだ」
「雪が降っている。ここは越前国か?」
外を覗くと、少し雪が降っていた。
この寒さを考えると、トキドは連れてこられた場所が越前国だと理解した。
「ところで、どうしてあの城に?もしかして、俺達同様に調べに来たのか?」
「その通りだ。もし敵対するのなら、俺達なら倒せると踏んでいたが。それは甘い考えだった」
胸を押さえて、悔しさを滲ませるトキド。
蘭丸は敢えて何も言わずに、彼が落ち着くのを待った。
「そういえば、俺達同様と言っていたが、皆もあの城を調べたのか?」
「まあね。あの男はネオ熊本城と呼んでいたが、アレを落とすのはかなり厳しいと判断した」
「ワタクシ達もコバ殿が様々な武器や道具を作ってくれますが、あの城に備わっている物は、どれもワタクシ達を上回っていました」
「それは俺も知っている。この身で味わったからな。しかし、かなりの業物を持っているとは思ったが、まさか他の武器まで高性能だったとは」
自分の太刀がスッパリと折られ、越前国の連中からは砲台やドローン等といった物の話を聞き、負けたのは必然だったと改めて思い知るトキド。
そして彼はこの先の事を考えると、先行きが真っ暗だと再び大きなため息を吐いた。
「マズイな。ネオ熊本城であの堅固な城だ。他の二つも同様だとしたら、ケルメンはとんでもない事になる」
蘭丸と太田は、顔を見合わせた。
「他の二つ?」
「なんだ、知らなかったのか。東にあるネオ熊本城以外にも、我が国の西と北には同様の城が建てられている」
「な、何ですとおぉぉぉ!?」
「相手は怪我人です。声の大きさを考えましょう」
蘭丸から注意された太田は、小さく縮こまった。
そして蘭丸は、詳しい話をトキドから聞いた。
「というわけだ。最初は口だけだと思ったのだが、このザマだ。アイツ等、本気でケルメンを滅ぼしに来ている」
「まさかあの城が、俺達じゃなくて騎士王国が狙いだったなんて」
「とんだ勘違いでしたね」
蘭丸と太田は、自分達の考えが間違っていたと知った。
今後の対策についてお市に相談を持ち掛ける為、太田は部屋を出ていく。
するとトキドは、蘭丸達の考えがあながち間違っていないんじゃないかとも言った。
「俺の予想だが、ケルメンが潰されたら次に孤立するのは、この越前国になる。他の城を守る人物の強さは分からないが、加藤清正というなかなかの人物を配置しているのは、その後も考えての事ではないか?」
「なるほど。越前国は既に疲弊しきっている。騎士王国さえ落とせば、後からどうとでもなると思われているのかもしれない」
蘭丸の話を聞いたトキドは、無言になった。
そして蘭丸も無言になった。
二人はお互いに考え込むと、突然口を開いた。
「あの!」
「あの!」
二人は声が被ると、お互いに譲り合った。
何度かそれを続けていると、突然部屋の扉が荒々しく開く。
「うおっ!ビックリしたぁ」
「お市様?」
深刻な顔で突入してくるお市。
彼女は寝ているトキドの肩を掴むと、無理矢理起き上がらせた。
「イタタタ!な、何ですか!?」
「貴様がトキドだな?」
「はい。あ、良い匂い」
トキドはお市の髪の匂いが流れてくると、鼻の穴を開いた。
間抜けな面を見せるトキドに、お市はビンタを入れる。
「シャキッとせんか!」
「はい!な、何でしょう!?」
「貴様、騎士王国が潰されそうだと言ったな。妾達が全面的に協力する。だからケルメンを救った後、妾達に協力しろ。貴様も気付いているだろうが、既に騎士王国と越前国は、運命共同体じゃ。どちらかが落ちれば、必然的に滅びる」




