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見当違い

 なんと都合の良い男。

 水嶋は獣道を歩いていくと言った途端に、老人のフリをした。


 いやまあ、見た目は老人なんだけども。

 ただ中身は伴っていないんだよね。

 転移してきた恩恵というか、何故か見た目は歳を取っているのに、衰えを知らない。

 考えてみてほしい。

 彼が扱うのは銃だ。

 ライフルで狙撃をする事だってある。

 普通であれば歳を取れば、視力だって落ちていく。

 それこそ老眼というヤツにもなるし、ピントが合うのに時間が掛かるのが普通だ。

 スナイパーであれば、このような衰えは致命的だと僕は思う。

 なのにこの爺さんは、それを感じさせない。

 筋力も落ちていないように見えるし、走っても蘭丸と並走出来る。

 そう、この爺さんはバケモノなのだ。


 それがどうだ?

 やはり爺さんにも、年相応と思える言動が初めて聞かれたじゃないか。

 獣道を歩くのは嫌だ。

 蘭丸とハクトと出会うまで、何十年も森の中で生活していた男とは思えない発言である。

 まあ僕も今の生活に慣れたら、森の中で暮らすなんて嫌だけど。

 それでもあの爺さんなら、そういう事は言わないと思っていた。


 見た目は変わらなくても、衰えていってるのかな?

 でもね、微妙な事を言うとあの爺さん、僕よりも体力あるんだよね。

 やっぱあのジジイ、にんにく注射でも打ってんじゃないの?

 年齢不相応で、怪し過ぎるでしょ。

 って言うと、僕もまんまブーメランで返ってくる事に気付いた、今日この頃だった。










「加藤清正?」


 聞き覚えの無い名前に、トキドは怪訝な顔をする。

 だがそんな事より、トキドは気になっていた点があった。



「貴様、こんな城を建てて、何が狙いだ?」


「・・・考えれば分かると思うが?」


「さっきは熊本城と言ったな?それがこの城の名か?」


「そうだ」


「では、残りの二つは何だ!」


 激昂しながら問うトキド。



 そもそもトキドが加藤清正に攻め込んだのは、実は偶然だった。

 彼の目的は元々、別にあった。

 それが騎士王国の東側に造られた、この城の調査だった。

 城へ近付いた途端にいきなり砲撃されたトキドは、偵察任務から迎撃へと移行。

 そして中から出てきた清正と、敵対する事となったのだった。



「もう一度聞く。この城以外にも、ケルメンの北と西に城が知らぬ間に建っていた。アレもお前達の仕業か?」


「お前の認識は間違っている」


「何?」


「アレは俺以外の他の者が建てたわけじゃない。他の二つも、俺が建てたのだ」


「な、ナニィ!?」


 トキドは耳を疑った。

 普通、こんな大きな建築物を建てるのなら、短くても数ヶ月は要する。

 その証拠に日本でも、小田原一夜城として知られている石垣山城も、実際は一晩ではなく二、三ヶ月は時間を必要としていた。

 しかしそれはヒト族であった場合の話であり、魔族はどうなのか知らなかった。


 魔法を使えば、もっと早く築城出来る。

 だから自分達は気付かずに、こんなに早く完成した。

 そう思っていたトキドだったが、それは間違いだった。

 現に越前国から偵察に来ていた天狗も、この熊本城を見て驚いていたくらいだ。

 ヒト族も魔族も、その辺りは常識的に同じ。

 だがトキドは、そんな事実を知らなかったので、魔族だから早かったのだと思い込んでいた。



「それで、北と西にも城を造った理由は?」


「お前、そんな事も分からんのか?」


 トキドは既に薄々気付いている。

 騎士王国の南は未開の地。

 東西と北を押さえた理由。



「ケルメンを孤立させて、何の意味がある?」


 トキドが核心を突くと、清正はニヤリと笑った。



「なんだ、分かっているじゃないか。理解しているなら、一応説明してやろう。キミ達はある意味、生け贄だ」


「生け贄だと!?」


「コレから時代は、豊臣秀吉の天下となる。時代遅れの魔王を倒し、新たな王の誕生だ。帝国にも王国にも、我々に対して楯突くとどうなるか、知ってもらう必要があるのでな」


「フォルトハイム連合が残っているが?」


 トキドは海外の情勢に詳しくない。

 その為連合の支配者が誰なのか、知らなかった。

 だからこのような質問をしたのだが、清正にはそれが嫌味に聞こえたらしい。



「知っておいてよく言う。あの国こそ、アンタッチャブルではないか」


「何故?触れてはならない理由が、俺には分からんな」


「お前は自殺願望でもあるのか。だったらここで死んでも構わないって事だな」


「は?死ぬわけないだろ」


 意味も分からず煽られたように感じたトキドは、眉間に皺を寄せて不快感を示す。

 お互いに相手の印象が悪くなると、トキドはこの嫌な空気を変える為に質問を変えた。



「残りの二つの城は、誰が治めている?」


「別に教えても良いが。名前を言ったところで、誰かも分からないのではないか?」


「だったら教えてくれても良いだろうよ」


「・・・それもそうだな」


 清正は何も考えずに、トキドの質問に答えると約束した。

 それを聞いたトキドは、無表情でそれを聞く。



「まず西の城だが、名前を名古屋城と言う。今は福島という男が、預かっている。そして北は江戸城。こちらは羽柴秀長殿が担当だ」


「えっと、名古屋に江戸?それで福島と羽柴秀長。なるほどなるほど」


 トキドが名前を書き出すと、清正は妙な違和感を覚えた。

 そして清正は、トキドが反転して戻っていこうとしたのを見て、それが何なのか気付いた。



「貴様!まさか転生者か!?」


「転生者?何だそれは?」


「違った?」


 トキドが嘘を吐いているようには見えない。

 だが、別の者がそうかもしれない。

 清正は念の為、トキドを逃さないように包囲しろと命じる。



「何だ?俺とやり合おうってのか?」


「貴様程度、すぐに仕留めてみせる」


「やってみせろよ。宿れ紅虎!風林火山!」


「む!戻れ!奴の相手は俺がする」


 清正はトキドの危険性を察知すると、すぐに配下のフライトライクを後退させた。

 そして城から出た清正は、そのまま地上へと降り立つと、下からトキドに向かって手をこまねいた。

 それを見たトキドは国江を降下させると、地面に近くなったところで飛び降りた。



「面白い。ワイバーンに乗ってなければ勝てると思ったか!」


「違う。城への被害を最小限に抑える為だ」


「ナメやがって。ケルメン最強の騎士をコケにして、タダで済むと思うなよ!」


 トキドが地面を蹴ると、一直線に清正へと向かっていく。

 清正が槍を構えると、トキドは太刀で応戦しようと少し足を鈍らせる。



「いざ尋常に!」


 トキドが叫び、清正へ迫った。

 それに対して清正は、片目を閉じると穂先をトキドの胸へと狙いを定める。

 狙いを定めるだけで動かない清正に、トキドは緩急を使い一気に太刀の間合いへ詰めようとする。



「くたばれ!」


「馬鹿め」


 太刀を振り上げたトキドに、清正はポツリと呟く。

 そして清正は右手の親指を軽く押すと、辺りに発砲音が響いた。

 それと同時に、トキドは勢いよく後ろへ倒れ込んだ。



「うぐっ!」


「チィ!心臓を狙ったのだが、外したか」


 トキドは大量の汗を掻きながらも、怪しいと思い瞬時に動いたのが幸いしたと自画自賛した。

 太刀を振り上げた後、それでも動かない清正を不審に思ったトキドは、左手を内側に捻り方を巻き込むように身体を小さくしたのだ。

 幸いな事に、肩に当たっただけで済んだトキドだが、やはり清正の高性能な武器の勢いに負けて、左肩を脱臼してしまった。



「な、何だ今の攻撃は!?」


「見えなかったか?銃だよ」


「槍じゃないのか!?」


「槍でもある。ゲームでもあるだろう?ガンランスって」


「そんな物知るか!うぐっ!」


 清正へのツッコミで大声を出したせいで、痛みが倍増する。

 あぶら汗が出てきたトキドは、若狭国の薬を飲んで痛みを麻痺させると、このままでは勝てないと悟った。



「山の如しの防御を上回る威力。危ういな」


 トキドは少し勘違いをしていた。

 ここまで威力が高かったのは、自ら清正に向かったのも原因の一つだった。

 しかし彼はそれに気付かず、清正の槍があまりに危険だと認識してしまったのだ。



「さて、話は終わりだ。トキド・カズナリ。ケルメン騎士王国最強の騎士を一人で倒したとあれば、この国の戦意は大きく落ちるな」


「それは倒してから言うんだな」


 トキドが脱臼した左肩を自ら入れると、痛みで顔が歪んだ。

 そして太刀を再び構え、今度は炎を出して遠距離戦へと切り替えた。



「無駄だ」


「それはどうかな?」


 外れていたと思った炎の火力が、突然上がった。

 炎に囲まれて熱風が巻き起こると、清正は苦しそうな表情に変わっていく。



「炎は燃えるだけじゃない。こういう使い方も出来るんだ」


 力押しだけでなく、炎による熱と酸素を奪う二重の搦手を覚えたトキド。

 苦しそうな清正を見て勝利を確信すると、清正の表情が突然一変し、嫌な笑みを浮かべた。



「何がおかしい?」


 トキドが尋ねると、空から何かが接近してくるのが分かった。

 小さな飛行機のような、何だか分からないそれを見て、トキドは空を警戒する。

 するとそれは火柱の上でホバリングを始め、空から大量の水を振り撒いた。



「なっ!?」


「お前が炎の使い手だというのは、既に把握済み。炎の耐性のある服も着ているし、こうやって消火出来る物も用意している」


「チィ!だったら!」


 空に浮かんだドローンを炎で撃ち落とすトキド。

 しかしそれが何機も何十機も出てきたのを見て、無駄だと理解した。



「クッ!」


 トキドは空を見ると、国江が降下してくる。

 高くジャンプして国江の足を掴むと、彼は反転して背中に飛び乗った。



「欲しい情報は手に入った。トキド隊、撤退するぞ!」


 トキドが部隊に命令すると、彼等は西側へ移動を開始する。

 だがここは、清正の作ったネオ熊本城の目の前である。

 それを聞いた清正は、すぐに手を打った。



「フライトライク、電磁ネット!」


「な、何だ!?」


 フライトライクが二機ずつで上下に分かれると、突然その四機の間に電気で出来た網が張られる。

 その中に飛び込んだワイバーンは、感電して落下していった。



「おのれ!」


 トキドは落下していく仲間を助けろと命じ、本人は電磁ネットを張るフライトライクへと突撃していった。

 すると清正が手を挙げ、フライトライクが狙いをトキド一人へと絞った。



「囲め!」


 徐々に包囲網を狭めていくトライク隊。

 抵抗して炎や太刀で応戦するトキドだったが、トライク隊に気を取られたトキドに向かって、清正は再び発砲した。



「国江!?」


 普通の銃では傷も付かないワイバーンでも、清正のガンランスは易々と貫いた。

 バランスを崩した国江は、電磁ネットに触れて落下していく。








「フハハハ!騎士王国最強の騎士も、最先端の武器の前では形無しだな。お前の首を、騎士王に届けてやろう。さあ、この国はどういう反応をするかな?」


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