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城前

 勉強不足でした!

 てっきり墨俣城の事だとばかり考えていたけど。


 一夜城。

 それはかつて戦国時代にあったとされる城。

 ただの別名なので、城の名前が一夜城というわけではない。

 そう、一夜城は一つでは無かった。

 まあ一夜城などと呼んでいるけど、全て一晩で完成したわけじゃないんだけどね。

 まず僕がずっと思い込んでいた墨俣城だが、一晩で造り上げたというのは創作ではないかと言う疑いがあるらしい。

 というのも、この城は当時木下藤吉だった秀吉が造ったとされている。

 そして秀吉が初めて名前を上げた、大きな功として有名だ。

 要はこの墨俣一夜城から、秀吉の成り上がり人生は始まったと言っても過言じゃない。

 なのに記録では、秀吉の名前は大きく上がらない。

 だから墨俣城を造ったのは秀吉かもしれないが、流石に一晩で造り上げたというのは真実ではないんじゃないかというのが、今の通説らしい。


 そして一夜城は、他にも秀吉が大きく関係していた。

 まあこっちは錯覚を使った一夜城なのだが。

 秀吉は信長が亡くなった後、北条氏を潰す為に小田原に城を造ったと言われている。

 その時に森の中で見つからないように城を造り上げ、ほぼ完成が見えてきたと同時に、周囲の木を伐採して城を小田原城から見えるようにした。

 その為小田原城に居た北条勢からは、一晩で城が出来たと驚いたそうだ。

 実際には一ヶ月以上は掛かったみたいだけど、そんなの北条氏からしたら知らないからね。


 こうやって考えると、秀吉は奇抜なアイディアで何かをするのが得意だったのかもしれない。

 でもそこには、彼なりに用意周到な準備があったから出来たんだと思う。

 その点では敵対しているネズミ族の秀吉も、共通しているなと思った。

 そして最後に、あの爺さんは何故こんなに沢山知識があるんだろう?

 戦前の人間がここまで詳しいのが、不思議で仕方ないよ。









 水嶋は眉間に皺を寄せた。

 声がここまで聞こえるのは、おそらく何かの魔法だろう。

 それよりも気になったのは、現代風にカスタマイズと言った男。

 奴が誰なのか、水嶋はスコープを覗いた。



「うん?ネズミ族か?しかし、姿がかなり違うような」


「ジジイ!」


 蘭丸が咄嗟にハンドルを曲げると、トライクはドラフトのように曲がりバランスを崩した。

 後部座席でスコープを覗いていた水嶋は転げ落ち、蘭丸に激しく怒りをぶつける。



「お前!何をしている!」


「馬鹿野郎!後ろを見てみろ」


 転げ落ちた後方を見ると、地面が溶けたような跡があった。



「お前は気付かなかったかもしれないが、城から何かが飛んできた。砲弾と違い小さかったから気付くのに遅れたが、もし避けられなかったらお前の頭がああなっていたんだぞ」


「すまん」


 蘭丸は反転して水嶋の倒れている所へ行くと、左腕を伸ばして水嶋を引っ張り上げた。



「ジジイ、敵は俺達が知らない武器を使っているみたいだ」


「そうですね。ワタクシも思ったのが、普通の大砲であればここまで届きません。おそらく安土で使われている物よりも、高性能なんじゃないでしょうか」


「悔しいが、私もそう思う。安土の防衛に携わる者として、様々な兵器には触れてきたつもりだ。だがアレは、コバ殿が作った物よりも上だと言わざるを得ない」


「ならば、城に密着するぞ。アレだけ強力な兵器だ。城の近くで使えば城にも被害が及ぶ。近付けば勝機はある」


「了解!」


 何故か水嶋の言葉を鵜呑みにする太田とゴリアテ。

 二人は年長者としての水嶋の言葉が、一番信用出来ると考えていた。



「考えが甘いな。城だけではない点を見せてやろう。野郎共、行け!」


「ガッテン!」


 ネズミ族っぽい何かをした男が指示を出すと、城の門が開いた。

 すると中から、乗り物に乗った何かが大勢飛び出してきた。



「二輪車に何か付いているぞ」


「荷車?」


 太田とゴリアテが警戒をしていると、水嶋が叫んだ。



「アレは駄目だ!後部にガトリングガンを積んでいる!」


「ガトリングガン?」


「ゴリアテ!大盾で防げ!」


 水嶋が慌てて叫ぶと、ゴリアテが盾隊を前方に配置した。

 すると途端に銃弾の雨が、大盾に降り注いだ。



「な、何だ!?」


「勢いに負けるなよ。絶対に隙間を開けるな。隙間を開けた途端に、そこから崩れるぞ」


「だそうだ。気を引き締めろ!」


 ゴリアテが檄を入れると、オーガ達は力を込めて盾を握った。

 だがそれが間違いだと、この後知る事になる。








「フフフ。前方にばかり集中して良いのかな?」


 男が空に何かを打ち上げると、飛び出したバイク隊は円を描くように移動を始める。



「勢いが弱まった。弾切れか?」


「うわあぁぁぁ!!」


 少し銃弾の雨が弱まりホッとしたところに、悲鳴が左右から聞こえ始める。

 太田とゴリアテは左右を見ると、バイク隊が回り込んでいた事に気付いた。



「た、盾隊!左右に展開!」


「だ、駄目です!数が足りません!」


「くっ!」


 ゴリアテは焦りを隠せなかった。

 何故数が足りないのか?

 それは太田との戦いで防衛隊の三割が負傷し、離脱してしまったからだ。

 しかしそれを口にすれば、太田が責任を感じてしまう。

 それに記憶を封印されて敵対したのは、ゴリアテ達だった。

 その為彼等は、何も言わずに少ない数で対応をしようとしていた。

 だが、太田もそれをただ見ているだけではなかった。



「盾を拝借して下さい!今はオーガだけに頼る時ではない。皆で守りましょう!」


 オーガの乗るトライクの左右に取り付けられた大盾を外すと、ミノタウロス達はそれを持って左右に展開した。

 左右からの攻撃が防げるようになると、ようやく反撃の糸口が見え始める。



「蘭丸、やる事は分かっているな?」


「フルスロットルで駆け抜けるんだろ。撃ち抜けよ!」


 唯一空いた後方から、一台のトライクが飛び出した。

 蘭丸が右手を限界まで捻ると、物凄いスピードで銃弾の嵐の中を駆け抜けていく。



「邪魔をするな!」


 水嶋が二丁の銃を持つと、とにかく引き金を引いた。

 明後日の方向へ飛んでいく弾だが、弧を描いてガトリングガンを操る射撃者へ命中する。



「左側は片付けたぞ!」


「太田殿」


「左方ミノタウロス隊、反撃!」


 ガトリングを撃つ者が居なくなったバイク隊へ、太田達が突撃した。

 しかし前方のバイク隊が左へ移動をすると、太田達を狙い始める。



「ジジイ!」


「うるさいわ!死ね!」


 蘭丸は自分に向かう攻撃が緩んだ隙に、左前方へ一気に加速した。

 わざと敵の中に入り込むと、水嶋は銃を持ち替えた。



「フハハハ!見ろ、引き金を引くだけで当たるぞ」


 水嶋がハイテンションに銃をぶっ放している。

 しかしそのテンションも、すぐに落ちる事となった。



「うっ!」


「蘭丸!?」


「し、城から何か飛んできた・・・」


 左腕を何かが貫通した。

 少しバランスを崩してフラフラとすると、途端にバイク隊からの攻撃が強くなる。



「脱出するぞ」


「クソッ!」


 蘭丸は急ブレーキを掛けて敵の包囲網から抜けると、そのまま反転してゴリアテ達の方へと戻っていく。

 太田も蘭丸の異変に気付くと、攻めていた隊を引き下げた。



「城へ近付けませんよ!」


「水嶋殿、どうするべきだと思う?」


 周囲を見ると、左右に展開された際に負傷した連中が見える。

 水嶋は一瞬悩んだが、すぐに決断した。



「引くぞ」


「了解!全員反転!」


「盾達は最後尾を担当。弾を通すなよ!」


 太田とゴリアテが速やかに行動を開始すると、素早い動きで隊列が変わっていく。

 怪我をした連中が防御の一番厚い中団に入ると、その中に居た蘭丸が突然おかしな事を言い出した。



「ジジイ、運転を代われ」


「何?」


「やられっぱなしなんかで帰れるか。一発お見舞いしてやる」


 蘭丸が後ろを振り返ると、水嶋は頭を叩いてから前へと移動を開始する。



「やるならとびきりデカいのだ」


「分かってる!今の一発も、後で返すからな」


 水嶋がスロットルを握ると蘭丸は後方へ移動し、そして反対を向いた。



「クソッ!痛えな!」


 貫通した左腕の痛みに堪えながら、蘭丸は強弓を取り出した。



「ジジイ。狙うなら何処だ?」


「最後方を追う連中だ。後ろがやられれば、右の連中は助けに入る」


「分かった」


 蘭丸は弓に付いたクリスタルに、魔法を封じていく。

 火魔法と風魔法だけを入れると、蘭丸は斜め上に弓を構え、そして矢を放った。



「爆ぜろ!」


 トライク隊の最後尾を越えた矢は、山なりに落ちていく。

 すると後方から、大きな爆発が起きた。

 バイクに乗っていた連中が空を舞い、爆発でバイクも誘爆していく。



「よしっ!」


「後ろは怯んだな?」


 後方からの弾が一切飛んでこなくなった。

 水嶋はスピードを上げるように指示を出すと、トライクは城から遠ざかっていくのだった。










 水嶋達は越前国へ引き返した。

 蘭丸を除いた怪我人を預けると、三人はお市の下へと向かった。



「完敗だな」


「認めるしかあるまい」


 苦虫を噛み潰したような顔で言うゴリアテと水嶋。

 太田はその中で、前向きに発言をした。



「しかしこれで、あの城がハリボテではない事は分かりました。下手に調べもせずに攻めていたら、もっと被害は大きなものになっていたでしょう」


「うむ。死人が出なかっただけ、良しとしよう。それで三人に尋ねる。妾達だけで、あの城は落とせそうか?」


 三人は難しい顔をして、口を閉じた。

 その中で一番最初に答えを出したのは、太田だった。



「難しいでしょう。もしだいだらぼっちを出したとしても、長距離砲撃が可能な城には、近付く前に倒れかねません」


「そんなにか?」


「ゴリアテ殿が言うには、安土の物よりも最新鋭ではないかという話です」


「ふむ、二人は?」


 太田が言い終えると、次はゴリアテが口を開く。



「もし我々だけで勝つとするなら、時間を使えば何とかなるかもしれません」


「どういう意味じゃ?」


「城を包囲するのです」


「待て。籠城した相手を倒すには、この戦力では不可能だぞ」


 ゴリアテの案に異論を唱える水嶋。

 しかしゴリアテは、そうではないと首を横に振った。



「確かに落とすとなると難しいでしょう。しかし無理に攻めなければ良いのです」


「なるほど。兵糧攻めを考えているのか」


「その通り。無理をせず相手の備蓄を減らしていく。安土のように、城内に田畑があるわけではない。これなら時間さえあれば倒せます」


 言い切ったゴリアテだが、それに関してはお市が首を横に振った。



「その案は不可能じゃ。秀吉は空間を移動出来る。妾達が包囲しても、悠々と城の中に食料を届けられるじゃろう」


「そ、そのような事が出来るのですか!?」


「現に柴田と本多、タヌキが秀吉の手で妙な空間に消され、そして秀吉はその空間を出入りしていた。妾が目の前で見たのだから、間違いは無い」


 分かりやすく肩を落とすゴリアテ。

 すると最後の水嶋へと、視線が集中する。



「まあどちらにしても、ゴリアテの案は無理だろう。包囲している間に更に外側から敵がやって来たら、逆に挟み撃ちされてしまうからな」


「それでオヌシは、どう考えておるのだ?」


「あの城を落とすには、戦力が足りない。だから戦力の補強を考える」


「何処から?」


 お市の質問に水嶋は、地図を見ながらある地点を指した。







「ここが越前国。そしてここに奴等の城がある。だったらその反対側、ケルメン騎士王国から騎士を呼び出す」

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