一夜城?
いかんな。
やはり僕達は後手に回っている。
秀吉によって記憶を封印され、元に戻ったと思ったら知らない連中に城を乗っ取られていた。
それは安土だけでなく、若狭国の佐和山城や上野国の厩橋城も同じだった。
まあ安土はロックのせいと言うべきか、おかげと言うべきか。
城と街は奪われたものの、人的被害はほとんど出ていない様子。
懸念だった長可さんやセリカ達も無事だと分かり、安心はしている。
だけど長秀達は違う。
領主として自分の街を取り戻すのは当たり前だ。
現に上野国を取り戻そうと、一益は仲間達と奮闘している。
本来なら魔王として僕も手を貸すべきなのだろうが、今はその力すら無い。
だからこそ、僕達はまた手を取り合うべきなのだ。
というわけで、長秀を一益の援護に向かわせる事にしたのだが、一つ懸念があった。
どちらが指揮を執るのかという点だ。
共同戦線を張るとはいえ、お互いに意思疎通が図れるのか分からない。
僕が覚えている中で、両者が一緒に戦った記憶は無い。
正確には、個人ではあるかもしれないけど、軍を率いて共に戦ったというのは、無かったと思われる。
領地を取り戻そうと躍起になる一益と、早く終わらせて若狭国を取り戻したい長秀。
思惑は一致しているけど、果たして上手くいくかな?
なんて他人の心配をしているけど、僕もしっかりしなくちゃならない。
いかんせん、武器も人も足りていないのだ。
誰が味方で誰が敵か分からない今、徴兵するのも躊躇われるし。
こうやって考えると秀吉の奴、本当に用意周到だったんだなぁ。
負けたくないけど、今はまだ勝てる気がしない。
厳しいけど、頑張るしかないな。
城が建った。
うん、何を言っているのかよく分からない。
「ちょっと待ってくれ。そういう話は適任者に代わるから」
「僕かよ!」
俺は弟に電話を手渡した。
「もしもし。僕だ。城は何処に建てられているんだ?」
「越前国と騎士王国の間の街道付近です」
騎士王国との間か。
となると、越前を孤立させる算段か?
「本当に城内に人は入ったのか?」
「確実ではありませんが、偵察に出た天狗が、空から敷地内に人が多数居たのを見ています」
「それは本当に兵だった?」
「ど、どういう意味でしょう?」
太田は困惑した声で聞き返してきた。
僕の中でこれは、墨俣城のやり方ではないかと考えている。
かつて秀吉が、信長から美濃攻めをする際、墨俣に短期間で築城したという話が残されている。
色々な説はあるが、一晩でやったとか三日で建てたとか言われているが、共通するのは普通ではありえない早さで建てられたという点だ。
そして秀吉も、日本からの転生者である。
この話を知らないはずも無いし、他の連中も転生者かもしれない。
だとしたらこの兵は、戦闘ではなく他の事に特化した工兵なのではないか?
と、僕は睨んでいる。
「そんな感じなんだけど、どうだろう?」
「天狗の情報だけでは、まだ何とも・・・。しかしその可能性はあります」
「官兵衛の考えは?」
「同意見ですね。あくまでも可能性の一つ。しかしあまり現実的ではない気もします」
官兵衛は否定的な意見か。
じゃあ僕の考えは間違っているかも?
「どうするべきだと思う?」
「もう一度詳しく調べたいのが本音ですが、もし太田殿の話が本当なら、時間に余裕がありません。ですので、様子を見る形で先に攻めるのもアリかと」
情報が少ない中、先手を取るか。
賭けになってしまうが、この賭けに勝てれば城は落とせる。
しかし万が一負ければ、越前国は一気に劣勢に傾くだろう。
「分かりました。あの城へ攻め込んでみます」
「頼んだ。それと危険を感じたら、すぐに撤退して良いから。無理をして死んだら、それこそ意味が無い」
「肝に銘じておきます」
太田との電話が切れた。
普段と違い、切羽詰まった声だったな。
「それじゃ、長秀と昌幸は上野国のサポートを。慶次とイッシーはコバの護衛。官兵衛も長谷部と砦で待機。僕とハクトと沖田は、連合へミスリルの調達に行こう。皆、問題は無いね?」
頷く一行を見て、方針は決まった。
すると兄が、突然長秀と慶次の肩に手を回した。
「な、何でござるか?」
「円陣を知らないのか?」
「円陣?」
意外だな。
確かに見た事は無かったけど、戦意を高めるのに長秀とかはやってると思ったんだけど。
「皆、隣の奴の肩を組め」
兄の指示通りに肩を組むと、兄は円を作った。
僕は人形だから手を繋ぐだけだけど。
「良いか?ここからが逆転の始まりだ。小さな一歩かもしれないが、この一歩を踏み出さないと何も始まらない。若狭国も上野国も安土も取り戻せない。そして秀吉をブン殴って、勝つ!皆、やるぞ!」
「おぉ!」
円陣を組むのが初めてなのに、掛け声だけはしっかり出来るのか。
皆の顔が引き締まると、各々やるべき事の準備へと取り掛かった。
「太田殿、打って出ると聞いたんだが」
「ゴリアテ殿。オーガは待機していても良いですよ」
「馬鹿を言え。さっきの電話は魔王様であろう?だったら私も共に出る」
太田がトライクの準備をしていると、ゴリアテが近付いてきた。
二人は話し合いの末、自分達の部隊を連れて行く事にした。
「俺と蘭丸も行くぞ」
「水嶋殿!?」
「突然建った城へ行くのだろう?遠くから見るなら、スコープがある俺が居た方が、便利だと思うぞ」
銃を具現化させた水嶋は、スコープを軽く叩いた。
しかし後ろでは、不本意そうな顔をする蘭丸の姿がある。
「ジジイ!勝手に俺の名前を入れるんじゃねえよ」
「そうか。じゃあ蘭丸は留守番でもしていろ」
「別に行かないとは言っていないけどな」
「だったら文句言うな」
蘭丸は怒りのあまり、水嶋の頭を殴った。
それに対してやり返す水嶋。
祖父と孫くらい見た目に差があるが、お互いに本気である。
「やめなさい!」
「す、すいません・・・」
ゴリアテに一喝されて、小さくなる蘭丸。
しかしふてぶてしい水嶋は、ソッポを向くだけだった。
「とにかく、魔王様の指示だ。我等はあの城へ攻め入る」
「了解した。俺達を操ってくれたのだ。撃ち殺しても問題無いだろうな?」
「手を抜く余裕など、こちらには無い。戦力が減るのなら、一向に構わない」
ゴリアテの言葉にニヤリと笑う水嶋。
記憶を取り戻し今までの言動を思い出すと、操っていた連中に対して怒りをぶつけたくて仕方なかった。
そこにゴリアテからの許可が出た事で、水嶋は既にやる気が漲っていた。
「太田殿、準備を進めてもらって良いか?私はお市様に報告をしてくる」
「分かった。では皆さん、参りましょう」
トライクに乗り込んだ太田とゴリアテは、ミノタウロスとオーガの一団を率いて出発した。
そして最前列には、太田とゴリアテと共に蘭丸が後ろに水嶋を乗せて快走していた。
「ジジイ」
「何だ?」
蘭丸にジジイと呼ばれて普通に答える水嶋に、太田はそれで良いのかと困った顔をしている。
「お前、あの城が一夜城だと思うか?」
「一夜城?それはどの城の事だ?お前、どうしてそんな事知っている?」
「どの城?一夜城ってそんなに種類があるのか?」
蘭丸が一夜城という名前を出すと、水嶋は不思議そうな顔をした。
それはこの世界では、知られるはずも無い城だからだ。
しかし改めて考えると、他の召喚者から聞いた可能性もある。
水嶋は深く考えるのをやめて、その問いに答えた。
「俺は、ちょっと違うんじゃないかと思う」
「その根拠は?」
「アレを見る限り、しっかりとした城に見える。秀吉が造ったとされる一夜城は、何種類かある。一つは墨俣城だが、これは嘘ではないかと言われている。次に石垣山城も有名だが、こちらも一晩では完成しなかったとされている」
「えっと、そんな話はどうでも良いんだよ。どうして一夜城じゃないと思うか。それが聞きたいんだけど」
「だったら最初からそう言え。それはだな、一晩で築城したとは思えないくらい、完成度が高いからだ」
「完成度が高い?」
蘭丸が尋ねると、水嶋は少し思案した。
そしてふと顔を上げた水嶋は、横に居る太田とゴリアテも興味津々で聞いていた事に気付く。
「気になるのか?」
「水嶋翁のお話は、タメになりますので」
「そうか。とりあえず俺の私見だがな、一夜城とは一晩で建てた城だ。たった一晩と言うからには、造りが甘いと俺は思っている。だがお前達、遠くから見ても、あの城の造りが甘いと思うか?」
「そうですね。甘くは見えません」
「私も同意見です」
太田とゴリアテも話に参加すると、二人は水嶋の意見に賛同した。
すると蘭丸が、水嶋にストレート質問をぶつけた。
「だったらあの城、俺達だけで落とせると思うか?」
「落とせる・・・と思わなければやっていられないだろうな」
「それは暗に、難しいと言っているようなものですよね」
「そうとも言う」
まさか水嶋がそんな答えをするとは思わなかったのか、太田とゴリアテは黙ってしまった。
「俺達が城に向かっているのは、既に向こうも気付いているはず。おそらく抵抗する為に攻撃を仕掛けてくると思うんだが」
「まだ遠いと思うが」
「いや、そうとは限らないらしい」
水嶋の言葉がフラグになったのか、突然城の方から砲撃音が聞こえてくる。
しかも一発ではなく、無数に聞こえてくるのだ。
「と、届くのか!?」
「回避運動!」
太田とゴリアテが左右に割れた。
後方を走っていたオーガとミノタウロスも同様に割れると、中央を単騎で走る蘭丸達に砲弾が降り注いだ。
「ジジイ」
「耳は塞げよ」
蘭丸は耳栓をすると、その直後に真後ろから水嶋が発砲した。
マシンガンでもないのに速射していくと、砲弾に続々と当たっていた。
水嶋の弾丸が当たった砲弾は、全て空中で爆破すると、空から破片がパラパラと落ちてきた。
「運が良かったな。砲弾の種類が榴弾だったから爆破に成功したが、徹甲弾だったら無理だったぞ」
「よく分かったな」
「たから運だと言っている」
蘭丸はそれを聞いて、無言になった。
運が悪ければ、今頃自分の腹に穴が空いていてもおかしくなかった。
「見えた!これは・・・確かに完成度が高い城だと思う」
「・・・何だ?見覚えがあるような?」
水嶋が眉を顰めると、そこに太田とゴリアテも合流する。
だが二人は、不機嫌そうな顔をする水嶋を見て、話し掛けるのをやめた。
「思い出した!熊本城だ!」
「熊本城?」
「加藤清正の造り上げた名城だ。あの石垣の造りは、間違いないと思う」
「ほう?確かにアレは、清正流の石垣だ。まさか知っている人物が居るとは思わなんだ。だが、このネオ熊本城は現代風にカスタマイズされてある。果たして攻略出来るかな?」




