不足
チート武器?
空間をぶち壊すって何!?
兄は僕が教わっていない創造魔法で、シャルーアという武器を作り出した。
後から調べたのだが、槌矛は分かりやすく言えばメイスと呼ばれる武器だった。
RPGゲームをやった事がある人なら、僧侶系の回復職が持っているイメージがあると思われる。
だからそんなに強くないかなと思っていたんだけど、実際は打撃武器だ。
力があればそこそこ強い武器になる。
そしてシャルーアという名前は、かつてニヌルタという戦神が持っていたと言われていて、全ての物を破壊するという意味があるらしい。
なかなか物騒な武器なのだが、僕は疑問に思った。
創造魔法で作るのに、どうしてそんな物騒な武器が出来るのよ!
創造魔法は読んで字の如く、創り出す魔法なのだ。
なのに全てを破壊するって、正反対過ぎない?
ちなみにコレ、六代目魔王であるドワーフのワッシャーが得意としていた魔法らしい。
それを聞いて僕はまた思ったね。
ドワーフって鍛治が得意なんじゃないの?
作る事が得意なんじゃないの?
何でぶっ壊す方が得意なのよ。
この魔王、おかしいでしょうよ。
兄が教わった創造魔法は二つ。
二代目魔王フエンによる、身体能力の超アップ。
そして六代目魔王ワッシャーの、破壊メイスである。
ちなみにこの魔法、覚えるのに段階がある。
二代目の魔法が使えないと、ワッシャーのシャルーアは持つ事すら出来ないらしい。
だから僕はシャルーアを作る事は出来ても、扱えないという事になる。
だから僕には、ワッシャーは教えなかったみたいだ。
何にせよ思ったね。
この二つの創造魔法、壊す事前提の魔法だって。
やはり脳筋は脳筋を呼ぶ。
どうしてこうなった。
俺は一人、工房の外で見張りをさせられている。
ちなみに詳しい話を聞く為、弟が人形の姿でコバと会っている。
つまらん。
「兄さん、落ち着いたら入って良いって」
「やったぜ!」
って、俺魔王だよね?
何で中に入れてもらうのに、許可が必要なんだ?
しかもそれに喜ぶ俺も俺だし。
「さて、座るのである」
「オウ。それで、コバはどうするんだ?」
「ひとまず吾輩は、ここで開発に専念するつもりだったのである。しかしここも、藤堂高虎という輩に見つかってしまっていた」
コバはここならと思っていたのだろうが、よくよく考えると秀吉もここに居た。
この砦を甘く見ていたわけじゃないが、まさかこんな所まで調べているとは思わなかった。
「しかし、ここを拠点にする事は出来るよね。特に長秀とか、若狭国奪還を目指すのに丁度良い気がするし」
「良いんですか!?」
「若狭国から抜け出した妖精族をまとめて、取り返す拠点にしても良いと思うよ」
「ありがとうございます!」
妖精族が居れば、コバ達の護衛も兼ねてもらえる。
阿形と吽形が居ないのは痛いが、慶次達もここに居れば問題無いだろう。
「それでは丹羽様には、この砦の責任者になってもらい、滝川様と連携を取っていただきたいと思います」
「滝川殿とですか?」
官兵衛が言うと、長秀は理由を聞いた。
「今若狭国、そして佐和山城は、石田ミチナリという男に支配されています。奴を排除するのに、阿形殿と吽形殿が居ないのは相当に厳しいです。だからまず、滝川殿を援護する事を推奨致します」
「なるほど。一益を援護して上野国を取り戻したら、ドワーフとの共同軍で若狭国を奪還するという事だね?」
「その通りです」
ほほう?
弟の奴、よく分かったじゃないか。
俺はサッパリ分からなかったけど、とりあえず最初から分かってるよって顔をしておいた。
「分かりました。私はこちらで、妖精族の再起を図ります」
「そちらの話が決まったのなら、吾輩の話もして良いか?」
コバと昌幸も、どうやら何かあるらしい。
特に昌幸が、少しソワソワしている。
「何かな?」
「まず真田家の方々なのだが、滝川殿の援護に向かいたいと言っているのである」
コバの言葉を聞いて昌幸達を見ると、少し申し訳無さそうな顔をしている。
だけど気持ちは分からなくもない。
彼等は上野国を出たと言っても、故郷は故郷。
敵に奪われたままというのは、気持ち良いものじゃない。
「だ、駄目でしょうか?」
「うーん。コバは良いの?」
「問題無いのである。というのも、もう一つ大きな問題があるので、彼等の話を聞き終わったら、話すのである」
大きな問題?
とりあえずコバが良いというのであれば、真田家を向かわせるのは問題無いな。
「分かった。昌幸達は一益の援護に向かって良いよ」
「であれば、私達と一緒に向かわれるのはどうですか?」
長秀が同行を提案するが、これには問題がある。
一益を援護する為の妖精族が、まだ集まっていない。
だから集まるまでの時間を考えると、かなり先の話になってしまうのだ。
「我々は三人で、トライクで向かう事にします」
「父とコバ殿が作った武器をありったけ詰め込んで、すぐに巻き返しますから」
信之と信繁がそう言うと、昌幸もその意見に同意する。
やはり同族である一益は、早く手助けしたい気持ちもあるのかもしれない。
「それなら三人は、その方向で準備を進めてほしい」
「ありがとうございます」
OKを出した途端、三人は部屋を出ていった。
善は急げとばかりに、準備に取り掛かるようだ。
「それで、コバ殿の話とは?」
「重要なの?」
「凄く重要である!というよりも、この戦いの結果に左右するレベルである」
そんなに!?
アレ?
驚いたのって俺だけ?
「なるほど。資源の問題ですよね」
「官兵衛は話が早いのである」
「何かを作る為には、その材料が必要。安土を奪われて、その資源も限りがあるか」
あれれー?
おかしいなぁ。
俺以外の人は皆頷いているよ。
ちょっと分からないから、質問してみよう。
「そんなに作る物、沢山あるのか?」
「ハァ・・・」
ため息吐かれた!
オイ!
俺魔王なんですけど!?
「兄さん、この砦には色々な物が足りないんだよ」
「色々って何よ?」
「まず移動手段。トライクの数も足りない。アポイタカラやオリハルコンは厳重に管理していたから、こっちにあるはずなんだけど。肝心のミスリルはほとんど無いんだよね」
「その通りである。だから武器や防具も作れないし、トライクも作れない」
「反撃しようと思っても、向こうにトライクを奪われてしまっている。多分こっちが不利だよ」
「なるほど」
バカでも分かる説明をありがとう。
「ちなみにミスリルが問題なのは、産地が長浜にある事なのである」
「大問題じゃねーか!」
長浜を襲って奪えば良いと言っても、あそこは秀吉や他の主力も居そうだ。
ほぼ無理と言って良いだろう。
「どうやって手に入れるんだ?」
「それが問題なのである」
「官兵衛は何か良い案無い?」
出た!
困った時の官兵衛頼み。
しかしコレには、官兵衛も難しいだろう。
「幾つか案はあるのですが、やはり数を補えるかは不明です」
「あるの!?」
すげーな官兵衛。
俺なんか何も思いつかないのに。
「一つは帝国から売ってもらう方法。帝国にもミスリルの鉱山はありますからね。しかしこちらは、オススメ出来ません」
「どうして?」
「ヨアヒム陛下も秀吉に啖呵を切っています。それは帝国も秀吉に宣戦布告したも同然です。だから、帝国は帝国で戦力を整えなくてはならないからです」
そういえば、ヨアヒムは秀吉にガチギレしたからな。
おそらく俺達以上に、秀吉に怒りを抱いていてもおかしくない。
「他は?」
「次に王国と連合を頼るやり方です。特に王国は、長浜から買っているミスリルが結構あるはずなんです」
「どうして?」
「王国には戦艦があります。その補修や改修の為に、多数のミスリルを仕入れているはずですから」
そっか。
あのバカデカイ船も、ミスリルで出来ていたんだった。
そのせいで金がめちゃくちゃ掛かったって聞いたけど、海獣相手にそれでも船体が凹んだりしてたっけ。
「じゃあ王国から買うのか?」
「少量なら売ってくれるとは思いますが、狙いは連合ですね」
「連合?そんなに持ってるかな?」
「そこそこの量はあるはずです。何せミスリルは、長浜がほとんど扱っていますから」
「売れ残りがあるって事か」
「多少は値が張るとは思いますが、無難かと」
うーん、そんなに都合良くあるかなぁ?
なんて考えていると、弟の一言で俺は納得してしまった。
「大丈夫でしょ。多分だけどパウエルが今の時勢を読んで、長浜からすぐに買ってそうだもの」
「パウエルさんなら、やってそうだね」
「それならヤコーブスも、俺が蹴りを入れれば売ってくれそうだな」
「蹴りを入れればって・・・。まあうん、言いたい事は分かるけどね」
何で!?
俺、おかしな事言ったか?
「ちなみに最後の手段として、リュミエール様に他大陸に行ってもらい、ミスリルを獲ってきてもらうというのも考えました」
「無理だな。アイツは動かないだろ」
「いや、ハクトのスペシャルでゴージャスな料理を、リュミエールの為だけに作ると言えば、やってくれそうな気もする」
「何それ!僕、そんな知らない料理作れないよ!?」
ハクトは慌てふためくが、弟の言葉は正しい。
アイツの場合、ラーメン全部入りで十分買収出来そうな予感がする。
「じゃあとりあえず、連合に行くか。リュミエールが居るから、ハクトは確定。沖田か慶次も来てほしいけど」
「じゃあ僕が行って良いですか?」
「それなら沖田で頼む」
意外にも慶次は名乗り出なかった。
こういう時、普段なら自分から参加したがるんだけど。
「魔王、ついでに頼みがあるのだが。越前国から、クリスタルを調達したいのである。頼めるか?」
「騎士王国を通るルートで行けば、特に問題は無いはず。太田達にこっちに運んでもらおう」
「では、吾輩が電話するのである」
コバは太田に電話を掛けると、コール音がしばらく続いた。
「長いな。寝てるのか?」
「そんなロックじゃないんだから。昼間から太田が寝てるはず無いでしょ」
「出たのである。もしもし?」
「その喋り方は、コバ殿ですか!?すいません、余裕がありません!」
太田が相当焦っている?
俺は弟と顔を見合わせると、コバと電話を代わる事にした。
「俺だ。お前、ゴリアテと越前国に居るはずだよな?どうした?」
「キャプテンですか!?今、とてもマズイ状況です!」
「少し冷静になれよ。何があった?」
俺の言葉を聞いて、太田は深呼吸をしたようだ。
落ち着いた太田は、言葉を続ける。
「越前国の近くに、城が突然建ちました。ワタクシ達も騎士王国に援軍を頼もうとしたのですが、既に秀吉軍が入城して越前国を包囲しようとしているようです」




