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空間をぶち壊す

 甘い話なんて存在しない。

 そんなの嘘だと思ってるから。


 藤堂高虎の話は、やはり裏があった。

 ハクトを引き抜いたとしても、彼はマトモな扱いをする気が無かったのだ。

 会社でも学校でもそうだけど、だいたいは規約というものがある。

 分かりやすいところでは、無断欠勤や副業の禁止。

 学校ならアルバイトやバイクの禁止かな。

 多分高虎は精神魔法の契約を使って、ハクトを縛りつけようという考えだったのだろう。

 ヨアヒムを裏で操っていた時、秀吉が使っていた得意なやりかたなので、おそらく合っていると思う。


 給料上がるよ。

 バイト代高いよ。

 そんな言葉の裏には、必ず何かある。

 だから僕は、甘い話を信用しない。

 そしてハクトもそんな僕の影響を、少なからず受けている人間だ。

 勿論、蘭丸にも同じ事が言える。

 だいたいさ、おかしいんだよ。

 例えば新しい資格を取ったとかなら、給料が上がるのは分かる。

 アルバイトでもガソリンスタンドなら、危険物取扱の資格があると高くなるとか聞いた事がある。

 そうでもないのに、どうして急にそんな良い待遇で呼ぶの?

 ヘッドハンティングと言えば聞こえは良いけど、要は相手の企業価値の低下という狙いもあるよね。

 下手したらある程度飼い殺しにして、捨てられるパターンだってある。


 何でもそうだけど、疑って掛かるくらいが丁度良いと思っている。

 怪しい話は聞かない方が良い。

 僕はあのロックという男に出会って、本当にそれを思い知った次第です。









 高虎の顔は真っ赤になった。

 やっぱりコイツ、挑発に弱いタイプだ。

 エリート然とした態度を取っていたけど、断られた途端にキレてきたし。

 多分イッシーなんかと一緒で、評価されてこなかった人なんだろうな。



「私が弱いだと?だったらコレを食らっても、同じ事が言えるのか!?」


 高虎が両手を広げると、俺とハクトの横に大きな壁が作られた。

 両手を閉じてパン!という綺麗な音が聞こえた。

 それと同時に壁が、俺達の方へ勢いよく挟み込んでくる。



「マオくん!」


「無駄だ!」


 壁は横に広がり、回避が不可能なくらい大きくなった。

 ハクトはちょっと冷静さを欠いたように見えたが、下に活路を見出そうとする。

 普通であればそれも正解なのだが、ここは敵の作り出した空間。

 俺が何をしてもダメだった壁と、同じなのだ。

 地面に穴が空かないくらい、俺も予想している。



「マオくん、ダメだ!」


「大丈夫大丈夫。俺が全てを破壊するから」


「悪足掻きを。どうせお前達は、この空間に閉じ込められて死ぬ運命なのだ」


「それはどうかな?」


 俺は右手を引き、頭の中である武器を作り出した。



「な、何それ?」


 ハクトが覗き込んでくると、あまり見た事の無い形に興味を示す。



「これは槌矛と呼ばれる武器だ。まあ太田とかゴリアテなら扱えると思うけど、アイツ等にはそれぞれ得意な武器があるからな。ちなみに名前はシャルーア」


 まあ俺も、名前とどんな物かくらいしか分からないんだけど。



「フハハハ!圧死しろ!」


 勝ち誇った高虎の声が聞こえる。

 目の前に迫った壁に、俺は槌矛をフルスイングした。



「全てを砕け!シャルーア!」


 シャルーアが壁に当たると、絶対に壊せないと思われた壁が、粉々に砕け散った。



「えっ!?」


「な、何だとおぉぉぉ!?」


 ハクトも高虎も驚いている。

 だけど俺は、絶対に壊せると確信していた。



「ま、マオくん。壁は壊せないって言ってなかった?」


「壊せるのは壊せるんだけど、ちょっと威力がね。ほら、こんな感じで」


「な、何コレ!?」


「馬鹿な!?どうやって!?」


 俺が壊した箇所に、割れたような跡が残っている。

 その先を覗き込むと、全く違う空間に繋がっていた。



「官兵衛さん。なんかあっちで派手な音がしたんですけど」


「マオくん!この中から、長谷部くんの声が聞こえるよ!」


 よし!

 空間をぶっ壊してやったぜ。



「き、貴様!」


「おっと!」


 高虎が無詠唱で火球と強風を使ってくるが、それはハクトの水魔法で防がれた。

 やっぱりコイツ、普通の魔法はそんなに使えないらしい。



「何だぁ?向こうは違う部屋になってますよ」


「長谷部くん!魔王様達が戦っています!」


「あ、本当だ」


 どうやら俺達に気付いたらしい。

 割れ目からこっちにやって来ると、長谷部はハクトに官兵衛を任せ、高虎へ突っ込んでいった。



「く、来るな!」


「テメェ!逃げんじゃねぇ!」


 ププッ!

 俺と同じ事してる。

 他人がやってるのを見ると、ちょっと面白いな。



「マオくん、イッシーさんや沖田くん達も合流出来そう?」


「分からん。とりあえず、ぶっ壊しまくってみるか。そーれ!」


 俺は再びシャルーアをフルスイングすると、またガラスが割れたような音と共に空間にヒビが入った。



「なぬっ!?敵でござるか!?」


「慶次、何か見えるか?」


「ヘイ!俺だよ」


「魔王様でござる!」


 完全に割れていないからか、ヒビの隙間からお互いに覗き込むような状態だ。

 もう一度シャルーアを振ると、今度は完全に破る事が出来た。



「おぉ!凄いな」


「ハァハァ!イッシーも慶次も、早くこっち来て」


 俺は肩で息をしつつ、二人を同じ空間へと呼び込んだ。



「だ、大丈夫?」


「ちょっと辛いな。少し休憩したい・・・」


 シャルーアを下に下ろし、少し休む事にした。

 それを見ていた慶次は、俺からシャルーアを取ろうとする。



「コレで破れるでござるな?拙者がやっておくでござる」


「やめろ!お前じゃ無理だ!」


「ぬおぉぉぉ!!た、助けてー!!」


 俺がシャルーアから手を放すと、慶次はシャルーアの重さに耐えきれずに下敷きになった。

 あぶら汗が額に滲み、慶次の顔は赤と青を交互に繰り返している。



「だから言ったんだ!」


「す、すまないでござる」


「慶次が持てない重さ?コレ、何で出来てるんだ?」


 俺がシャルーアを両手で持ち上げると、押し潰されていた腹を押さえながら慶次は距離を取った。

 イッシーが不思議そうにシャルーアを見ているが、近寄ろうとはしない。



「俺もそれは知らん。が、魔王が作った武器だ。そう簡単には扱えない」


「太田殿やゴリアテ殿でもか?」


「多分な」


 二人なら持ち上げられそうな気もするが、多分持てないんだろう。

 じゃないとワッシャーが使う創造魔法なのに、他人が扱えたらおかしいし。



「体力も少しは回復した。いっくぞぉあ!」


 俺は左足を上げると、勢いよく踏み込んでフルスイングする。

 さっきよりは小さいが、今回は一度で空間をぶっ壊す事に成功した。



「沖田殿、こっちから音が。え?魔王様?」


「お、沖田と一緒に早くこっちへ」


 俺はそれだけ伝えると、そのまま座り込んだ。


 ダメだな。

 この魔法、異常なくらいに体力と魔力を使う。

 多分振る事が出来るのは、五回が限度だろう。



「皆、合流出来たんですね!」


「魔王様のおかげでござる」


 沖田と長秀が合流すると、官兵衛はすぐに慶次を呼んだ。



「慶次殿、槍を伸ばしてあの男に届きますか?」


「藤堂高虎!やってみるでござる。長谷部、横へ飛ぶでござるよ」


「ガッテン!」


 後ろをチラッと見た長谷部は、慶次が槍を伸ばす体勢に入っているのを確認する。

 そして高虎に向かうのをやめて横に大きく飛び退くと、そこに慶次の槍が伸びていった。



「ぬぅ!届かないでござるな。どういう仕組みでござるか?」


 やっぱり慶次でもダメか。

 普通なら届く距離なのだろう。

 だから慶次も首を傾げ、不思議そうな顔をしている。



「チィ!この人数を一度に相手にするのは無理か」


 高虎は全員が合流した事に気付くと、形勢は不利だと判断したのか、後ろへ飛んだ。



「さらばだ諸君。次は戦場で会おう。その時はキミ達の選択が間違いだったと、死ぬまで悔いる事になるだろう」


「逃げる奴の言うセリフじゃねーけどな」


「だ、黙れ!逃げるのではない。戦略的撤退と言っておこう」


「それ、変わらないですよね」


「黙れと言っている!」


 長谷部と沖田に煽られて、高虎は頭に来ていた。

 エリート然としている割には、そういう耐性は低いらしい。



「マオくん、逃がしていいの?」


「良いんだよ。俺達の目的は、コバとの合流だ。だけど、タダで逃すのも癪だ」


「私は逃げるんじゃないからな!」


「そーれ!」


「くっ!うがあぁぁぁ!!」


 俺はシャルーアをハンマー投げのように放り投げると、明後日の方向へ飛んでいった。

 だがどういう仕組みなのか、勝手に方向を修正して高虎が消えた辺りに飛んでいく。

 するとシャルーアが空中で止まり、空間にヒビが入った。

 そしてヒビの向こう側から、高虎の痛がる叫び声が聞こえるのだった。










 藤堂高虎が居なくなり少し経つと、俺達は工房の入口に固まっていた。



「元に戻った」


「アイツ、何がしたかったんだ?」


「勧誘をしてきたけど、誰が行くかっての」


 長秀が疑問に思うと、長谷部は悪態を吐く。

 しかし一部の人間は、それを聞いてちょっと視線を逸らした。



「イッシー殿は、少し心が揺らいでいたでござる」


「お、おい!言うなって!」


「丹羽殿も少し興味を持ってましたね」


「いやいや!どんな条件かなと思ったくらいですよ」


 慌てるおっさん二人。

 怪しいな・・・。



「うんうん。怒らないから、本音を言ってみなさい」


「えっと、ヘッドハンティングなんて初めてされたから、ちょっと嬉しくて。つい・・・」


「私も若狭以外の領地の話が出たので、阿形と吽形に良いかなと思って・・・」


 なるほどなるほど。

 イッシーは確かに、冴えないサラリーマン時代を考えれば、ヘッドハンティングなんて夢のまた夢だっただろう。

 長秀も揉めている後継問題があり、新しい領地があれば解決すると思ったのかもしれない。

 しかし!

 それはそれ、これはこれ。



「キミ達、魔王は心が痛い。とてもショックで、胸が張り裂けそうですよ」


「ご、ごめんて!」


「すすすすいませんでした!」


「こんな時代だもの。誰が味方で誰が敵か、分からないなぁ」


 慌てるおっさんズを横目に見ていると、ハクトが苦笑いしながら二人のフォローに入った。



「マオくん、揶揄うのはその辺にしてあげないと。二人だって話を聞いただけで、実際はそうじゃなかったんだし」



「ハクト!」

「ハクト殿!」


 二人はハクトに縋り付くと、俺を見る時よりも尊敬の念で見ていた。



「ハア、俺が魔王なんだけどなぁ。って、イッタァ!」


 文句を言っていると、俺の後頭部に何か固い物がぶつかった。








「ラボの目の前で、ギャアギャアうるさいのである!入るなら入る!入らないなら出ていけ!特に魔王、お前は喧しかったので、外で立っているのである」

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