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 年功序列と成果主義。

 どちらにも、メリットデメリットがある。


 年功序列。

 それはかつての日本がほとんど取り入れていた。

 勤続年数によってどんどん昇給や昇進が決まっていき、安心して働ける制度でもある。

 若い時は大変だけど、ある程度年齢が上がると必ず給料が上がる。


 それに対して成果主義は、自分が頑張れば頑張る程、それが自分に戻ってくる。

 ただし能力が低ければ、最低限の評価しかされない。

 能力主義でもあり、今の日本は大半がこちらに採用している会社が多いだろう。

 営業職やタクシー運転手等は、昔からこれに当てはまりやすい。

 だからある意味、自分が評価されていないと思えば、自分から辞めて職場を変えるのが当然だという考えになる。

 そして藤堂高虎という人物は、ある意味この後者に当てはまるだろう。


 藤堂高虎は戦国時代、色々な人に仕えた事でも有名だ。

 そして彼は、色々とやらかしもしている。

 高虎は自分の言う事を聞かなかった同僚や部下を斬り殺したりして、そのまま逃走したりしていた。

 今で言えば、使えない同僚や部下に癇癪を起こして殴って、次の日には退職届を郵送して辞めているような感じだ。

 しかし彼は、能力とコミュ力が高かった。

 だから次の職場もすぐに見つけられた。

 秀吉に仕えた後に、家康にも仕えている。

 江戸時代で言えば、彼は外様大名という括りに入るのだが、彼はその圧倒的なコミュ力から、何故か家康にも気に入られていたという。

 コミュ力だけじゃ家康には気に入られない。

 能力も高かった証拠だろう。


 戦国時代は下剋上が起きていた、ある意味能力主義が基本でもあった。

 僕は藤堂高虎という人物は、戦国時代だからここまで成り上がれたんじゃないかと思う。

 だって平和な時代だったら、使えないから斬り殺す奴とか、能力があっても危険極まりないでしょ。

 それにそういう時代だと、逆に能力が高くて突出していても周りから煙たがられる存在に思われやすい。

 史実の藤堂高虎は、城造り以外ではあまり名前が上がらない人物ではある。

 でも調べてみると、個人的にはあんまり関わりたくない人物だなというのが、正直な感想だった。










 フッ、俺達の友情を理解出来ないなんて。

 馬鹿な奴だ。



(よく言うよ。言ってる事は間違っていないから、内心では結構焦ってたくせに)


 黙らっしゃい!

 ハクトが俺達を見捨てるなんて、全然考えた事無かったからね!



「横の繋がり?そんなもので自分の評価を捨てると?」


「だからぁ!お前分かってねーなー。俺がハクトに対して評価が低いって言ってるけど、それ自体が間違ってるっての」


「だったらもっと、部隊を率いる将にさせているのが普通でしょうが」


「あのさぁ、一番信用しているから隣に居させるって、考えた事無いの?俺はハクトと蘭丸を、一番信用している。それは友達としてもだし、それ以外でもそうだ」


 ハクトと蘭丸は、確かに又左達と比べると強いわけじゃない。

 でも二人とも、俺達の考えを一番理解してくれている。

 それに単体の強さでは劣っていても、二人なら臨機応変に対応出来るという面も大きい。

 それこそ蘭丸は一軍の将にもなり得る存在になっているし、ハクトは回復やサポートが出来る。

 又左と太田を横に置いても、今言ったような蘭丸とハクトの代わりが出来ない。



「僕が評価をされていないって言ってたけど、それは外から見た評価ですよね?でも僕は、充分にマオくんから評価されてると思ってます。だから、貴方の言うようなキャリアアップ?は必要ありません」


「そうですか。惜しいですね・・・」


 残念そうな顔をする高虎。

 分かってくれたかとホッとした表情を見せたハクトだが、俺はそのハクトを横に突き飛ばした。

 するとハクトが立っていた少し後方に、斬撃が飛んでくる。



「正体見せやがったな」


「フン。私の言う事に従わない奴など、必要無い」


「結局はそれが本音だろう?どうせハクトを引き抜いても、ロクな事させなかっただろうよ」


「仕事はさせますよ。ただし、休み無しに延々とね」


「このブラック企業野郎が!」


 俺はバットを作り、前に走り出した。

 高虎の余裕のある笑みを潰してやろうと思ったのだが、やはりこの空間ではそうはいかないらしい。

 前に詰めているはずなのに、何故か逆に遠ざかっていく。

 気付けば奴とは倍くらいの距離が出来ていて、近寄れるとは到底思えなかった。



「だったら!」


 バットを鉄球に作り変えると、それを全力で投げつけた。

 すると高虎の前に何枚もの壁が出来上がり、八枚くらいの壁を突き破ったところで、俺の鉄球は床に転げ落ちた。



「チッ!」


「ハハ!魔王といえど、この空間では私には敵わない。やはり貴方、秀吉様に遠く及びませんよ」


「何だと!?」


 コイツ、話し方がイラッとするんだよなぁ。

 性格が絶対に俺と合わないタイプだ。



(まあそうだろうね。話し方からしてねちっこいし。でもこういう相手は、僕は苦にしない。あの空間を越えるような事は出来なかったけど、目の前まで来られれば話は別だ)


 ほお?

 だったら交代しようか。







「さてと、ちゃっちゃと倒しますか」


「マオくん?」


「ハッハッハ!バットや鉄球を振り回すだけで、倒せると?」


 やっぱりな。

 コイツ、他人への観察力が低い。

 というより、興味のある対象しか調べないんだろう。

 だからハクトや慶次達を引き抜こうとしていても、僕に関してはそこまで調べていない。

 そのせいで僕と兄が入れ替わっても、まだ気付いていないようだ。



「火球」


「なっ!?」


 壊れた壁を飲み込むと、炎が更に壁を突き破っていく。

 しかし新たな壁を作り出し、炎を防ぎ始めた。



「お、驚かせやがって」


「暴風」


 今度は残った炎を風で巻き上げると、高虎の方へ風に乗った炎を飛ばした。

 それを見た高虎は魔法で水柱を立てると、炎を消火していく。



「やっぱり魔法も無詠唱で使えるレベルか」


「ナメるなよ!」


 今度は高虎側から風魔法で、ハクトを攻撃したように風の刃を飛ばしてくる。

 それをハクトが土魔法で防ぐと、僕は詠唱を始めた。



「・・・永久凍土に凍り付け!頞部陀地獄!」


「な、なにいぃぃ!?秀吉様と同じ魔法!」


 やはりこの辺りの強力な魔法になると、返すのは難しいか。

 秀吉と同じって言ったけど、むしろ今回は詠唱短めの弱体バージョンなんだが。

 それでも高虎は凍り付く地面を避けきれなかったのか、足が凍り付いて動けなくなっている。



「ハクト、弓で狙って」


「分かった」


 動かないのだから接近して倒した方が良いのではと考えたが、僕達はまだこの空間を把握しきれていない。

 下手に近寄れば、また別の空間に飛ばされたりしかねない。

 だからこそ、遠くから確実に仕留める。



「フッ!そんな弓矢なら、私の壁は」


「魔法を込められても、同じ事が言えるかな?」


 ハクトの弓は、クリスタルが埋め込まれている。

 普通の矢なら防げても、コレはどうだろう?



「暴風、火柱、トドメに雷火」


「ま、マオくん、その辺りにしないと、弓も壊れるんだけど・・・」


 ハクトの弓のクリスタルは、容量が小さい。

 だから大きな魔法を使うと危険だったのを忘れていた。



「やっちゃって!」


「や、やめろ!」


 ハクトが弓を構えると、高虎は慌てた。

 だが、どうも胡散臭い。



「放て」


 ハクトが右手を放すと、矢は一直線に飛んでいく。

 高虎は壁を大量に作り出し、さっきの倍以上の壁で矢を防ごうとしている。

 だが壁を軽々と溶かしながら進む矢は、着実に高虎へ近付いていた。



「やめろおぉぉぉ!!」


 高虎の叫び声が聞こえると、矢は壁の最後方を突き破り、とうとう高虎の方へ突き抜けた。



「・・・おかしい」


「何が?」


「当たったなら悲鳴か断末魔が聞こえても、良くない?」


「そういえばやめろって言った割には、反応が無いね」


 今は矢から放たれた高熱のせいか、熱風と煙が立ち込めて向こう側が見えない。

 逃げられたかな?



「それじゃあお返しに」


「ハクト!」


 真後ろから声が聞こえた。

 僕が咄嗟に声を出すと同時にハクトも気付いたのか、こちらへ飛んできた。

 高虎は複数の火球を放っていたようで、ハクトが居た辺りに着弾していた。



「いつの間に!」


「空間移動か。まあ予想はしていたけど」


「ここは私が作った空間だからね。その中なら、私は自由に移動出来る」


 この空間内限定か。

 流石に五代目魔王のテラのような、完璧な空間転移とは違うみたいだけど、これはこれで厄介だ。



「マオくん」


「うーん、どうしようかなぁ」


「流石の魔王も行き詰まったかな?やっぱりこの程度なら、秀吉様の手を煩わせる必要も無いね」


 高虎は蔑むような目で僕を見てきた。

 まあそれに関しては、怒りを感じないんだけど。

 言ってしまえば、それは彼の勘違いだし。


 別にこの空間を抜けるだけであれば、それこそテラさんに教わった空間転移で脱出は出来る。

 ただし問題は、慶次や沖田、官兵衛達がこの空間に居るのであれば、彼等を置いて脱出する事になってしまう。

 そうすると高虎がこの場から去った場合、彼等と再会する術を失ってしまう可能性もある。

 だから迂闊に、この空間から脱出するのは出来ないのだ。



「さて、どうしようかな?」


「逃げる算段でも考えてるのかな?それならそれで良いけどね。それを全て、前田の弟くん達に話すだけだし」


 なるほど。

 僕なら抜け出せるという予想はしているんだ。

 おそらく方法までは知らなくても、それくらいの力はあると見ている。

 僕を煽る意味もあるのか言葉では蔑んでいるけど、実際は甘く見ているわけじゃなさそうかな。

 油断はしていないと思われる。

 こうなると面倒だな。

 コイツを無視して官兵衛達を探したい気持ちもあるんだけど、ここがどういった空間か分からないからなぁ。

 せめて別の空間に行く為の壁を壊せれば良いんだけど。



【あ?壊して良いの?】


 良いけど、壊せるの?



【それならワッシャーから教わった、とっておきがあるけど】


 ワッシャー?

 僕があまり関わらなかった六代目か。

 魔王直伝なら安心出来そうだ。

 任せるよ。



「ちょっと確認だけど、慶次や沖田、官兵衛達はこの空間内には居るんだな?」


「彼等はヘッドハンティングの対象だからね。相手の戦力を弱体化させて、こちらは補強する。全員が上手くいくとは思っていないけど、それで関係にヒビが入るだけでも良いし」


「それを聞いて安心した」


「安心?」


「この空間に居るなら、空間を壊して会いに行く事は出来る。ハクト、コイツは放置して皆を探しに行くよ」


「え?放置していくの?」


 ハクトは何を言っているんだという表情をしているが、僕が手を差し出すとすぐに手を握ってきた。








「コイツはどうだって良い。さっきの感じだと、この空間能力以外はあまり高く無さそうだ。だから脅威にならないし、無視して皆との合流を目指す。というわけだ、高虎くん。またいつか会おう」

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