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稚魚

 裏切りか。

 しかもまさかの人物で、全くのノーマークだった。


 ロックは秀吉の部下だった。

 しかも実力を隠していて、実はそこそこ強いらしい。

 どれだけ強いかは分からないけど、本人が言うには又左達と戦えるという自信はあるという。

 ただしクリスタルを使われたら、逃げると言っていたけど。

 要は又左や慶次達と、純粋な武力だけなら負けないと言っているのだ。

 いつもは戦いにやる気を出さず、戦闘にはほとんど参加しない。

 だから弱いのだとばかり思っていた。

 でもよくよく考えてみると、そんな事無いんだよね。

 だって護衛対象であるコバは、未だかつて大きな怪我を負った事は無いんだから。

 そりゃ前に出てこないコバが怪我をするのはおかしいけど、それでも何度か危険はあったはず。

 それを回避している時点で、本来ならもっと評価されていても良かったんだ。

 あの飄々とした言動が、自らの評価を下げている。

 狙ってやっているのか、ただの性格なのか。

 そこまでは分からないけど。


 しかし気になるのは、どうしてこんな男をスパイに選んだのかという点だ。

 ロック曰く、自分でも何故選ばれたのか分からないらしい。

 気付いたらあの液体に沈められ、魔王と共に行動しろという命令だった。

 僕の中では、あのいい加減さがヨアヒムの逆鱗に触れたんだとばかり思っていたのだが。

 怪しい人物ほど、懐に入られると目に留まらないのかもしれない。

 それをロックに言ったら、じゃあスパイにピッタリだったんだとあっけらかんと言っていた。

 悔しいけど、秀吉の狙いは間違っていなかったよ。











「魔王様、せめて連絡してから温泉に入りませんか?」


「分かったよ」


 言ったところで、そんなすぐに何かあるわけじゃないと思うんだけど。

 長秀に言われると、断りづらい。

 それに官兵衛も頷いてるし、僕は脱衣所に戻って電話を掛けた。



「もしもし」


「魔王か。連絡してくるのが早いな」


 なんかイラっとする言い方だな。

 僕が寂しがっているみたいじゃないか。



「ちょっと情報が手に入ってね。ビビディが秀吉に狙われているかもしれない」


「ビビディが!?何故?」


「城を造るのが上手いから。とりあえず拉致されないように、気を付けて」


「城?どういう事だ?」


「うん。僕はこれから風呂に入るから。用件はそれだけ。じゃあねー」


「おい。おい!」


 僕はそのまま電話を切った。

 伝えたい事は伝えたのだ。

 大丈夫。

 後はきっと、ヨアヒムが上手くやってくれる。



「もう電話し終わったの?」


「用件だけ伝えたから」


 ハクトは脱衣所の前で、僕を待っていてくれたらしい。

 寒いから入っていてくれても良かったんだけど、その気遣いが嬉しい。



「さあ行こうか」


「ちなみに皆は、他の場所に行ったよ。僕達もそっちに行く?」


「そうだね。違うのも入ってみたいな」


 ロックと入った露天風呂は、会話しながらだけど満喫出来た。

 受付のお姉さんは何種類かあると言っていたし、他も楽しみたい。



「よーし、行ってみよう!」









 僕達が入った露天風呂の先へ向かうと、小さな丸太小屋があった。

 どうやらこの中にも、風呂があるみたいだ。

 早速ドアを開けて入ると、湯気が凄くて先が見えない。

 足下を見るとすぐに風呂の位置は分かったのだが、先客が居るようだった。



「ハァ、気持ち良い」


「ちょっとぬるめだけど、小屋の中だからこれくらいが丁度良いのかもね」


 閉じ切った小屋の中だと、お湯が熱いとすぐにのぼせそうだ。


 しばらく入っていると、先客の会話が聞こえてきた。



「こんな場所があるなんて。俺達、良い場所見つけたな」


「ここは残しておきたいよな」


「そうだな。壊してからもう一度作り直す必要は、無いと思う」


 ん?

 なんか物騒な話をしているな。



「でも、こっちに来て温泉に入れるなんて思わなかった」


「それは俺もだ。やっぱり日本人なら、温泉だよなぁ」


 日本人!?

 声からして、イッシーと長谷部じゃないのは分かっている。

 しかし僕の同行者に、召喚者は他に居ない。

 もしかして、別の召喚者!?



「ハクト、ちょっとずつ移動するぞ。奴等の顔を確認したい」


「う、うん。どうして?」


「もしかしたら、敵かもしれない」


「敵!?」


 ハクトは慌てて口に手を当てた。

 向こうの話し声が途切れないので、聞こえていなかったのだろう。



「ごめん」


「気付かれていないから大丈夫」


 僕は少しずつ前進した。

 ゆっくりと近付いて・・・。

 クソ、湯気が邪魔だな。

 声は大きくなってきたけど、響いているから何処に居るのか分からない。



「ん?」


「あ」


「ま、魔王!?」


「え?」


 向こうは僕に気付いたけど、僕は向こうが誰だか分からない。

 何人か居るのは分かるが、これがお姉さんが言っていた別グループか。

 ヒト族っぽいけど、そうなると騎士王国の騎士とかかな?



「えっと、どちら様ですか?」


「ナニィ!?俺達を覚えていないだと!」


「すいません」


 僕は頭を下げると、男の後ろから仲間らしき人物達が集まってくる。



「お前にやられた事、俺は忘れていないからな!」


「え・・・」


 ちょっと怒っている気がするけど、この人に対して何をしたのか、サッパリ記憶に無い。



「すいません。やっぱり記憶に無いのですが」


「この野郎!俺だよ!お前にバカデカイ火の玉をぶつけられて落ちた、山田だよ!」


「・・・えっ!?」








 僕は思わず立ち上がると、ハクトは僕を掴んで後ろへ飛んだ。



「うわっ!」


「大丈夫か!?」


 風呂から飛び出たハクトだったが、足を滑らせて尻を打ったようだ。



「イテテ」


「大丈夫か?」


「はい」


 どうやらあの怒っていた山田は、僕がフライトライクから叩き落とした山田だったようだ。

 しかしその山田以外の山田は、僕達に普通に接してきている。

 むしろハクトが足を滑らせた事に、気を遣ってくるくらいだ。



「風呂場で走ったり、ジャンプしたりするなよ。怪我するぞ」


「す、すいません」


「お前達、どうして!?」


 僕はハクトを庇うように前に出ると、湯気の向こうから山田の声が聞こえてくる。



「ここは戦場じゃない。だから俺達も、手を出すつもりは無い」


「それに風呂に入る時くらいは、マッタリしたいじゃないか」


 二人の言葉に偽りは無さそうだ。

 僕とハクトは顔を見合わせると、その言葉を信じる事にした。



「分かった。とりあえず仲間達にも、そうやって伝えるよ」


「もう出るのか?」


「他の風呂にも興味あるから。また後で入ろうと思う」


「じゃあ俺達も出るか」


 山田達が立ち上がるような音が聞こえた。

 すると湯気の向こうから、山田達が姿を現した。



「俺は許してないけどな」


「山田、うるさいぞ」


「山田、ここは風呂だ。全て水に流せ」


 この山田、上手い事言うな。

 僕が感心していると、言った山田はニヤリと笑った。



「じゃあ僕達はこれで」


「あぁ」


 丸太小屋を出ると、僕達はまた違う温泉へ向かった。










「というわけで、秀吉側の人間も風呂に入ってる。でも温泉で攻撃を仕掛けるのは、禁止だから」


 僕は他の連中が入っていた風呂に入ると、山田達の提案を話した。

 丸腰の慶次や長秀は不安そうな顔をしたが、むしろ戦う力が無い官兵衛はそれを受け入れるべきだと言って、全員を納得させていた。



「しかし、信用出来るのでござるか?」


「出来るだろ。だってそうじゃなかったら、僕とハクトを五人で囲んで、倒す事も出来たかもしれないのに」


「その通りだ」


 後ろを振り返ると、山田達が全裸でポーズを決めていた。

 僕達はそれを見て、言葉を失った。



「我等、山田五車星!」


「フフフ、カッコ良くて声も出なくなってしまったか?」


「練習した甲斐があったというものだ」


 山田達は満足気に言っているが、僕達はただただ呆気に取られていただけだ。

 開いた口が塞がらないという方が、大きいんだけどな。



「くっ!ここにコバが居れば!」


「そ、そういう意味では、佐々殿も同じですよ」


 ロックが悔しそうにコバの名前を出すと、負けじと長秀もベティの名を挙げる。

 僕はそれを完全に無視して、山田との不戦を約束した。



「この街では戦わない。それで良いね?」


「分かっている。俺達も風呂から出たら、射撃や輪投げをやりたいからな」


 この山田、分かっている!

 やはり温泉地に来たら、寂れた射撃や輪投げを見ると挑戦したくなるものだ。



 僕は風呂から上がり山田と握手を交わすと、その横に居た山田が悪態を吐いてきた。

 コイツが火球をぶつけられた山田らしい。



「プッ!ちっさ」


 僕は思わず隠した。

 そして反論した。



「子供だから当たり前ですぅ〜!これから成長するんですぅ〜!」


「ハッ!俺達は知っているんだからな」


「何を?」


「俺達は秀吉様から、魔王やその周りの連中の情報を得ている。その中で魔王は、何年経っても大きくなっていない事もな!」


「何だと!」


 秀吉の奴、余計な事を。



「お前とハクト、ここに居ないが蘭丸は幼馴染だ。しかし、お前だけが成長していない。そう!お前はこれ以上大きくなる事は無いのだ!」


「ナニィ!?」


「そう、ナニの話だ」


 くっ!

 僕は言い返せなかった。

 悔しいが、完全に正論である。



「マオくん・・・」


「良いんだ。僕はもう、大きくなれない。いや、なる事はなるんだけども」


「お前は稚魚のままなのさ」


「稚魚!?」


 駄目だ。

 完敗である。

 僕はそのまま、温泉に倒れ込んだ。



「魔王様!おのれ、そういう戦いを挑んでくるのか!?」


「ち、違う!山田、謝れ!」


「どうしてだ!?俺はやられたからやり返した。それを実行したまでだ」


 そうだよね。

 僕が火球を当てたから、反撃してきただけなんだよね。

 でもショックで立ち上がれない。



「ナニが稚魚でござるか。お前だって、金魚と変わらんでござる」


「金魚!?」


「・・・ひっくり返った出目金みたいだな」


「ブハッ!」


「玉が出目金って!」


 イッシーがボソッと言うと、味方であるはずの山田から笑いが止まらない。



「お前等!どっちの味方なんだよ!」


「俺は出目金山田の味方ではないな」


「テメー!俺が出目金なら、お前は何だ?メダカか!?」


「イッシー殿、どう思いますか?」


 何故か長秀が、イッシーに山田の評価を聞いている。

 しかしイッシーはそれを、真顔で答えた。








「メダカよりは大きいよね。うーん、ワカサギかな?」

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