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愚姫と呼ばれた男

 二人きりになる為、自宅へと王女を連れて行った僕は、長年の親友との別れを告げるべく行動に出た。

 右ストレートで頬を殴られた後、彼女が元日本人の転生者だと知る。


 見た目は可愛らしさとギャップのある言動。

 中身がアラサーの男、むしろ日本人の頃から計算すると五十歳という王女に、僕は心から落胆した。


 そして彼女の亡命、そしてスポンサーになってくれという計画を聞かされる。

 社会人経験の無い僕等には、スポンサー契約の締結など無理だった。

 相談役として長可さんと魔法で連絡を取り、王女の計画の一端を聞いた。

 その内容は、外洋での漁業を行いたいという話だった。

 この世界では造船技術がまだ発展していない。

 今現在の船で外洋に出ると、海に潜む魔物に破壊され、そして死ぬのがほとんどだという事だった。

 長可さんには猛反対され、断るべきだと言われる。

 しかし王女は現代日本の造船設計図を持っていて、それが完成すれば大丈夫だと言い張った。


 僕はその話に乗る事にした。

 話を聞いたら、乗らなきゃ困ると言われたから。

 王女は喜んでいたが、中身がおっさんなのでどうにも嬉しいと思えなかった・・・。





「でもこの計画、色々と無理があると思うんだけど」


 喜ばせておいて落とす。

 僕がトランプなどのカードゲームで得意な事だ。

 どうして無理だと思うか。

 それはいくつも足りないモノがあった。


「何が無理なんだ?」


「無理なら断りましょう!先程の話は聞かなかった事にして!」


 長可さんが必死に断ろうとしている。

 でも僕はこの話に乗る。

 それに僕等は、敢えて危険な道は進まない事を伝えておく。


「長可さん。まず僕等は船に乗るつもりは無いから。船を作るまでは手伝う。その手伝いに応じた報酬は貰う。だけど、船が完成して出航させるのは、僕達の仕事じゃない」


「なるほど。私達が、海獣の犠牲になる事は無いという事ですね。それならば納得です」


 長可さんは魔族の誰かを船乗りにして、犠牲になるのが懸念だったようだ。

 その話を聞いたら、すぐに引いてくれた。

 安心したのか、他の仕事があるからと通信をそこで終えた。

 そして、長可さんと繋がってない事を確認した王女は、再び素へと戻る事となった。



「おい!お前、失敗する事を前提で考えているだろ!」


「そんな事は無いよ。手伝いをするのに失敗されたら、こっちも損するだけだし」


「じゃあさっきの会話は何だ」


「長可さんの発言の事?アレはあの人の個人的な意見。でも、僕も今のままなら失敗する確率は高いと思っているけど」


 喜びも束の間、今の彼女の顔は怒気に溢れている。


「さっき言いそびれたけど、いくつか無理があるんだよね」


 その無理な点をまとめてみた。



 一つ目、船乗りが居ない。

 新しい船、それも現代日本で作っていたような船を、この世界で乗りこなせる人が居ないのだ。

 船舶免許などという物などあるわけもなく、金持ち大学生でもなかった僕等がそんな免許を持っているわけがない。

 僕等にはスマホというとても頼りになる道具があるが、流石に船の動かし方なんか分かるわけがなかった。


 二つ目、素材が足りない。

 その船の設計図には様々な事が書いてあった。

 分かったのは、作る為の素材が無い事だった。

 代用品として、ミスリルや他の金属を使う事も可能かもしれない。

 それでも設計図の大きさの船には、圧倒的に素材が足りなかった。


 三つ目、作れる人が居ない。

 僕はこの設計図を見て、内容を把握出来ていない。

 それは目の前に居る彼女も同じだった。

 創造魔法を使えば作れるか?

 それは無理だと思う。

 ちょっとした帆船やボートくらいなら作れるだろう。

 でもタンカーやクルーザー、客船クラスとなると難しい。

 王女もある程度の知識はあるようだが、専門的な事となるとやはり無理があった。

 この設計図を見て作れるのは、それなりの頭脳を持った人だけだと思う。


 そして最後。

 バレずに作る場所が無い。

 内緒にしたいようだが、このような大きな計画を秘密裏に動かすにはどうしても場所が必要だった。

 その場所も、海の近くじゃないと難しいだろう。

 しかし安土は内陸地。

 この地で作っても、海まで運ぶ最中に問題が起きるのは明白だった。



 というような事を彼女に伝えた。


「俺が心配していた事もいくつかあったが、やはり駄目か」


 彼女の懸念は、船乗りと作れる人が居ない事だった。

 魔族に乗ってもらおうと思っていたようだが、それはあまりにも都合が良すぎる考えだ。

 前人未到の外洋漁業。

 誰が好き好んで危険を冒すというのか。


 それと造船に関しても、城を作れるから可能性は低いが当たってみたというところだった。

 城作りと船作り、全く違うと思うんだけどね。


「場所は最悪の場合、王国内で考えていたんだ。父上や兄上に見つからないという保証が無いので、あまりやりたくはないのだけれど。しかも素材も足りないとはね」


「だから、話に乗るとは言ったけど。難しいとは思ったんだ」


「魔王の力でも無理かぁ。これで俺の国は、滅びの道しか無いな」


 王国が滅ぶ?

 何でそういう考えになるんだ?


「王国は帝国に宣戦布告でもされたのか?」


「いや、そんな話は聞いた事無いよ」


「じゃあ何で滅ぶんだ?」


「お前がそれを言うか!」


 え!?

 僕のせい!?

 コモノ達とやり合ったのと、右顧左眄の森で戦ったくらいだぞ?


「おいおい。何も考えてないって言うのか?」


 呆れた顔で僕の事を見ている。

 しかし思い浮かぶ事柄が無い。


「本当に分かってないんだな。じゃあ説明してやろう」


「先生、よろしくお願いします」


 先生っぽい仕草を見せる彼女に、僕は頭を下げた。


「一番の要因は帝国だな。帝国が魔族を道具のように扱って仕事をする。その中で俺達、王国が懸念する事は何だと思う?」


「え?王国が懸念する事ねぇ。帝国と仕事が被る事?」


「ほほう。流石は魔王、正解だ」


 褒められたようだ。

 中身は大人だから、自分でもそこまで馬鹿ではないと思っています。

 でも兄さんは答えられないと思います。


「第二問。じゃあ王国が帝国と被ると一番困る仕事は?」


「あー、何だっけ?農業大国なんだっけか?」


「それも正解。これで分かっただろう?」


「分かりません」


「分かんねーのかよ!」


 王女は持っていたハンカチを床に投げ捨てた。

 ノリツッコミみたいな感じだ。


「お前さぁ、この町を拡張した時に何を作った?」


「塀と田畑」


「それって、どうやって作った?」


「塀は僕が創造魔法で頑張った。田畑はノーム達に土魔法使ってもらった」


「帝国は魔族を捕まえて、何をさせたい?」


「働かせたい。あぁ、そういう事ね。魔法で農業をされると、困るって事か」


 遅い!

 ようやく分かったのかと、額にデコピンされた。

 当たり前のように魔法を使っているが、ヒト族にはそんな事が出来ない。

 帝国が魔法で農業を開始したら、王国の立場は無くなる。

 徐々に衰退していって、滅びるだけになるという事か。


「このまま行けば、お前が想像した通りになるだろう。だからこそ!王国は新しい道を模索する必要がある」


「それで考えたのが、誰も行っていない漁業というわけね。そして、それも頓挫してしまったと」


「そうだな。こうなると、本当に亡命したくなってきた」


 それは困るぞ。

 丹羽さんが勝手に連合作るって言っちゃったから、そのうち戦にはなるとは思う。

 だけど、わざわざ火種から大きく燃え上がらせるような行動は避けたいのだよ。


「そもそも、何故王国の中でも王女であるアンタが、そんな心配をしているんだ?普通なら王様か王子が動くべきだろう」


「あの連中は駄目だな。魔族への恨み辛みしかない。農業の輸出でやっていける自信があるから、先の心配もしていないし」


「ふーん。でもだからと言ってアンタがやる理由にはならなくない?誰か大臣クラスの人が動かせば、何とかならないの?」


「無理だな。ただのイエスマンしか居ない。下級官吏は有能な連中が居るが、上の方の貴族はゴミだ。それに有能な連中には既に声を掛けているがな」


「声掛けてどうするの?」


「下剋上だ」


 マジかよ!

 あっちもこっちも下剋上とか。

 この世界、本当に怖い。


「それ、俺が聞いて良かったの?」


「お前が父上と繋がる可能性は無いからな。多分言っても、失笑されて終わるさ」


「まあこっちも今の王国と繋がるなんて、そんなの願い下げだけど。それよりも、その下剋上。成功するのか?」


「成功するよ。父上も兄上も、誰も俺がそんな事すると思ってないからな」


「それは何故?」


「俺、世間では愚姫って呼ばれてるから」


「愚姫?」


 愚かな姫で愚姫か。

 わざと装っているのか、それとも本当に言われているのか。


「疑っているんだろ?まあそんな難しい話じゃないよ。日本にある物を作ろうって言ったら、馬鹿にされているだけだ」



 詳しく聞くと、彼女が行おうとしたのは発電施設の開発らしい。

 大きな田畑があるのなら、その土地を利用して風力発電を。

 大きな河川があるのなら、それを使って水力発電を。

 発電施設を作れば電気が作れる。

 その電気を使えば、帝国とは違う工業施設を作る事も出来るかもしれない。

 農業一択ではなく、工業化の道もあるという事だ。


「そんな話をしたら、憐みの目で見られたよ。小さい頃は夢見るお姫様で済んだ。だが、大きくなっても変わらぬ思考に、いつしかそう呼ばれるようになっていた」


「大変ですね」


 心からそう思う。

 僕の場合、神様の使いという立場だからだろう。

 神の国ではこれが普通。

 変な目で見られても、結局はそれで納得してくれる。

 しかし彼女にはそれが出来ない。

 だからこそ同情の余地がある。


「本当に下剋上が成功するのなら、僕も手伝ってもいいと思っている」


「本当か!?」


「でも前提条件として聞いておきたい。魔族の手を借りて、誰も文句言わないのか?特に、今一緒についてきている連中とか」


「その心配は無いな。その理由は、お前が話した事と同じ事を、俺がもっと前から話していたからだ」


 僕が話した事?

 何だっけ?


「そのとぼけた面、どうにかならんのか?」


「うるさいな!そんな事思いつかないから、思い出してたんだよ!」


「そうか。じゃあ簡単に説明を。要は王国の人間、というよりは王族と大物貴族だな。この連中は、信長のせいで魔族への逆恨みが凄いって事だ。だけど信長の真意が分かっていなかった」


「コモノに話したヤツか!」


「それそれ!信長は、王国の祖先を見捨てたわけじゃない。むしろ期待していたってヤツだ」


 でもその話、僕の憶測であって本当かどうかなんて分からないんだよな。

 だからコモノはあの時、疑問に思いながらも信用してなかったわけだし。

 同じ事を話すなんて、何を考えているんだ?


「お前のその推理、なかなかだと思ったよ」


 推理だって!?

 てれてーてーてれてーててー。

 やはり冴え渡ってしまったようだな。


「身体は子供!頭脳は大人!」


「そういえばお前、まさにそれだね。実際に見るとウケる!」


 当事者からすると、そんな笑える話ではないのだが。

 あの名探偵に、心から同情したい。


「それで、僕の推理が当たってるって理由があるの?」


「ある!」


 ハッキリと言いおったな。

 それだけ自信があるのだろう。


「お前、信長が自分の家臣と同じ名前を、魔族に与えていたのは知っているよな?」


「そりゃあそうだよ。さっきの通信相手だって、森長可だしね」


「若狭の領主が丹羽長秀。長浜は秀吉。ドワーフが滝川一益。まあ他にも知ってはいるが、結構多い」


 他にも知ってるんだ。

 後で教えてもらおう。


「ちなみに前田利家と前田慶次も居るよ」


「そっか。領主じゃないから、その二人は知らなかったな。じゃあ、また質問だ。信長の配下で、初期の頃から仕えていたが追い出された武将を知っているか?」


 勿論知っている。


【そんな人居るの!?信長って使えない部下は斬り殺してるイメージがあった】


 信長だって殺したりはしないよ。

 つーか殺してばっかりいたら、有能な人居なくなっちゃうし。


【それもそうだ。お前達の話、難しくてほとんど参加出来ないからな。ずっとへぇ〜とか、そうなんだしか言えなかったわ】


 まあ難しい話は無理して参加しなくていいよ。

 僕だって面倒だと思ったくらいだし。

 それよりも。


「本願寺攻めで手を抜いたんだっけか?」


「歴史も多少の知識はあるみたいだな。じゃあ、これは知らないだろ?その名前、追い出されたヒト族へと与えられた事を」


「え?」


「王国の国王は代々二つの名を持っている。今の国王なら、一つはナーデルホルツ・ツー・ライプスブルク」


「まさか?」





「もう一つは佐久間信盛。そして俺のもう一つの名前も、佐久間桜だ」

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